伯爵令息は愛を叫びたい〜だが諸事情があって叫べません。なのでこっそり思い出作りを始めます〜

新川はじめ

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元プレイボーイ

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「待ってたぞデリク!!」

 玄関ホールには、到着の知らせを聞いたデイヴィッド・シュレイバー侯爵、デリクの祖父が待ち構えていた。

「お祖父様、ただ今戻りました。こちらの女性は手紙でお伝えしたリリア・ブレイン男爵令嬢です」

「ああ、君か。よく来てくれた」

「ご紹介に与りました。魔術師をしております、リリア・ブレインと申します」
 リリアは少し緊張しながらも美しいカーテシーを披露した。

「お祖父様、さっそく良いですか?」
「さっそくって……。デリク、今帰ってきたばかりじゃないか。休憩したらどうだ? お菓子もたくさん準備してあるぞ」

「お菓子で喜ぶのはミシェルです」
「相変わらずつれないなぁ」

 デイヴィッドは久しぶりに会った孫と触れ合いたいのか頬を膨らませて「わし寂しかったんだけど……」ともにょもにょ文句を呟いている。

「今度はミシェルも連れてきますから、今日は早めにお願いします」
「そこまで言うなら仕方ないのぉ……場所を変えるか」

 客室へ移動すると、デイヴィッドは人払いをした。

「それでは呪いの確認をします。可視化ビジュアライズ

 リリアが手を伸ばすと、魔法陣がデイヴィッドの足元に浮かび上がった。ゆっくり下から上へ腕を持ち上げていく。胸の高さまで上がった時、彼の体から黒い煙が巻き上がった。足元に展開された魔法陣とは別の魔法陣が胸元にハッキリと見えている。

「なんじゃこれは……」
「出ましたね、呪いの魔法陣」
「でもリリア、この魔法陣……半分しかない」

 デリクの言うとおり、この魔法陣は右半分しかない。左半分はどこにいってしまったのだろうか。

「これは面倒臭い呪いですね」
「わしにも分かるように説明してくれ」

「魔法陣の内容は予想していたとおり異性運が悪くなるものですね。そして魔法陣の片割れは呪いをかけた人物が所有していると思われます。二つが合わさって一つの魔法陣にならないと呪いは解けません。心当たりのあるご婦人を伺っても宜しいですか?」

「えーっとだなぁ……。わし、こう見えても昔はプレイボーイだったもので……」

「ではお祖父様。もつれにもつれ俺たちが引くぐらいの修羅場になったお相手を思い出してください」
 デリクの冷たい視線を受けて、デイヴィッドは覚えている中から三人の女性を挙げた。

 一人目は舞台女優。
 二人目は友人の妹。
 三人目はとある男爵令嬢。

「一人ずつご説明を」
 侯爵の年齢は六十代後半。この歳になってまさか孫に黒歴史を聞かすことになるとは思いもしなかっただろう。

「舞台女優だった彼女にはボコボコにされて全治三週間のケガを負わされたな。あの時の右ストレート凄かった」

「……じゃあ次は?」
「身包み剥がされて真冬の山林に捨てられたことじゃろうか。従者のシュバルツが見つけてくれなかったら、わし死んでたかもしれん」

「…………」

「デリクぅ、わしをそんな目で見ないでおくれ」

 デリクは「はあ……」と深い溜息をついて三人目の男爵令嬢について尋ねた。

「この男爵令嬢には半殺しにでもされましたか?」

「いや、この子はわしに何もしとらんよ。わしが深く傷付けたんだ。この子はマリナと結婚前に付き合っていた子でな、彼女とは本気で結婚を考えていたんだ」

 ちょうどその頃起きた地震で侯爵家が所有する陶磁器工房が壊れ、ギャンブル狂だったデイヴィッドの父親が作った借金も重なり侯爵家の財政が傾いた。当然男爵令嬢との結婚は却下され、援助を受ける代わりにデイヴィッドは同じ家格の侯爵令嬢マリナと結婚することが決まったのだった。

「――駆け落ちの約束まで交わしたが、あの日わしは行かなかった。それ以降彼女を見たことはないし、その後どうなったのかも分からない。親の決めた結婚……わしに拒否権などない。どうすることもできなかったんじゃ」

 デリクはデイヴィッドの気持ちが分かるのか、それ以上責め立てることはしなかった。

「他の女性たちとは後腐れなく別れてる……と思う。信じてくれ」
「分かりました。リリア、どう思う?」

「私は三番目の男爵令嬢が気になります。先にお話しになった二人の女性たちはそれなりにケリをつけたように思えますから」

 デイヴィッドにかけられた呪いは二つに分かれた魔法陣を一つに合わせなければ解くことができない。それは呪いをかけた者と会わなくてはならないということだ。相当な未練を感じる。

 孫の代まで呪いが引き継がれていることからも、デイヴィッド本人だけでなく彼らの結婚を邪魔したシュレイバーという侯爵家自体に復讐したかったのではないだろうか。

(まぁ、全部推測だけど……)

「男爵令嬢について調べよう。お祖父様、その方の名前は?」

「オリビア……オリビア・カスティルじゃ」
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