伯爵令息は愛を叫びたい〜だが諸事情があって叫べません。なのでこっそり思い出作りを始めます〜

新川はじめ

文字の大きさ
上 下
13 / 24

元プレイボーイ

しおりを挟む
「待ってたぞデリク!!」

 玄関ホールには、到着の知らせを聞いたデイヴィッド・シュレイバー侯爵、デリクの祖父が待ち構えていた。

「お祖父様、ただ今戻りました。こちらの女性は手紙でお伝えしたリリア・ブレイン男爵令嬢です」

「ああ、君か。よく来てくれた」

「ご紹介に与りました。魔術師をしております、リリア・ブレインと申します」
 リリアは少し緊張しながらも美しいカーテシーを披露した。

「お祖父様、さっそく良いですか?」
「さっそくって……。デリク、今帰ってきたばかりじゃないか。休憩したらどうだ? お菓子もたくさん準備してあるぞ」

「お菓子で喜ぶのはミシェルです」
「相変わらずつれないなぁ」

 デイヴィッドは久しぶりに会った孫と触れ合いたいのか頬を膨らませて「わし寂しかったんだけど……」ともにょもにょ文句を呟いている。

「今度はミシェルも連れてきますから、今日は早めにお願いします」
「そこまで言うなら仕方ないのぉ……場所を変えるか」

 客室へ移動すると、デイヴィッドは人払いをした。

「それでは呪いの確認をします。可視化ビジュアライズ

 リリアが手を伸ばすと、魔法陣がデイヴィッドの足元に浮かび上がった。ゆっくり下から上へ腕を持ち上げていく。胸の高さまで上がった時、彼の体から黒い煙が巻き上がった。足元に展開された魔法陣とは別の魔法陣が胸元にハッキリと見えている。

「なんじゃこれは……」
「出ましたね、呪いの魔法陣」
「でもリリア、この魔法陣……半分しかない」

 デリクの言うとおり、この魔法陣は右半分しかない。左半分はどこにいってしまったのだろうか。

「これは面倒臭い呪いですね」
「わしにも分かるように説明してくれ」

「魔法陣の内容は予想していたとおり異性運が悪くなるものですね。そして魔法陣の片割れは呪いをかけた人物が所有していると思われます。二つが合わさって一つの魔法陣にならないと呪いは解けません。心当たりのあるご婦人を伺っても宜しいですか?」

「えーっとだなぁ……。わし、こう見えても昔はプレイボーイだったもので……」

「ではお祖父様。もつれにもつれ俺たちが引くぐらいの修羅場になったお相手を思い出してください」
 デリクの冷たい視線を受けて、デイヴィッドは覚えている中から三人の女性を挙げた。

 一人目は舞台女優。
 二人目は友人の妹。
 三人目はとある男爵令嬢。

「一人ずつご説明を」
 侯爵の年齢は六十代後半。この歳になってまさか孫に黒歴史を聞かすことになるとは思いもしなかっただろう。

「舞台女優だった彼女にはボコボコにされて全治三週間のケガを負わされたな。あの時の右ストレート凄かった」

「……じゃあ次は?」
「身包み剥がされて真冬の山林に捨てられたことじゃろうか。従者のシュバルツが見つけてくれなかったら、わし死んでたかもしれん」

「…………」

「デリクぅ、わしをそんな目で見ないでおくれ」

 デリクは「はあ……」と深い溜息をついて三人目の男爵令嬢について尋ねた。

「この男爵令嬢には半殺しにでもされましたか?」

「いや、この子はわしに何もしとらんよ。わしが深く傷付けたんだ。この子はマリナと結婚前に付き合っていた子でな、彼女とは本気で結婚を考えていたんだ」

 ちょうどその頃起きた地震で侯爵家が所有する陶磁器工房が壊れ、ギャンブル狂だったデイヴィッドの父親が作った借金も重なり侯爵家の財政が傾いた。当然男爵令嬢との結婚は却下され、援助を受ける代わりにデイヴィッドは同じ家格の侯爵令嬢マリナと結婚することが決まったのだった。

「――駆け落ちの約束まで交わしたが、あの日わしは行かなかった。それ以降彼女を見たことはないし、その後どうなったのかも分からない。親の決めた結婚……わしに拒否権などない。どうすることもできなかったんじゃ」

 デリクはデイヴィッドの気持ちが分かるのか、それ以上責め立てることはしなかった。

「他の女性たちとは後腐れなく別れてる……と思う。信じてくれ」
「分かりました。リリア、どう思う?」

「私は三番目の男爵令嬢が気になります。先にお話しになった二人の女性たちはそれなりにケリをつけたように思えますから」

 デイヴィッドにかけられた呪いは二つに分かれた魔法陣を一つに合わせなければ解くことができない。それは呪いをかけた者と会わなくてはならないということだ。相当な未練を感じる。

 孫の代まで呪いが引き継がれていることからも、デイヴィッド本人だけでなく彼らの結婚を邪魔したシュレイバーという侯爵家自体に復讐したかったのではないだろうか。

(まぁ、全部推測だけど……)

「男爵令嬢について調べよう。お祖父様、その方の名前は?」

「オリビア……オリビア・カスティルじゃ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...