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第30話 ウエルス川の巨大魚

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ウエルス川はブルッフラから西に位置する巨大川。
そこまでの距離は比較的に近いので、さっさと行ってサクッと討伐するとしよう。
その後はステータスの上昇に影響しそうな魔物の討伐。

魔王の城の秘宝を盗み出すという果てしない目的を果たす為、可能な限り魔物を討伐していく。

ラグナ平原の先に流れるウエルス川。
昔は売ればお金になる大小様々な宝石が川底に沈んでいたのだが、それも長年の月日を経て減少傾向にあるらしい。
そして今、ウエルス川にうじゃうじゃといるであろうエンデルングによって、勇者でもない一般の人々では到底近寄れない場所。

しかも、ウエルス川に生息するのはエンデルングだけではない。
人間のおよそ10倍もの寿命を持つとされるディストロルと呼ばれる巨大なクロコダイルもいるそうだ。
ウエルス川にある宝石目当てで来た人間を食い、今では恐れられる存在。
度々ウエルス川と繋がっている他の川でも見たという目撃談もあり、ギルドも討伐依頼を出してはいる。
だが、警戒心の強いディストロルは、そうして討伐依頼が出されても生き延び続けているとされる。
過去のディストロルの討伐データを見ても、数は100もいっていない。

ただ、今では好き好んでウエルス川に宝石を探しに来る一般の人間はまずいない。
ディストロルをあっさり倒せる勇者ランクでもない限り、勇者もあまり来ない場所。

そんな場所に俺は行く。
もちろん、行く目的はエンデルングの討伐。
だが、せっかくウエルス川に行くんだ。
川の主の顔も拝んでみたい気はする。

ラグナ平原を進んでいると、硬い甲羅が特徴的なシェルマウスに遭遇した。
亀のような甲羅を持ち、その四方から飛び出る手足が細かく動く。
大きさは拳3つ分くらいだが、その甲羅に触れれば馬の一頭くらいならほんの数秒足らずで動けなくする神経毒がある。
小さいから大丈夫だろうと思って触れれば、人間などその場で硬直してしまう。

まあ要するに甲羅に触れなければいい。
スピードも甲羅を被っているのでさほど早いわけでもない。
ラグナ平原が湖になる時でもいる魔物だ。

念のため観察眼で確認してみようか。


シェルマウス
LV.20
ATK.17
DEF.10


レベルの割にステータスも低い。
ただ、これで油断してしまうと手痛い反撃に遭う。
それは、仲間と共存している彼等の情報伝達能力の脅威。
仮に一体でも討伐しようものなら、たちまち、何体もの仲間を呼ぶことだろう。
そこで甲羅の神経毒に触れていようものならぞっとしてしまう。
シェルマウスの群れに食われ死ぬ。

そうならない為にも、たとえレベルの低い魔物でも見た目だけで判断しないこと。勇者として生きている者であれば、常識的な話。

ただ俺は1人勇者として旅をして来て、散々と言っていいほど、手痛い目に遭って来た。
そのおかげと言うのも変だが、対峙した魔物の能力や危険性は重々承知しているつもりだ。
もちろん、まだ闘ったことのない魔物も多くいる。
そういった魔物への対処は……事前の情報と、実戦で対応していくしかない。

生と死。
勇者という職業は魅力的ではあるが、自身の命をかけたリスキーなものには違いない。

一体のシェルマウスが行って、また、しばらくの間歩みを進めた。

ラグナ平原の大地を確かめるように歩いて行き、じきにウエルス川も見えて来る。
上流と下流の先は見えない。
それほどの巨大な川。
遠くではゆっくりに見える川の流れも、近づいて行くにつれて轟々と音をたてる。


「さて、食い付くてくれるか?」

俺はリュックから1つポーションを取り出し蓋を開ける。

そして、それをーー流れるウエルス川に向かって投げた。

じっと……水面を観察する。
だが、何も起こらない。

また1つ、ポーションを取り出して蓋を開ける。

非常にもったいない事をしているのは分かっている。
だが、これはエンデルングを誘い出す為の行動。
元々、エンデルングは普通の川魚ではあったが、コンフォルという魔物に寄生された。
そのコンフォルがポーションを好むからだ。

ポーションがあるところには人がいる。
実に魔物らしい思考回路。

ポーションをウエルス川に向かって投げる。

さあ、さっさと出てこい。
2本も使ってやったんだ。

銀貨6枚。
言い換えればそうだ。

水面を黙視する。
水面がざわつき始め、数体のエンデルングが飛び跳ねる。
背びれの棘が紫色をしており、いかにも危険な信号を発している。
そして、俺の存在に気づくなり、川の流れに逆らってまで向かって来る。

