上 下
95 / 95

わたくしの自慢は桃色姉弟 2

しおりを挟む
勢いよくカリアナ様に向かって行くレナートに気付いたアリッサ様は、何を思ったのか、突然弟の胸に飛び込んで行きました。

彼女は、瞳を潤ませて信じられないほど可愛らしい顔で見上げています。レナートはそんなアリッサ様に対し、一瞬で目が釘付けになってしまったようです。

手をプルプルと震わせ、何も言葉を発せないレナートは、目を見開いたまま、ピクリとも動けなくなってしまいました。

そしてその後、わたくしが見たものは、心を鷲掴みされるようなアリッサ様の甘い声に、瞬きすら勿体なく感じるその仕草。それは、周りで見ていた全ての人間の心を射貫いてしまった瞬間でした。

「レナートさまぁ~、私、意地悪って言われました~~~。アリッサ、かなしい・・・。しょぼん・・・。」

「なっ!?」

「は!?」

「えっ!?」

「ちょっ、」

「すごっ!!」

(すっ、すごい!!凄いですわ、アリッサ様!!さすが、わたくし自慢の桃色頭!!これぞ、本家本元、魅了の魔術!! なんて凄まじい破壊力ですの!? 桃色頭のあざとさ、すごい!!最後、しょぼんって言ったわ! なんですの?それって、どういう意味ですの!?)

そして、やってやったぜ!と、ばかりに得意気な顔をして、ヴィスタ様とわたくしの顔を交互にみると、チャ!っと、親指を立てています。

「ブッ!!ね、ね、えさん・・・何やってるの・・・くくくっ」

「な、ちょっ、なっ、何ですの、この人、なんなのですか!?」

アリッサ様の可愛らしいお姿に、すっかり影の薄くなったカリアナ様が、不愉快そうに何か叫んでいらっしゃいますけれど、アリッサ様に抜き取られた周囲の者の魂は、未だ一つも戻って来ていないようです。

「お!? アリッサ、ははは、なんだ、どうした?肉が食いたいのか?」

「ふふっ、アリッサ、こんな所で馬鹿やってないで食堂に行きなさいな。美味しいお肉がもらえるわよ?」

たまたま横を通り過ぎたハーロン様とナターシャ様に、何か意味の分からないことを言われたアリッサ様が、少し悔しそうに頬を赤らめて言い返そうとしたようですが、あまりに深すぎる魅了にかかってしまったレナートに邪魔されて何も言えないで終わりました。

「アリッサ、いけませんっ!!そのように可愛い姿を、何故他の人間の前で!?許せない!!駄目ですアリッサ、私以外の人間に、そんな顔をしてはいけない!!」

はっ、と正気に戻ったレナートが、まるで周りから隠すようにアリッサ様を腕の中に囲っていますが、これはもう仕方のないことでしょう。アリッサ様の可愛らしさに頬を染めた生徒達が皆、立ち止まったまま熱い瞳でアリッサ様に見惚れているのですから。

何なの!?と、騒いでいたカリアナ様も、今や周りの空気に呑まれ、虚ろな目でアリッサ様を見ています。あの情けない姿は、完全な敗北感を味わっているみたいですわね。

(ふっ、まあ、こうなりますわよね。そもそも、アリッサ様の弟に可愛らしい姿で売ろうとすることが間違ってますのよ。一番見慣れているのが、とんでもなく可愛い姉なんですもの。桃色頭に勝てる訳がないでしょうに、本当にお馬鹿さんね・・・。)

カリアナ様の対応に困ったアリッサ様は、レナート相手にあざとい女性のモノマネでもしてみたのかしら・・・。けれど、その半端ない可愛らしさで、想像以上に周りを魅了してしまった。
そして、現在、顔を赤らめたレナートが、慌ててアリッサ様を抱きかかえて走り去って行く。と・・・。

きっと、向かった先は避雷針の塔ですわね。二人はこの後の授業をサボって、・・・やはりレナートにお仕置きされるのかしら・・・、アリッサ様ってば、結婚するまで純潔を守ることができるのかしらね・・・。

ふぅー・・・と大きな溜息を吐いて、ヴィスタ様の方を見ると、アリッサ様とレナートの走り去るうしろ姿を見ながら楽しそうに笑っていました。
いつも優しく微笑んでいらっしゃるヴィスタ様ですが、実はとっても笑い上戸な方なのです。その、屈託のない笑顔を見ながら、私はつくづく思うのです。

(本当に姉弟揃って可愛らしいこと・・・。)

後でヴィスタ様に伺いましたが、アリッサ様が演じたあの天使のような愛らしい仕草は、子供の頃、南の砦で一番下っ端だった彼女達が、料理番からこっそり干し肉を得る為の計算された仕草だったそうです。

「お肉が食べたい。」

子供が生き抜く為に自分の幼さ、可愛さを最大限に生かした大技に、何の苦労もしてこなかったその辺のご令嬢が敵うはずはなかったのです。

ちなみに、ヴィスタ様もできると伺ったわたくしが、是非お願いします!!と、おねだり致しましたところ、顔を真っ赤にしたご令嬢が数名その場で白目を剥いてひっくり返り、わたくしは両方の鼻から鼻血を出して止まらなくなるという大騒ぎになってしまうのでした。


おわり。









※「青き瞳に映るのは桃色の閃光」これで終わらせていただきます。
見てますよ! と、印を残していただき、それがとても励みになっていました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。 

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

再会した彼は予想外のポジションへ登りつめていた【完結済】

高瀬 八鳳
恋愛
お読み下さりありがとうございます。本編10話、外伝7話で完結しました。頂いた感想、本当に嬉しく拝見しました。本当に有難うございます。どうぞ宜しくお願いいたします。 死ぬ間際、サラディナーサの目の前にあらわれた可愛らしい少年。ひとりぼっちで死にたくない彼女は、少年にしばらく一緒にいてほしいと頼んだ。彼との穏やかな時間に癒されながらも、最後まで自身の理不尽な人生に怒りを捨てきれなかったサラディナーサ。 気がつくと赤児として生まれ変わっていた。彼女は、前世での悔恨を払拭しようと、勉学に励み、女性の地位向上に励む。 そして、とある会場で出会った一人の男性。彼は、前世で私の最後の時に付き添ってくれたあの天使かもしれない。そうだとすれば、私は彼にどうやって恩を返せばいいのかしら……。 彼は、予想外に変容していた。 ※ 重く悲しい描写や残酷な表現が出てくるかもしれません。辛い気持ちの描写等が苦手な方にはおすすめできませんのでご注意ください。女性にとって不快な場面もあります。 小説家になろう さん、カクヨム さん等他サイトにも重複投稿しております。 この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。 表紙画のみAIで生成したものを使っています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

王太子妃よりも王弟殿下の秘書の方が性に合いますので

ネコ
恋愛
公爵令嬢シルヴィアは、王太子から強引に婚約を求められ受け入れるも、政務も公務も押し付けられ、さらに彼が侍女との不倫を隠そうともしないことにうんざり。まさに形だけの婚約だった。ある日、王弟殿下の補佐を手伝うよう命じられたシルヴィアは、彼の誠実な人柄に触れて新たな生き方を見出す。ついに堪忍袋の緒が切れたシルヴィアは王太子に婚約破棄を宣言。二度と振り返ることなく、自らの才能を存分に活かす道を選ぶのだった。

処理中です...