6 / 24
第六話
しおりを挟む
エルサは、理事長秘書の男性に連れられ、アカデミー内の女子校舎を歩いていた。
時折すれ違う女子生徒たちは、元気よく、こんにちは!と挨拶するものや、廊下の端に寄り立ち止まって頭を下げるもの、はたまた何の反応もないものもいて、俯瞰してみるとやはりお育ちには逆らえないな、と感じていた。
ふと、中庭のテラスで談笑する女子生徒のグループが目に入った。ラッキーなことに、ワトソン子爵の令嬢、ジェニーがいたのだ。
「すいません、あちらの生徒さんたちと少しお話ししてもよろしいですか?」
秘書の足を止め、彼女たちの方に歩いて行った。
「こんにちは、お嬢さんたち」
突然の声かけに、彼女たちの背筋が伸びた。
秘書の男性が、
「こちらは近々あなた方に講義を開いてくださる、キャリー夫人です」
と紹介してくれると、彼女たちは立ち上がり、順に挨拶を始めた。
「初めまして、キャリー夫人。私はワトソン子爵の娘、ジェニーと申します」
綺麗な角度でお辞儀をする彼女は、爵位家の令嬢としての自覚と自信に満ちていた。
聡明そうで、爵位家に生まれた自分の役割もしっかり認識している子だ、とエルサは思った。
「私はあなた方がこのアカデミーを巣立った後の人生で、良き妻、良き母なるための心算をお教えするためにこちらに参りました。教室であなた方にお会いするのを楽しみにしておりますね」
そう告げて彼女たちから離れたエルサは、ジェニーがヘンリーのことを実際はどう思っているのか確かめなくては、と考えていた。
エルサが歩を進め、女子校舎から共同校舎に差し掛かったところで、今度はヘンリーと、元気で快活だが、決して上品とは言えない笑い声の女子生徒を見かけた。察するに、ヘンリーが想いを寄せている女子生徒だろう。
ヴィンスから聞いているのは、職人の娘、という情報のみだったが、ほぼ間違いなく、彼女がその人物であろうことがわかった。
彼女と話をしてみるのが先か、ジェニーの本心を聞くのが先か……エルサは考えながら、自室に戻って行った。
時折すれ違う女子生徒たちは、元気よく、こんにちは!と挨拶するものや、廊下の端に寄り立ち止まって頭を下げるもの、はたまた何の反応もないものもいて、俯瞰してみるとやはりお育ちには逆らえないな、と感じていた。
ふと、中庭のテラスで談笑する女子生徒のグループが目に入った。ラッキーなことに、ワトソン子爵の令嬢、ジェニーがいたのだ。
「すいません、あちらの生徒さんたちと少しお話ししてもよろしいですか?」
秘書の足を止め、彼女たちの方に歩いて行った。
「こんにちは、お嬢さんたち」
突然の声かけに、彼女たちの背筋が伸びた。
秘書の男性が、
「こちらは近々あなた方に講義を開いてくださる、キャリー夫人です」
と紹介してくれると、彼女たちは立ち上がり、順に挨拶を始めた。
「初めまして、キャリー夫人。私はワトソン子爵の娘、ジェニーと申します」
綺麗な角度でお辞儀をする彼女は、爵位家の令嬢としての自覚と自信に満ちていた。
聡明そうで、爵位家に生まれた自分の役割もしっかり認識している子だ、とエルサは思った。
「私はあなた方がこのアカデミーを巣立った後の人生で、良き妻、良き母なるための心算をお教えするためにこちらに参りました。教室であなた方にお会いするのを楽しみにしておりますね」
そう告げて彼女たちから離れたエルサは、ジェニーがヘンリーのことを実際はどう思っているのか確かめなくては、と考えていた。
エルサが歩を進め、女子校舎から共同校舎に差し掛かったところで、今度はヘンリーと、元気で快活だが、決して上品とは言えない笑い声の女子生徒を見かけた。察するに、ヘンリーが想いを寄せている女子生徒だろう。
ヴィンスから聞いているのは、職人の娘、という情報のみだったが、ほぼ間違いなく、彼女がその人物であろうことがわかった。
彼女と話をしてみるのが先か、ジェニーの本心を聞くのが先か……エルサは考えながら、自室に戻って行った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました
紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。
だがそれは過去の話。
今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。
ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。
タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
完 あの、なんのことでしょうか。
水鳥楓椛
恋愛
私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。
よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。
それなのに………、
「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」
王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。
「あの………、なんのことでしょうか?」
あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。
「私、彼と婚約していたの?」
私の疑問に、従者は首を横に振った。
(うぅー、胃がいたい)
前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。
(だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)
王太子妃候補、のち……
ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる