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第14話 勇者の受難
しおりを挟むギルドの案件を引き受け、ドロウスバットの討伐に向かっていた。
持つ武器はアスティオン、魔物との戦闘時、使い手である俺の攻撃力50%を加算する。
その他、リュックの中にはギルドから貰った毒消し草を含めて体力、魔力が回復出来るそれぞれのポーション、体力、魔力共に回復出来るエリクサーを積む。
ブルッフラを出て北西の方角にある森を目指し歩みを進める。
「夜の討伐は久しぶりだな」
普段の俺は日中での活動が多く、それに伴い討伐する魔物も限られる。
動物によって日中や夜に活動するのが異なるように、魔物にも活動時間帯がある。
俺が今目指して歩いているのはブルッフラより北西に位置するサギニの森。
その森の奥何処かにある洞窟の中にドラウスバットは生息しているが、今は狩りの時間。
恐らく人里に現れている頃だろうが、ドロウスバットは小動物なども主食とする。
人々には、彼等を守る国の兵団が在中していることを考えると、森の小動物が狙われる。
空を見上げていると、喧騒とは無縁の夜空の星々の光が見える。
その遥か下地上では、休むことなく魔物達は荒れ狂い今も何処かで人が死ぬ。
夜空の星々の光は、地上の人々が魔物に負けないようにとエールを送っているのかもしれない。
そうして、茂みの深いサギニの森に入って行く。肌寒く、目に見えないところにいる何かの騒ついている声が聞こえる。
「ランク10か。後、431」
そう呟いたのは、魔王の城までに必要とされる勇者のランク。
魔王の城にはレベル100を超える魔物との対峙は避けられない。
それまでに、勇者ランクを10にはしておく必要がある。あくまで、目安ではあるが、魔王の城に生息する高レベルの魔物を相手にするには勇者ランク10は必要だろうという目算。
俺の今の魔物総討伐数は569。よって残り431に加えて区切りの数字の魔物を討伐しなければならない。
区切りとは、30から39、40から49と言ったレベルの魔物。
例えば、俺の勇者ランク5を6に上げるとすれば、魔物総討伐数600を超えて、尚且つ、レベル60から69の魔物を討伐する。
そして、条件を満たした黒の紙をギルドに提示することで、俺の勇者ランクは晴れて6となる。
だが、これは一般的なやり方。中には、数ランク飛ばした上げ方もある。
また俺を例に挙げると、仮にレベル60未満の魔物総討伐数が700以上だとしよう。
その後、本来は60から69のレベルの魔物を討伐すればランク6となるが、これを70から79のレベルの魔物を討伐すれば一気に7ランクまで上がることになる。
ただ、このやり方は実力が伴わなければ成立しない。
極端な話、レベル10未満の魔物を1000討伐しようとレベル100以上の魔物は討伐出来ない。
各ステータスの上昇は、討伐した魔物の数も関係しているが、その殆どは討伐した魔物のレベル。
とどのつまり、自分より強い、もしくは近い強さの魔物を討伐していけばステータスの上昇は起きる。
勇者に設けられているランクはあくまで飾りに過ぎないが、それはギルド案件を引き受けた際に必要となる。
他には、今回俺がアリス王女から任務を与えられたように、王国が見る基準の一つとなる。
その為、段階段階を踏んで勇者ランクは上げていく。
勿論、勇者ランクの上げ方は個人の自由。だが、低ランクの勇者が突如高ランクになったのならば、何者なんだと注目は集まるだろう。
今回討伐するドロウスバットではステータスの上昇は起こらない。
だが、アスティオンの特性の解除方法も気になる。情報屋アンナの言ったことが本当なら、早々に確かめる必要がある。
その為に、今回の案件は引き受けたようなものだ。
日の出までは短い。
ドロウスバットを探し討伐していればあっという間に朝になってしまう。
それに、夜のフィールドはなにもドロウスバットだけではない。
それこそ、黒龍の巣が壊されたことが原因で高レベルの魔物と遭遇してしまう可能性は十分考えられる。
俺にそのことを話した2人組の男の勘違いならいいのだが、あながち嘘だとは言い切れない。
国やギルドがそのことを知っているのかは定かではないが、気をつけておく必要がある。
「しかし、薄気味悪い森だな」
妙な悪寒を漂わさせて、変形してしまった一部の樹が生き物さながら異様な不気味さを醸し出す。
ただ、突っ立っているだけで何もして来ない樹ならまだしも、高レベルの魔物との遭遇は避けたい。