やれやれ、とんだ害魚だ。

魔力1を消費し、観察眼を発動した。


エンデルング
LV.57
ATK.55
DEF.59


ただ川魚に寄生しただけの魔物のステータスではない。
こんな害魚がウエルス川にウヨウヨいると考えると、川に沈んでいる宝石も採れたものではない。
この川の底も、一体いくつの人骨が転がっているのだろう。
ウエルス川は完全な無色透明というわけではない。
水深もかなりあると言われており、全体像を把握するのは厳しい川だ。

「俺はお前らの餌になるつもりは毛頭ない」

アスティオンを腰元の鞘から抜き、陸地にもかかわらず飛んで来たエンデルングを綺麗に一刀両断。
それでも、まだ動き続けるのはエンデルングの生命力の強さを表している。
そして、2体目3体目と馬鹿正直に飛んでくる。

コンフォルに寄生されて多少強くなったとしても、知恵はまるでない。
先陣切って飛んで来た1体目のエンデルングの勇姿を見ていろよ。

その一体目のエンデルングの近くに、2体目3体目と斬り落ちていく。
しまいには、4体目5体目と次から次へと俺の元へ飛んで来る。
なるほど、害魚自ら死をお望みらしい。

アスティオンの魔物特攻特性が光る。
俺に向かって来た全てのエンデルングを一撃で葬り去った。

ウエルス川に来て僅か7分くらいの出来事。
あっけなく、エンデルングの討伐案件は終わった。

「さて、帰るとするか。……」

用は済んだ。
だが、ウエルス川の流れに微動だにしない生物が顔を覗かす。
皮膚は真っ黒で、白い目玉が俺を睨む。

体長は確認出来ない。
ただ、あの顔の大きさからするに数十メートルはあるだろう。

観察眼を使った。


ディストロル
LV.76
ATK.100
DEF.73


まさか、本当に拝めることになるとは。
レベルも高い。
スカルエンペラーほどではないが、まだ俺には討伐出来る範疇にいない魔物。
いや、もしかすると技とアスティオンを最大限に活かせば討伐出来るかもしれない。
ただそれはギャンブルという名の愚か者のすること。
時と場合によってはギャンブルのような戦闘になってしまう場合もあるだろう。
だが俺はスカルエンペラーや、過去の高レベルの魔物の戦闘を含め、1つも2つも多くを学んだ。
本当に倒さなければならない魔物でもない限り、命をかけた戦闘などしない。

早々に俺はウエルス川から去った。





あの後、ディストロルも特に追っては来なかった。
内心、ワニの魔物であるから陸地対応だと思っていた。
おそらく、ディストロルは陸地も来れるだろうが、追って来なかったのは幸いだった。
もし、スカルエンペラーのような特殊な能力でも持っているならば、俺も危うかったかもしれない。

こんな、自分より強い魔物にビビる生活なんてさっさとおさらばしたい。
その為にも、魔物を討伐、討伐、討伐。
俺の力量に近いか、やや上にある魔物。
そんな都合よく出逢わないことは分かっている。
だから、比較的魔物が生息しているであろう場所を選んで道を進んでいる。

さて、今頃メアはどうだろうか。
まさか、自分より強い魔物と遭ってやられているなんてことはないよな。
まあ、今まで俺と同じように1人で勇者やって来たんだ。
それなりに生き残る術は持っていることだろう。

その時、腕に冷たいものが当たった。
頭上を見上げると、まだ日は出ているのだが雲が出てきている。

ラグナ平原を横断する途中、また、シェルマウスに遭遇した。
チッチッと鳴き声を出しながら仲間のシェルマウスと共に連結するように歩いている。
こうして見ていると、神経毒で敵を動けなくして殺すような魔物には到底見えない。
だが、相手は魔物。
見た目だけでは判断してはいけない。
人間を殺す、それが魔物と呼ばれる存在だ。
だから、たとえ目の前に甲羅を被った可愛いネズミが歩いていたとしても、そこに感情など持って来てはいけない。

視線を歩くシェルマウスから広々とあるラグナ平原に向ける。
この平原が湖になるなんて今は到底思えない。
この程度の雨では、何十年かかろうと無理だろう。
それほどラグナ平原に降る雨季の時期の雨の量は多い。


ややあってブルッフラに戻って来た。
メアは戻っているだろうか。
さすがに、日の入り前までにランク6というのは厳しいものがある。
メアの帰りを待つ為に、落合場所のブルッフラの門の前でラグナ平原を眺めていた。

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