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心の読めない眼差し
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「ごきげんよう。・・・あの・・・。」
人懐っこい笑顔で話しかけられたはいいが、目の前の人物が誰かわからないエステルダは、困ったように言葉を詰まらせた。
「突然話しかけてしまい、申し訳ありません。そこの隣の席に座ってもいいですか?」
(ああ、良かった。ただの相席ですのね・・・。)
公爵令嬢のエステルダは、あらゆる場面でたくさんの貴族令息と顔を合わせて来た。だが、過去のエステルダの記憶にはアランド殿下のものしかなく、現在のエステルダは、ヴィスタしか見えていない。ようするに、エステルダが学園内で知っている令息は、飛びぬけて頭が良い人物だったり、ナターシャの兄、ハーロンのように外見的にかなり特徴のある人物くらいなものなのである。
ほっとしたエステルダは、にこやかに笑顔を作り、「どうぞ。」と答えたが、よく考えると食堂は空席だらけだ。
(え!?こんなにあちこち空いているのに、なぜ私の隣ですの?困ったわ・・・やはり前にどこかで顔合わせをしている人だったのね。どうしましょう、全然思い出せないわ・・・。)
実は、アランド殿下の婚約者候補を辞退してからというもの、このように知らない男子生徒(実は知っているのかもしれない人)に話しかけられることが多くなっていた。
近付いて来る理由がエステルダ本人にあるのか、本当に本人の希望で話しかけて来ているのかは知らないが、どちらにしてもロゼット公爵家に生まれたからには仕方のないことだと、エステルダも諦めていたのだった。
(取りあえず・・・天気の話でもした方がいいのかしら・・・。でも、下手に話しかけて、この前のように本格的な会話が始まってしまうと、自ら墓穴を掘ることに繋がるわね。ここは、やはり食事を優先いたしましょうか。用がおありなら向こうから声をかけてくるでしょうし・・・。)
「!?」
(って、え!?なんですの? なにか、すごく見られていますわ・・・。)
食事に集中しようと決めたエステルダだったが、隣で頬杖をついた彼が、にこにこしながらこちらをじっと見つめているのが視界に入ってしまった。こうなってしまっては、さすがのエステルダも話しかける他なくなってしまう。
「あの・・・。お食事は、もうお済みですの?」
見ると、彼は食事どころか飲み物すら持って来ていない。
「はい。もう食事は終わりました。」
彼は、まるで話しかけられたことが嬉しくて仕方がないという様子で、瞳を輝かせながら返事をした。
(では、なぜ隣に座るのです!?)
「そ、そうですか・・・。」
「はい!」
(うわぁー・・・、目がキラキラしてますわね・・・。)
「・・・・・・。」
(まだ見てる・・・怖い。)
完全にエステルダの方に体を向けている彼は、口角を上げ、そのクリっとした大きな瞳を逸らすことなくエステルダを凝視しているのだった。
たいした会話もないのに、このようにじっと見つめられることに居心地の悪さを感じたエステルダが、気持ちを逸らそうと正面に向き直ると、少し離れた場所に座っているヴィスタが、目の前のナターシャを通り越してこちらをじっと見ていることに気が付いた。
(はっ!!ヴィスタ様が、こちらを見てらっしゃる・・・?き、気のせいではないわよね?わたくしを見てるのでしょうか?)
エステルダはキョロキョロと辺りを見回すが、どうやらヴィスタが見つめているのは自分のようだと思うと、つい嬉しくなってしまいにっこりと微笑んでしまうのだった。
しかし、そんなエステルダに気付いているはずのヴィスタから何故か笑顔は返ってこなかった。それどころか、見たこともない程の真顔で、ただじっとこちらを見ているのだ。
いつもの彼らしくない様子に、何か悪いことでもしただろうかと、エステルダは心配になった。
そんなエステルダの一挙一動を見ていた茶色の彼は、チラリとヴィスタの方に目を向けたが、特に表情を変えるわけでもなく、もう一度エステルダの方に顔を向けると、にこにこしながら話しかけてきた。
「エステルダ様とお呼びしてもいいですか?」
「え?」
ヴィスタの優しい微笑みを得られなかったことに、大きなショックを受けていたエステルダだったが、突然話しかけられたことによって、忘れていた彼の存在を思い出した。
「僕のことは、シャナスと。」
「・・・シャナス様・・・。」
ここで、茶色の彼の名前がようやくわかったエステルダは、集中しながら過去の記憶を遡っていった。
(シャナス、シャナス、シャナス・・・。どこかで・・・ええと・・・、シャナス、・・・。
ああっ!!良かった。わかりましたわ。侯爵家の。そうでした!ウズベルク侯爵家の、シャナス・ウズベルクですわ。)