勇者ランク5の俺の実力から客観的に見ても、せいぜい60代後半レベルの魔物の討伐がやっと。
最短ルートでドロウスバットの元まで行きたいが、そういうわけにはいかない。
特殊な探知スキルがあるなら話は別だが、俺の場合歩いて探すしかない。
暗闇にもようやく目も慣れて、魔物がいそうな場所を歩いて行く。
ドロウスバットは一匹いれば大抵その周辺にいる。
耳を傾けて音を聞く。
だが、こういう時に限って魔物の気配は感じられない。
「いないな」
ドロウスバットの知能は低い。しかしながら、幾度無く勇者に退治されれば、危機回避能力が身に付くのだろう。
そうして、暫くの間サギニの森を散策する。ドロウスバットはいてもおかしくはないが、魔物一匹すら現れない。
「見てみるか」
俺は魔力1を消費して観察眼を発動した。
観察眼は目に映る対象であれば、魔法結続を通じて魔物のステータスを表示する。
俺が観察眼を使うのは日中が多くなるが、観察眼はこういった視覚に入らない夜にも使える。
「……いた」
ドロウスバット
LV.28
ATK.24
DEF.17
俺の目には、遠くに表示されるドロウスバットのステータスを複数捉えていた。
本来なら魔法結続をした目が認識した対象の魔物のステータスを表示するが、対象が視覚にいない場合は観察眼が自動で探索する。
その範囲は30メートルと限りはあるが、たった魔力1の消費と考えると非常に優秀。
観察眼を開発した過去の偉大な研究者に本当に感謝したい。
俺の視覚には何も見当たらないが、観察眼が先程から上空を飛行するドロウスバットを捉えている。
俺は素早く樹を駆け上がって行き、鞘に収めるアスティオンを抜く。
刹那、気付いたドロウスバットの群れは怯むこと無く俺に向かって来る。樹の幹を使い、向かって来るドロウスバットの位置を覚える。
獰猛な魔物だ。ギィギィギィと不快な音で俺を威嚇して、ぎらりと光る牙を向ける。
だが、俺は瞬時に一閃、二閃、そして三閃……
次々にドロウスバットを斬り落とす。まだ、特性が使えるアステイオンの前に、防御力たったの7前後の魔物が耐えられるわけがない。
そして、幹の上を移動しながら合計13匹のドロウスバットを討伐した。
「後、7」
今回のギルド案件は、ドロウスバットの討伐数20以上が必要。その為、後7匹の討伐が必要だが、騒ぎから逃げたのか、辺りには一匹たりともいない。
ドロウスバットの討伐はさほど大変なものではない。
それでも、今回の討伐案件が勇者ランク4以上を求めていたのは、ドロウスバットが飛行タイプの魔物だと言う理由と、遭遇率を考えてのことだろう。
そしてもう一つの理由こそ、勇者ランク4以上としたこと。
「まずいな、噂じゃなかったのか……」
幹の上の樹の影に身を隠す。
スカルエンペラー
LV.86
ATK.128
DEF.95
俺の観察眼は、地獄からの使いと言われているスカルエンペラーを捉えていた。
レベル86。
勇者ランクを4以上とされていたのは、別の魔物に遭遇する可能性があるからだ。
今回の魔物は高レベル過ぎる。
レベル50越えの魔物ならまだしも、本来ならばこの区域ではまず現れない魔物。黒龍の巣の崩壊。やはり、それによる影響だろうか?
暗闇でも分かる程の邪悪な吐息を吐き、パキパキと辺り一面を凍らせながら移動する。
俺が勝てる魔物ではない。初めてお目にかかる魔物だが、憎悪の感情が今までの魔物の比じゃない。
たとえ視線を合わせなくとも、全身が震え出すほどの恐怖を感じる。
「どうしようか……」
この場からの離脱は山々したいが、スカルエンペラーの速さが分からない。
観察眼の欠点を挙げるとすれば、勇者、一般的な人物にあるステータスに加えて、魔物の俊敏さは確認することが出来ない。
その為、自分が勝てない相手だと総合的に判断すれば観察眼で得た情報を元に離脱出来る時はする。
だが、それが出来ない場合もある。残念のことに今がその時だ。
俺はこの危機的状況から離脱する方法を思案する。
「っ!」
気づき、スカルエンペラーが放つ冷気が幹の近くまで来ていた。
パキパキと凍っていく樹は悲鳴をあげるように軋み出す。
そして、無情にも俺の居場所はスカルエンペラーに気付かれてしまい、振り下ろす極骨の腕と呼応するように凍結は加速していく。
俺はそれを合図にするように、出せる限りの速度でその場から離脱した。
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