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第24話 ラグナ平原の暴れ者
しおりを挟む魔王の城に眠る秘宝を盗み出す為に今俺に出来ることを、ブルッフラ出発までの2日間で効率よくしよう。
考えているのは、ランク上げをしながら尚且つステータスの上昇を行うこと。
ギルドリベルタで討伐依頼が出ている掲示板を見ていると、どれもこれも人々にとっては害悪しかない。
そしてその中でも特に面倒な魔物の依頼が目に付いた。
【アシッドアント】
口から出す酸で獲物を殺し捕食する蟻、アシッドアント。この魔物はドロウスバッドのように群れを形成して狩りを行うが、群れの数が多い。
おおよそ10から20で狩りを行い、標的となった獲物はたちまちアシッドアントによって骨まで溶かされる。
森の小動物はアシッドアントの格好の獲物。勿論、人間も標的だ。
足の動きも早く、勇者でもない限りアシッドアントから逃げることは不可能だろう。会いたくなければアシッドアントの縄張りに入らないか、出会わないことを祈るしかない。
今回、このアシッドアントは討伐対象にしない。理由としては、いくら魔物討伐数を稼げるとしても、ステータスの上昇には影響しないからだ。
それは、アシッドアントの平均的なレベルが20から高くても25くらい。
アシッドアントで魔物討伐数を稼ぎ、40~49のレベルの魔物を討伐してもステータスの上昇は乏しい。
これでは、ただ単にランクが高い名ばかりの勇者になってしまう。
ましてやアシッドアントは大群で行動をし、一体一体がそれぞれの役割を為している。
攻撃をする部隊、援護をする部隊、見張り役をする部隊までいる。国の兵団並みの編成だ。
討伐出来ないわけではない。
一言で言えば、面倒。そして理由を言えば、先に言った通りだ。
そして、掲示板のアシッドアントから隣に目を移せば、アシッドアントと同じ昆虫型の魔物の討伐依頼。
【パラリーザムォール】
一息その鱗粉を吸い込んでしまえば、全身を痺れ状態にしてしまう巨大な蛾、パラリーザムォール。
周囲に強力な痺れ毒を持つ鱗粉を散布し、動けなくなったところで獲物を捕食する。しかも、痺れ状態になっても痛覚は消えない。相手はただの魔物だ。獲物に配慮などするわけがない。
俺は、今までにアシッドアントもパラリーザムォールも討伐したことはある。ただ、どちらも面倒な魔物で、まだランクの低い勇者にとっては相手にしたくはない。
だが、アシッドアントやパラリーザムォールより相手にしたくない魔物がいる。
【イエロセルペント】
鉄の剣さえも通らない肉厚の皮膚を持つ大蛇。
鉄と同じ硬度を持ちながら、その身体は蛇の動きを可能にしていると言われている。
それでいて、体長はゆうに10メートル近くあるともされる。
聞いた話では、イエロセルペントに襲われて死んだ勇者もいるそうだ。俺はまだ会ったことは無いが、この話を聞いて会いたいなんて思わない。
いくら俺が魔物に対して特攻耐性を持っているアスティオンを持っているとしてもだ。
討伐するのはもう少し先だろう。
この三体、他のギルドの掲示板でもちらほらと見かけていた。残っているとなると、同じ依頼か、もしくは次から次へと現れる魔物だからだろう。
その後、リベルタで受付を済ませて魔物討伐の依頼を引き受けた。
引き受けたのはラーナという牛の魔物で、ブルッフラより北東に位置するラグナ平原に今の時期はいる。
俺がこの魔物に目をつけたのは、ただ単にランクを上げる為ではない。
ブルッフラ出発までの2日間を有効且つ有意義なものとする為に、ステータスの強化にも勤しもうというわけだ。
勇者におけるステータスの上昇は討伐した魔物のステータスに影響される。つまり、攻撃力の高い魔物ばかり討伐していれば、攻撃力に優れた勇者が誕生する。
反面、防御力と速さを捨てることになるが、それらを補える攻撃力があればいいと割り切る勇者もいるのだそう。
俺はそんな無茶なやり方はしてはいない。バランスよく様々な魔物を討伐して来た。そして、ステータスの中でも特に重要視している速さを上げて来た。