これで失礼をしなくてすむと胸を撫で下ろすエステルダに、少し頬を赤くしたシャナスが、「はい。シャナスです。」と、嬉しそうに笑った。
人懐っこい笑顔で話しかけられたはいいが、目の前の人物が誰かわからないエステルダは、困ったように言葉を詰まらせた。
「突然話しかけてしまい、申し訳ありません。そこの隣の席に座ってもいいですか?」
(ああ、良かった。ただの相席ですのね・・・。)
公爵令嬢のエステルダは、あらゆる場面でたくさんの貴族令息と顔を合わせて来た。だが、過去のエステルダの記憶にはアランド殿下のものしかなく、現在のエステルダは、ヴィスタしか見えていない。ようするに、エステルダが学園内で知っている令息は、飛びぬけて頭が良い人物だったり、ナターシャの兄、ハーロンのように外見的にかなり特徴のある人物くらいなものなのである。
ほっとしたエステルダは、にこやかに笑顔を作り、「どうぞ。」と答えたが、よく考えると食堂は空席だらけだ。
(え!?こんなにあちこち空いているのに、なぜ私の隣ですの?困ったわ・・・やはり前にどこかで顔合わせをしている人だったのね。どうしましょう、全然思い出せないわ・・・。)
実は、アランド殿下の婚約者候補を辞退してからというもの、このように知らない男子生徒(実は知っているのかもしれない人)に話しかけられることが多くなっていた。
近付いて来る理由がエステルダ本人にあるのか、本当に本人の希望で話しかけて来ているのかは知らないが、どちらにしてもロゼット公爵家に生まれたからには仕方のないことだと、エステルダも諦めていたのだった。
(取りあえず・・・天気の話でもした方がいいのかしら・・・。でも、下手に話しかけて、この前のように本格的な会話が始まってしまうと、自ら墓穴を掘ることに繋がるわね。ここは、やはり食事を優先いたしましょうか。用がおありなら向こうから声をかけてくるでしょうし・・・。)
「!?」
(って、え!?なんですの? なにか、すごく見られていますわ・・・。)
食事に集中しようと決めたエステルダだったが、隣で頬杖をついた彼が、にこにこしながらこちらをじっと見つめているのが視界に入ってしまった。こうなってしまっては、さすがのエステルダも話しかける他なくなってしまう。
「あの・・・。お食事は、もうお済みですの?」
見ると、彼は食事どころか飲み物すら持って来ていない。
「はい。もう食事は終わりました。」
彼は、まるで話しかけられたことが嬉しくて仕方がないという様子で、瞳を輝かせながら返事をした。
(では、なぜ隣に座るのです!?)
「そ、そうですか・・・。」
「はい!」
(うわぁー・・・、目がキラキラしてますわね・・・。)
「・・・・・・。」
(まだ見てる・・・怖い。)
完全にエステルダの方に体を向けている彼は、口角を上げ、そのクリっとした大きな瞳を逸らすことなくエステルダを凝視しているのだった。
たいした会話もないのに、このようにじっと見つめられることに居心地の悪さを感じたエステルダが、気持ちを逸らそうと正面に向き直ると、少し離れた場所に座っているヴィスタが、目の前のナターシャを通り越してこちらをじっと見ていることに気が付いた。
(はっ!!ヴィスタ様が、こちらを見てらっしゃる・・・?き、気のせいではないわよね?わたくしを見てるのでしょうか?)
エステルダはキョロキョロと辺りを見回すが、どうやらヴィスタが見つめているのは自分のようだと思うと、つい嬉しくなってしまいにっこりと微笑んでしまうのだった。
しかし、そんなエステルダに気付いているはずのヴィスタから何故か笑顔は返ってこなかった。それどころか、見たこともない程の真顔で、ただじっとこちらを見ているのだ。
いつもの彼らしくない様子に、何か悪いことでもしただろうかと、エステルダは心配になった。
そんなエステルダの一挙一動を見ていた茶色の彼は、チラリとヴィスタの方に目を向けたが、特に表情を変えるわけでもなく、もう一度エステルダの方に顔を向けると、にこにこしながら話しかけてきた。
「エステルダ様とお呼びしてもいいですか?」
「え?」
ヴィスタの優しい微笑みを得られなかったことに、大きなショックを受けていたエステルダだったが、突然話しかけられたことによって、忘れていた彼の存在を思い出した。
「僕のことは、シャナスと。」
「・・・シャナス様・・・。」
ここで、茶色の彼の名前がようやくわかったエステルダは、集中しながら過去の記憶を遡っていった。
(シャナス、シャナス、シャナス・・・。どこかで・・・ええと・・・、シャナス、・・・。
ああっ!!良かった。わかりましたわ。侯爵家の。そうでした!ウズベルク侯爵家の、シャナス・ウズベルクですわ。)
これで失礼をしなくてすむと胸を撫で下ろすエステルダに、少し頬を赤くしたシャナスが、「はい。シャナスです。」と、嬉しそうに笑った。
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