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第20話 勇者たちは魔物を狩りまくる
しおりを挟む「来たな」
ブルッフラ南正門前に着くと、弓を肩にかけた男がいた。昨日、酒場で出会ったもう一人の巨体男にマラルと呼ばれていた男の方だ。
「あいつはいないのか?」
俺が言うあいつとは、そのもう一人の巨体男だ。辺りには見当たらないが、メアがきょろきょろと確認する。
すると、マラルはブルッフラ南正門の外を指差す。その方角をよく見ると、剣らしきものが地面に向かい真っ直ぐに突き立て、その上に人が乗っている。
「ジャック来たぞ」
近づいて行くと、巨体男ーージャックは大剣の持ち手先を右手だけで掴み、腕をリズム良く曲げて体を動かす。
大剣の切っ尖は地面に深くめり込んでいて、いかにジャックの体重が重いのか分かる。
ジャックはその状態で腕と足の関節を深く曲げ、勢いよく反動をつけた。
大剣とジャックは高く飛び、着地した衝撃は俺の元まで伝わる。
「待ってたぜえお二人さんよおお!!」
ニィッと笑い、ジャックは全く疲れた素ぶり表情もなく、むしろいきいきとしているように見える。
豪腕で全身筋肉質、持つ大剣は俺の剣の倍以上の大きさ。
マラルもそうだが、ジャックも勇者としてかなりの実力者かもしれない。
「ゲームを始める前に聞くが、能力の使用は有りでいいんだな?」
俺がそう聞いたのは、単に実力だけで勝負をしたい連中もいるからだった。能力に頼らず、日々鍛錬した武器や武術、そうした技能を駆使したいと思う者も中にはいる。
「それは一向に構わん」
「俺様は無しでもいいぜえ? 魔物なんてもんはな、力任せにぶった斬ってやればいいのよ!」
ブォンと大剣を振った衝撃で強い風圧が起きる。見た感じは軽く振っただけだったようだ。
ジャックは外見、武器、そして今の剣の一振り、恐らくだがジャックはパワータイプの勇者だろう。
「御託はいいから、さっさとゲームを始めましょう!」
するとメアがいきり立ったようにそう言う。やはり、自分がゲームの賞品にされているのが気に入らないのだろう。
「威勢がいい女だ。こちらとて、ゲームのやりがいがある。ただその前に、魔物の総討伐数を見せてもらおうか」
それは当然の確認事項だった。今回、俺たちがするゲームはいかに魔物を討伐したかを競うもの。
その為、事前に何体の魔物を討伐しているのかは確認しておく必要がある。それを除いて魔物討伐数をカウントしていく為。
俺とメアは、魔物総討伐数を記録した黒の紙を見せる。
「ほおう……」
マラルは何を思ってそう言ったのか。
現在、俺の魔物総討伐は576。これを少ないと見るか多いと見るか。
マラルの反応からするに、やはり少なかったのだろう。もし、マラルが俺と同じランクの勇者かそれ以下ならそんな一言を言うだろうか。
ジャックの反応は特にない。いや、そもそも気にしていないのだろうか。
「シン、意外と倒していたのね」
そういえば、メアには言っていなかった。ちらっと見たメアの魔物総討伐数は535。
という事は、メアの勇者ランクは5に間違いないだろう。だろう、そう言ったのは、たとえ魔物総討伐数が500を超えていたとしても、レベル50から59の魔物を討伐しなければ勇者ランクは5にはならないからだ。
そして気になるマラルとジャックの魔物総討伐数。
ジャックは653、俺より魔物を討伐していた。だが、驚いたのはマラルの魔物総討伐数。730、ケタ違いの数字だ。
俺の読みは的中。やはり、マラルもジャックも勇者として実力が高かった。
「ちょっとそれって卑怯じゃない!?」
「卑怯? 何を言っているのかな? 勝負の世界に卑怯も何もありはしない」
「はっはっはっ! マラルの言う通りだぜ! ああ早く魔物も斬りたいし、この美女と酒も飲みたい!」
