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一触即発
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「ふーん・・・。私のアリッサねぇ・・・。」
アランド殿下のレナートを見る瞳は、益々冷たくなっていく。
「レナート、それは婚約者でもない女性に対して使う言葉ではないよね。」
「お言葉ですが、私とアリッサの気持ちは通じ合っております。殿下の先ほどのお言葉の方が、周りからの誤解を招くことになるかと思われますが・・・。」
それは間違いなく、先ほど殿下がアリッサに向かって言った「私と君の仲」を指していた。
さすがロゼット公爵家の嫡男だけあって、殿下が相手でもレナートは全く引く気配を見せなかった。そんな二人の睨み合いをハラハラしながら見守っていたアリッサだったが、これ以上アランド殿下の機嫌を損ねるのは、レナートにとって得策ではないと判断した。
「あの、殿下。」
「なんだい?アリッサ。」
アリッサに話しかけられたアランド殿下は、それまでの冷たい表情を一変させ、美しくアリッサに微笑みかけた。
「私に、御用がおありなのではございませんか?」
アリッサが、恐る恐る用件を尋ねると、アランド殿下は、満面の笑みでアリッサの手を取った。
「そうだったね、アリッサ。長い間待たせてしまってすまなかった。最近の私は公務に追われていてね、君との時間を作れなかったんだ。私が居ない間、大変だっただろう? でも、もう大丈夫だよ。また今日から、私がアリッサの勉強に協力するからね。」
「勉強?」
隣から地を這うような低い声が聞こえたと思ったら、目の据わったレナートがアリッサとアランド殿下の間に無理やり入って来た。その拍子にアランド殿下から離れたアリッサの手を掴むと、なんとか怒りを抑えているレナートがアランド殿下に向かってその誘いを断った。
「これからは、殿下のお手を煩わせることもありません。アリッサの勉強は私が見ますので、どうぞ、ご心配されませぬよう。」
レナートの威圧的な物言いに対し、ピクリと方眉を上げて、一瞬、不快そうな顔をしたアランド殿下だったが、直ぐに王族特有の笑みを顔に張り付けると、
「君では無理なのでは?」
と、感情のこもらない冷たい言葉をレナートに浴びせた。しかし、それに対してもレナートは負けてはいなかった。
「私はロゼット公爵家の嫡男です。それに見合った知識と教養は、既に身に付いております。いくら私のアリッサより学年が一つ下とて、何も問題はないでしょう。それに、万が一困ったことがあったとしても、私には、あの姉がついておりますので、何もご心配には及びません。」
「なにせ、あの姉ですので。」と、最後にもう一度、念を押すかのように言ったレナートは、既に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そんな不快な笑みを向けられたアランド殿下だったが、さすが王族とでも言うのか、表情一つ変えることなく涼しげな眼差しでレナートを見ている。
「ああ、確かに。エステルダにだったら、安心してアリッサをお願いできるね。そうだね、私には公務だけでなく、生徒会もあるしね・・・。うん、わかったよ。 アリッサ、これから勉強のことは、エステルダに協力してもらうといいよ。彼女の知識と教養は、他の令嬢では追いつけない程に優れているからね。・・・ただね、アリッサ、覚えておいて。君が困っている時は、必ず私が助けに行く。今まで通りアリッサの為なら、私はなんでも相談に乗るよ。だから―――」
「殿下!アリッサには、もう私が付いておりますので、殿下のお手を煩わせるようなことにはなりませんので。」
これにはさすがのアランド殿下も、人の話を遮ってまで割って入って来るレナートに対し、動じていないさまを続けることは難しかった。
すっと顔から表情を抜くと、普段のアランド殿下とは思えないような低い声でレナートの名を呼んだ。
「レナート。お前は今から談話室だ。」
その言葉に、アリッサはビクっと肩を強張らせたが、レナートはあくまでも冷静だった。アランド殿下と同じように顔から表情を失くしたレナートも低い声で「はい。」と返事をすると、アリッサの肩に手を置いた。
「あのっ、レナート様!!」
心配そうな表情を浮かべたアリッサに、レナートは優しく微笑んだ。
「少し殿下とお話してきます。アリッサは教室で待っていてください。」
「あのっ、殿下。あの、これは、全て私のせいなのです。 殿下、どうか、悪いのは私ですので、処罰でしたら、どうか、私に!!」
「ははっ、大丈夫だよ、アリッサ。別にレナートを取って食いはしないよ。」
「ですが、元はと言えば、私の頭が悪いせいです。 あの・・・、私が、お優しいお二人に甘えてしまったせいで、このようにお二人の気分を害することになってしまったのです。ですから、諸悪の根源は、やはり私なのです。ですので、どうか罰するのでしたらこの私を。」
ついに、アランド殿下の前で膝を付いたアリッサを見て、アランド殿下は困ったように眉を下げると優しく手を差し出した。
「アリッサ、諸悪の根源などと、そんな大げさな・・・。さあ、立って。アリッサは何も悪くないんだよ。」
「私も少し大人げなかったね。」と言って、アリッサを立ち上がらせたアランド殿下は、ごめんね。と言いながら、アリッサの制服の汚れを掃ってくれた。その姿を睨むように見続けていたレナートは、一切の表情を失くすと、アランド殿下に許しを請うアリッサの姿をその冷たい瞳に映していた。
