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その後の二人〜ヴィンスとウィル〜

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その日、王都の裏通りにある『BAR V&E』の扉を最初に開いたのは、人目を避けてやってきたウィルだった。

「おや、珍しいお客さんだ。お忍びで来たのかい?」
 ヴィンスは店頭の札を『close』と裏返して店を閉め、向かい合ってグラスを掲げた。

「母さんとアンが、たまには顔を合わせて来いって。明日は父さんの命日だしね」
アン、というのはウィルの奥さんだ。いわゆる姉さん女房で、5つ歳下のウィルを公私共に上手い具合に助けてくれている。
「ははっ。しょっちゅう連絡は取り合っているのにね。でもそうか……母さんには、父さんの葬儀以来会ってないかもしれないな」 
「その母さんが、次に兄弟が顔を合わせるのは自分の葬儀なんて嫌だ、って。……もうだいぶ高齢だからね、心身ともに弱って来てるんだと思う。たまには顔を見せに来い、って言ってたよ」
「こんな寂れた店の店主が、何の用があって登城するんだい?」
「またそんなっこと言って……」
困った顔をするウィルを見て、ヴィンスは優しく話しかけた。
「ウィル、君には本当に感謝しているし、申し訳なくも思っているんだ。あの時、まだ幼い君に全てを丸投げしてしまったからね」
「別にいいよ。小さ過ぎてよく覚えてないし、気がついたらこの立場にいるのがもう当たり前になってたからね……でも、今でも兄さんの方が適性があったと思っているのは本音だよ。僕よりも人の上に立つべき人だった」
「そんな人は、弟に何もかも押し付けて好きに生きたりはしないよ。もともとその器ではなかったのさ」
謙遜でも何でもなく、ヴィンスは本当にそう考えていた。公より個を優先した時点で、人の上に立つ素質などないのだ、と。

「近々、母さんの顔を見に行くよ。その時はまた上手く段取りを頼めるかい?」
ヴィンスが話を切り替えると、
「もちろん!義姉さんも一緒に来るといいよ。アンを通じて、母さんと手紙のやりとりを続けているようだし」
と、ウィルは嬉しそうに言った。
王城にいい思い出なんて一つもないだろうエルサは、きっとこの誘いを面倒くさがるだろうな、と思いつつ
「そうだね、彼女も一緒に連れて行くよ」
と答え、ヴィンスはエルサと出会い過ごしたこの三十数年間に思いを巡らせたのだった。

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