不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ

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第二章

31、デート3 黄昏の後にも

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 ぽよぽよズによく似た真っ白なチーズケーキを手土産に、俺たちは西日が差し込む王都のレンガ道をのんびりと歩き始めた。

「夕陽が眩しいな。もうすぐ暗くなる」

 俺はこの時間帯が嫌いだ。黄昏時が過ぎれば夜がやってくる。待ち続ける人にとって、それは「今日はもう待ち人は来ない」という合図なのだ。


「――お花はいかがですか?」

 店先に立つ店主に呼び止められて、つい足を止めてしまった。
 小さな花屋の店先に並べられた色とりどりの花。その中で、売れ残った鉢植えの青いサイネリアがとても寂しそうに見えた。

 切花の中によそ者が一つ。

 王宮での俺みたいだった。ずっと昔……開花寸前で切り落とされたチューリップを思い出す。

「……ご主人すまない」

 俺が断る前にオーティスが返事をしていた。俺はあの日から一度も花を育てていない。離宮の庭園は荒れ果て、長い間草だらけだ。

「行きましょう、フィルさ――」
「ママぁ、見て! あの青いお花綺麗!」
「ああ、サイネリアね。小さくて可愛い花よね」
「あれ欲しい! 買ってよぉ~」

 貴族ではない五歳くらいの女の子が、母親の手を引っ張って駄々を捏ね始めた。見た物全てが欲しくなる年頃だろうか。

「今日はもう無駄遣いできないの、ごめんね」
 小さな子供がねだる姿は可愛いが、それを宥めるのはなかなか体力と根気がいる。

「やだやだ!」
「じゃあ、こっちの切花は? 一本なら買ってあげる」

 さて、女の子の気は変わるだろうか。

「嫌! そっちはいらない! 絶対にこれが良いの!!」

 結構な頑固者だ。でも、この子の言葉が俺の心には深く刺さった。それは多分、売れ残ったサイネリアと自分自身を重ねていたからだろう。

 ぽつんと置かれたサイネリアを指差して「これじゃなきゃ嫌だ」と一歩も引かない姿に益々心が揺さぶられる。本当はここで他人が甘やかすような真似をしてはいけないのだろう。でも俺はその子に話しかけていた。

「この花が好き?」
「――えっ!?」

 突然声をかけられて驚いたのは女の子ではなく母親の方だった。

「驚かせてすみません。この花をこの子にプレゼントしてもいいですか?」
「そ、そんな……とんでもございません」

 必死に遠慮する母親をよそに、女の子は大きな目を輝かせて前に出た。
「お兄ちゃん、あたしこのお花好き! とっても可愛い!」
「こらっ」

「ご婦人、すみません――」
 オーティスが母親に小声で何かを伝えると、彼女は「申し訳ありません、感謝致します」と深く頭を下げた。

「ありがとうお兄ちゃん! 大事に育てるね!」

「やったぁ!!」と飛び跳ねる姿に、母親も負けたと微笑む。この子の教育のためには良くなかったかもしれない。けど、どうか今日だけは大目に見てほしい。

「うん。行こうオーティス」

「ありがとうございました!」

 鉢植えが売れて喜ぶ店主。そして鉢植えを大事そうに抱える女の子と母親に小さく手を振って俺たちは歩きだした。地面に伸びる影は先程より少しばかり長くなっている。空は心が洗われるような鮮やかなオレンジ色から少し深みを増していた。


「…………フィル様。貴方が好きです」


「え? き、急にどうしたんだよ」
「急ではなく、いつも思っていることです」
「うん……そりゃどーも」

 前触れもなく言われると結構恥ずかしいものだ。耳の後ろを人差し指でぽりぽりと掻く。

「そろそろ皆が待つ私たちの家に帰りましょう」

 俺たちの家……。
 なんて心地良い響きだろう。胸が温かくなる。

「うん。手を繋いで帰ろう」
「はい」

 いつもなら寂しくなる黄昏時。でも今の俺には温かな太陽が沈んだ後にもたくさんの楽しみがある。

「オーティス…………多分俺の方が好き」
「それはどうでしょう」

 触れ合う手と手。笑い声が重なり、柔らかな茜色に心まで包まれる。――ついでに。帰宅後、俺たちからのプレゼントにぽよぽよズが大喜びしたのは言うまでもない。
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