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第二十話

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 王立裁判所での出来事は、王都内に瞬く間に広まった。
特にゴシップネタとして人々の関心を集めていたのが、ジェニーを取り上げた記事だ。

『国王も認めた子爵家令嬢 一方的に婚約を解消された相手にも気遣いをみせる慈悲深きご令嬢ジェニー・ワトソン。爵位家の娘としての気品に満ち溢れ、庶民の生活にも思いを向けられる素晴らしい女性が現れた。』

彼女のあの発言が人々を感動させているのだ。これにはワトソン子爵もご満悦だった。
「いやはや、マスター。あなたのおかげで全てのことが上手く丸く治りましたよ。ジェニーの評判を聞き、侯爵家や伯爵家からも縁談の打診が複数届いているんですよ」
「それは良かったですね。ですが子爵、今度はちゃんとお嬢さんの意見も聞いて婚約者を選んでくださいね。同じ失敗を繰り返すことのないように、慎重に」
カウンター越しのヴィンスが釘を刺した。
「当たり前だよ!これでも一応、反省しているんだ。私もカーディナル伯爵も、子供たちをただの駒のように考えていたからね。私たちがもっと丁寧に事を進めていたら、もしかしたら彼ら二人にも別の未来があったかもしれない。結果的に好転はしたが、ジェニーにとって幸せではない時間を過ごさせてしまったんだから……」
「そうですね。簡単に決めて良いものではないんですよ、婚約は。今回の件で、一度決めた婚約を反故にするのがいかに大変なことかというのを、世間に知らしめられたらいいんですがね。なかなか無くなりませんね、婚約破棄騒動は。まぁ、だから私の稼業が成り立っているんですが」

 ワトソン子爵からの報酬を得て、今回の依頼は無事終了した。
店頭の灯りが消えた『Bar V&E』の中で、ヴィンスとエルサが任務完了を祝して乾杯をしていた。
「今回は珍しく、悪意のある人物が関係していなかったわね。ジェニーとエマも敵対してる訳ではなかったし」
「そうだね。なかなか珍しいパターンだったね。いつもはもっと、徹底的に懲らしめる相手がいるからね。ウィルも色々と協力してくれてありがとう」
通信用クリスタルの向こうに、忙しそうにしているウィルが見える。
「隣国とワトソン家との交易協定も結べたし、ジェニーには婚約者候補が複数いるみたいだし、カーディナル家もビジネスとしての痛手は小さいものだろうし、万々歳だね。ヘンリーは家を出て、アカデミーの寮に居るって?」
「学長の話では、一般生徒と同室で生活しているらしいよ。エマの家にもよく足を運んでいるようだ。きっと卒業後は彼女の父親の手伝いをするつもりだろうね」
「ヘンリーとエマはともかく、私はジェニーの幸せを祈っているわ。今度こそ、心を通わせられる相手に巡り会えますように」
「では、ジェニーの幸せを祈って、最後にもう一度、乾杯!」
ヴィンスとエルサ、そしてクリスタル越しのウィルがグラスを上げた。
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