38 / 251
第38話 招かれざる来訪者
しおりを挟む俺は現時点でのステータスを振り返っていた。
ATK.95
DEF.87
AGL.130
ブルッフラに着いた頃に比べて、順調に上がっている。
だが、この調子で行っても魔王の城に入れるかと言われれば疑問だ。
だからせめて魔王の城に行ったか、もしくは入ったことのある者が見つかれば少しは話が進みそうなものなのだが……
もし、仮に魔王の城に行ったことのある人間がいれば直ぐに分かりそうなもの。
並みの勇者では行けない場所だ。
がたいがごつい者か、見るからに強力な武器防具を揃えている者か。それとも、宝剣を持っている者か。
ただ、やはり外見だけで判断は難しいだろう。
それはおいおい探して行くことにしよう。
その時だった。
泊まっている宿の外から、人の悲鳴が聞こえて来た。
何だ?
と、カーテンを開いて様子を見ると、バタリアの街が慌ただしい騒ぎになっていた。
人々は野次馬の如く、その騒ぎの元であろう場所に走っている。
まったく、おちおち眠ることも出来やしないのかこの街は。
廊下へ出ると、メアとばったりとあった。
「何だろうね」
「さあな。面倒だが、この調子じゃあ当分収まりそうもないな」
宿の外に出ると、窓から顔を覗かせ何事かと見ている人たちもいる。
どうせ何かの夜のイベントだろう、そう話している人たちもいる。
まあそれならそれでこんな夜中にやるなって話だが。
さすが眠らない街とも言われるバタリアはやることが違う。
しぶしぶ俺とメアは、その騒ぎの元に向った。
◇
騒ぎの元と思われる場所に向かうにつれて、人々が空を見上げる。
「あれは……」
摩天楼のように高い鉄塔の先に居たのは、両翼を広げ、長い尾が確認出来る何か。
「おい! まだ死ぬなよ! クソッ! あの悪魔め! なんて酷いことしやがる!」
1人の男性が抱えているのは、まだ若い華奢な女性。
ひゅーひゅーと息を吐いており、見るからに辛そうだ。
しかもその女性だけではない。
辺りには、数人ほど男が倒れている。
「ハッハハハハハハハハハハ!! ゴキゲンウルワシュウ! ! テイゾクナニンゲンドモヨ!! コノオレサマノチュウコクヲムシスルカラソウナルンダヨ!! イイカニンゲンドモ! ニクカイ二ナリタクナカッタラ、ダマッテオレサマノハナシヲキケ!!」
窓ガラスがビリビリと揺れるほどの馬鹿でかい声がバタリア中に轟く。
なんて声量してやがる。
あれは魔物ではない、魔人だ。
多くの魔物は人語を話すことなんて出来ない。そうなると、人の言葉を理解して話すのは決まって魔人しかいない。
あんな人間がいるはずもない。何故、こんな勇者だらけの街に魔人が?
それに魔防壁が張ってあるバタリアに侵入出来るということは、かなりレベルの高い魔人と見える。
魔防壁は高レベルーーレベル90代くらいまでの魔物の侵入を防ぐ。魔人も魔物と同じようにレベルが存在しており、今、鉄塔の先にいる魔人にも当てはまる。ということは相当高レベルの魔人と見える。
しんと人々は静まり返って、鉄塔の先に顔を向ける。
「ソウソウ! ソレデイインダヨ! テマヲトラセルンジャネエ!!」
固唾を呑む人々と、先程の弱り切った女性が虚な表情で上空を見る。
この状況からして、あの魔人にやられてしまったのだろうか。
女性を抱えている男性が、ぎろりと上空を睨む。
「オレサマノヨウケンハヒトツ! コノマチ二イルユウシャ……オンナノユウシャ!! ソイツダケジャナイダロウ!? ソウダナ……サンジュウビョウジカンヲクレテヤル! デテコイナラ、コノ『エンドボール』ガオチルコト二ナル!!」
魔人が片腕を上に上げると、轟々と唸りをあげなら禍々しい球体が出来ていく。
女の勇者だと?
