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第28話 女勇者の決意
しおりを挟むリベルタを後にしてから、3時間ほど経過していた。
俺は今……また、ラグナ平原にいた。
その前方には、メアが殺人牛ラーナと戦闘している。
メアの戦闘は初めて見るが、華麗な闘い方だ。
みるみる氷漬けになっていくラーナは、間も無く動かなくなった。
向かって来るラーナを次々に氷漬けにしていく様はさながらフィールドを滑る妖精のようだ。少し、表現に誇張が過ぎたな。
俺は接近戦を得意とするが、メアはどう見ても遠隔戦。
剣を振り下ろすこと無く、スキルだけで討つ。
「はあっ! ーーどう!? シン!」
走り寄って来るなり、メアはそう言う。
「ああ、見てるよ」
俺がメアの戦闘を見ていた理由。
それはギルドリベルタでメアの決意を聞いたから他ならない。
「まだまだ行くからね!」
走り出したメアは魔物の元へ向かう。
付いていく俺の身にもなれ。
今日、インプールスライムを討伐した時に使った速技で、まだ完全に身体ダメージが回復していない。
まあ、俺から言い出したことだが……
俺が、リベルタでメアに話した内容ーーそれは今後、本当に俺と着いて来る気があるのなら、後、1日と半日で同じ勇者ランク6になってみろというもの。
もちろん、これはメアの覚悟を知るために言ったこと。
たとえ、勇者ランク6にならなくとも着いて来るなとは言うつもりはない。
だが、その時にメアの心に何か変化があったのなら無理について来いとは言わない。
メアは自分から着いて来ると言ったのだ。
俺には何の決定権もない。
だが、俺は俺で気づいた使命を全うする。
であるならば、着いて来るメアの本気度と、その戦闘スタイルを知っておきたかった。
遠くを見ると地面から氷の柱が空に向かって突き出した。
その上空打ち上がっているのは、シルエットからするに巨大な狼の魔物アサナートだろう。
3体が派手に地面に落下した。
本当にメアなら……後、1日と数時間で勇者ランク6になりかねない。
確か、マラルとジャックとのゲームで討伐した魔物を含めると、今は549か。
そうなると、1日と数時間で50近い魔物を討伐しなければいけない。
その上、俺が倒したインプールスライムのように、レベル60から69の魔物を討伐する必要もある。
「メア、俺は宿に戻る」
「戻る? 私の闘い方を見るんじゃなかったの?」
「どうもまだ、昼間使った技のダメージが大きいもんでな」
「……そう。じゃあ私は引き続き魔物を倒すわ。また、後でね」
メアはそう言い残してラグナの平原を駆けて行った。
ずっと、ずっと……
メアが見えなくなるまで、俺は見届けてブルッフラの宿に戻った。
◇
「ーー休息は必要だな」
宿に戻って直ぐにベッドに倒れ込む。
メアから貰ったレッドポーションで少しはマシだったが、やはり一度休息をとったほうがいいらしい。
こんな状態ではまともな思考回路が出来ない上、コストパフォーマンスなんて最悪だ。
宿に戻る途中、魔物に気づかれなかったことが幸いだった。
仮にも、またインプールスライムでも出てみろ。
討伐出来ないことはない。
だが、アサナート並みにとは言わないまでも、インプールスライムはしつこい。
狙った獲物はなんとしても仕留める。それがインプールスライムだ。
特に雨季でない時にラグナ平原に集まって来る他の魔物も捕食する程の大食らい。
また、技を使ってしまう。そうなれば今以上に体力の消費がでかい。
身に付けていたアスティオンと、腰元のベルトを外してベッドの上で横になった。
◇
……ああ、そうだ。
懐かしい。
これは俺がまだ勇者になりたての頃の夢だ。
「……行ったか?」
俺は岩陰に身を潜めて、空を飛ぶ魔物ワイバーンの様子をうかがっていた。
林道を歩いていたら、いきなり上空から飛びかかって来た。
反撃しようにも勇者としての経験がまだまだ未熟だった俺はただただ逃げるしかなかった。
岩陰からそっと確認するが、ワイバーンの姿は見えない。
この頃、既にアスティオンは魔物特攻特性を持ってはいたが、まだまだ使い慣れていない状態。
勇者という職業は、ギルドへ行き申請すればその場でなれる。
とは言っても、たとえ勇者になって魔物退治の道へ進むにしても、生半可な気持ちでは続かない。
魔物を討伐する。
そのことのみ、勇者の価値は発揮される。
その為、誰でも勇者になれる反面、対峙した魔物の脅威に負けて辞退の道を選ぶ者も多い。
「グアアアアアアア!!」
「くそっ!」
やはり、まだ近くにいた。
俺が岩陰から離れた瞬間に襲って来やがる。
魔物のくせに、妙に頭がいい。
そもそも、さっきからこのワイバーン、俺で遊んでいないか?
