青き瞳に映るのは桃色の閃光

岬 空弥

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三人目のストーカー

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 目を伏せたアランド殿下は、少しの間黙っていたが、チラリと二人に目を向けると、少しだけ目元を赤くして言った。

「それは・・・、君達と同じだからだよ。」

「・・・? それはどういうことですか?」

「君達だって・・・、ずっと見ていただろう?」

殿下のまさかの告白に、エステルダもレナートもしばし言葉を失った。

(殿下も・・・?わたくし達と同じようにアリッサ様をずっと見ていらしたの?え?でも、二人の会話の内容までご存知ということは・・・?)

「ちなみに・・・、あの・・・どのような、距離といいますか、どのような方法で二人の会話を?」

すると今度は、完全に顔を赤くした殿下がとても小さな声でボソボソと聞き取りにくい声を出した。

「物陰・・・に、隠れたり・・・王家の・・・影を使ったり・・・」

「なっ!? 殿下!! それは立派なストーカーですよ!!」

ついに怒ったレナートが、我慢の限界とばかりに大きな声を出した。
それまで気まずそうに部屋の隅に立っていた殿下の護衛の二人がピクリと反応したが、レナートよりも大きな声で殿下はすぐさま反論した。

「うるさいっ!! お前達にだけは言われたくない!!」

「くっ!!」

「殿下・・・。」

そして三人が三人共・・・いや、よく見ると護衛の二人までもが、あまりの気まずさから顔を背けているのだった。

まるで永遠にも感じられる静寂を破ったのは、どこか吹っ切れたような清々しい顔をしたエステルダだった。

「もう、結構ですわ。ええ、もうたくさんです。アリッサ様とヴィスタ様のことになると、わたくし達は皆、恥も外聞もない哀れな人間にしかなれないのですわ。」

(恐らくあの桃色の髪には、人を惑わす力があるんだわ。まさか、これが噂に聞く、魅了の禁術?)

「こうなったら全て力づくで解決致しましょう。よく考えましたら、それが本来のわたくし達の姿ですわ。ですので、この際はっきりと言わせていただきます。 殿下、申し訳ありませんが今回のお話、わたくしは何一つ認めるつもりはございません。」

「姉上?」

「まずは、殿下。ご存知のように殿下はお立場上、アリッサ様にいくら恋焦がれたとしても、正妃に迎えることはできません。アリッサ様が妾や愛人になってもいいとおっしゃる可能性も全くございません。ですので!! 殿下は、アリッサ様を潔く諦めてくださいませ。」

先ほどまで、懸命に涙を堪えていたエステルダだったが、今の彼女の青い瞳はアランド殿下をしっかりと見据え、自信に満ち溢れた強さを放っている。

「エステルダ・・・。私はもう、アリッサのことはとっくに諦めているよ。彼女が私の側妃や妾を望んでいないことなど、とっくに知っていたからね・・・。」

(それはそうでしょうとも。なにせ殿下は、わたくし達の上を行くストーカーですものね。)

「だからせめて彼女の願いを叶えてあげたくて、辺境地への話を勧めたんだよ。」

「殿下、それは違います!! アリッサ様が本当に求めているのは、辺境地ではございません! そもそも、辺境地に行ったからと言って、アリッサ様がご高齢のアーレン閣下とどうにかなるだなんて本気で思っているわけではないですわよね!?」

「いや、さすがにそれは私も考えてはいないよ・・・。閣下は奥方をとても大切に思っておられるわけだし・・・。」

「殿下・・・いいですか?現実から目を背けてはなりません。アリッサ様の本当の幸せなど、殿下ならば誰よりもご存知のはずですわ。」

「・・・・。」

「そうです。レナートですわ!!」

「おい、私はまだ何も言っていないぞ。」

「そして・・・ヴィスタ様が本当に望んでいるのも・・・、わ、わ、わたくしなのですっ!!」

さすがのエステルダも、頑張って言い切った割には、羞恥に顔を赤らめ、顔を横に背けている。そんなエステルダに驚きの眼差しを向けたレナートは密かに思った。

(姉上、そんな恥ずかしいことを堂々と・・・勘弁してください。殿下の前で何を言い切っているのです・・・。)

「エステルダ、だがそれは私も確認したんだよ。君達がアリッサとヴィスタに好意を持っていることは私も分かっていたからね。ロゼット公爵家ならば、ナーザス子爵家を救うこともできるだろう。だから言ったんだ。今回の活躍によって多くの命が救われた。たくさんの家に恩を売った今の君達なら、堂々と公爵家の二人と一緒になることもできるんだよ。と・・・。けれど、本人達はそれを望まなかったんだ。」

殿下の話を聞いて一瞬悔しそうに顔を歪めたエステルダだったが、目を閉じて心を落ち着けると、もう一度、しっかりと殿下の目を見つめた。そしてニヤリと口の右端を上げると、堂々と言い放った。

「彼らの意見など、どうでもよいのです!! 殿下、今回の事件で一番の栄誉を与えられるべきはどなたですの?」

「・・・? あ・・・。」

アランド殿下は、ポカンと口を開けるとゆっくりと、エステルダを指さした。
それを見たエステルダは、今まで見たこともないような眩しい笑顔で頷いて、自分の胸に右手を当てた。

「そうです!わたくしですわ! 殿下の命を救った、この、わたくしが!この度、一番の栄誉を賜るのです。他の者がどんなに活躍しょうと、殿下の身にもしものことがあったなら、我が国の今は失われていたのです! 今回の事件、一番の立役者は、この、わたくしですわ!」

そして、腰に手を当てたエステルダは、鼻高々に高笑いしている。

「だが、暴れる私に気を取られていた敵に、たまたまタイミングよく花瓶が当たっただけだろう?しかも、お前・・・あんなに力いっぱい投げつけて、私に当たるかもしれないとか全く考えてなかっただろう!? ゴッ!!って凄い音がしてたぞ! ゴッ!!って」

殿下は、瞳を忙しく泳がせているエステルダに気付くと、横目でじろりと睨んだ。

「まっ、まあ、殿下ったら、ご冗談がお上手ですこと。わたくしの行動は、角度、距離、風向きに至るまで全て計算されたものですわよ!?わたくし、ちゃんと見極めておりましたわ。ええ、そうですとも。ですがね、万が一、もしもの話ですわよ? もし偶然だったとしても、それもまた、運も実力のうちでございますからね、どちらにしてもわたくしの一人勝ちでございますわ。」

「姉上・・・。」

「さあ、殿下!そんなことよりも、殿下のお命を救ったわたくしの願いを叶えてくださいませ!!アリッサ様とヴィスタ様の願いなど、二の次三の次にございます。陛下にお伝えくださいませ。王命を出していただきましょう!!心配には及びません。王家と我がロゼット公爵家、わたくし達に動かせぬ貴族などございません!! それがわたくしの願いであり、それがレナートの願い。そしてナーザス姉弟の願いなのでございますから!!!」

部屋中に響き渡るエステルダの力みなぎる大演説に、アランド殿下とレナートだけではなく、護衛に立つ二人ですら、目を見開き驚きを隠せないでいた。

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