申しを断わったからさっきの女性は襲われたのか。
となると……まずいな。
俺はメアの方を向いた。
あからさまに動揺を見せるメア。
メアは震える自身の体を抱き寄せる。
「心配するな。あんな魔人一体で何が出来る」
とは言うものの、この闘いの街と呼ばれる場所でああも堂々と出来るのは、強いと自覚していなければ出来ないことだろう。
勇者ランク5、6なんてざらにいる街。
中には、勇者ランク8、下手をするとそれ以上の勇者もいるかもしれない。
そんな勇者たちが集まる場所がバタリア。
ただ、現に女性が傷つけられている。格好、持つ武器からして女勇者だろう。
そして、ずっと抱える男も巻いたバンダナに腰元の長剣。同じく彼もまた勇者だろう。
辺りに倒れている彼等も、剣や弓といった武器が確認出来る。
あの魔人にやられてしまったとするなら、相当手強い相手というのが見て取れる。
俺は魔力1を消費して観察眼を発動した。
「表示されない?」
だが、俺の観察眼には何も表示されなかった。
おかしい、いくらあいつが魔人だからって魔物には変わりないはずだ。
もう一度、観察眼を発動させた。
しかし、やはり何も表示されない。
「タイムオーバーダアアアア!!」
魔人が、片腕を振り下ろそうとした。
「待て!!」
すると、1人の若者が飛び出して来てそう言った。
魔人の手が止まり、膨れ上がった禍々しい球体が小さくなっていく。
「キサマ!! ナゼコンナトコロニ!! マイタトオモッタガ、マサカココマデオッテクルトハ!! コノイマイマシイマジンゴロシノユウシャメ!!」
「黙れ! お前たち魔人のしていることをみすみす逃すと思っていたか!? このまままだこの街にいると言うのなら、問答無用でお前を斬る!!」
若者はばっと長剣を抜き取った。
光る十字の紋章が入った長剣。長剣だが、大剣に近いほどに大きくそれでいて細い。
「クッ!! ……ワカッタヨ!! ココハ、キサマ二メンジテサッテヤル!! ハハハハハ! イノチビロイシタナニンゲンドモ!! ダガ、ツギコソハッ!!」
両翼を羽ばたかせ、魔人は魔防壁を突き抜けて夜の空へ飛んで行った。
人々は緊張の糸が切れたように互いに体を寄せ合う者たちがいたり、ほっと胸を撫で下ろす者たちもいる。
流石の魔人も迂闊に手を出せない相手だったのだろう。
となると一体彼は何者なのか。
俺は帰って行く人々の中で、まだぽつんと立っている若者の元に向かう。
「ああ、まだこの街にいて良かったよ。ん? お客さんだ、後で連絡する」
誰かと連絡していたような会話ーーそう言って、俺とメアの方に歩み寄って来る。
「勇者をやってる、シンだ」
「同じくメアよ」
「僕はクラン。魔物撲滅本部の人間だ」
握手を交わすと、体格に似つかわしくない力がある。
そして、クランが言った魔物爆滅本部とは、国が直接指示を通すことで明確かつ素早く魔物を討伐する集まりのこと。
本来勇者とは各自各々の行動をとるが、魔物撲滅本部にいる勇者たちはそうではない。
彼等は国が指示した情報によって行動を決める。
いわば国と連携して魔物を殲滅する集団。
必要勇者ランクは5以上とされ、優秀な勇者たちが多いと聞く。
「魔物撲滅本部ってあの!?」
「そうさ。もう入って3年目になる」
クラン、そう聞けば勇者をしている者なら聞く名。
1日にして魔物200体斬りを成したと言われている勇者。しかも1日とは言うが、実際のところ数時間程度だったと聞く。
勇者ランクは8。ただ、それも今では上がっているのかもしれない。
「シン、彼凄い人だよね?」
メアがひそひそと囁く。
俺が頷くと、メアは驚いた表情を浮かべた。
メアがそうなるのも分かるよ。
この魔物時代を終焉へと導く者の1人と言われるほどの勇者だ。
そんな勇者が急に現れたのだ。
クランは横たわって動かない男たちの確認に行くと、暗い表情をし、左右に首を振る。女性を抱える男の向かい、何やら話している。
あの魔人に殺されたのか。
辛そうだ、肩を揺らし男は泣いている。
クランはそんな彼の肩に手をやる。
魔人か。
いつか、会う日が来るとは思っていた。
それに、クラン。
もし、彼が背負ってるのが宝剣なら、色々と聞きたいことがある。
クランはまだ話しているようで、俺はしばらくの間待つことにした。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女。
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場、
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております。
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新予定
作者 非常に豆腐マインドですので、悪意あるコメントは削除しますので悪しからず。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)
九日
ファンタジー
*注意書あり
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。
死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。
が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。
食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。
美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって……
何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記———
*別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる