百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第33話 血の契約

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「ーーとんでもない目に遭ったんだな」

メアから話を聞いて、思わずそんな言葉が出る。
そして氷塵も、やはりメアのスキルで、俺に見つけられやすいようにと撒いたものだった。

「そうよ! まさかこんなところに、あんな怪物居るなんて思わないじゃない!」

メアと合流してからずっと右腕を抑えている理由。
それは、この洞窟に入る前に魔物に襲われて負傷してしまったという。

「まあ、その程度の傷で良かったよ」

「そ、そうね。この程度の傷で済んで良かったわ。あの人のおかげよ」

メアから話を聞いた。
メアの右腕が軽い出血程度で済んだのは、フードを被る謎の勇者のおかげだそうだ。

パルセンロックは過去の魔物と人間の大戦において崩壊した岩地。
その後のパルセンロックは無法地帯となり、大小様々な岩の影を住処とする魔物がやって来た。
中には、レベル60代後半を超える魔物も複数体確認されており、並みの勇者では立ち寄ってはいけない場所となっている。
そして、その中の一体の魔物にメアは襲われたと言う。

ロックイーラ。
又の名を岩の巨人。移動速度は遅いほうではあるが、その大きさと比較する相手次第では、欠点すらないと言える。
しかも一度動き出せば獲物を仕留めるまで追跡してくる。
ただ、それはラグナ平原に生息している狼の魔物アサナートを含め、大概の魔物はそうだ。
しかし、ロックイーラという魔物は追跡の度合いが違う。
一説によると、一度食べ損ねた人間の住む街にまで降りて来たそうだ。
まあ、そんなところに行ってしまえば、大概の魔物は勇者や国の兵団に返り討ちに遭う。
要するに、そうまでして狙った獲物は逃がしたくないのだろう。

メアはそんなロックイーラに襲われた。

「なるほどな。あの無愛想な勇者のおかげってわけか」

メアが首を縦に振った。

俺たちから数メートルばかり離れたテントには、明かりが灯っていてその勇者の影が確認出来る。
横になっているようで、上げる手には本と思われるものを持っている。
随分と緊張感のないことで。

「レベルには、私がシンといることも話しているわ」

その勇者の名はレベル。
さて、そんなテントにいる勇者レベル。
どうやら、俺のまだ知らない技術を持っているらしい。
何でもメアはロックイーラに襲われた時、氷の雨を降らせたり、地面を氷にしたようだが無駄だったようだ。
そんな時現れたのが、複数体のフォグウルフを引き連れたレベルだったそうだ。

レベルはその複数体のフォグウルフに指示を出して、ロックイーラを翻弄。
持つ戦斧で斬りつけた瞬間、ロックイーラは砕け散るように崩れ去ったそうだ。
メアの話を聞く限り、随分と強い勇者らしい。
まあ、メアを助けてくれたことには礼を言いたい。

テントに歩みよって行き、ばさりと開けた。

「……」

目が合い、被るフードの間からじろりと目だけ動かして俺を見る。

「メアを助けてくれて感謝する」

「……」

俺がそう感謝を述べても、特に反応することなく持つ本の方へ視線を戻す。

どうも話が苦手なようだ。
それもこの洞窟の中に1人長く住んでいたせいだろう。
レベルは話が苦手なのはメアから聞いていた。

すると、レベルは徐に持っていた本をたたみ起き上がる。
そして、被るフードを外して首をコキコキと鳴らす。

手入れをしていなであろう太い眉。
その長い黒い髪は後ろで括られており、この洞窟での生活が相当長いと見える。
歳はその風貌のせいか、俺よりかは歳上に感じる。

「お前がシンってやつか?」

と、聞く声は大人びた感じではない。
まだ子供、そんな感じがする。
だが、テントの隅に置かれたブツにはどうしても目に入って来た。
それが、メアが言っていた戦斧なのだろう。
切っ先が尖っており、持ち手より上の部分に立派な斧がついている。
いわゆる、トマホークというやつ。

