百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第38話 招かれざる来訪者

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俺は現時点でのステータスを振り返っていた。


ATK.95
DEF.87
AGL.130


ブルッフラに着いた頃に比べて、順調に上がっている。
だが、この調子で行っても魔王の城に入れるかと言われれば疑問だ。
だからせめて魔王の城に行ったか、もしくは入ったことのある者が見つかれば少しは話が進みそうなものなのだが……

もし、仮に魔王の城に行ったことのある人間がいれば直ぐに分かりそうなもの。
並みの勇者では行けない場所だ。
がたいがごつい者か、見るからに強力な武器防具を揃えている者か。それとも、宝剣を持っている者か。
ただ、やはり外見だけで判断は難しいだろう。
それはおいおい探して行くことにしよう。

その時だった。
泊まっている宿の外から、人の悲鳴が聞こえて来た。

何だ?
と、カーテンを開いて様子を見ると、バタリアの街が慌ただしい騒ぎになっていた。
人々は野次馬の如く、その騒ぎの元であろう場所に走っている。
まったく、おちおち眠ることも出来やしないのかこの街は。

廊下へ出ると、メアとばったりとあった。

「何だろうね」

「さあな。面倒だが、この調子じゃあ当分収まりそうもないな」

宿の外に出ると、窓から顔を覗かせ何事かと見ている人たちもいる。
どうせ何かの夜のイベントだろう、そう話している人たちもいる。
まあそれならそれでこんな夜中にやるなって話だが。
さすが眠らない街とも言われるバタリアはやることが違う。

しぶしぶ俺とメアは、その騒ぎの元に向った。





騒ぎの元と思われる場所に向かうにつれて、人々が空を見上げる。

「あれは……」

摩天楼のように高い鉄塔の先に居たのは、両翼を広げ、長い尾が確認出来る何か。

「おい! まだ死ぬなよ! クソッ! あの悪魔め! なんて酷いことしやがる!」

1人の男性が抱えているのは、まだ若い華奢な女性。
ひゅーひゅーと息を吐いており、見るからに辛そうだ。
しかもその女性だけではない。
辺りには、数人ほど男が倒れている。

「ハッハハハハハハハハハハ!! ゴキゲンウルワシュウ! ! テイゾクナニンゲンドモヨ!! コノオレサマノチュウコクヲムシスルカラソウナルンダヨ!! イイカニンゲンドモ! ニクカイ二ナリタクナカッタラ、ダマッテオレサマノハナシヲキケ!!」

窓ガラスがビリビリと揺れるほどの馬鹿でかい声がバタリア中に轟く。

なんて声量してやがる。
あれは魔物ではない、魔人だ。
多くの魔物は人語を話すことなんて出来ない。そうなると、人の言葉を理解して話すのは決まって魔人しかいない。
あんな人間がいるはずもない。何故、こんな勇者だらけの街に魔人が?
それに魔防壁が張ってあるバタリアに侵入出来るということは、かなりレベルの高い魔人と見える。
魔防壁は高レベルーーレベル90代くらいまでの魔物の侵入を防ぐ。魔人も魔物と同じようにレベルが存在しており、今、鉄塔の先にいる魔人にも当てはまる。ということは相当高レベルの魔人と見える。

しんと人々は静まり返って、鉄塔の先に顔を向ける。

「ソウソウ! ソレデイインダヨ! テマヲトラセルンジャネエ!!」

固唾を呑む人々と、先程の弱り切った女性が虚な表情で上空を見る。
この状況からして、あの魔人にやられてしまったのだろうか。
女性を抱えている男性が、ぎろりと上空を睨む。

「オレサマノヨウケンハヒトツ! コノマチ二イルユウシャ……オンナノユウシャ!! ソイツダケジャナイダロウ!? ソウダナ……サンジュウビョウジカンヲクレテヤル! デテコイナラ、コノ『エンドボール』ガオチルコト二ナル!!」

魔人が片腕を上に上げると、轟々と唸りをあげなら禍々しい球体が出来ていく。

女の勇者だと?
申しを断わったからさっきの女性は襲われたのか。
となると……まずいな。

俺はメアの方を向いた。
あからさまに動揺を見せるメア。
メアは震える自身の体を抱き寄せる。

「心配するな。あんな魔人一体で何が出来る」

とは言うものの、この闘いの街と呼ばれる場所でああも堂々と出来るのは、強いと自覚していなければ出来ないことだろう。
勇者ランク5、6なんてざらにいる街。
中には、勇者ランク8、下手をするとそれ以上の勇者もいるかもしれない。
そんな勇者たちが集まる場所がバタリア。

