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真打登場!金髪縦ロール親子
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「ただいま」
魔術店に帰ってきたリリアは呟いた。もちろん「おかえり」という言葉は返ってこない。リリアは久しぶりに家族に会いたくなった。
――チリンチリン。
ドアベルが来客を知らせる。
「いらっしゃいませ」
ローブを身に付けたままリリアが振り返ると、そこにはキツく巻かれた金髪縦ロール、碧眼の厚化粧のご婦人が立っていた。その後ろにいるのは彼女の侍女、そして夫人と生写しのご令嬢――見間違うわけないデリクの婚約者シャーロット・クドカロフ公爵令嬢だ。
カツカツとヒールの音を鳴らし、クドカロフ公爵夫人はリリアの目の前で立ち止まった。彼女が放つ威圧感に押され思わずたじろいでしまう。しかし、リリアに後ろめたいことはない。背筋を伸ばして真っ直ぐ公爵夫人の目を見た。
「度胸はあるのね。あなた、今日はどちらに出掛けていたのかしら」
背の高い夫人は、虫けらを見るような目でリリアのことを見下ろしている。
「守秘義務があるので、お話しできません」
「ふふふふ……」
公爵夫人の笑い方は明らかにリリアを馬鹿にしている。そして続け様に、
「私はね、『教えてほしい』とお願いしているわけじゃないの。『話せ』と命令しているのよ。自分の立場をわきまえなさい。……メイベル」
「はい」
「メイベル」と呼ばれた中年の侍女はリリアに招待状を手渡した。
「二週間後、公爵邸で夜会を開くの」
「私は――」
「あらやだ、勘違いしないでちょうだい。これはあなたへの招待状ではないのよ」
「……」
「あなた魔術師でしょ? 夜会の間、シャーロットの護衛をしてほしいの」
(シャーロット様の護衛を? おかしな話だ、だって……)
「公爵家には専属の騎士団が――」
「もちろん騎士団には警備をさせますよ。でもね、シャーロットの護衛はあなたに任せたいの」
先ほどの話からすると、これはお願いではなく命令。要するに「護衛をしてほしい」というのは、「護衛をしろ」という意味だ。
リリアがドアの前から動かないシャーロットに視線を向ければ、不機嫌そうに腕を組む彼女はパッと目を逸らした。
「そうそう、シュレイバー伯爵家のご令息がシャーロットの婚約者であることは当然ご存知よね? 娘が素敵な時間を過ごせるように、彼女からひと時も目を離さずに護衛をしてくれるかしら」
(そういうことか……)
公爵夫人は、デリクがこの店に来ていることも今日リリアが彼のタウンハウスへ行ったこともすべて知っているのだろう。
デリクの母は「公爵夫人がデリクを婿にと熱望している」と言っていた。夫人は「デリクに近づくな」と言いたいわけだ。夜会で二人の姿をリリアに見せつけたいのだろう。
しかし、そもそもの発端はシャーロットがリリアの名前を持ち出したからである。
(デリク様と私の間に繋がりが生まれたのはそちらのせいでしょ?)
とリリアは心の中で反発した。
「当日必ず来なさい。こんな店すぐに潰せるし、あなたや家族を消し去ることだってできるのよ。分かったわね」
「…………分かりました」
公爵夫人は小馬鹿にしたように笑うと、シャーロットと侍女のメイベルを引き連れて店を出ていった。
「はぁ……」
リリアはあまりの面倒臭さに大きく溜息をついて唇を尖らせた。
「私とデリク様がどうこうなるわけでもないのに。夫人はシャーロット様がデリク様を蔑ろにして散々傷付けていることをご存知ないのかしら。デリク様はあんな人たちと家族になるの? 最低だわ、ほんと可哀想……」
しかしこれが現実。リリアがデリクのためにできることは何一つない。
(……とりあえず考えられる呪いについて調べよう。出掛けることが増えそうだから、魔法陣の描き溜めもしとかなきゃ。それから借りてきた魔導書を読んで、依頼された魔法陣の試作品の続きをしよう!!)
