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第八話

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 エルサがキャリー夫人としてアカデミーで女子生徒に講義を行っている頃、ヴィンスは一人、城下町の外れ、職人が集まる工房街に来ていた。もちろん、隣国からの旅行者の身なりで。
工房街の中から、靴職人の家を見つけ出したヴィンスは、少し離れた場所からその家の様子を観察していた。

 住居兼工房の中には靴職人である父親と、工房を切り盛りしている母親、そして幼い、4、5歳だろうか、双子らしき男児と女児がいた。
理事長からの情報によると、ここがヘンリーの想い人である少女の実家のようだ。

 工房内の様子や、家族の身なりから、それなりに成功を収めていることがうかがえた。
実際、工房の外から観察している間にも、靴の修理や手入れを依頼しに、有力な家門の馬車に乗った使用人が数人やってきていた。

 工房街の職人の中には、爵位家のアブナイ仕事に関わらされている者も少なくはない。
ヴィンスは、この靴職人が白か黒か、まず確かめたかったのだ。
現時点での感想は、特に後ろめたいことはしていないだろう、となった。

 そんな中、アカデミーは放課後の時間帯になり、件の女子生徒が帰宅してきた__しかも上手い具合に、ヘンリーと共に、だ。
ヴィンスは引き続き、工房の外から様子を見ることにした。

「ただいまー」
女子生徒の声を聞くと、おかえりー、と双子たちが走り寄ってきた。
「ああ、エマ、おかえり」
「おかえり。ちょうど良かったわ、ちょっとこの子達を遊びに連れ出してくれない?この後、何点か商品の引き取りにお客さんが来る予定なんだけど、母さんまだ梱包できでなくて」
作業が追いついていないのだろう、視線を手元に落としたまま、母親が言った。
「ええ、良いわよ、お母さん。今日はヘンリーも一緒だから」
エマ、と呼ばれた女子生徒の言葉に、母親は慌てて作業の手を止めた。
「あらあら、まあまあ!ヘンリーさん!これは失礼しました!エマ、ヘンリーさんが来られてるならちゃんと言いなさい!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。今日は何も予定がなかったので、ちょうど、彼らと遊ぼうと思ってこちらに寄らせてもらったので」
ヘンリーが笑顔で応えると、双子たちは喜んで彼に抱きついた。

 工房の奥から、作業を中断した父親も顔を出した。
「すいません、ヘンリーさん。ウチの子供たちがいつもお世話になって……」
子供たち、という言葉にはエマも含まれているんだろうな、と少し離れたところで彼らの様子を見ていたヴィンスは思った。

 ヘンリーとエマは、双子たちを連れて工房街の外にある大きな公園に遊びに出かけた。
ヴィンスはさりげなく、彼らの後をつけることにした。
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