24 / 95
父の言う政治的理由とは?
しおりを挟む
「お言葉ですが父上、我が公爵家ならば、姉上に政略結婚などさせる必要はないのではありませんか?今までは姉上自身が、殿下に嫁ぎたいと頑張っていましたから、私達家族も応援していましたが、本人がやめたいと言うのであれば、無理に婚約者候補を続けさせる意味はないと思います。それに、政略結婚はわかりますが、愛情もないのに王家に嫁ぐというのは、精神的負担が大きすぎるかと思います。姉上が辛すぎるのではありませんか?」
「ああ、確かに我が家は、これ以上の権力も財力も必要ないだろうな。」
ここで、初めてロゼット公爵は、書類から顔を上げ、感情の読み取れない瞳で、二人の子供を交互に見据えた。
「でしたら、姉上のお気持ち―――」
「原因は、どこぞの弱小貴族か?」
突然の父の言葉に、レナートもエステルダも面食らって言葉が出てこなかった。
「レナート、何故お前も一緒に呼ばれたのか、これで分かっただろう?」
「・・・何をご存知なのですか?」
「全てだ。」
「お父様、そこまで分かっていらっしゃるなら、」
「駄目だ。」
「なぜです!?父上!! 我が家が少し援助するだけで彼らはこれまで通り貴族でいられます。父上が全て知っていると言うのでしたら、姉弟が決して容姿だけではなく、あらゆる面でとても優秀だということもご存知のはずです。そこに私と姉上が加われば、いくらでも先の見通しは立つはずです。」
レナートがこのように、語気を強めて父親に意見したことなど、今まで一度もないことであった。彼は元騎士であった父親を尊敬していたし、文武両道である父の言う事は、常に正しく、間違いなどある訳がないと思い込んでいたのだから。だが、今回のナーザス子爵家に関してだけは、いくら尊敬する父の言う事でも納得するわけにはいかないのだ。
なんとか自分達の気持ちを認めてもらおうと、必死に食らい付いて行くレナートであったが、父親であるロゼット公爵は、何も言わずに感情のない目を向けるだけであった。
「お父様、駄目だとおっしゃるなら、きちんとその理由も教えてくださいませ。これでは、わたくしもレナートも納得しかねます。」
確かに自分勝手な事を言っているという自覚はエステルダにもある。自分がアランド殿下に勝手に恋心を抱き、どうしても殿下の婚約者になりたい一心で、家の権力を使い、有利に話を進めようと父にお願いしたこともあった。それが、他に好きな人が現れたからと言って、やっぱりなかったことにしたいなどと、そんな簡単な話ではないことも分かっている。
しかし、諦めて王家に嫁ぐにしても、会話にもならない今の状態では納得しようにも無理がある。自分が関わっているのは、王家と言う面倒な相手の為、最悪泣き寝入りもあるかもしれない、しかし、レナートとアリッサの場合は、そこまで頭ごなしに否定することもないのではないかと思った。
しかし、レナートとエステルダがここまで真剣に説明を求めたと言うのに、父親から返って来た言葉は、「政治的理由」と言う、たった一言のあまりに心無いものだった。
「父上!! それでは姉上は、このまま愛してもいない殿下に嫁ぎ、夫の愛も受けられないまま、ひたすら国に尽くす人生を送れというのですか!?」
レナートの怒号が部屋に響き渡ったが、そんなレナートなど、まるで意に介さないかのように、ロゼット公爵の声は落ち着いていた。
「エステルダが殿下の婚約者候補から外れたいというなら、それは別に構わない。先ほども言ったように、我が公爵家はお前達に政略結婚をさせる必要などない。」
「へ?」
「は!? だったら政治的理由とは一体・・・。」
「ナーザス子爵家の姉弟だけは駄目だと言っている。」
「なっ!! 父上、それでは―――」
「レナート、この話はこれで終わりだ。それと、エステルダ、お前が殿下の婚約者候補から降りることは、私から国王に伝えておく。他に婚約したい者がいないのなら、私の方で何人か厳選しておこう。 レナート、お前はクラベス伯爵家のミスティナとの婚約話を進めるからそのつもりで。」
「なんて理不尽な・・・。まさか、父上があそこまで話の分からない人間だったなんて・・・。」
がっくりと肩を落として、信じられない・・・と、レナートは頭を抱えていた。そんな弟の姿を、エステルダは疲れたように椅子に腰かけながら力なく見ていた。
だが、そんな彼女も、目の前で項垂れている弟と、それほど気持ちに大差はなかった。
先ほどの話し合いにおいて、どれほど二人が父を説得しようとしても、父は駄目だの一点張りで、結局意味の分からない政治的理由の内容も説明せず、息子の意見も、娘の気持ちも一切聞き入れようとしなかったのだ。
普段の知的な父親からは想像もできない、あまりに乱暴な話の進め方に、レナートもエステルダもこれが本当に自分の父親なのかと不信感を覚える程、父の意思は頑なで、それでいて、どこか幼稚にも見えるのだった。
そうして二人が途方に暮れている中、ドアのノックと共に食事の時間を知らせる母の声が聞こえてきた。
なぜ母が?と、二人は顔を見合わせた後、エステルダがどうぞと声をかける。
「あらあら、二人共、随分と元気がないようですね。」
そう言って部屋に入って来た母は、にこにこと微笑みながら、二人の側のソファーにちょこんと座ったのだった。
「ああ、確かに我が家は、これ以上の権力も財力も必要ないだろうな。」
ここで、初めてロゼット公爵は、書類から顔を上げ、感情の読み取れない瞳で、二人の子供を交互に見据えた。
「でしたら、姉上のお気持ち―――」
「原因は、どこぞの弱小貴族か?」
突然の父の言葉に、レナートもエステルダも面食らって言葉が出てこなかった。
「レナート、何故お前も一緒に呼ばれたのか、これで分かっただろう?」
「・・・何をご存知なのですか?」
「全てだ。」
「お父様、そこまで分かっていらっしゃるなら、」
「駄目だ。」
「なぜです!?父上!! 我が家が少し援助するだけで彼らはこれまで通り貴族でいられます。父上が全て知っていると言うのでしたら、姉弟が決して容姿だけではなく、あらゆる面でとても優秀だということもご存知のはずです。そこに私と姉上が加われば、いくらでも先の見通しは立つはずです。」
レナートがこのように、語気を強めて父親に意見したことなど、今まで一度もないことであった。彼は元騎士であった父親を尊敬していたし、文武両道である父の言う事は、常に正しく、間違いなどある訳がないと思い込んでいたのだから。だが、今回のナーザス子爵家に関してだけは、いくら尊敬する父の言う事でも納得するわけにはいかないのだ。
なんとか自分達の気持ちを認めてもらおうと、必死に食らい付いて行くレナートであったが、父親であるロゼット公爵は、何も言わずに感情のない目を向けるだけであった。
「お父様、駄目だとおっしゃるなら、きちんとその理由も教えてくださいませ。これでは、わたくしもレナートも納得しかねます。」
確かに自分勝手な事を言っているという自覚はエステルダにもある。自分がアランド殿下に勝手に恋心を抱き、どうしても殿下の婚約者になりたい一心で、家の権力を使い、有利に話を進めようと父にお願いしたこともあった。それが、他に好きな人が現れたからと言って、やっぱりなかったことにしたいなどと、そんな簡単な話ではないことも分かっている。
しかし、諦めて王家に嫁ぐにしても、会話にもならない今の状態では納得しようにも無理がある。自分が関わっているのは、王家と言う面倒な相手の為、最悪泣き寝入りもあるかもしれない、しかし、レナートとアリッサの場合は、そこまで頭ごなしに否定することもないのではないかと思った。
しかし、レナートとエステルダがここまで真剣に説明を求めたと言うのに、父親から返って来た言葉は、「政治的理由」と言う、たった一言のあまりに心無いものだった。
「父上!! それでは姉上は、このまま愛してもいない殿下に嫁ぎ、夫の愛も受けられないまま、ひたすら国に尽くす人生を送れというのですか!?」
レナートの怒号が部屋に響き渡ったが、そんなレナートなど、まるで意に介さないかのように、ロゼット公爵の声は落ち着いていた。
「エステルダが殿下の婚約者候補から外れたいというなら、それは別に構わない。先ほども言ったように、我が公爵家はお前達に政略結婚をさせる必要などない。」
「へ?」
「は!? だったら政治的理由とは一体・・・。」
「ナーザス子爵家の姉弟だけは駄目だと言っている。」
「なっ!! 父上、それでは―――」
「レナート、この話はこれで終わりだ。それと、エステルダ、お前が殿下の婚約者候補から降りることは、私から国王に伝えておく。他に婚約したい者がいないのなら、私の方で何人か厳選しておこう。 レナート、お前はクラベス伯爵家のミスティナとの婚約話を進めるからそのつもりで。」
「なんて理不尽な・・・。まさか、父上があそこまで話の分からない人間だったなんて・・・。」
がっくりと肩を落として、信じられない・・・と、レナートは頭を抱えていた。そんな弟の姿を、エステルダは疲れたように椅子に腰かけながら力なく見ていた。
だが、そんな彼女も、目の前で項垂れている弟と、それほど気持ちに大差はなかった。
先ほどの話し合いにおいて、どれほど二人が父を説得しようとしても、父は駄目だの一点張りで、結局意味の分からない政治的理由の内容も説明せず、息子の意見も、娘の気持ちも一切聞き入れようとしなかったのだ。
普段の知的な父親からは想像もできない、あまりに乱暴な話の進め方に、レナートもエステルダもこれが本当に自分の父親なのかと不信感を覚える程、父の意思は頑なで、それでいて、どこか幼稚にも見えるのだった。
そうして二人が途方に暮れている中、ドアのノックと共に食事の時間を知らせる母の声が聞こえてきた。
なぜ母が?と、二人は顔を見合わせた後、エステルダがどうぞと声をかける。
「あらあら、二人共、随分と元気がないようですね。」
そう言って部屋に入って来た母は、にこにこと微笑みながら、二人の側のソファーにちょこんと座ったのだった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる