黄昏のアセンション ~現代魔術をスピリチュアルが凌駕する~

榊原 涼

文字の大きさ
上 下
24 / 43
~第1章~

~第24節 女王の憂い~

しおりを挟む
 樹の精霊スピリットドライアードの女王ライアは、どこか物憂げな表情で同胞を傷つける、魔物の今後の未来の行く末を案じていた。それも無理はない。樹人族トレントとは違い話すことの出来ない普通の樹木でも、彼女らには大切な仲間であり同時に、親兄弟も同然である。それをいわれなき理由で次から次へと切り倒されてしまうのは、断腸の思いに違いないだろう。アキラはその説明を聞くと真摯に向き直る。

「ライア女王、心中お察しいたします。詳しいご説明をいただきありがとうございます。それではその情報から、僕らで目標討伐の作戦を立てます」

 アキラ達7人は中央に置かれているテーブルに集まり、目標である牛頭の魔物、ミノタウロスの攻略作戦を立てることにした。

「最初にまず、みんなも知っている通り、彼ら樹の精霊スピリットの領域であるところで、火属性の魔術を使うのは厳禁だ」

 そこでナツミは座ったまま挙手をして、アキラに問う。

「はーい、質問。火属性でも飛んで行ったりするのがダメなんですよね?燃え移ったりして」

 ナツミの質問の投げかけに対して、アキラはいつもの癖である中指で、メガネを直す。

「まぁ、そうなんだけれど、大体が火属性の魔術は飛翔型のタイプや、僕の使える攻守両方で使える呪符の壁タイプのものは、この場合は燃え広がって使えないものが多いね。それとも、なにか妙案があったりするかい?」

 それを聞くが早いか、待ってましたと人差し指を立てて、ナツミは自信ありげにウインクをする。そのウインクからは、まるで星がはじけるようである。

「それは、火属性の魔術を武器に付与して、攻撃力を上げる。その名も…強化武器エンハンスド・ウェポンよ!」

 自信満々のナツミのひらめきに対して、アキラはポンと握った手をもう片方の手で合わせ相槌を打つ。

強化武器エンハンスド・ウェポン…なるほど飛翔型にせず、直接それを武器に付与し攻撃力を上げる。それなら飛び散ることも恐らくないだろうし、僕の今までの魔術研究でも気が付かなったよ。確かに妙案と言えば妙案だね」

「こんなところで、TRPGの知識が役に立つなんてね、セレッち」

「うん、確かにこの状況なら最適かも…それって今思いついたの?」

 意外な妙案を思いついたナツミに感心したセレナは、エメラルドグリーンの瞳を大きくしてナツミに乗り出す。

「ううん。実は人知れず研究してたのよ、自分の属性がどういう風に使えるのかって、ね?」

「そっかぁ、ナツミさすが、えらいじゃん!」

 うんうんと鷹揚にうなずき、セレナは更に感心を強めた。そこにマリナが横から口を挟む。

「もし万が一ですが、飛び火しそうになったら、私が風魔術で消しにかかります」

 ことの成り行きを聞いていたマリナは、自分も覚えたての魔術でフォローしようと考えていた。

「私も水属性の魔術で消火できそうですよ。そういえば、マリナちゃんっていつの間に、風属性の魔術を使えるようになったんですか?」

 カエデも負けじとフォローに入るが、マリナも魔術を使えるようになっていたことに、少々驚きと疑問を隠せなかった。カエデの質問に対しては、アキラが代わりに答える形となった。

「現状では予測に過ぎないんだけれども、七瀬さんには風属性の魔術にゆかりがあると考えて、昨夜みんなが寝静まる前に簡単なメモを渡し、呪文を唱える方法などを軽くレクチャーさせていただきました。」

 代わりに答えるアキラのタイミングに合わせて、マリナは昨夜のメモを懐から取り出し、黙ってうなずく。

「えー、まずは説得が上手くいくかどうかはわからないが、僕が試みてみよう。それが失敗して戦闘に入りそうな場合、すぐに火属性の魔術を使えるセレナくんは、アギトの斧に強化武器をかけてほしい」

「その時は嬢ちゃんたのむぜ」

「はい、わかりました」

 サムズアップをしてニカッと白い歯をむき出しに笑うアギトに、持っている短杖ライト・スタッフを両手でギュッと握りしめてセレナはうなずく。

「あたしは他の前衛にかける人がいないから、自分にかければいい?」

「そうだね、それはお願いできるかな?カケルくんの弓矢にかけるわけにはいかないし、僕とセレナくんは後衛なのでとりあえずはいいだろう。強化武器をかけたあとは、ミノタウロスの背後に周ってほしい」

「了解したわ」

 戦闘初期の動きを理解し、ナツミは右の拳を左の手のひらでバシッと受ける。

「わたしは、みんなが散開する前に、ソルフェジオ・ファンクションで士気の鼓舞を行います。そのあとは暫く歌うことは出来ません…それにかつての失敗は二度としたくないので」

「なるほど、クールタイムがあるんだね。それは助かります。かつてか…そうだね」

 マリナが自分のユニークスキルのソルフェジオ・ファンクションで補助を最初に行うことを、アキラは了承した。

(かつて…?アキラさんとマリナちゃんって、昔からの知り合い…なの?わたしとは幼馴染のはずなのに…)

 傍らで聞いていて、なぜか心をギューッと締め付けられるように胸に手を当て、セレナは少し寂しげな目をアキラへ向ける。それを察してか、慰めるかの様に食事を終えたライムが身体と頭をスリスリと脚に擦り付けてくる。

「僕はどうしますか?強化武器は土属性で矢に付加できますよ」

 なかなか自分に役割が回ってこないので、しびれを切らしてカケルは両手をテーブルについて乗り出す。

「カケルくんは、セレナくんの光魔術『光の閃光ルミナス・フラッシュ』で目くらましをして、失敗もしくは効果がなくなったら、ヤツの目を狙って視界を奪って欲しい。セレナくんも大丈夫だよね?」

 急に名前を呼ばれたセレナは、ちょっとビクッとして返事を返す。

「あ、はい、わかりました」

「とりあえずセレナちゃんの目くらましで、そのあと状況により矢で目を狙うんですね。了解しました!」

 矢筒から矢を取り出し、自信ありげにカケルは上空を狙うしぐさを行った。

「わたしは昨夜、狼の群れに襲われた時に使った、補助魔術の『光の庇護』で初めに支援します」

「わかった、よろしく頼むよ」

 最後に残ったカエデは、昨日使用した光の援護魔術で役割を申し出た。それを聞いてから、アギトは椅子から立ち上がる。

「俺は補助魔術を色々もらったら、ただひたすら突っ込めばいいよな?」

「あぁ、それはまかせた」

 アギトの脳筋な反応に苦笑しながらも、笑顔でほほえむ。それもこれもお互いに信頼が厚いことの証だ。

「さぁ、これでみんなの初手は決まったな。そのあとは、各自の判断にまかせる。ただ、くれぐれも無理はしないことだ、いいね?」

 アキラの掛け声に対して、メンバー全員がコクリと首を垂れて了承した。大体の方向性が決まったのを見計らい、ドライアードの女王ライアと給仕のドライアード数人が、たくさんの木の実と水の入った木のボトルを人数分持参する。そのほかにも小さな六角形のガラスビンに入った、液体のようなものも見て取れる。

「みなさん、お話はどうやらまとまったようですね。それではみなさんでこちらを是非お持ちください。」

 各自に木の実は麻袋に、そして水のボトルは腰ひも付きで配って回る。

「たくさんの木の実とお水をありがとうございます。この木のボトルやテーブルとか切り株の椅子とかも、ドライアードさん達で全部造られたんですか?」

「はい、樹人族トレント達は素材は提供してもらえますが、手があまり器用でないので、私たちが作製しました。このボトルは樹脂でコーティングしてあるので、漏れないようになっていますよ」

 カエデの質問にライアは笑顔で快く受け答えをした。配られたものの中に六角形のガラスビンに入った、液体が気になりアキラはライアへ確認したくなった。

「このガラスの小ビンの中の液体は…?」

「これは数少ない雨の日のあとに、この森の中心にある聖なる泉から湧き出る『聖水』です。回復薬の代わりになるので、ここぞという時にお使いいただければと思います」

「回復薬になるんですね、そんな貴重なアイテムをありがとうございます。本当に助かります」

 ドライアード達から受け取った支給品を全てリュックへ詰め、出掛ける準備は出来た状態だ。

「みんな、準備が整ったら、出発するぞ!」

 そこで、ライアが一人アキラの前に進み出る。

「わたくしが、森の出口までご案内いたします」
しおりを挟む
ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
感想 0

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

シグナルグリーンの天使たち

ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。 店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。 ※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました  応援ありがとうございました! 全話統合PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613 長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

騙し屋のゲーム

鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...