百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第5話 運命

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「私達、シーラ王国は何としても魔王の城に眠る秘宝が欲しい。その為ならこの身、あなたに委ねても構いません」

アリス王女はどういうつもりなのか?
抱きつかれたからと言って、俺が魔王の城に行くとでも思っているのか?

悪いな、アリス王女。
俺はそこまでのお人好しじゃない。

俺は即座にスキル回り抜けを発動した。

「ああっ!」

アリス王女は一瞬でいなくなった俺のいた空間に倒れ込んだ。

王女と肉体関係を持つなど以ての外。
もし、それが現実になってしまえば俺は一生シ-ラ王国から追われることになる。
そんなリスクを犯してまで俺が感情的になって動くわけがない。

無論、俺も1人の男。
目の前のアリス王女に魅力を感じないわけではない。ましてや、アリス王女ほどの絶世の美少女は中々お目にかかれない。
それでも、俺が何とか正気、冷静さを保っているのは、未だに見せない何か隠しているものがアリス王女の心の奥底に感じるからだ。

「歴代勇者と同じ称号なんて必要ないが、金貨10000枚は捨てがたい。……だが、命は別だ。魔王の城に行くなんて、わざわざ命を捨てに行くようなもの。俺のスキルを利用したいのは理解出来たが、そもそもその秘宝は解錠で開く可能性があるのか? いや、鍵穴を成したものなのか?」

俺の一番の疑問はここにあった。
魔物の高レベルという障害の他に、そもそも、魔王の城に眠る秘宝が鍵という概念がない可能性が極めて高い。
俺の持つ解錠スキルは鍵を必要とするものであれば、何の問題もなく開くことが出来るわけだが、人類と相反する魔王が、わざわざ開く可能性があるものに秘宝など入れるだろうか。

アリス王女は乱れた服を整えて俺のいる方向へと座り直す。

「確証はありません。ですが私の確かな情報筋によると、魔王は独自の管理システムを用いて城を管理していると言われています。確かに、あなたの解錠で魔王の城に眠る秘宝が開くとは断言出来ませんが、可能性を模索するのは至極当然なこと」

「よくそれで頼めたものだな」

「仰るとおりです。--しかしですね、私達シ-ラ王国が追随した結果、数多あるスキルの中でも、唯一、あなただけが持つスキルが最後の頼みの綱なのです」

アリス王女は立ち上がり、歩み寄って来る。そして、また、両手で俺の手を握りしめる。
アリス王女は訴えかけるような瞳で俺の目を見つめている。

「今回、あなたを捕らてしまったことに関しては深く謝罪します。ですがこれも運命。こうして、手違いであなたを捕らえることが無かったら、魔王の城に眠る秘宝はまた手の届かないところにあってしまうだけです」

目を外さす真っ直ぐに俺の目を見つめるアリス王女。
一体、魔王の城に眠る秘宝はどれほどのお宝なのか。少しばかり興味が湧いてきたことは確かだが、やはり命は別だ。

「……もし、断ったら?」

アリス王女の表情が僅かだが動く。

俺の持つスキルが最後の頼みの綱だと言うアリス王女。
俺も勇者の端くれではある。だから、魔王の城に行った勇者の話は度々噂程度には耳にはする。
しかし、彼等が生きて帰って来た話は一度も聞いたことがない。

「断る? ……そうですか。これだけは避けたかったのですが、あなたを本当に捕らえるしかありません」

アリス王女が指を弾い直後、いきなり現れたように槍を持った数人が俺を囲う。
槍の切っ先が全て俺に向けられて、少しでも動けば刺さる状態。

「……これは、どういうことだ?」

「あら、以外にも冷静なのですね。流石です、経験豊富な勇者様は違います」

俺の額から嫌な汗が流れる。向けらる槍の切っ先や覆う布で顔が見えない彼等に対してではない。
何か、言葉では言い表せない畏怖を感じさせるアリス王女に対してだ。

アリス王女は先程までの表情とは違い、腕を組み冷徹な表情を突きつけて来る。

「あなたには、勇者として相応な実績があるとお見受けします。……しかし、バールガン一家の件、身に覚えがないとは言えないでしょう?」

淡々と述べるアリス王女。そして、その口から出た言葉に俺の記憶が蘇る。

ーーバールガン一家。
彼等はとある街に居た時、関わった連中だ。盗賊団、それが彼等バールガン一家の正体。
いや、盗賊団というよりもはや魔物のようだった。魔物のように罪なき人々を襲い、命、金銭を奪う。
俺は、昔いたそのとある街で小さな正義感からバールガン一家が奪った金銭を奪い街の人々に返してやっただけ。失われた命は無理だが、形ある金銭であれば取り返してやれる。そう思っての行動だった。
魔物の被害が一つ出るだけでも人々の生活が危ぶまれる昨今、バールガン一家の行動は到底理解出来なかった。
たとえ偽善だとしても、お世話になった街の住人の為にとった行動だった。

昔のことだったが、まさか、アリス王女がそれを知っているとは。
いや、当然と言えば当然の話。
シーラ王国には様々な情報が各方面から集まる。
だが、まさかシーラ王国から遥かに遠く離れた、それも小さな街の一件。これは、俺の失態だ。

「その様子ならご存知なようですね。窃盗は窃盗。法に基づき、あなたを窃盗の罪で捕らえます」

今、アリス王女を含め、俺を囲う数人の者。
そして、扉の向こうには先程戦った2人の他にもう2人いる。悔しいが、俺がこの場から離脱出来る可能性は限りなくゼロに近い。

そしてもう一つ。アリス王女が頼む事を完全拒否すれば、どうなるか考えられたものではない。

「……分かった」

「分かった? 何をです?」

アリス王女は分かりきった事を聞いて来る。まるで、次に言う言葉を誘導されているかのようだ。しかし、それ以外に今は道はない。

俺の力不足。
勇者でありながら、力の前に屈するというのは精神的ダメージが大きい。

シーラ王国三代目王女、アリス=ヴァイスハイト。
その美声、大衆を惹きつけるカリスマ性を持ち合わせ、かつ容姿端麗の美少女。見る者を虜にさせて、シーラ王国を先に導く者。
しかし真に見るは、まだ見え無い畏怖の根源と、感じる絶対的自信。
シーラ王国の情報網を駆使して、魔王の城に眠る秘宝を盗むことが出来る可能性のスキル保有者を追っていたと仮定するとしても、こうして俺がアリス王女と出逢ってしまったのは、彼女が持つ天性の運なのかもしれない。

「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」

「まあ! 本当ですか!? 嬉しい!!」

白々しく、アリス王女はそう言った。満面の笑みを浮かべて本当に喜んでいるようだ。これから、俺がどんな目に遭うのかも知らずに。

ただの勘違いで捕まった末、まさか魔王の城に行く羽目になるとは。
これは、アリス王女の言う通り運命なのか、それともただの偶然か。

槍を持つ数人が下がって行く中、俺は今後降りかかるであろう前途多難な道に力が抜けた。
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