百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
14 / 251

第14話 勇者の受難

しおりを挟む


ギルドの案件を引き受け、ドロウスバットの討伐に向かっていた。

持つ武器はアスティオン、魔物との戦闘時、使い手である俺の攻撃力50%を加算する。
その他、リュックの中にはギルドから貰った毒消し草を含めて体力、魔力が回復出来るそれぞれのポーション、体力、魔力共に回復出来るエリクサーを積む。

ブルッフラを出て北西の方角にある森を目指し歩みを進める。

「夜の討伐は久しぶりだな」

普段の俺は日中での活動が多く、それに伴い討伐する魔物も限られる。
動物によって日中や夜に活動するのが異なるように、魔物にも活動時間帯がある。

俺が今目指して歩いているのはブルッフラより北西に位置するサギニの森。
その森の奥何処かにある洞窟の中にドラウスバットは生息しているが、今は狩りの時間。
恐らく人里に現れている頃だろうが、ドロウスバットは小動物なども主食とする。
人々には、彼等を守る国の兵団が在中していることを考えると、森の小動物が狙われる。

空を見上げていると、喧騒とは無縁の夜空の星々の光が見える。
その遥か下地上では、休むことなく魔物達は荒れ狂い今も何処かで人が死ぬ。

夜空の星々の光は、地上の人々が魔物に負けないようにとエールを送っているのかもしれない。

そうして、茂みの深いサギニの森に入って行く。肌寒く、目に見えないところにいる何かの騒ついている声が聞こえる。

「ランク10か。後、431」

そう呟いたのは、魔王の城までに必要とされる勇者のランク。
魔王の城にはレベル100を超える魔物との対峙は避けられない。
それまでに、勇者ランクを10にはしておく必要がある。あくまで、目安ではあるが、魔王の城に生息する高レベルの魔物を相手にするには勇者ランク10は必要だろうという目算。
俺の今の魔物総討伐数は569。よって残り431に加えて区切りの数字の魔物を討伐しなければならない。

区切りとは、30から39、40から49と言ったレベルの魔物。
例えば、俺の勇者ランク5を6に上げるとすれば、魔物総討伐数600を超えて、尚且つ、レベル60から69の魔物を討伐する。

そして、条件を満たした黒の紙をギルドに提示することで、俺の勇者ランクは晴れて6となる。
だが、これは一般的なやり方。中には、数ランク飛ばした上げ方もある。
また俺を例に挙げると、仮にレベル60未満の魔物総討伐数が700以上だとしよう。
その後、本来は60から69のレベルの魔物を討伐すればランク6となるが、これを70から79のレベルの魔物を討伐すれば一気に7ランクまで上がることになる。

ただ、このやり方は実力が伴わなければ成立しない。
極端な話、レベル10未満の魔物を1000討伐しようとレベル100以上の魔物は討伐出来ない。
各ステータスの上昇は、討伐した魔物の数も関係しているが、その殆どは討伐した魔物のレベル。
とどのつまり、自分より強い、もしくは近い強さの魔物を討伐していけばステータスの上昇は起きる。

勇者に設けられているランクはあくまで飾りに過ぎないが、それはギルド案件を引き受けた際に必要となる。

他には、今回俺がアリス王女から任務を与えられたように、王国が見る基準の一つとなる。
その為、段階段階を踏んで勇者ランクは上げていく。
勿論、勇者ランクの上げ方は個人の自由。だが、低ランクの勇者が突如高ランクになったのならば、何者なんだと注目は集まるだろう。

今回討伐するドロウスバットではステータスの上昇は起こらない。
だが、アスティオンの特性の解除方法も気になる。情報屋アンナの言ったことが本当なら、早々に確かめる必要がある。
その為に、今回の案件は引き受けたようなものだ。

日の出までは短い。
ドロウスバットを探し討伐していればあっという間に朝になってしまう。
それに、夜のフィールドはなにもドロウスバットだけではない。
それこそ、黒龍の巣が壊されたことが原因で高レベルの魔物と遭遇してしまう可能性は十分考えられる。

俺にそのことを話した2人組の男の勘違いならいいのだが、あながち嘘だとは言い切れない。
国やギルドがそのことを知っているのかは定かではないが、気をつけておく必要がある。

「しかし、薄気味悪い森だな」

妙な悪寒を漂わさせて、変形してしまった一部の樹が生き物さながら異様な不気味さを醸し出す。
ただ、突っ立っているだけで何もして来ない樹ならまだしも、高レベルの魔物との遭遇は避けたい。
勇者ランク5の俺の実力から客観的に見ても、せいぜい60代後半レベルの魔物の討伐がやっと。

