黄昏のアセンション ~現代魔術をスピリチュアルが凌駕する~

榊原 涼

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~第1章~

~第32節 召喚の真意~

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 薄暗い洞窟の円形ドーム状の部屋に、奥側にダークスフィアの2人と入口側にアキラ達7人が対峙している。ダークスフィアのカズヤとガントがマリナの持つ愛刀『古代の装置エンシェント・デバイス』を目当てに話しているが、アキラ達は自分の得物を抜きすぐにでも戦える準備をしている。そこでアキラはみんなが動く前に、片手をサッと横にかざしてそれを制し、現世に現れる数々の魔物の出現理由をカズヤへ問う。

「ことを始める前に、ひとつ聞かせてもらおうか。現世側に出現させていた魔物は、こちらの世界から召喚していたものなのか?」

 天井にある岩のつららからに溜まった一滴が、床の水たまりに落ち、ポタリと洞窟内に響き渡る。会話を邪魔されたガントは、片目を大きく見開き、カズヤはムッとして少々不満そうに口を開く。

「そうだな、先の短い者に教えても問題ないか…いいだろう。そうさ、この俺が闇の召喚魔術で現世に招き寄せたのさ。ついでに言えば、この前お前らをこの異世界へ転送する際にも、この俺がこちらの異世界側から、引き寄せるゲートとしての召喚魔術を発動し、ガントが転送させたというわけだ。まぁさすがにミノタウロスあたりを、呼ぶことは出来なかったがな…」

 構えた長杖ロング・スタッフをコツっと地面に立て、アキラはやはりとうなずき、中指で眼鏡を直す。

「大方、別のどこかの次元に飛ばしたかったのだろうが、そこまでの力は無かった、というところか?」

 痛いところを突かれて、カズヤは苦虫を嚙み潰したかように、顔をしかめる。

「あぁ、そうさ、ご名答!ガントの力だけでは不足だったのさ。だから残念ながらこちらからも、扉を開かざるを得なかった、ということさ。まぁもっとも、理由はそれだけではないがな」

 今さっきのしかめた顔から、ゆっくりとカズヤはほくそ笑み、さげすむ表情へと変化させた。

「それだけでは…ない?」

 カズヤの言葉尻を拾い、目を細めてアキラはいぶかしむ。

「おっと、余計なおしゃべりはここまでだ、霧谷。この異世界で哀れにも、朽ち果てるがいい…ガント!」

「おおよ!」

 漆黒のマントをバサッと片手で払い、カズヤはそれをはためかせ、それに呼応するようにガントも力を溜める。ガントは力むと同時に身体が数倍ほど大きくなり、岩のような硬い皮膚のまま、硬い甲羅を背負った、尻尾が蛇である玄武へと変化した。それと同時に洞窟内の空気も小刻みに振動が増し、パラパラと天井から細かい砂が舞い落ちる。

 ―――ズズズズズズ…

「またこの前の!重力波を使おうっていうの?」

 ナツミはこの異世界に転送された時の状況を思い出し、ガントのやろうとすることを予測する。それを聞き、中型盾ミディアムシールドを構えたアギトは、額に冷や汗をにじませて前面に出る。

「おいおい!またどこかへ飛ばそうっていうのかよ?」

 焦るアギトの背中に、アキラはつぶやく。

「さっきの話なら、そうはならないだろうな。ヤツら2人ともここにいる以上、他のどこかへ飛ばすことは、恐らく難しいだろう」

 そしてガントが口をパカッと真上に開け、重力波を同心円状に放出する。すると、そこにいるパーティ全員に通常の数倍はあるかのような重力がのしかかる。それに耐えきれず、ほぼ大半が立膝や地面にへばりつく。最前線にアギトは盾の尖った下側を地面に突き刺し、それにしがみつく。少し後ろのマリナは抜刀した刀を地面に突き刺し、立膝でそれに抗おうとしている。その更に後ろにはアキラが長杖ロング・スタッフを立て、なんとか潰されないように耐えている。

「攻撃は、これだけではないぞ」

 尻尾である蛇をクルクルと振り回し、ガントはそれを前方へ勢いよく伸ばす。それは蛇は蛇でも大きさが大きく、大蛇と言っても過言ではない大きさの紫色をした蛇だ。それは一度激しくアギトの盾にぶつかったあと、それを避けて回り込むように、アギトの右足に噛みついた。