「よしっ!!」
リリアは髪を括ると、腕まくりをしながら作業台に向かった。時々デリクのことを思い出して彼が座っていた奥のテーブル席を見たりもしたけれど、一心不乱に作業を続けた。
魔術店に帰ってきたリリアは呟いた。もちろん「おかえり」という言葉は返ってこない。リリアは久しぶりに家族に会いたくなった。
――チリンチリン。
ドアベルが来客を知らせる。
「いらっしゃいませ」
ローブを身に付けたままリリアが振り返ると、そこにはキツく巻かれた金髪縦ロール、碧眼の厚化粧のご婦人が立っていた。その後ろにいるのは彼女の侍女、そして夫人と生写しのご令嬢――見間違うわけないデリクの婚約者シャーロット・クドカロフ公爵令嬢だ。
カツカツとヒールの音を鳴らし、クドカロフ公爵夫人はリリアの目の前で立ち止まった。彼女が放つ威圧感に押され思わずたじろいでしまう。しかし、リリアに後ろめたいことはない。背筋を伸ばして真っ直ぐ公爵夫人の目を見た。
「度胸はあるのね。あなた、今日はどちらに出掛けていたのかしら」
背の高い夫人は、虫けらを見るような目でリリアのことを見下ろしている。
「守秘義務があるので、お話しできません」
「ふふふふ……」
公爵夫人の笑い方は明らかにリリアを馬鹿にしている。そして続け様に、
「私はね、『教えてほしい』とお願いしているわけじゃないの。『話せ』と命令しているのよ。自分の立場をわきまえなさい。……メイベル」
「はい」
「メイベル」と呼ばれた中年の侍女はリリアに招待状を手渡した。
「二週間後、公爵邸で夜会を開くの」
「私は――」
「あらやだ、勘違いしないでちょうだい。これはあなたへの招待状ではないのよ」
「……」
「あなた魔術師でしょ? 夜会の間、シャーロットの護衛をしてほしいの」
(シャーロット様の護衛を? おかしな話だ、だって……)
「公爵家には専属の騎士団が――」
「もちろん騎士団には警備をさせますよ。でもね、シャーロットの護衛はあなたに任せたいの」
先ほどの話からすると、これはお願いではなく命令。要するに「護衛をしてほしい」というのは、「護衛をしろ」という意味だ。
リリアがドアの前から動かないシャーロットに視線を向ければ、不機嫌そうに腕を組む彼女はパッと目を逸らした。
「そうそう、シュレイバー伯爵家のご令息がシャーロットの婚約者であることは当然ご存知よね? 娘が素敵な時間を過ごせるように、彼女からひと時も目を離さずに護衛をしてくれるかしら」
(そういうことか……)
公爵夫人は、デリクがこの店に来ていることも今日リリアが彼のタウンハウスへ行ったこともすべて知っているのだろう。
デリクの母は「公爵夫人がデリクを婿にと熱望している」と言っていた。夫人は「デリクに近づくな」と言いたいわけだ。夜会で二人の姿をリリアに見せつけたいのだろう。
しかし、そもそもの発端はシャーロットがリリアの名前を持ち出したからである。
(デリク様と私の間に繋がりが生まれたのはそちらのせいでしょ?)
とリリアは心の中で反発した。
「当日必ず来なさい。こんな店すぐに潰せるし、あなたや家族を消し去ることだってできるのよ。分かったわね」
「…………分かりました」
公爵夫人は小馬鹿にしたように笑うと、シャーロットと侍女のメイベルを引き連れて店を出ていった。
「はぁ……」
リリアはあまりの面倒臭さに大きく溜息をついて唇を尖らせた。
「私とデリク様がどうこうなるわけでもないのに。夫人はシャーロット様がデリク様を蔑ろにして散々傷付けていることをご存知ないのかしら。デリク様はあんな人たちと家族になるの? 最低だわ、ほんと可哀想……」
しかしこれが現実。リリアがデリクのためにできることは何一つない。
(……とりあえず考えられる呪いについて調べよう。出掛けることが増えそうだから、魔法陣の描き溜めもしとかなきゃ。それから借りてきた魔導書を読んで、依頼された魔法陣の試作品の続きをしよう!!)
「よしっ!!」
リリアは髪を括ると、腕まくりをしながら作業台に向かった。時々デリクのことを思い出して彼が座っていた奥のテーブル席を見たりもしたけれど、一心不乱に作業を続けた。
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