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本来の性質
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「お母様?先ほど、お食事の時間とおっしゃいませんでしたか?・・・行かなくていいのですか?」
何故ソファーに座ってますの?と、不思議そうな顔でこちらを見ているエステルダと、きょとんと目を丸くしているレナートの顔を交互に見たロゼット公爵夫人は、いかにも楽しそうに目を細めて笑顔を作った。
「ふふっ、お父様は待たせておきましょうね。わたくしもあなた達二人と、少しお話がしたいと思いましてね。」
うふふ、と、意味ありげに微笑む母に、レナートは眉をひそめて疑わしい眼差しを向けた後、溜息交じりに話しかけた。
「母上も、その、政治的理由とやらで私達を黙らせようとしに来たのですか?」
「あらまあ、あなた達の恋路は、政治的理由が障害になっていますの?」
「お父様が・・・そうおっしゃいましたわ。」
「あらあら、可哀想に。ところでその政治的理由とは、なんですの?貴方達の恋が実ると、国内紛争でも始まりますの?」
「知りません!!父上に何度聞いたところで、それ以外のことは教えてくれませんでした。」
それを知りたいのは私のほうです。と、苛立った様子のレナートは、母親に鋭い視線を向けた。
「お母様、没落寸前のナーザス子爵家をそれほどまでに拒む理由があるということでしょうか。お父様は、あの家の姉弟だけは絶対駄目だとおっしゃいますが、その理由を聞こうとしても頑なに口を閉ざしてしまわれます。お父様が何を考えておられるのか、お母様は何かご存知ですか?」
すると公爵夫人は、娘達とは形の違う丸っこい瞳をパチパチ瞬かせて、さあ?と、とぼけたように掌を上に向けて首を傾げている。
母親の演技がかったわざとらしい態度を前に、エステルダもレナートも眉をひそめて怪しんでいた。そんな子供達を見た夫人は、またもや面白そうに口角を上げるのだった。
「それで?」
「え?」
「諦めるのですか?エステルダ。 諦めて、お父様の決めた相手と婚約するのですか?」
「そ、れは・・・。」
「レナート? 貴方も、諦めて従妹のミスティナを選ぶのですか?」
「そんなの・・・もちろん嫌です。」
「あなた達は、本当に私によく似ていますね。」
「?・・・母上、いくらなんでも、それは無理があるかと・・・。」
「そうですわ。わたくし達は完全にお父様似ですから・・・。」
実際、目の前に居るこじんまりとした可愛らしい母は、髪色にしても瞳にしても、高身長で派手なエステルダとレナートとは、似ても似つかない。どちらかと言うと地味な容姿の女性であった。
「まあ、ふふふ、本当に何も分かっていないのね。あなた達二人は母親似ですわよ。」
「はあ・・・そうでしょうか?」
首を傾げたエステルダとレナートの中で、母親とは温厚でいつもにこにこと微笑んでいる、小さくて可愛らしい人だ。決して夫の前には出て来ようとせず、揉め事とは無縁の物静かなタイプであって、貴族らしい派手な外見を持ち、威圧的にグイグイと前に出て行く自分達二人とは、どの角度から見ても違うように思えた。
「まあまあ、本当に自覚がないのねぇ。うふふ、まあ、いいわ。それよりも、あなた達は大切な人と出会ったのでしょう?」
「お母様は、どこまでご存知なのですか?」
しかし、エステルダの質問に、夫人は意味ありげに微笑んだだけだった。
「エステルダ、レナート、わたくしが言いたいことは一つだけです。」
「あなた達は、やっと出会えた大切な人よりもお父様を選んで、その先どうするのですか?」
「はい?」
「お・・・父様を、えら・・・ぶ?」
「ふふ、だって、そうでしょう?」
そう言って、いかにも楽しいというように目を細める母の顔を見た二人は、そのどこか狂気じみた笑顔に薄っすらと寒気を感じるのだった。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。お父様が、あなた達をどうにか出来るはずなどないのですから。ふふっ、だって、良い意味でも悪い意味でも、あなた達は私によく似ていますからね。」
最後まで怖い笑顔の母親が、ドアに向かい、食事に行きましょうと促したことで、このよく分からない会話は終わった。しかし、長い廊下を歩きながら、ぼそっと呟いた母の独り言を耳にしたエステルダは、目を見開き、はっと我に返ったような気がした。失われた光がその青い瞳に戻ると、不思議と身体に活力が湧いてきたような気持ちになった。
「うふふ、あなた達の母は、まだまだ諦めませんわよ。」
そう呟き、前を歩く母の様子をそっと伺うと、その瞳には生気がみなぎり、自信に満ち溢れている。
(お母様、まるで熱を放出し続けるエネルギーの塊のようだわ・・・。)
今度は後ろに、そっと目を向ける。すると、がっくりと肩を落とし、生気を失ったようなレナートがトボトボと歩いていた。
(レナート・・・、暗い。まるで不幸の塊のようだわ・・・。)
どうやら母の遠回しな激励も、無限に放たれるプラスの波動も、残念ながらレナートには届かなかったようだ。
何故ソファーに座ってますの?と、不思議そうな顔でこちらを見ているエステルダと、きょとんと目を丸くしているレナートの顔を交互に見たロゼット公爵夫人は、いかにも楽しそうに目を細めて笑顔を作った。
「ふふっ、お父様は待たせておきましょうね。わたくしもあなた達二人と、少しお話がしたいと思いましてね。」
うふふ、と、意味ありげに微笑む母に、レナートは眉をひそめて疑わしい眼差しを向けた後、溜息交じりに話しかけた。
「母上も、その、政治的理由とやらで私達を黙らせようとしに来たのですか?」
「あらまあ、あなた達の恋路は、政治的理由が障害になっていますの?」
「お父様が・・・そうおっしゃいましたわ。」
「あらあら、可哀想に。ところでその政治的理由とは、なんですの?貴方達の恋が実ると、国内紛争でも始まりますの?」
「知りません!!父上に何度聞いたところで、それ以外のことは教えてくれませんでした。」
それを知りたいのは私のほうです。と、苛立った様子のレナートは、母親に鋭い視線を向けた。
「お母様、没落寸前のナーザス子爵家をそれほどまでに拒む理由があるということでしょうか。お父様は、あの家の姉弟だけは絶対駄目だとおっしゃいますが、その理由を聞こうとしても頑なに口を閉ざしてしまわれます。お父様が何を考えておられるのか、お母様は何かご存知ですか?」
すると公爵夫人は、娘達とは形の違う丸っこい瞳をパチパチ瞬かせて、さあ?と、とぼけたように掌を上に向けて首を傾げている。
母親の演技がかったわざとらしい態度を前に、エステルダもレナートも眉をひそめて怪しんでいた。そんな子供達を見た夫人は、またもや面白そうに口角を上げるのだった。
「それで?」
「え?」
「諦めるのですか?エステルダ。 諦めて、お父様の決めた相手と婚約するのですか?」
「そ、れは・・・。」
「レナート? 貴方も、諦めて従妹のミスティナを選ぶのですか?」
「そんなの・・・もちろん嫌です。」
「あなた達は、本当に私によく似ていますね。」
「?・・・母上、いくらなんでも、それは無理があるかと・・・。」
「そうですわ。わたくし達は完全にお父様似ですから・・・。」
実際、目の前に居るこじんまりとした可愛らしい母は、髪色にしても瞳にしても、高身長で派手なエステルダとレナートとは、似ても似つかない。どちらかと言うと地味な容姿の女性であった。
「まあ、ふふふ、本当に何も分かっていないのね。あなた達二人は母親似ですわよ。」
「はあ・・・そうでしょうか?」
首を傾げたエステルダとレナートの中で、母親とは温厚でいつもにこにこと微笑んでいる、小さくて可愛らしい人だ。決して夫の前には出て来ようとせず、揉め事とは無縁の物静かなタイプであって、貴族らしい派手な外見を持ち、威圧的にグイグイと前に出て行く自分達二人とは、どの角度から見ても違うように思えた。
「まあまあ、本当に自覚がないのねぇ。うふふ、まあ、いいわ。それよりも、あなた達は大切な人と出会ったのでしょう?」
「お母様は、どこまでご存知なのですか?」
しかし、エステルダの質問に、夫人は意味ありげに微笑んだだけだった。
「エステルダ、レナート、わたくしが言いたいことは一つだけです。」
「あなた達は、やっと出会えた大切な人よりもお父様を選んで、その先どうするのですか?」
「はい?」
「お・・・父様を、えら・・・ぶ?」
「ふふ、だって、そうでしょう?」
そう言って、いかにも楽しいというように目を細める母の顔を見た二人は、そのどこか狂気じみた笑顔に薄っすらと寒気を感じるのだった。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。お父様が、あなた達をどうにか出来るはずなどないのですから。ふふっ、だって、良い意味でも悪い意味でも、あなた達は私によく似ていますからね。」
最後まで怖い笑顔の母親が、ドアに向かい、食事に行きましょうと促したことで、このよく分からない会話は終わった。しかし、長い廊下を歩きながら、ぼそっと呟いた母の独り言を耳にしたエステルダは、目を見開き、はっと我に返ったような気がした。失われた光がその青い瞳に戻ると、不思議と身体に活力が湧いてきたような気持ちになった。
「うふふ、あなた達の母は、まだまだ諦めませんわよ。」
そう呟き、前を歩く母の様子をそっと伺うと、その瞳には生気がみなぎり、自信に満ち溢れている。
(お母様、まるで熱を放出し続けるエネルギーの塊のようだわ・・・。)
今度は後ろに、そっと目を向ける。すると、がっくりと肩を落とし、生気を失ったようなレナートがトボトボと歩いていた。
(レナート・・・、暗い。まるで不幸の塊のようだわ・・・。)
どうやら母の遠回しな激励も、無限に放たれるプラスの波動も、残念ながらレナートには届かなかったようだ。
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