俺がアスティオンで斬りつけても、ヒョイッとあっさり躱しやがる。
もう一度、観察眼で見てみるか。
ワイバーン
LV.11
ATK.19
DEF.10
この時の俺の魔物討伐数は0、倒したこともなかった。
レベル11だと、勇者ランク1になる為に必要なステージ。
まだ、俺には早い。
この頃も、素早さだけはあると自覚していた為、逃げるにはさほど困らなかった。
だが人間。体力はいずれ尽きる。
「ーーっ! ってえな!!」
ワイバーンの左翼が体に激突した。
その攻撃で、地面に勢いよく転がった。
だが、直ぐに体勢を戻し、ワイバーンを確認する。
「グアアアアア!!」
大口を開け、突っこんでくる。
両翼の動きがゆっくり、ゆっくりに見える。
不思議な感覚。
ワイバーンの動きが急に遅くなった。
だが、俺は至って冷静に向かって来るワイバーンを見ている。
……そして、アスティオンを鞘から抜き取った。
「グアッ!? グアッ! グアアアアア……」
ワイバーンの体に縦に長い斬り傷。
俺は踏み込んだ瞬間、ワイバーンの懐に入っていた。
そうだ。
この時、初めて俺は速技を使った。
速技のレベルも分からない、技というものも知らない時だ。
ワイバーンは地面に落ち、絶命した。
両翼を合わせると横幅はゆうに4メートルはある。
ランクすら付いていない勇者が倒せる魔物だったのかと、この時の俺は分からなかった。
剣の握り方も扱い方もまともに知らない。未熟な勇者。
解錠と回り抜けの2つのスキルはこの頃から使えていたが、やはり、こちらも使いこなせてはいなかった。
解錠など、そもそも使う場面がほとんどない。
たまに、家のドアが壊れて困っていた婦人を助けたくらい。
どんな怪力で回したんだ? と、その時は本気で思った。
体格はふくよかな婦人だった。
確か、蜃気楼の町だったな。
その名前の通り、蜃気楼のように魔物から姿をくらます町。
まあ、実際は空間を歪めるスキルを持っていた人間がその町に住んでいたってだけなんだが。
懐かしいな……
◇
体を起こすと窓の外は真っ暗だった。
「久し振りだな、昔の夢をみるなんて」
駆け出し勇者。
ギルドで『勇者の指南書』を受けとってから1週間後の出来事。
よく覚えている。
俺が初めて討伐した魔物だ。
ギルドで勇者申請をして出発した後で魔物には遭遇するのだが、どうも倒せなかった。
闘い方も敵の急所も分からない。そんな時だった。
家柄も、戦の場にいた人間はいなかったようで、まさか、こうして勇者になるとは思ってもみなかった。
そして今、俺の勇者ランクは6。
さて、メアはどうなったのだろう。
帰ってくる気配はないし、少し様子を見に行くか。
体力も回復した。
高レベルの魔物相手でもスカルエンペラーレベルの魔物でもない限りは大丈夫だろう。
ベルトを装着して、アスティオンを鞘にしまい込み宿を出た。
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