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貴方がそれを知っている理由は?

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 アリッサやレナート、騎士科の生徒達や教員の力もあり、王都の騎士団が駆けつけた時には、黒いマントの男達の大半が既に拘束されたあとであった。せっかくの舞踏会であったが、怪我をした生徒が大勢出てしまった上に、第一王子が敵に拘束されるという大変な惨事になってしまった。

後日明らかになったことだが、今回攻め込んで来た者達は、現在、西の国境付近で睨み合いをしている隣国に雇われた野盗だと言うことが分かった。王族であるアランド殿下は無理でも、高位貴族を数名捕虜として捕らえることが出来れば、もはや避けられないであろう戦争を有利に運べると考えたようだ。

しかし、かつての国の英雄に幼少期から鍛え上げられていたアリッサ達に、金で雇われた野盗ごときがかなうはずはなかった。彼女達の異常な戦力につられて、実践経験のない騎士科の生徒達の士気もあがった。そのうち、逃げ惑うばかりだった男子生徒達も、傷付いた仲間を守る為に加勢した結果、被害は最小限に抑えられたのだった。



 あれから数週間が経って騒ぎの収まった今、王宮では、ロゼット公爵家より、エステルダとレナートがアランド殿下の前に控えていた。

「すまない。それはできない・・・。」

その言葉に対し、不敬と知りながらもエステルダとレナートは顔を上げて、キッと目つきを鋭くした。
この度のことで、褒美を与えると王宮に呼び出されたエステルダとレナートであったが、期待を胸に足を運んだと言うのに、望みを口にするなり即座に断られてしまった。

「なぜですか?」

エステルダの声は低く感情がこもっていなかった。

「・・・本人達が望んでいない。」

エステルダが、眉間に皺を寄せて視線を床に落とすと、隣で同じように厳しい顔つきのレナートが尋ねた。

「では、彼らの望みとは?」

「家族全員で、リヴェル辺境地への移住だ。アーレン閣下の下で働きたいと・・・。」

「アリッサ・・・。」

苦しげな顔でアリッサの名前を呟いたレナートからは、怒りと失望の混じったような感情が読み取れる。

「わたくし達のことは・・・何かおっしゃっていましたか?」

気丈に振舞ってはいるが、それが返って痛々しくも感じる。そんなエステルダを見て、殿下の顔も暗く曇っていた。

「いや、彼らは何も言わなかった。ただ、子爵家を存続できなかったことの謝罪だけだった。」

「なにも・・・。」

そう呟いて、呆然とアランド殿下を見つめているエステルダだったが、悲痛に沈むその瞳には薄っすらと涙が溜まっている。前で組んでいた手を力いっぱい握り合わせることで、自分の体をなんとか支えているようにも見えた。

(諦めるという選択肢しか、わたくし達には残されていないのですか・・・。ヴィスタ様、アリッサ様・・・、貴方達は、わたくしとレナートが居なくても平気なのですか?)

「エステルダ・・・、彼らは貴族としての責任を果たして旅立つのだ。彼らの願いは、自分達のせいで長年苦しめてしまった領民の生活の保障だった。自分達が退いた後、優秀な者に後を任せたい。どうか安定した生活を領民に与えてほしいと願ったんだ。・・・それと、リヴェル辺境地への移住を勧めたのは・・・実は、私なんだ。」

エステルダとレナート、二人がその言葉を聞くなり殿下の顔を見上げた。わなわなと震える唇で、エステルダが 「なんで・・・。」 と呟いた。その直ぐ後にレナートの鋭い質問も飛ぶ。

「なぜ、殿下がそのようなことをされたのですか。」

すると、寂しそうに視線を落としたアランド殿下は小さな声で呟いた。

「聞いてしまったからね・・・。」

そうして、二人に向き直り自分の思いを語り始めた。

「私もアリッサとヴィスタの動向を常に気にしていたんだよ。 出会った頃から二人の勉強への熱意は普通ではなかった。ナーザス子爵家がもう何年も持たないだろうことは、もちろん私の耳にも入って来ていたんだ。だがね、その子爵家に援助してもいいと考えている高位貴族も多かったんだよ。あの通りアリッもヴィスタも、この国では珍しい桃色の髪を持っている。成績も優秀な上、国の英雄ロックナートの孫だ。幼少期よりロックナート閣下から厳しく訓練を受けていたことも、陰では伝わっていたんだよ。まあ・・・まさかあの二人が、あれほどの実力者であったなどとは、誰も予想はしていなかっただろうがね。・・・そんな姉弟を自分の家に欲しがった貴族が、ナーザス子爵家への援助をチラつかせて養子の話を持って行ったり、嫁や婿にと釣書も頻繁に送られていたそうだ。だが、ナーザス子爵はその話を全て断っている。大切な娘と息子を彼は売らなかったんだよ。崩れ行くナーザス子爵家を見ながら、賢い姉弟は常に考えていたのだろうね・・・。」

「生きて行かなくてはいけないから・・・。」

エステルダは、殿下の話の途中だと言うのに、過去にアリッサが言っていたことを思い出し、つい話を遮ってしまった。

「ああ、そうだ・・・。このままでは必ずナーザス子爵家は没落する。二人はそれが分かっていたからこそ、今、身につけられる物を貪欲に欲していたんだ。没落して貴族じゃなくなった後も人生は待ってはくれないからね・・・。彼らは、人目を避けて二人でよく話し合っていたんだ。 アリッサは、弟のヴィスタを王都に残して王宮に勤めるようにと勧めていた。私にも何度か、優秀な弟を売り込んでいるような素振りを見せていたことがあったよ。 そしてアリッサ本人は、両親を連れてリヴェル辺境地への移住をずっと考えていたんだよ。彼女は自分の祖父のロックナートではなく、アーレン派の人間だったからね。どうせ働くなら大好きなアーレン閣下の下でと思ったのかもしれないね・・・。だから私は、せめてアリッサの願いを叶えてあげたかったんだよ・・・。」

物思いにふけるアランド殿下の寂しそうな微笑を前に、何故かレナートは、眉間に皺を寄せると目を細め、訝しげに見つめていた。

「なぜ、人目を避けている二人の会話を殿下が知っているのですか?」

レナートの冷やかな声を理解するなり、 「え!?」 と、エステルダは目を瞠った。
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