「そうだ」

俺がそう答えると、やれやれといったポーズをする。
なんだその反応は。

「お前、男だろ? それならしっかり女の子守ってやれよ! 僕がいなきゃ、あの子死んでいたかもしれないんだぞ!?」

「……」

確かにその通りだ。
返す言葉も見つからない。

「はあぁ、なんて情けない勇者。何でこんな勇者になんか、あの子はついて行っているんだか」

また、やれやれといったポーズをする。

このレベルとかいう勇者の言うことは最もだ。
情けないというのは余計だが、メアが何故俺について来ているのかという点については同感。

そうして俺とレベルが話していると、後ろから顔を覗かせたメア。
それを見たレベルの表情がさっと変わり、目力や口角が上がった。

「何の話してる?」

「いえっ! メアさんが無事で本当に良かったなって!」

メアがふふっと笑うと、レベルは恥ずかしそうにする。
なるほど、と、俺は1人心の中で頷き、燃える焚き木のところに移動しようとした。

「少しあっちで話さない?」

「いいですね!」

メアにそう言われたからか、レベルは上機嫌でテントから飛び出した。
本当に、さっきまで俺が話していた勇者か? と疑うほどの違いだ。

背丈はメアと同じくらいか、靴を除けばそれより低いと思われる。
体格も、それほどガタイが良いというわけでもない。
着る布っぽいものに当たって分かるシルエットからそれが見える。

燃え続けている焚き木の前に座り、メアとレベルも近くに座る。
真っ二つに切られた樹の断面がはっきりと分かる椅子。
断面の見える樹は他にも近くに置いてある。
レベルが切って持って来たものだろう。

「レベルは何故こんな場所に?」

「そんなこと僕の勝手だ!」

言い方がきつい理由は、俺が男だからか、それともメアと一緒にいるからか。
おそらくだが後者だろう。
メアと話していた様子を見る限りではそう思わざるを得ない。
ただ単純に俺が嫌いの可能性もあるが。

「そんな風に言わないで。ね?」

「はいい!」

レベルはビシッと背筋を伸ばしてそう返事をした。
メアも、もし分かってしているなら確信犯だ。
ただ、それでも良いって思っていそうな感じがレベルからしてならない。
目はにやけ、もう目も当てられないな。

そして、手の届くところにあった樹の枝を持って、レベルは地面に何かを描き始めた。
とても真剣に、だが、レベルの表情は柔らかい。
間も無くしてレベルが地面に描いたのは、フォグウルフだと思われる魔物と人間が肩を組んで仲良くしている絵。

「僕がこの洞窟にいる理由ーーそれは、魔物と人間が共存し合えることを証明する為だよ」

何を言い出すかと思えば……

「それは不可能だ。魔物は人間を殺し、人間は魔物を恐れる。共存なんてのは夢のまた夢」

昔、レベルと同じようにそんなことを言う村人に出会ったことがあるが、同じく村に住む人々にこっぴどく言われていた。魔物と人間が共に暮らすなんてのは夢物語。それこそ、天地がひっくり返っても不可能なことだと罵られていた。

「あ~あ、これだから何も知らない勇者は嫌いだ」

それでも、レベルは何か知っている言い草だ。

「レベル、詳しく聞かせてくれない?」

そうメアが言うと、でれっとした笑顔を見せる。
わかりやすいやつだ。

「仕方ないな~。ま、久々に人と話すし、これも良い機会になる。これで、良い噂が広まれば……」

最後の方、レベルは両手で口を覆って小声で言う。
丸聞こえだが、本人は聞こえていないと思っているのだろう。

「血の契約! 人間と魔物との間に結ぶ、最強にして、最高の従属儀式!」

レベルはその場でばっと立ち上がって力説した。

血の契約……聞いたこともない。

「レベル、それは国も許可しているものなのか?」

俺がそう言ったのは、この魔物時代において、何らかの技術の管理下は各地にある国が持っている。
俺はシーラ王国を含めて、数カ国を旅先で訪れたことがあるが、レベルの言った従属儀式も血の契約も聞いたことがない。
そうなると国は知っているが公表を認めていない為、極秘的に話の上に出てこないという可能性もある。
ここからはさらに俺の憶測なのだが、仮にそういった理由があるからこそ、レベルはこんな人が立ち寄らない洞窟にいるとも考えられる。

「焦るな焦るな! それも含めて話してやるから!」

だがそれも話してくれるらしい。

そして、レベルは俺とメアの前にある炎の向かい側に行った。
よし、聞こうじゃないか。
お前は実は何者で、何を企んでいるのかを。

俺は、レベルに気づかれないように静かにアスティオンに触れていた。
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