百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第35話 闘いの街、バタリアへ

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翌朝……かどうかは分からないが、暗闇の中目が覚めた。
燃える焚き木は随分と小さくなってしまっており、近くにあった適度な大きさの木枝を放り投げた。

魔力時計は時刻5時台を指している。

行こう。
立ち上がり、テントの中で眠るメアの元へ。開けると既に目を覚ましていたメアがいた。

「行くの?」

「ああ」

まだ眠るレベルの元から立ち去ろうとした。
すると、俺たちの近くでうずくまっていた一体のフォグウルフがやって来た。
こうも人馴れしている魔物を見るのは不思議な気分になる。
今までの俺だと斬ってしまうような魔物でも、人間と『血の契約』とやらを結んでしまえば頭を撫でても何の問題もない。

つやつやとした毛並み、真っ白で、汚れ一つない。
と、もう一体眠っているフォグウルフを見れば、血の跡がまだ残る。
パルセンロックに入って間も無くしてあった、氷に覆われていた場所にいたフォグウルフだ。

就寝前、レベルに聞いた話によると、魔物に襲われていた人間を助けた後だったという。
魔物と手を組み人間を助ける勇者。
実に逞しく、勇姿ある勇者だ。

レベルはまるで自分のベッドの上にいるかのように、地面に寝転びいびきをかいて寝ている。
彼のような勇者が増えれば、魔物時代も変っていくのかもしれない。

俺とメアは、レベルを起こさないようにしてその場を去った。





「ーーそう言えばさ、シンの持っているその剣って宝剣だって言ってたよね」

「それがどうかしたのか?」

そう言うと、メアはまじまじと俺の腰にあるアスティオンを見る。

「この剣がねぇ……信じられないわ」

それはそうだろう。
宝剣なんて代物、生きていてもまずお目にかかれないと聞く。
俺自身も情報屋アンナから言われるまで宝剣だなんて微塵も思っていなかった。
それは今もそうで、魔物特攻特性がある剣、その程度の認識しかない。

「別に信じてもらわなくていい。俺の剣だ。魔物を斬る、そのことに特化した剣。それでいい」

「……ふ~ん、何でもいいけどさ。確か、カサルって場所にいるんでしょ? 宝剣を持つ勇者」

「まだ先だ。まあ、どうせろくでもない奴が持っているに違いない」

「ぶっ! あ! ごめんごめん! つい!」

メアが手を口に抑えて笑った。
俺も思うよ、それは。俺自身がろくでもない人間だからこそ宝剣アスティオンを持っているって。
両親が魔物に殺された翌日、毎日毎日、日が暮れるまで体を鍛え、寝る間も惜しむほどアスティオンを振った。
復讐という名のエネルギーを糧に、鍛え、振り、剣技を磨き続けた。
宝剣がなくても勇者になることはいくらでも出来るが、少なくとも俺の手にアスティオンがあるとうことは、そんなろくでもないやつでも宝剣を持つことが出来る。

宝剣がどういう人間を選んでいるのかは知らないが、少なくとも俺の家に代々から受け継がれて来たと言うくらいだ。
俺が生まれて来た時には既に両親しかいなかったから、以降の親類がどういった人間だったかは分からない。
だが、俺の父といえば村の中でもとりわけ大胆なことばかりしていた。
時には勇者でもないのに、魔物と戦って大きな痛手を負い、時には国の人間でもないのに、シーラ王国の素晴らしさを説く。
時には同じ村の人々からのバッシングにあう事も度々見てきた。

そんなろくでもない父がいる家にあった宝剣アスティオン。
ろくでもないなんて言ったのは語弊があるかもしれないが、畑仕事が手一杯の村人の男の行動としては、理解しがたいものが当時はあった。
だが今にして思うと、この魔物時代に対して必死に生きた、尊敬出来る父だ。
だから、俺にとって『ろくでもない』と言う言葉は、賞賛に値する言葉なんだ。
ただ、だからって自分を賞賛しているわけじゃない。
いずれそう自覚することが出来ればもちろんいいことだが、少なくとも今はまだ思わない。

