上 下
11 / 24

真打登場!金髪縦ロール親子

しおりを挟む
「ただいま」

 魔術店に帰ってきたリリアは呟いた。もちろん「おかえり」という言葉は返ってこない。リリアは久しぶりに家族に会いたくなった。

 ――チリンチリン。

 ドアベルが来客を知らせる。

「いらっしゃいませ」

 ローブを身に付けたままリリアが振り返ると、そこにはキツく巻かれた金髪縦ロール、碧眼の厚化粧のご婦人が立っていた。その後ろにいるのは彼女の侍女、そして夫人と生写しのご令嬢――見間違うわけないデリクの婚約者シャーロット・クドカロフ公爵令嬢だ。

 カツカツとヒールの音を鳴らし、クドカロフ公爵夫人はリリアの目の前で立ち止まった。彼女が放つ威圧感に押され思わずたじろいでしまう。しかし、リリアに後ろめたいことはない。背筋を伸ばして真っ直ぐ公爵夫人の目を見た。

「度胸はあるのね。あなた、今日はどちらに出掛けていたのかしら」

 背の高い夫人は、虫けらを見るような目でリリアのことを見下ろしている。

「守秘義務があるので、お話しできません」

「ふふふふ……」
 公爵夫人の笑い方は明らかにリリアを馬鹿にしている。そして続け様に、

「私はね、『教えてほしい』とお願いしているわけじゃないの。『話せ』と命令しているのよ。自分の立場をわきまえなさい。……メイベル」
「はい」

「メイベル」と呼ばれた中年の侍女はリリアに招待状を手渡した。

「二週間後、公爵邸で夜会を開くの」

「私は――」
「あらやだ、勘違いしないでちょうだい。これはあなたへの招待状ではないのよ」
「……」

「あなた魔術師でしょ? 夜会の間、シャーロットの護衛をしてほしいの」

(シャーロット様の護衛を? おかしな話だ、だって……)

「公爵家には専属の騎士団が――」
「もちろん騎士団には警備をさせますよ。でもね、シャーロットの護衛はあなたに任せたいの」

 先ほどの話からすると、これはお願いではなく命令。要するに「護衛をしてほしい」というのは、「護衛をしろ」という意味だ。
 リリアがドアの前から動かないシャーロットに視線を向ければ、不機嫌そうに腕を組む彼女はパッと目を逸らした。

「そうそう、シュレイバー伯爵家のご令息がシャーロットの婚約者であることは当然ご存知よね? 娘が素敵な時間を過ごせるように、彼女からひと時も目を離さずに護衛をしてくれるかしら」

(そういうことか……)

 公爵夫人は、デリクがこの店に来ていることも今日リリアが彼のタウンハウスへ行ったこともすべて知っているのだろう。

 デリクの母は「公爵夫人がデリクを婿にと熱望している」と言っていた。夫人は「デリクに近づくな」と言いたいわけだ。夜会で二人の姿をリリアに見せつけたいのだろう。

 しかし、そもそもの発端はシャーロットがリリアの名前を持ち出したからである。

(デリク様と私の間に繋がりが生まれたのはそちらのせいでしょ?)
 とリリアは心の中で反発した。

「当日必ず来なさい。こんな店すぐに潰せるし、あなたや家族を消し去ることだってできるのよ。分かったわね」
「…………分かりました」

 公爵夫人は小馬鹿にしたように笑うと、シャーロットと侍女のメイベルを引き連れて店を出ていった。

「はぁ……」
 リリアはあまりの面倒臭さに大きく溜息をついて唇を尖らせた。

「私とデリク様がどうこうなるわけでもないのに。夫人はシャーロット様がデリク様を蔑ろにして散々傷付けていることをご存知ないのかしら。デリク様はあんな人たちと家族になるの? 最低だわ、ほんと可哀想……」

 しかしこれが現実。リリアがデリクのためにできることは何一つない。

(……とりあえず考えられる呪いについて調べよう。出掛けることが増えそうだから、魔法陣の描き溜めもしとかなきゃ。それから借りてきた魔導書を読んで、依頼された魔法陣の試作品の続きをしよう!!)

「よしっ!!」
 リリアは髪を括ると、腕まくりをしながら作業台に向かった。時々デリクのことを思い出して彼が座っていた奥のテーブル席を見たりもしたけれど、一心不乱に作業を続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...