ただ、現に女性が傷つけられている。格好、持つ武器からして女勇者だろう。
そして、ずっと抱える男も巻いたバンダナに腰元の長剣。同じく彼もまた勇者だろう。
辺りに倒れている彼等も、剣や弓といった武器が確認出来る。
あの魔人にやられてしまったとするなら、相当手強い相手というのが見て取れる。

俺は魔力1を消費して観察眼を発動した。

「表示されない?」

だが、俺の観察眼には何も表示されなかった。
おかしい、いくらあいつが魔人だからって魔物には変わりないはずだ。
もう一度、観察眼を発動させた。


しかし、やはり何も表示されない。

「タイムオーバーダアアアア!!」

魔人が、片腕を振り下ろそうとした。

「待て!!」

すると、1人の若者が飛び出して来てそう言った。
魔人の手が止まり、膨れ上がった禍々しい球体が小さくなっていく。

「キサマ!! ナゼコンナトコロニ!! マイタトオモッタガ、マサカココマデオッテクルトハ!! コノイマイマシイマジンゴロシノユウシャメ!!」

「黙れ! お前たち魔人のしていることをみすみす逃すと思っていたか!? このまままだこの街にいると言うのなら、問答無用でお前を斬る!!」

若者はばっと長剣を抜き取った。
光る十字の紋章が入った長剣。長剣だが、大剣に近いほどに大きくそれでいて細い。

「クッ!! ……ワカッタヨ!! ココハ、キサマ二メンジテサッテヤル!! ハハハハハ! イノチビロイシタナニンゲンドモ!! ダガ、ツギコソハッ!!」

両翼を羽ばたかせ、魔人は魔防壁を突き抜けて夜の空へ飛んで行った。

人々は緊張の糸が切れたように互いに体を寄せ合う者たちがいたり、ほっと胸を撫で下ろす者たちもいる。
流石の魔人も迂闊に手を出せない相手だったのだろう。
となると一体彼は何者なのか。

俺は帰って行く人々の中で、まだぽつんと立っている若者の元に向かう。

「ああ、まだこの街にいて良かったよ。ん? お客さんだ、後で連絡する」

誰かと連絡していたような会話ーーそう言って、俺とメアの方に歩み寄って来る。

「勇者をやってる、シンだ」

「同じくメアよ」

「僕はクラン。魔物撲滅本部の人間だ」

握手を交わすと、体格に似つかわしくない力がある。

そして、クランが言った魔物爆滅本部とは、国が直接指示を通すことで明確かつ素早く魔物を討伐する集まりのこと。
本来勇者とは各自各々の行動をとるが、魔物撲滅本部にいる勇者たちはそうではない。
彼等は国が指示した情報によって行動を決める。
いわば国と連携して魔物を殲滅する集団。
必要勇者ランクは5以上とされ、優秀な勇者たちが多いと聞く。

「魔物撲滅本部ってあの!?」

「そうさ。もう入って3年目になる」

クラン、そう聞けば勇者をしている者なら聞く名。
1日にして魔物200体斬りを成したと言われている勇者。しかも1日とは言うが、実際のところ数時間程度だったと聞く。
勇者ランクは8。ただ、それも今では上がっているのかもしれない。

「シン、彼凄い人だよね?」

メアがひそひそと囁く。
俺が頷くと、メアは驚いた表情を浮かべた。

メアがそうなるのも分かるよ。
この魔物時代を終焉へと導く者の1人と言われるほどの勇者だ。
そんな勇者が急に現れたのだ。

クランは横たわって動かない男たちの確認に行くと、暗い表情をし、左右に首を振る。女性を抱える男の向かい、何やら話している。

あの魔人に殺されたのか。
辛そうだ、肩を揺らし男は泣いている。
クランはそんな彼の肩に手をやる。

魔人か。
いつか、会う日が来るとは思っていた。

それに、クラン。
もし、彼が背負ってるのが宝剣なら、色々と聞きたいことがある。
クランはまだ話しているようで、俺はしばらくの間待つことにした。
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