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第37話 アスティオンの行方
しおりを挟む己の技能を競い合う大会。
その名も、テクニック・ザ・トーナメント。
撃技、守技、速技、それぞれの技を自由に使って1対1で競い合う。
また、1対1と同様に2対2で全ての技能を駆使して、限られたバトルフィールドの中で互いの拳をぶつけ合い戦うものもある。
トーナメント会場に入ると、勇者ばかりがわんさかといる。
そして受付だろうか。
順番に並んで手続きをしている様子も見える。
まあ、俺には関係ない。
それよりも、この何処かに怪しい奴が。
しかし、其処には人人人。
誰もかれも怪しい奴に見えてしまう。
勇者になる奴は個性的な人間が多いと聞くが、まさに、それを言い表したかのような場所だ。
「少しいいか? 此処に黒い剣を持った奴を見なかったか?」
適当に、暇そうにしていた男に話かけた。
「黒い剣? 知らないなぁ。この中から探せば見つかるんじゃないか?」
男は溢れんばかりの会場を見渡す。
「そうしよう」
行こうとした。その時、男が肩に手をやる。
「まあ待ちなよ。君も大会に出るのかい?」
「いや」
「そうか、惜しいな! 悪いね、邪魔したよ」
男はスタスタと行ってしまった。
ただ、何やら気になることをぶつぶつ言っていた。
「今、言っていたこと、本当なのか?」
「聞いてた? はっはっ! 参ったな~。これは、秘密だったのに」
「向こうで話そう」
大会受付の場を離れて、長い通路へ出た。
そこには、歴代の優勝者が華麗に技を決めた絵画が飾ってある。
俺はそれほど他の勇者に詳しいわけではないが、ざっと見てその中で数人ばかり知っている顔があった。
1人は、過去の魔王を討ち取ったとされる勇者、アルフレッド=レオナルドゥス。
金色の髪を靡かせ、グリーンの瞳が絵画にしっかりと残されている。
アルフレッドが持っていたとされる神剣は写っていない。
この時は持っていなかったのだろうか?
そして2人目は、アルフレッドの仲間だったとされる、カイザー=ベルンハルト。
神剣こそ持っていないと言われているが、それを補うほどにずば抜けた才能を持っていたとされる。
3人目は女性。アルフレッドの仲間でこそないが、その美貌は絵画を通してでも伝わってくる。
栗色の長髪、身に纏う衣はオリハルコン製と有名。セシリア=グラーツィア。
現在の行方は定かではない。
俺が知っている勇者と言えばこのくらいだ。
「分かるよ、見惚れるほどに素晴らしい絵だよね」
男はうんうんと頷いている。
そうだ、俺はこの男に聞きたいことがあった。
「さっき言ってたこと……宝剣を持つ勇者が大会に出るって本当なのか?」
「本当だよ。僕の目が正しければ、あれは間違いなく宝剣」
それ、まさか、俺のアスティオンじゃないだろうな?