出発前にかき集めた棒切れに点火した松明を手に洞窟の中を進んで行くが、魔物の一体も出やしない。
もし地上を進んでいたら、格好の魔物の的だったことだろう。
パルセンロックはラグナ平原と同じく、魔物が集まってくる場所として有名な地域。

俺の視界のずっと先には、米粒ほどの小さな光だけが見えている。
ここで速技を使ってさっさと行っても良かったが、メアもいるし洞窟の中に魔物がいないとも言い切れない。
下手をすると、いきなり高レベルの魔物が飛び出して来る可能性もある。

ゆっくりと、そして警戒を常に怠らず、暗闇の洞窟を進んで行く。

「シン、バタリアに着いたらどうするの?」

「情報収集にランク上げ、変わらない」

うえっと、とても嫌な表情を見せるメア。
仕方ないだろう。魔王の城に行くなんて俺も始めてだし、情報、強さ無くして行くなんて無謀にもほどがある。

魔王の城に眠る秘宝を盗む。
ただその一点の成功の為にも、情報収集もランク上げも欠かせない。

「あーあ、私、シンについて来て良かったのかな?」

「……」

知るか。
それは、メアが決めたことだろう?
まあ、今からメアが違う行動をとっても俺は何も気にはしない。
さあ、どうするんだ、メア?

腕を組みながら歩くメア。

「まだまだ遠いね」

だが、さっと腕を振りほどき、先に見える米粒ほどの光を見てそう言った。

そうして、たまに水の落ちる音が聞こえたりそうでなかったりする中、静かな洞窟の中を進んで行った。





米粒ほどの光が拳ほどまでなって来た。

洞窟の中を進みに進み、空いた腹も満たしたい。
魔物と今まで遭遇しなかったのは、ただの偶然なのだろうか。
それとも、ただこの洞窟の中に魔物が住んでいなかったという話だろうか。
いずれにしても、こんな真っ暗闇での戦闘は可能であれば避けたい。

たまに、観察眼を発動して周囲を見回していたが、魔物のステータスは浮かんで来なかった。
そうして間もなくして大洞窟を抜けた。

「あああ! 光!光よ!」

久しぶりに感じた太陽の光が、体に染み込んで行くように当たる。
人間、やはり、日光を浴びなければいけない。

洞窟の中で冷え切ってしまった身体が、徐々に体温を取り戻していく。
振り返って、いかに大きな洞窟を進んで来たかを実感する。

「行くぞ」

太陽の光をこれでもかと言わんばかりに浴びているメアを他所に、俺は岩地を進んで行く。
岩地の先のかけ橋、あれを渡りきった先に見えるのがバタリア。

メアが追いついて来て、歩くスピードを上げる。
硬い岩地が微妙に脈を打ち、それを足で感じながら進む。

バタリアに行くのはこれで2度目だ。
1度目はまだ俺の勇者ランクが3の時だったか。
バタリアのギルドで報酬の高い魔物を討伐して随分と依頼主に感謝された。
バタリアに限らず他の街にあるギルドにも村の住人からの討伐依頼がある。
そして討伐依頼が完了すればすぐに依頼者に伝わる仕組み。
依頼をこなした勇者に感謝を述べたいと街までわざわざ来る村の住人も少なくない。
街から近いならまだしも、その区間が長ければ長いほど魔物と遭遇してしまう確率が上がるというのに。
ただそうしてまで街まで来るというのは、勇者としても嬉しい限りだ。

門が見えた。
バタリア自慢の巨大門だ。
魔物など一体たりとも通さないと有名な巨大門。
さらにバタリアにはセイクリッドと同じく魔防壁が張っており、魔物を寄せ付けない鉄壁の街と名高い。
セイクリッドに次ぐ、村の住人たちが移住したい街ランキング上位に入る。
バタリアの街へ入る為には特に制限がない。
勇者はもちろんのこと、街の外からやって来た人間、盗賊、要するに誰でも入っていい。
そんな街、バタリアへ女勇者メアと足を踏み入れた。

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