「ぐああああ!」

 それに耐えられず、アギトは立膝をつく。

「その蛇の牙には猛毒があるぞ。どうだ?身動きもままらない状態で、ジワジワとなぶり殺される気分は?」

 低くくぐもった岩を擦ったような声で、ガントは亀の口の口角を上げる。

「先輩っ、解毒を!」

 それを見るな否や、後ろに控えていたカエデは伸縮できる、薙刀なぎなたの切っ先を地面に突き立てながら、強い重力の中必死に、アギトへ近づこうとする。噛みつかれた右足の部分は徐々に紫色に変色しつつあり、毒の進行の早さを物語っている。

「やらせは、しないわ!」

 そこへ、刀の間合いにいたマリナは、渾身の一刀を振るい、アギトに噛みついている蛇の頭を、一刀両断で斬り落とした。次の瞬間、紫蛇の頭は力なくアギトから離れ、ドシリと重い音を立てて地面に落ちた。

「グオォォォ!おのれ!」

 蛇の頭を斬り落とされた、残りの胴体部分をギュルンと急いで引き戻し、ガントは苦悶の表情を浮かべる。そしてアギトの傍らにようやっと到着したカエデは、神聖魔術を発動させる。

「力の根源たるマナよ!光の精霊ルミナスよ、彼の者の毒を消し去りたまえ!『解毒治療キュア・ポイズニング』!」

 カエデの足元に緑色の魔法陣が光り輝き、同じ光がカエデのかざす両手をつたって、アギトの右足を包み込んだ。

「今回は、散々だな…」

「そのまま、じっとしていてください」

 解毒治療の魔術は即効性がなく、継続的に治癒が必要だ。アギトとカエデはしばらく動くことはできない。

「それなら、この僕が!」

 強い重力で安定しない腕をプルプルと振るわせながら、狙いをガントの眼に定め、後衛にいたカケルは弓を射る。しかし、その放たれた矢はガントの手前で、軌道を急激に下へ変え、地面に突き刺さった。

「くそっ!」

 ありとあらゆる物質は、ガントの強い重力から逃れることはできないようだ。追い打ちをかける様に、同じく後衛のセレナも魔術を唱える。

「まだ覚えたてだけど…ここならいいよね。力の根源たるマナよ!火の精霊サラマンダーよ、襲い来る敵を炎球にて焼き尽くしたまえ!『火球撃ファイア・ボール』!」

 なんとか立膝まで立てたセレナの足元に、赤色の魔法陣が光り輝き、火属性の中級魔術が発動する。セレナの短杖ライト・スタッフの先から現れたハンドボールほどの大きさをした火球が、ガントへ向けて飛んでいく。が、カケルの矢と同じように、それはガントの元へ届かず手前の地面に勢いよく急激に落下した。

 ―――バッシャーン!

 一瞬熱気が襲うが、それはすぐに収まってしまった。

「これも、ダメなのっ?!」

 火球の発動が初めて成功したのもつかの間、目標に届かずセレナはげんなりする。その火球が落ちた近くに水たまりが広がっており、それがガントの周辺に届いていおり、とあることにアキラは気が付いた。

「これは…それなら、使えるかもしれない」

 そしてすぐ近くにいるマリナに声をかける。

「マリナさん、あの水たまりをみてくれ。きみの風魔術が使えるんじゃないか?」

 声をかけられたマリナは、少し自信なさそうにアキラへ答える。

「わたしもまだ覚えたてなのですが…わかりました、やってみます」

 そう答えると、開いた右手をガントの方へと向け、風属性の魔術を唱える。

「力の根源たるマナよ!風の精霊シルフよ、大気の稲妻にて彼の敵を討て!『雷撃矢ライトニング・ダーツ』!」

 マリナを中心に黄緑色の輝く魔法陣が展開し、かざした右手の前に数本の短い黄色に光る雷撃の矢が現れた。それはカケル・セレナが放った矢と火球と同じような軌道で、ガントへ向かい飛ぶ。それを見るなり、カズヤは小バカにしたような、見下した笑みを浮かべる。

「バカのひとつ覚えか?何度やっても同じこと…」

 カズヤの予想通り、ガントの手前で雷撃の矢は見事に勢いよく落ちる。ただ、その前と違うのは、そこには大きな水たまりがあるということだ。

「ぐああああ、貴様ぁ!」

 それはアキラの予測した通りに、水たまりに浸っているガントと、その近くにいたカズヤが感電をしたのだ。それはまさに計算通りであった。そして、その衝撃によりガントの重力魔術の集中が解け、アキラ達は自由を取り戻した。
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