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第27話 技の代償
しおりを挟む「ーーそんな勇者、初めて会ったわ」
俺はメアに技のことをまず話した。
それは、旅の中でいきなり俺が技を使った時に変な目で見られない為でもある。
それが原因で俺の元を去るなら去るで構わないが、今の間にじっくり話せる時に話しておこう。
この先の旅に本当に着いてくるかは後々聞くことにした。
「俺は昔から技のレベルだけは何故か高かったんだ。自慢してるとメアが捉えてしまうのも分かる。そんな勇者、反則だもんな?」
「自慢……そうかもしれないけど、何か理由があるんでしょ? 身体能力の低下の他に、深い事情が」
身体能力の低下ーーメアは俺の言葉を繰り返すようにそう言った。
そう、俺は+8という速技は持っているが、自分のステータスが追いついていない。
本来なら速技+8というのはランク8、9、もしくは速技を特化させたランク10以上の勇者のレベル。
ランク6の勇者が持っているレベルではない。
技の代償ーーいくら高レベルの技を使えるからと言っても、その代償は大きい。
現に俺はインプールスライムとの戦闘時に速技を使ったせいで身体中の疲労感が半端ではない。
この状態なら、今の速さはメアにも劣るだろう。
身体能力が著しく低下するというのは技のレベルに見合わないステータスーー勇者ランクと技のバランスがズレすぎている為他ならない。
もしかすると、技を使用しまくればもう少し高いレベルの魔物も討伐出来るかもしれない。
だが、代償を考えるとその隙に反撃されてしまえばリスクが大きい。
無闇には使えない上、高レベルの魔物との戦闘になるとスカルエンペラーと闘った時のように使えない可能性の方が大きい。
それを解消する術は……言わずもがな、自身のステータスを上げること一択。
ランク上げは暫く続く課題だ。
「……深い事情か。……あるかもしれないな」
「あるかもって! 分かってないの!? 自分で!?」
俺の技のレベルが高かった理由は正直はっきりとは説明出来ない。
カサルの地で出会った勇者に言われて気づいた。
何で、どのような形で俺の技が高い状態だったのか。
考えたこともなかった。それは今もそうだ。
理由をはっきりさせたいのは山々なのだが、そのうち分かるだろう程度で深く考えてはいない。
首を横に振る俺を見てメアはふぅと息を吐いた。
そして、腰掛けにある入れ物の中から小さな小瓶を取り出した。
「これ飲んで」
そう言ってメアに渡されたのは、コルク栓で止められた青い小さな小瓶。
手の中にすっぽりと収まるほどの小さな小瓶。
「ポーションか。これで治ったら苦労は」
「いいから飲め!」
俺の言葉を遮るようにメアが叫んだ。
「……!」
体の疲労感が少しましになった。
渡された小瓶はレッドポーションで、体力を中回復する。
ブルッフラの周辺にいる魔物なんて対した相手ではない。そう思ってポーションやエリクサーなどのアイテムは全て宿に置いてあるリュックの中。
どうやら、メアには見透かされていたようだ。
インプールスライムを倒してからというもの、ずっと体の疲労感が辛かった。
ちょうどいい相手だろうと思い使ったのだ。
今の最大速技+8の使用ではなく、+5ほどだった。それでも、まさかこれほどの疲労感に襲われるとは。
もちろん、俺は今後のためにとそれぞれの技を調整して来た。
「どう?」
メアが心配そうに顔を覗き込む。
「ああ、少し楽になったよ」
普通、体力の回復はポーションで補う。
もちろん身体を休息することでも体力は回復するが、その分ポーションより時間はかかる。
ポーションはいわば、細胞の活動を活発化させることで身体に及んだダメージを高速で修復していく。
その為、使用前と使用後が明らかに違うことで、体力が回復したと自覚する。
ただ、ポーションを連続して飲めば技も使えるのでは? と思うかもしれない。
確かにそうだ。が、後に来る反動は大きいだろう。
もしくは速技のレベルを抑えて使用すれば、ポーションを使わずとも可能ではある。
だが、またそれが難しいところで、高レベルの魔物相手ではさほど意味をなさない場合が多い。
例えば、今回のように速技を使った後にまた強敵でも現れたとしよう。
そして、疲労しきった身体の回復のためにポーションを使用。
その通り、速技は使える。
だが、俺の場合はそうはいかない。
速技を使った後、ポーション一つで体力が全回復することはない。
それは、速技を使ったことによる身体ダメージの方が圧倒的に大きいからだ。
自分の力量を見誤り、仮に速技の連続使用などすれば、たちまち魔物の餌食だ。
もちろん俺はそんなことはしない。
かなり久々に速技を解放したが、速技のレベルから考えて大丈夫だと判断して使用した。
思いのほか身体的ダメージは大きかったが、それも俺の範疇ではあった。
今の俺のレベルだと、3から5ほど低い技が目安といったところ。
+8なんて速技をまともに使ったら、瀕死級の反動を負うことは間違いない。
その回避の為にも、ステータスの強化と勇者ランク上げは欠かせない。
「まったく、無茶しちゃって! シン、少し焦り過ぎじゃない? 別に魔王の城の秘宝なんてそうそう盗まれるものじゃないわよ?」
「無理なんてしていない。俺は俺に与えられた任務をやっているだけだ」
メアははぁっと深い溜息を吐いて、テーブルに頬杖をついた。
じぃっと俺を見ていたが、間も無くそっぽを向いてしまう。
「何か言いたいなら話せ」
「別に」
メアめ。
やけに機嫌が悪いな。
そんなに俺が任務任務言うのが嫌なのか?
そうだ。
俺はメアに聞きたいことがあったんだ。
「メア」
そう言うと、何? みたいな顔をして目線だけ俺に向ける。
「真剣な話だ。ちゃんと向いてほしい」
「な、何よいきなり!?」
よほど驚いたのか。
メアは座る椅子がずれるほどびくついた。
上目遣いで俺の方を気にしつつ、姿勢を正して正面になる。
「……それで、何?」
これから俺が言う内容次第では、メアはもう着いて来ないかもしれない。
だが、たとえそうなってしまっても、俺は俺の旅を続ける。
義務ではない。
責任ではない。
アリス王女から頼まれたからと言って、使命感に駆られたというわけでもない。
アリス王女から言われるまで、ほとんど意識などしてこなかった。
だが、今は違う。
俺は魔王の城に眠る秘宝を盗む。
使命感ではない。似ているが、違う。
なんだろう。
何か言葉でうまく説明出来ないが、俺は魔王の城に眠る秘宝を盗み出したい。
俺の持つスキルを活躍させ、技も惜しみなく使ってでも盗み出したい。
後を振り返る事なく、突っ走って盗み出したい。
……ああ、そうか。
これが使命というやつか。
なら、聞こう。
メアは、俺の覚悟を知った上でどういう選択をするのかを。
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