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第32話 洞窟に潜む者
しおりを挟むフォグウルフの後についていくと、洞窟に入って行った。その静まり返る洞窟の様子は、何か居そうな気配がしてならない。
風の通りもある。
この洞窟の先を進んで行けば、バタリアへ着くかと言われれば疑問に残る。
俺が知っているパルセンロックと言えば、過去の魔物と人間との大戦で岩山が大破してしまった場所だということくらいだ。
こんな洞窟は初めて見る。幅はブルッフラの門の二倍以上。
一体どこまで続いているのかと感じるほどの空洞感。歩く地面から天井は何十メートルあるかと思われる。
それほどの洞窟。
発動している観察眼がフォグウルフを追う。
だが、そのスピードは落ちることなく、どんどん洞窟の奥へ行く。
そして、間も無くして観察眼の範囲から外れた。
引き返すか?
そう自分に問うた。
だが、返事はNOだった。
洞窟の奥へ消えて行ったフォグウルフのことも気になるが、それよりも、メアの所在が知りたい。
こんな洞窟にいるなんて到底思えないが、さっきから冷たいものが頬に当たる。
それは、パルセンロックに入ってしばらくしてからあった、氷で覆われた場所で頬に当たったものと同じ。
もし、それがメアがしたことなら、引き返すわけにもいかない。
洞窟を進むにつれて光も無くなっていく。
適当な大きさの棒切れを数本拾い上げ小石を二つ拾い、火打ちの要領で棒切れに点火。
なるほど、確かに何かがありそうな洞窟だな。
よく見れば、割れた人骨がそこらかしこに落ちてあったり、大岩の表面に硬い物で斬りつけたような跡が残っている。
考えるに、過去の魔物たちと人間たちとの戦いで、この洞窟に逃げ込んだ時のものだろうか?
もしくは、フォグウルフの餌食となった人間の可能性もある。
フォグウルフは氷の地に生息している魔物ではあるが、環境適応力が高い魔物でもある。
その為、こうした暗闇の洞窟に住むことや、熱帯とまでは無理だろうが、ある程度高い気温の場所でも住むことが出来るとされる。
「……どうも、何かにおうな」
人間の人骨があったからではない。
何故、氷の地から遥々離れたパルセンロックにフォグウルフがいるのかだ。
それが気になる。
魔物の移動目的など、だいたい自分より強い魔物にテリトリーを奪われたか、住処を物理的に失った場合などだ。
ただ、後者は考えにくい。
氷の地は今も以前と変わらず存在している。それは、度々、街に行った時に見る情報誌で知り得ていること。
氷の地ほどの広大な場所の崩壊ともなると、その情報はたちまち世界を駆け巡るだろう。
だが、そんな話は一切聞いていない。
そうなれば、フォグウルフより強い魔物が現れたのだろうか。
こればっかりは、俺には分からない。
もしかすると、黒龍の巣が崩壊した話と関係あるのだろうか?
氷の地に高レベルの魔物が出現したとも考えられる。
フォグウルフが移動するほどだ。
よほどのことでも起きない限り、縄張り意識の強い彼等フォグウルフは移動などしない。
燃え続けるたいまつを左右に振って、道を確認する。
3つに別れた道が現れるが、どれもこれも同じにしか見えない。
こういう時は直感に頼るしかない。
どの道を行こうか。
よし、ここはそのまま真っ直ぐに行くことにしよう。
こういう場合、結局どの道を選んでも先で繋がっている可能性が考えられる。
地面に散らばる小石や時折ある岩を避けながら洞窟のさらに奥へ進んで行く。
冷んやりとした空気がさらに増してくる。
いつ以来だろう、こういう洞窟に入ったのは。
ああ、そうそう。
確かあれは、勇者ランクがまだ2の時だったか。
バタリアより、さらに2つ山を越えた場所にある街のギルドに行った時。
魔物の討伐経験を積む為に、雷虎の案件を引き受けた時だった。
街から少しばかり離れた霧が立ち込める巨大樹が立ち並ぶ森で、荷馬車が相次いて魔物の襲撃にあった。
そして、命からがら逃げて来た荷馬車の男がギルドに討伐依頼を出したのだ。
この時ばかりは、俺もまだまだ勇者としても経験も浅かった為、人肌脱いでやろうと安易に雷虎討伐案件を引き受けてしまった。
向かい、行った森で見た雷虎は、明らかにその時の俺が倒せるようなレベルではなかった。
レベル52。
インプールスライム並みの強さか、それ以上だっただろう。
後々聞いた話では、荷馬車の男の説明がギルドにうまく伝わっていなかったが為に起きてしまったことだった。
もちろん、その時の俺が勝てる相手ではない。
冷静な判断を欠いた状況、速技を使って逃げることも出来ない。
速技ではなく自分の持つ全速力で雷虎から逃げた。
そして、逃げ延びた先に隠れたのが森の中で見つけた洞窟だった。
今、俺が歩いているパルセンロックのように巨大な洞窟ではなかったが、それでも十分過ぎるくらい大きな洞窟ではあった。
その後、何時間と洞窟の中で身を潜め、雷虎が居なくなるのを待った。
夜が明けるまで、何時間も何時間も。
あの時ほど、震えたことはなかった。
目を瞑り眠ることも、休むことも出来やしない。
常に雷虎を警戒して、洞窟の影や、少しの物音にさえも恐怖を感じてしまう精神状態。
懐かしくもあるが、もうあんな体験はしたくはない。
強さ。
それさえあれば、雷虎に怯え逃げることなんてしなくて済んだだろう。
しばらく洞窟を進んでいると、明かりが見えて来た。
ぼぅっと燃えるのは、炎。
何故、こんな洞窟の奥に?
恐る恐る近づいて行くと人影があった。
「シン!」
俺の気配に気づいたのか、振り返ってその者はそう言った。
「メア、なんでこんな場所に……」
燃える焚き木の近くにいたのは、メアと、知らない誰か。
フードを深く被っており、俺が来ても反応すらしない。
「……そいつは?」
「彼も勇者よ」
と、メアは言うが、その男は燃える焚き木の方を向いたままピクリとも動きやしない。
近くまで行って、横からその男を見た。
すると、男は視線だけ俺の方にやるが、また、燃える焚き木の方へ視線を戻す。
「待ってシン! 私、彼に助けられたの!」
無愛想な男だと、被るフードを取ってやろうと手をかけようとしたら、メアにそう言われた。
「何?」
「……ちっ」
小さく、男の舌打ちが聞こえた。
男はその場を立ち、近くにあったテントと思われる場所に向かう。
洞窟にテント……まさか、此処に住んでいるのか?
こんな、魔物が住んで居そうな場所に。
「メア、何があった?」
メアのいる隣に座ってそう聞いた。
さっきからずっと右腕を抑えているのも気になる。
「本当はね、直ぐに戻りたかったんだけど、そうもいかなくなって……」
ちらりとメアはテントの方を見る。
「話してくれ」
頷き、メアは口を開いた。
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