上 下
15 / 24

俺とダンスを①

しおりを挟む
「シュレイバー侯爵の呪いは解けました。デリク様とミシェル様の呪いも消えているか確認しましょう」

 デイヴィッドの気持ちが少し落ち着いた頃、リリアは声をかけた。彼は鼻をすすり頷く。

「ブレイン嬢ありがとう。孫たちをよろしく頼むよ」

 可視化の魔法陣の中央に立ったデリクとミシェルをデイヴィッドとウィルバートが不安げに見守る。リリアが手を伸ばしてデリクたちの足元から頭のてっぺんまで呪いの確認をしてみたが、黒い煙は現れなかった。

「お二人の呪いも解けています。良かったですね」

 デリクとデイヴィッドはホッと一息ついた。笑顔を取り戻したミシェルとウィルバートは手を取り合って喜びを爆発させている。

「ありがとうリリア」

「いいえ」――デリクにそう答えようとしたリリアに、ミシェルが飛びつくように抱きついた。

「リリア様! ありがとうございました!!」
「ミシェル様、これからは嫌ってほど男性からアプローチされますよ」
「まあ、それは大変そう」
 無邪気に笑い合うリリアとミシェルにウィルバートは狼狽る。デリクはそんな彼らを眺めて柔らかく微笑んだ。



 ◇◇◇

 オリビアの墓地でウィルバートと別れたリリアたち。彼らがシュレイバー家のタウンハウスに帰ると、デイヴィッドの娘――デリクたちの叔母ジェナが待っていた。呪いの元凶であるデイヴィッドの顔を見るなり「お父様! 説明してください!」と鬼の形相で問いただす。

「わしのせいですまなかった」
 肩身を狭くして謝る父親を見ても、やはり簡単には許せるわけがない。ジェナは涙を滲ませそっぽを向いた。

 その後、デリクたちの父とジェナ、二人の呪いを確認すると無事に呪いが解けていることを確認できた。これで今回の依頼は無事解決と言っていいだろう。

「ブレイン嬢、ありがとう。改めてお礼をさせてちょうだい」
 深く頭を下げるデリクの母に、リリアは少し驚いてしまった。

「い、いいえ、そんな。お支払いくださった分だけで十分です」
「ダメですリリア様! しっかりとお礼をさせてください」
 ミシェルは、焦って断るリリアの腕に自分の両腕をグッと絡めた。

「ミシェル様……」
「それに、わたくしたちお友達になったんですからお茶会もしましょうよ」
「それなら」
 ミシェルの可愛さに負けてリリアはこくっと頷いた。

「リリア、疲れただろう? 早く帰って休んだ方がいい。俺が送っていくよ」
「え? デリク様が?」
「お兄様ずるい! 私も……」

 デイヴィッドは、同行しようとするミシェルの手を掴んで静止した。

「デリクに任せなさい」

 真剣な祖父の顔にミシェルの眉尻が下がる。
「わたくしも……。うーん、分かりました。お兄様! リリア様を無事に送り届けてくださいね」

 デリクはデイヴィッドに頭を下げ、ぷうと頬を膨らませたミシェルに「任せろ」と一言告げて笑顔を見せた。



 ◇◇◇

 疲れたリリアを気遣ってか、タウンハウスから魔術店に到着するまでデリクはリリアに話しかけなかった。
 魔力を大量に使って疲れたリリアは馬車に揺られながらうとうとと浅い眠りにつき、たまに彼女の頭がガクッと揺れるのをデリクは愛おしそうに眺めていた。


「ニールさん、戻りました。今回も店番ありがとうございました。デリク様も送ってくださってありがとうございました」
「おかえりなさいませ、リリアお嬢様。あれ、デリク様も」
「なあ、リリア。少しでいいんだ、店を閉じてもらえないかな……」
「いいですけど……」

 やや下を向いたデリクは、お腹の前で手を組んで親指の先を擦り合わせている。

「わ、わたくし外でお待ちしております。リリアお嬢様、あとで今日のご報告をいたします」
 ニールは一礼すると、瞬間移動? と疑ってしまうほど素早く店を出ていった。リリアは『CLOSE』と書かれた看板を出して扉の鍵を閉めた。

「デリク様、紅茶を召し上がりますか?」
「いや、お構いなく」

 デリクが話しだすのをじっと待ち続けるが、なかなか口を開こうとしない。結局デリクは、
「ごめん、なんでもない。ニールを呼んでくるよ」
 そう告げてリリアに背を向けた。

 このままデリクが行ってしまったら、もう二度と二人きりで話をすることはないだろう。そんな考えがリリアを酷く動揺させた。気付いた時にはデリクを呼び止めていた。

「デ、デリク様! 二日後、クドカロフ公爵邸で行われる夜会に行かれますよね? 実は私も参加するんです」
「えっ!? エスコートはどこの令息が!?」

「違います違います。シャーロット様の護衛を任されました」
「シャーロットの護衛を?」

 軽く流されて終わるかと思いきや、デリクは勢いよく振り返りリリアに詰め寄った。その反応に護衛を引き受けてはダメだったかと冷や汗をかく。

「ですから、二日後またお会いできますね」

 リリアはデリクに笑ってほしくて、誘うように笑ってみせた。しかし、デリクは真顔のまま焼き付けるようにリリアの笑顔を見入っている。そして顔を伏せてしまった。

「ねえリリア、どうしよう……」
「ど、どうしました?」
「俺……ダンスの仕方を、忘れてしまった……かも」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

処理中です...