それはアスティオンの特性により攻撃力の配分を控えることで、その分を防御力や速さに当てることが出来るからだ。
勿論、他にも理由はある。俺はあくまで単独での魔物討伐をして来た勇者。戦闘では敵わない魔物にも当然遭遇することがある。その為、その場から離脱する為にはどうしても速さが必要になる。
いわば保険だ。勇者としてやっていく、そして生きていく為に。
「よう、湿った草は美味しいか? ここにもっと美味い獲物の登場だ」
鼻息を荒くして振り返ったのは、ラグナ平原の草を食べていた3頭のラーナ。
3本の赤いツノが特徴的な殺人牛だ。僅か2、3秒足らずで達する最高時速から繰り出される突進は、初見の者であれば対応すら難しいだろう。
ラーナは振り返って直ぐに猛突進して来た。残りの2頭も俺めがけて突進。その巨体からは想像出来ないほどの速さ。しかも、先頭に1頭、後方に2頭。並々ならぬ迫力だ。
だが、その突進は俺には当たらない。
俺は高く跳躍して1頭のラーナに狙いを定める。
「ム゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」
アスティオンを真下に構え、体重と重力により加速した切っ尖は後方を走っていたラーナ1頭の頭にクリティカルヒットする。
その一撃を食らったラーナはその場で即死。
残り2頭。
素早く体制を整えて、うち1頭のラーナの両目に回転斬りをお見舞い。視覚を断ち、お得意の突進攻撃なんてさせやしない。
だが、ラーナはもう一頭いる。一頭に回転斬りを食らわせた瞬間、お構いなく猛突撃。
「っ!! 重いな!!」
俺は咄嗟にアスティオンを地面に縦に突き刺して受ける。しかしその突進の威力たるや、アスティオンもろとも俺を後ろに3メートル以上は移動させた。
ラーナは鼻息を激しく鳴らして威嚇し俺を睨む。
前足を蹴り上げてずんずんと前進してくる。どれほど、俺を殺したいのだろうか。
「ム゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛! ーーオ゛オ゛オ゛!?」
俺は腰にかけてある小型剣でラーナの両目を潰した。そしてすかさず、アスティオンの連続斬りをラーナに浴びせる。
タフな脂肪のおかげで暫く抵抗していたが、間も無くラーナは絶命した。
死んだラーナを横目に俺はつくづく魔物という存在を放っては置けないと思った。
残る1頭のラーナは匂いで俺の位置を確認しているのだろう。両目は潰した筈なのだが俺の方向をしっかりと捉えている。
しかし狙いを定めるまで俺が待つ理由はなく、ラーナが走り出す前にアスティオンで頭を突いた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!?」
その場で倒れる様は、いかにラーナが重いのかが分かる。
ラグナ平原に3頭のラーナが横たわる。
凶悪で情のカケラもない魔物は、力無き人々にとっては恐怖そのもの。
今、討伐した3頭のラーナにしてもそれは言える。
俺が過去街で見た魔物新聞によると、馬車を引いていた親子がラーナの餌食になったそうだ。
後、分かったことだが、その親子の死因は圧迫死だった。
ラーナは一見すると突進による攻撃が特徴的な魔物だが、真に注意すべきはその脚力だ。
走り出し僅か2、3秒で最高時速に達するのは、発達し過ぎた脚力によって可能となる。
その為目立つ3本のツノに目が行きがちだが、最も警戒するべき場所はラーナの脚である。
しかも、ラーナは人間だけでなく他の魔物にも引かず突進していく。
こうした魔物が魔物を襲うという事例は少ないわけでもないが、少しでも魔物同士で消滅してくれるというのなら手間が省ける。勝手にやりやってくれて俺としても助かる。
ちなみに魔物新聞とは、魔物のことばかりを取り上げた新聞のことだ。
そうしなければ、一般的なニュース記事ですら魔物のことで埋め尽くされてしまう。
それ程、毎日毎日魔物に関することは何か起こる。
その後も俺は魔物を討伐する為にフィールドを歩き回っていた。
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