上 下
21 / 24

第二十一話

しおりを挟む
 仕事柄、身分制度が起因の問題をよく目にするヴィンスは、この封建的な社会が早く変化することを願っていた。

「これでも僕たちの若い頃から比べたら、幾分かマシにはなって来ているんだろうけどね」
店内を片付けながら、エルサが相槌を打つ。
「身分の差が無くなるとことは決して無いでしょうけど、爵位家と庶民の壁が少しでも低く、柔なものになれば良いわね」
「次の代……はまだ無理かな。ウィルの孫が国を納める頃には、この国にも大きな変化が生まれているかもしれない。昔馴染みから聞いた話によると、湾を挟んだ半島にあるブリティーナ大帝国の次期王妃は、貴族では無い一般庶民の出らしいよ。皇太子とは学園の同級生で、長い付き合いの中で別れたりくっ付いたりを繰り返した末に結婚したそうだ。子供もたくさんいて、継承問題もどこ吹く風だって。それから、大洋に浮かぶ島国のジピーナの皇后は、海外育ちで高学歴で、堪能な語学能力を活かして外交官として活躍していたキャリアウーマンらしい。こちらは皇帝が長らく想いを寄せてやっと振り向いてくれた相手だとか。他国ではこうして君主でさえ恋愛を経て結婚しているんだから、時代は確実に変化して来ていると思うよ。この国でも何年、何十年後には、魔道具使いの王妃が登場するかもしれないね」
悪戯な笑顔を見せながら、ヴィンスがエルサに言う。
「そうねぇ……一介の魔道具使いの少女に求婚する王太子なんて、誰かさんくらいのものよ」
フフ、と笑いながらエルサは答えた。

 王都の裏通りにある『Bar V&E』は、今日もひっそりと営業している。次に扉を開くのは、一杯のカクテルを飲みに来た客か、それとも『娘の将来について相談事がある』客か……。

               ~Fin~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。

杉本凪咲
恋愛
愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。 驚き悲しみに暮れる……そう演技をした私はこっそりと微笑を浮かべる。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました

紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。 だがそれは過去の話。 今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。 ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。 タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

王太子妃候補、のち……

ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。

処理中です...