確かにメアの言う通りこの男2人は卑怯かもしれない。下手をすればジャックはランク6、マラルに至ってはランク7の勇者だとも考えられる。
そんな2人相手に、俺とメアは勇者ランク5。
「でかいの、バカ呆けてないでさっさとゲームを始めようか」
俺がそう言うと、ジャックは動きを止める。
「いい度胸だ……よし! だったら俺様からも賞品をやろう! もしもお前たちのチームが勝てば俺様の有り金全てを渡そう!」
「おいジャック!?」
「大丈夫だってマラル! ……だがな、お前たちが負けたその時は……その美女は俺様がもらう!」
ジャックは太い指でメアを指差した。
この男、ジャックは何を言ってるのか。俺が挑発したからそう言ったとしとも、発言がめちゃくちゃだ。
もし、本当にジャックがランク6の勇者なら、俺の思う勇者とはまるで程遠い。
「メア……」
ふるふると身体を震わせるメア、怖いのか怒っているのか。
「冗談じゃないわ! 誰があんたなんかについて行くかっての! フンッ!」
自分をまるで物のように言うジャックに、怒り呆れ返ったのだろう。ジャックからそっぽを向き、腕を組み怒っている様子から分かる。
「ジャック、度がすぎる。俺達はあくまでゲームに勝ったご褒美にこの青髪の女と飲める。一勇者なら欲に溺れるなんてヘマはしないでくれよ」
なるほど、マラルは紳士的な勇者だ。流石、700も超える魔物総討伐を持つ勇者の考えは違う。
魔物総討伐数600を超えているジャックは、もしかすると力ばかり鍛え過ぎて極端な思考回路になってしまったんだろう。
「冗談だってマラル! さあって! 冗談は置いて、ゲームの開始といこうか!」
そうして切って落とされた魔物討伐ゲームは、朝日が昇るラグナ平原にて4人の勇者等によって始まった。
◇
あれから俺たちは四方に散った。
ブルッフラを中心とする、魔物出現区域は大まかに4つ存在する。
ラグナ平原、サギニの森、ブレイクロック、べハールの沼。そして俺は今、サギニの森にあるべバールの沼付近にいる。
「今日はやたらと魔物に好かれるな」
4日前、サギニの森でスカルエンペラーに襲われたというのにまた来てしまったのは魔物討伐数を稼ぐにはもってこいの場所だからだ。現に今も、猛毒を持つ蛇ポイズンバーンと鋭い牙を持つファングラパンを討伐したところだ。
そして気になるアスティオンの特性だが、以前となんら変わらず発動している。
本当は、宝剣であるアスティオンを神の武器にしないといけないのだが、まだ特性を発動しない方法が分からない。
高攻撃力による一撃一撃は、対峙する魔物を次々と落としていく。
「お前の餌になるつもりはない」
本当に今日は魔物とよく遭遇する。現れたのはブルッフラに来る前、ラグナ平原で見た狼の魔物、アサナートだ。「グルルルル」と唸る牙からはポタポタと赤い水滴が落ちる。何処かで人でも襲って来たのだろうか。
「ッ!!!」
大きく踏み込んで飛んで来たアサナートの額に剣先を突き斬りつける。アサナートは馬ほど大きな狼の魔物だ。その体重が体重だけに右手に大きな衝撃が来る。
だが、アスティオンの一撃によってアサナートは即死。しかし、今俺があっさり倒したアサナートもアスティオンの特性がなければ討伐は苦戦するであろう魔物。
アスティオンを神の武器にしたいのは山々だが、それまで俺が生きていられるかどうか……
そうして、スカルエンペラーのような高レベルの魔物と遭遇することなく、俺はひたすら魔物を討伐した。
アスティオンの斬れ味も以前となんら変わらず、現れる魔物は花びらの如く散り去っていく。魔物は俺を餌だと思ってやってくるのだ、躊躇なんてするわけがない。
「此処は……」
漸く魔物との戦闘が落ち着き、気づいた場所は人もいないであろう廃墟跡地だった。
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