青き瞳に映るのは桃色の閃光

岬 空弥

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一緒に居たいが全て

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「ここと、ここ。見える所に私の印をつけておきました。」

 レナートは、アリッサの首に付いた内出血の後を指でくるくると触った後、アリッサのはだけた制服のボタンを名残惜しそうにゆっくりと留め始めた。

「私は、マシュー様に勉強を教わっていただけです。ですから彼に特別な感情はありません。」

「ああ、分かっています。」

「でしたら―――」

「それすらも許せない程、私は貴女を独占したいのです。」

ここまで思い詰めてしまったレナートに、マシューとの関係をちゃんと説明しようと口を開いたアリッサだったが、想像以上のレナートの執着に、嬉しい反面どうしたらいいのか言葉が見つからなくなってしまった。そんなアリッサに気付いたのか、レナートは大切そうにアリッサの頭を撫でながら話し始めた。

「母が・・・、アリッサとヴィスタ殿にお会いしたいと言っています。一度、ヴィスタ殿と一緒に我がロゼット公爵家に来ていただけませんか?」

「え?ですが・・・」

「私と姉は貴女達への気持ちを諦めていません。私の婚約話を強引に進めようとしているのは父だけです。アリッサ、私は今、父を説得しています。私はどうしても貴女と一緒になりたい・・・。ですからどうか、私を見限って離れて行かないで・・・。必ず貴女を全力でお守りしますから、どうか私と一緒に戦ってはくれませんか?」

レナートの真剣な眼差しを受けたアリッサは、大きく息を吸うと、瞳を閉じて心を静めた。

「レナート様と一緒に居たい・・・。」

ぽろっと口から出てしまった言葉は、アリッサの心に浮かぶ、たった一つの願いだった。

(やっぱり・・・私も、自分の気持ちを諦めたくない。)

伏せた瞳が見開かれた時、レナートの目に入って来たものは、力強い眼差しとなって表れたアリッサの決意そのものだった。

(どこまで頑張れるのか分からないけれど・・・。)

レナートの瞳を真っすぐに見たアリッサがコクンと頷くと、高揚で頬を染めたレナートの顔が近付いてきた。

(我が家がどこまで持つのか分からないけれど、少しでもレナート様と一緒に居られるなら・・・。)

その唇がアリッサの唇に優しく重なると、アリッサも自分の腕をレナートの背に回し、その熱を受け入れたのだった。

(頑張ってみよう。)


「あの・・・、ところでレナート様は、クラベス伯爵令嬢と本当に婚約しない―――」

「しません!」

「あの・・・、ですが、お二人の仲はとても良いと噂で―――」

「良くありません!」

「いいですか、アリッサ!何度も言いますが、私が好きなのはアリッサだけです。貴女以外と婚約など絶対嫌です!そんなことよりも。」

レナートの顔から、すっと表情が抜けた。

「アリッサ、あの男に勉強を教えてもらうことは、今後一切禁止します。貴女の勉強は、私と姉で教えます。」

「え・・・禁止?レナート様が?・・・ですが、マシュー様はハーロンに頼まれて私に教えてくださっていたのですよ?それも、きっと・・・レナート様が婚約されると知った私が、あまりに気落ちしていたから・・・ハーロンが気を使って彼に頼んでくれたもので・・・。」

情けない顔で視線を逸らしながら話すアリッサとは反対に、レナートの顔は嬉しそうにほころんだ。

「ああ、アリッサ、私のことでそれほど心を痛めてくれたのですか? アリッサが嫉妬してくれていたなんて。嫉妬するのはいつも私の方だと思っていたのに。・・・そうですか・・・、愛する人に嫉妬されるのは、こんなに嬉しいものなのですね・・・。」

しかし、緩んでふにゃふにゃになっていたレナートの顔が、直ぐに厳しい顔に戻った。

「ですが、彼との接触は禁止です。貴女は私のものです。」

そう言ったレナートは、アリッサの首筋に付けた赤い痕を満足そうに眺めている。

「ちなみに・・・、アリッサがどのように嫉妬していたのか、どんな感情に支配されていたのか、詳しく教えていただけませんか?」

「は? え!?・・・いえ、あの・・・それは・・・」

アリッサを膝に抱えたレナートに、耳元でしっとりと囁かれたアリッサは、この後、羞恥で全身が真っ赤になるまでレナートから解放されることはなかった。

(レナート様とエステルダ様は・・・やはり姉弟だわ・・・。)





 翌日、ハーロンとマシューの前に現れたレナートは、アリッサの勉強は自分がみるので、もう近づかないでほしいと釘を刺しに来た。
不満げなマシューの前に出たハーロンが、少し話がしたいと言ってレナートを連れて二人でどこかへ行ってしまったが、マシューの所に戻って来たハーロンは、先ほどまでとは違ってどこか満足そうな顔をしていた。

レナートとの話しを聞いたマシューだったが、ハーロンからの話では納得できなかったのか不服そうな顔を隠しもしなかった。

「それは本当にアリッサの幸せに繋がるのか?そんな現実味のない話をお前は鵜呑みにして、駄目だった時に傷付くのはアリッサだろう?だいたい政略結婚に息子の意見など通用しない。これだから世間知らずのお坊ちゃまは・・・。 それを分かっていながら・・・。ハーロン、お前も同罪だからな。」

いつになく冷静さを失って、不満を言い続けるマシューを眺めながらハーロンは軽く笑った。

「だからアリッサを好きになるなよって言っただろう?」

「まだ、好きじゃない!!でも、とても頑張り屋の良い子だったから、悲しませたくないと思っただけだ。」

ハーロンは、マシューの話を聞きながら、宝石の付いたリボンを胸に抱き、何度もレナートの話をしていた当時のアリッサを思い出していた。

「そうだな。俺もアリッサの悲しむ顔は見たくないな。」

「だったら!!」

「でもな・・・、このまま何もせずに身を引いたとしても、アリッサはやっぱり悲しむんだ。だったら、やるだけやって、そして泣けばいい。その時は、俺がまた慰めるよ。」

「・・・だったら、僕も・・・。」

「好きになっても無駄だぞ?」

「だから、まだ好きになってない!!」

「でも、もう少しで好きになりそうだったのか?」

「・・・言いたくない。」

「ははっ、お前が好きになる前で良かったよ。」

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