アランド殿下のレナートを見る瞳は、益々冷たくなっていく。
「レナート、それは婚約者でもない女性に対して使う言葉ではないよね。」
「お言葉ですが、私とアリッサの気持ちは通じ合っております。殿下の先ほどのお言葉の方が、周りからの誤解を招くことになるかと思われますが・・・。」
それは間違いなく、先ほど殿下がアリッサに向かって言った「私と君の仲」を指していた。
さすがロゼット公爵家の嫡男だけあって、殿下が相手でもレナートは全く引く気配を見せなかった。そんな二人の睨み合いをハラハラしながら見守っていたアリッサだったが、これ以上アランド殿下の機嫌を損ねるのは、レナートにとって得策ではないと判断した。
「あの、殿下。」
「なんだい?アリッサ。」
アリッサに話しかけられたアランド殿下は、それまでの冷たい表情を一変させ、美しくアリッサに微笑みかけた。
「私に、御用がおありなのではございませんか?」
アリッサが、恐る恐る用件を尋ねると、アランド殿下は、満面の笑みでアリッサの手を取った。
「そうだったね、アリッサ。長い間待たせてしまってすまなかった。最近の私は公務に追われていてね、君との時間を作れなかったんだ。私が居ない間、大変だっただろう? でも、もう大丈夫だよ。また今日から、私がアリッサの勉強に協力するからね。」
「勉強?」
隣から地を這うような低い声が聞こえたと思ったら、目の据わったレナートがアリッサとアランド殿下の間に無理やり入って来た。その拍子にアランド殿下から離れたアリッサの手を掴むと、なんとか怒りを抑えているレナートがアランド殿下に向かってその誘いを断った。
「これからは、殿下のお手を煩わせることもありません。アリッサの勉強は私が見ますので、どうぞ、ご心配されませぬよう。」
レナートの威圧的な物言いに対し、ピクリと方眉を上げて、一瞬、不快そうな顔をしたアランド殿下だったが、直ぐに王族特有の笑みを顔に張り付けると、
「君では無理なのでは?」
と、感情のこもらない冷たい言葉をレナートに浴びせた。しかし、それに対してもレナートは負けてはいなかった。
「私はロゼット公爵家の嫡男です。それに見合った知識と教養は、既に身に付いております。いくら私のアリッサより学年が一つ下とて、何も問題はないでしょう。それに、万が一困ったことがあったとしても、私には、あの姉がついておりますので、何もご心配には及びません。」
「なにせ、あの姉ですので。」と、最後にもう一度、念を押すかのように言ったレナートは、既に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そんな不快な笑みを向けられたアランド殿下だったが、さすが王族とでも言うのか、表情一つ変えることなく涼しげな眼差しでレナートを見ている。
「ああ、確かに。エステルダにだったら、安心してアリッサをお願いできるね。そうだね、私には公務だけでなく、生徒会もあるしね・・・。うん、わかったよ。 アリッサ、これから勉強のことは、エステルダに協力してもらうといいよ。彼女の知識と教養は、他の令嬢では追いつけない程に優れているからね。・・・ただね、アリッサ、覚えておいて。君が困っている時は、必ず私が助けに行く。今まで通りアリッサの為なら、私はなんでも相談に乗るよ。だから―――」
「殿下!アリッサには、もう私が付いておりますので、殿下のお手を煩わせるようなことにはなりませんので。」
これにはさすがのアランド殿下も、人の話を遮ってまで割って入って来るレナートに対し、動じていないさまを続けることは難しかった。
すっと顔から表情を抜くと、普段のアランド殿下とは思えないような低い声でレナートの名を呼んだ。
「レナート。お前は今から談話室だ。」
その言葉に、アリッサはビクっと肩を強張らせたが、レナートはあくまでも冷静だった。アランド殿下と同じように顔から表情を失くしたレナートも低い声で「はい。」と返事をすると、アリッサの肩に手を置いた。
「あのっ、レナート様!!」
心配そうな表情を浮かべたアリッサに、レナートは優しく微笑んだ。
「少し殿下とお話してきます。アリッサは教室で待っていてください。」
「あのっ、殿下。あの、これは、全て私のせいなのです。 殿下、どうか、悪いのは私ですので、処罰でしたら、どうか、私に!!」
「ははっ、大丈夫だよ、アリッサ。別にレナートを取って食いはしないよ。」
「ですが、元はと言えば、私の頭が悪いせいです。 あの・・・、私が、お優しいお二人に甘えてしまったせいで、このようにお二人の気分を害することになってしまったのです。ですから、諸悪の根源は、やはり私なのです。ですので、どうか罰するのでしたらこの私を。」
ついに、アランド殿下の前で膝を付いたアリッサを見て、アランド殿下は困ったように眉を下げると優しく手を差し出した。
「アリッサ、諸悪の根源などと、そんな大げさな・・・。さあ、立って。アリッサは何も悪くないんだよ。」
「私も少し大人げなかったね。」と言って、アリッサを立ち上がらせたアランド殿下は、ごめんね。と言いながら、アリッサの制服の汚れを掃ってくれた。その姿を睨むように見続けていたレナートは、一切の表情を失くすと、アランド殿下に許しを請うアリッサの姿をその冷たい瞳に映していた。
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