青き瞳に映るのは桃色の閃光

岬 空弥

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ポロリと零れた本音

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レナートとヴィスタの居る場所とはまた別の場所でも、集めた生徒達を守りながら、ハーロンとナターシャが先陣を切って戦っていた。

「あら、兄様、少し腕が落ちたのではなくて?そんなことでは、じい様に怒られるわよ?」

そう言って笑うナターシャだったが、よく見ると随分と呼吸を乱し、動きに疲れが見え始めていた。そして、首筋に流れる汗を手で拭うと、背後から振り下ろされた剣を振り向きざまに短剣で受け止めた。

「ナターシャ!!」

ナターシャがいくら強いと言っても所詮は女性である。大きな男性相手に、受けた短剣を持つ手は震え、力でじりじりと追い込まれている。だが、妹に駆け寄ろうとしたハーロンの目に入って来たのは、足音も立てずにこちらに向かって走り込んで来るアリッサだった。

目を血走らせたアリッサは、低い姿勢から勢いよく突進してきた。しかし、どうやらスピードが付き過ぎて止まれなかったらしい。その勢いのまま敵に飛び蹴りをおみまいしたのだが、残念なことに一緒にいたナターシャもぶっ飛ばされてしまった。

「ナターシャ!!」

今度は別の意味で妹の名前を叫んだハーロンだったが、アリッサの顔を見た瞬間、一気に体の力が抜けるのを感じた。
敵と一緒にぶっ飛んだナターシャを見て、アリッサはお腹を抱えてケラケラと笑っていたのだ。

「こんの!!馬鹿アリッサ!! なにしてくれてんのよ!!」

大柄の男に潰されたナターシャが、怒りながら両足で男を蹴り飛ばして這い出してきた。
ゼイゼイと肩で息をするナターシャを見て、アリッサは笑いを堪えながら 「ごめん。」 と、一言謝った。

「相変わらず体力がないね。」

「ふんっ!!あんたと違って、こっちは普通の女の子なのよ!!」

しかし、文句を言うナターシャに軽く笑みを返したアリッサだったが、足元に落ちている剣を拾うと、すっとハーロンに差し出した。

「ハーロン、その棒は重いでしょう? これ使う?」

「ああ。だが、剣だと殺してしまうからなぁ・・・。それより、これは一体どうなってんだ!?こんな大勢で、どうやって国境超えて来たんだよ!!」

「・・・武装した状態で、この人数は無理。国内に手引きした人間がいるのかも。それにしては手ごたえがない・・・ってことは―――」

「無駄話はいいから、手を貸しなさいよ!!」

素早く敵の背後に回り込み、低い体制で相手の両足の腱を斬りつけたナターシャが叫んだ。

「ナターシャは、もうバテ気味なんだが、お前は大丈夫か?」

「だから!私は普通なの!!もう、充分過ぎるくらいの活躍をしてるわ!!」

すると、そんなナターシャに目をやったアリッサは、ふふっ、と笑った。

「大丈夫。貴女は、まだまだ動けるわ!私が保障する。」

「はあ!?」と、口を曲げて怒りをあらわにするナターシャを横目に、ハーロンに向き直ったアリッサだったが、なぜか彼に向けた顔は、今にも泣きそうな悲痛なものに変わっていた。

「ハーロン・・・、今日は、私にとって最初で最後の舞踏会だったのに・・・。」

それまでずっと気丈に振舞っていたアリッサだったが、ここに来てハーロンの顔を見た途端にポロリと弱音が口から出てしまったのだ。

ナーザス子爵家のことは、従兄妹であるハーロンもナターシャも知っていた。なので、幼い頃から一緒に居たハーロンには、今のアリッサの言葉の意味が痛いほどに分かるのだった。
しかし、ハーロンが苦しそうに瞳を逸らし、かける言葉を探していると、アリッサの感情のこもらない低い声が聞こえた。

「大切な日に・・・こんなにたくさんの怪我人を出して・・・もう、絶対に許さないわ。」

そう言って、怒りを堪えるように拳を作ったアリッサは、ハーロンとナターシャを振り返ることなく悲鳴のする方へ走り去って行った。

「なんでいつも、アリッサとヴィスタばっかり辛い目に・・・。」

鋭い瞳でアリッサの走り去る姿を見ながら、ナターシャは唇を噛みしめていた。






「アリッサは、大丈夫ですか?」

レナートが、敵と剣を交えながらヴィスタに尋ねた。

「姉さんのことは心配無用です。人間とは思えない程に強いですから。」

じりじりと近寄ってくる敵に剣を向けながらヴィスタが答えた。

「ははっ、あのように小柄で愛らしいアリッサが、本当に信じられませんね。」

「姉さんの運動神経は異常です。子供の頃に、ブリッジをしながら追いかけられた時なんかは、その夜に夢でうなされました。」

「ぶっ!! ははは。」

「小さいくせに力も強いんです。姉さんと結婚する人は、必ず力で支配されることでしょうね。」

「・・・・・・。」

その時、まるで何かを思い出したかのように、力任せに相手を斬りつけたレナートは、今しがたの笑顔を消し去ると、敵意のこもった瞳でヴィスタの方を向いた。
そして、怯えながら二人を見守っているエステルダにわざと聞こえるように大きな声で言い放った。

「アリッサから全て聞きました。私達の贈った宝石のお返しをする為に、二人で働きに出たと!」

「は!?レナート?・・・今、なんと・・・!?」

その言葉に瞬時に反応したエステルダの顔色がさっと変わった。しかし、それに気付いたヴィスタは、ばつが悪い顔でエステルダから目を逸らした。

「しかも、貴方達は、私達との関係を今日で最後にするつもりですね!?」

「・・・・。」

「ヴィスタ・・・さま?」

すると、何も言わないヴィスタを射貫くように睨みつけて怒りをあらわにしたレナートは、いきなり剣を振り下ろし、力強く床に叩きつけた。

「私達に何の相談もなく!! そんなこと、私は絶対に許しません!!」

「う、そ・・・そんな、今日で最後・・・だなんて。」

青ざめた顔で目を大きく見開いたエステルダの瞳が、不安げにヴィスタを見つめている。もう二度と会えなくなるなんて、そんなの嘘だと言ってほしくて、縋るような気持ちでヴィスタと視線を合わせるエステルダであったが、寂しそうに微笑んだヴィスタは、すっと視線を下に逸らしたのだった。

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