ただ、この男は黒い剣など知らないと言うし、そうなると、本当に宝剣を持つ勇者か。
この男も、その剣を見て宝剣と分かるということは、その方面で詳しいのかもしれない。
男は辺りをざっと見渡して俺の肩に手を回す。
「しかも、実はこの大会の賞品がとんでもないって話」
そう、耳打ちをする。
「そんなことはどうでもいい。話は終わった、貴重な情報だったよ」
その場を離れて、受付会場へと戻った。
さて、此処にもアスティオンが無いとなると、正直なところお手上げ状態。
せめて盗んだ奴の顔くらい分かっていればな。
暫くの間、受付会場を見渡すように歩いていた。
こうしてみると、どいつもこいつも怪しく見えてくる。
一応、持っている武器も見ているが、黒い剣は持ってはいない。
大剣、長剣、弓、槌……
どれもこれもアスティオンのかけらもない。
しまいには、俺への視線が痛くて、これではどちらが怪しい奴か分かりやしない。
一度、会場を出よう。
足を会場外へ向けた。
「えー、えー。本大会へ参加される皆さま! 長らくお待たせしておりますが、順次受け付けておりますのでご安心ください!」
この大会の者か。
マイクを手に取り、その場にいる者たちに聞こえるように呼びかける。
「そして! 皆さまにご報告したいことがあります! なな、なんと! 本大会の優勝賞品がビッグ、それも! 特大級にビッグなものでございます!」
受付会場がざわざわとし始める。
「勿体づけてねえで、早く教えろ!」
「そうだそうだ! 散々待たされた挙句、今更かよ!」
なるほど、大会の賞品は事前には分からないものなんだな。
さて、俺はこの足一つで、バタリアの中何処かにいるであろう盗人探しに行こう。
「お、落ち着いて下さい! 言いますよ、言いますよって!」
どうせ、金貨100枚とか、高級アイテムとかだろ。
馬鹿らしい。
受付会場がしんとなる。
「それでは発表します! ーー本大会の優勝賞品は……なんと宝剣だー!!!」
うおおおおっと、受付会場が盛り上がる。
……ちょっと、待て。まさか……
俺は、思わずそう抜かしたマイクを持った男の方に走った。
「その宝剣の特徴を教えろ」
「それは言えません! まあ、強いて言うなら、世にも珍しい真っ黒な剣!」
「……」
本当に、やられた。
まさかこんな堂々と人のものを大会の優勝賞品にする奴がいるとは。
これでは、この長い列に並ばざるを得ないじゃないか。
メアが待っているというのに。
受付会場は、大会の賞品が宝剣だと知ってますます盛り上がっている。
人の気も知らないで、それは俺の剣だぞ。
仕方ないな、メアにはもう少し待ってもらおう。
俺はしぶしぶ長蛇の列へ並んだ。
◇
ようやく大会出場の受付を済ませて、バタリアのギルドサルーフへ向かった。
確証はまだないが、ほぼと言っていいほど大会の賞品はアスティオンだろう。
一応、受付時に散々説明はしたが、やはり、認めてもらえるはずもない。
下手をすると他の誰かの手にアスティオンが渡ってしまう。
そう考えると、どうしようもない気持ちになる。
今までアスティオンの魔物特攻特性に頼って来たことに対しては、少なからず精神的ダメージがある。
もちろん、アスティオン無くしても魔物と戦えるが、普段の討伐より苦戦することは多々出て来るだろう。
俺の旅の目的は、シーラ王国のアリス王女から頼まれた任務ーー魔王の城に眠る秘宝を盗み出すこと。
魔王を討伐するわけではないから、アスティオンが必ずしも必要というわけではない。
ただその分、魔王の城にいる高レベルの魔物との戦闘は苦戦を強いられることになるだろう。
予備として持っている短剣に目をやる。
これは昔ギルドの討伐依頼をこなしたお礼にと、村の少女から貰ったものだ。
何でも少女は勇者を目指していたようだったが、親御さんに強く猛反対されてしまい、代わりに魔物を倒してほしいと受け取った短剣。
斬れ味は、街で売っている短剣とさほど変わりない。
ただ、これで後々遭遇するであろう高レベルの魔物と戦えと言われれば、少々無理なものがある。
リーチが短い上、サギニの森で遭遇したスカルエンペラーに反撃した時に、刃が少しばかり欠けてしまっている。
そういう理由もあって、長剣は必要。
サルーフに着くと、表で待っていたメアが居た。
「シン! アスティオンは見つかったの!?」
俺は首を縦に振った。
だが、俺の腰元にアスティオンがないことが分かったのか、不思議そうな表情を見せる。
「見つかったが、大会の賞品になっていたよ。参るよ、まったく」
「そうなんだ……。それで、その大会に出るの?」
「出るしかないだろう。何処ぞの盗人のお陰で、飛んだ迷惑な話だ」
テクニック・ザ・トーナメントが行なわれるのは、今から一週間後。
それまではバタリアを離れるわけには行かなくなった。
この間に出来ることはギルドで魔物の討伐案件を引き受けるか、バタリアで魔王の城まで着いて来てくれる勇者を探すくらいか。
この日は予定していたサルーフでの魔物討伐をやめて、バタリアで宿をとることになった。
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