最短ルートでドロウスバットの元まで行きたいが、そういうわけにはいかない。
特殊な探知スキルがあるなら話は別だが、俺の場合歩いて探すしかない。
暗闇にもようやく目も慣れて、魔物がいそうな場所を歩いて行く。

ドロウスバットは一匹いれば大抵その周辺にいる。
耳を傾けて音を聞く。
だが、こういう時に限って魔物の気配は感じられない。

「いないな」

ドロウスバットの知能は低い。しかしながら、幾度無く勇者に退治されれば、危機回避能力が身に付くのだろう。

そうして、暫くの間サギニの森を散策する。ドロウスバットはいてもおかしくはないが、魔物一匹すら現れない。

「見てみるか」

俺は魔力1を消費して観察眼を発動した。
観察眼は目に映る対象であれば、魔法結続を通じて魔物のステータスを表示する。
俺が観察眼を使うのは日中が多くなるが、観察眼はこういった視覚に入らない夜にも使える。

「……いた」


ドロウスバット
LV.28
ATK.24
DEF.17


俺の目には、遠くに表示されるドロウスバットのステータスを複数捉えていた。
本来なら魔法結続をした目が認識した対象の魔物のステータスを表示するが、対象が視覚にいない場合は観察眼が自動で探索する。
その範囲は30メートルと限りはあるが、たった魔力1の消費と考えると非常に優秀。

観察眼を開発した過去の偉大な研究者に本当に感謝したい。

俺の視覚には何も見当たらないが、観察眼が先程から上空を飛行するドロウスバットを捉えている。

俺は素早く樹を駆け上がって行き、鞘に収めるアスティオンを抜く。

刹那、気付いたドロウスバットの群れは怯むこと無く俺に向かって来る。樹の幹を使い、向かって来るドロウスバットの位置を覚える。

獰猛な魔物だ。ギィギィギィと不快な音で俺を威嚇して、ぎらりと光る牙を向ける。

だが、俺は瞬時に一閃、二閃、そして三閃……

次々にドロウスバットを斬り落とす。まだ、特性が使えるアステイオンの前に、防御力たったの7前後の魔物が耐えられるわけがない。

そして、幹の上を移動しながら合計13匹のドロウスバットを討伐した。

「後、7」

今回のギルド案件は、ドロウスバットの討伐数20以上が必要。その為、後7匹の討伐が必要だが、騒ぎから逃げたのか、辺りには一匹たりともいない。

ドロウスバットの討伐はさほど大変なものではない。
それでも、今回の討伐案件が勇者ランク4以上を求めていたのは、ドロウスバットが飛行タイプの魔物だと言う理由と、遭遇率を考えてのことだろう。

そしてもう一つの理由こそ、勇者ランク4以上としたこと。

「まずいな、噂じゃなかったのか……」

幹の上の樹の影に身を隠す。


スカルエンペラー
LV.86
ATK.128
DEF.95


俺の観察眼は、地獄からの使いと言われているスカルエンペラーを捉えていた。
レベル86。
勇者ランクを4以上とされていたのは、別の魔物に遭遇する可能性があるからだ。
今回の魔物は高レベル過ぎる。
レベル50越えの魔物ならまだしも、本来ならばこの区域ではまず現れない魔物。黒龍の巣の崩壊。やはり、それによる影響だろうか?

暗闇でも分かる程の邪悪な吐息を吐き、パキパキと辺り一面を凍らせながら移動する。

俺が勝てる魔物ではない。初めてお目にかかる魔物だが、憎悪の感情が今までの魔物の比じゃない。
たとえ視線を合わせなくとも、全身が震え出すほどの恐怖を感じる。

「どうしようか……」

この場からの離脱は山々したいが、スカルエンペラーの速さが分からない。

観察眼の欠点を挙げるとすれば、勇者、一般的な人物にあるステータスに加えて、魔物の俊敏さは確認することが出来ない。
その為、自分が勝てない相手だと総合的に判断すれば観察眼で得た情報を元に離脱出来る時はする。

だが、それが出来ない場合もある。残念のことに今がその時だ。
俺はこの危機的状況から離脱する方法を思案する。

「っ!」

気づき、スカルエンペラーが放つ冷気が幹の近くまで来ていた。
パキパキと凍っていく樹は悲鳴をあげるように軋み出す。
そして、無情にも俺の居場所はスカルエンペラーに気付かれてしまい、振り下ろす極骨の腕と呼応するように凍結は加速していく。

俺はそれを合図にするように、出せる限りの速度でその場から離脱した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日
ファンタジー
*注意書あり 女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。 死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。 が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。 食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。 美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって…… 何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記——— *別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...