18 / 95
本人から直接言わせたい
しおりを挟む
「レナートは、近頃のアリッサ様の態度に心を痛めていますわ。」
思いもよらないエステルダの言葉に、アリッサは不安を隠し切れないようだった。
「そんな・・・、私、何か・・・しましたか?」
縋るような眼差しを向けられたエステルダは、今にも泣きそうなアリッサの顔を見ながら、先ほどまでのイライラした気分がすっと消えるのを感じた。
(ふふっ、ほら、ごらんなさいな。)
アランド殿下から遠ざける為に、今までアリッサには、随分と酷い言葉をぶつけて来た。しかし、何を言ってもアリッサには届かぬようで、その愛らしい顔を怒りに歪めることは敵わなかった。なのに、今のアリッサはどうだ。レナートの名前一つで、このざまである。それは、ずっと相手にされなかったエステルダが、アリッサの唯一の弱点を掲げ、優越感に浸る瞬間でもあった。
「最近、アリッサ様と視線が合わない。」
「は!?」
「しかも、ハーロン様とは随分と親しくしている姿を見かける。と・・・。
ああ・・・なんて可哀想なレナート。アリッサ様は、あれほどレナートへの恋心をチラつかせておいて、もう、お気持ちが他所へ移ったのですか?これほどまでにレナートの心をかき乱しておいて?」
「ち、ちがっ、います!!私は、心変わりなどしていません。そ、それに、レナート様の心を乱すなど・・・私などには、とても・・・」
「ええぇっ!?私などにはなんですって?アリッサ様、そんな、モゴモゴ話していては、わたくし聞き取れませんことよ!?もっと大きな声で言っていただけますかしら!?」
エステルダは、自分の耳に手を当てて、身振りを交えてまで聞こえないと言ってくる。しかも、その顔には薄っすらと馬鹿にしたような笑みを浮かべており、アリッサの心を強く苛立たせた。
「ですから!!私は心変わりなど致しておりません!!ハーロンはただの従兄です!」
「では、アリッサ様は、今でもレナートが好きということですか?」
エステルダは、未だ、いやらしい笑みを浮かべている。怒ったアリッサは、はっきりと言い切った。
「はい!」
カチャン!
アリッサの大声に驚いた他の生徒が、床にフォークでも落としたような音を立てた。
「コホン! では、レナートの視線を避けていた理由は―――」
「エステルダ様。もう勘弁してください。私をそんなに虐めて楽しいですか!?」
アリッサが放つ空気が、一気に冷たくなるのを敏感に感じ取ったエステルダは、怒りを孕んだアリッサの鋭い瞳を前に、いきなり何事かと息を飲んだ。
「なっ!? 虐めですって?なぜ、そのような人聞きの悪いことを言うのですか?」
「だって、こんなに責め立てて、虐めとしか思えません!」
「こんなっ、こんな、今にも吹き飛んでしまいそうな貧乏子爵家の私に!」
「いくら努力した所でどうにもならない程の高位貴族相手に!」
「貴族としての未来など、どこにもないこの私に!」
「エステルダ様は、一体どうしろと言うのです!? そんなに意地悪ばかり言うのなら、私、今、ここで泣きますよ!?」
いいんですか!?と、脅しをかけて黙らせようとしたアリッサだったが、実際彼女の大きな緑色の瞳は、既に涙で潤んでいた。
「あ・・・いや、駄目ですわ、駄目。それは困ります!!アリッサ様、どうか泣かないでくださいませ。そんな意地悪をするつもりなどないのです。」
「・・・では、エステルダ様は、私に何を望んでいるのですか。」
涙目のアリッサを前に、エステルダは、少し責め過ぎてしまったと後悔した。確かに、多少やり込めてやりたいと思ったかもしれないけれど、決してアリッサを虐めようと考えていたわけではない。ただ、多くを語らないアリッサの本音を、どうしても、今、ここで引き出したいと思ってしまったのだ。
「わたくし、無神経でしたわ。ごめんなさい。 ですが、アリッサ様は、いつもご自分の気持ちを隠してしまわれるので・・・。」
「エステルダ様は、こうやって人の気持ちを暴いて満足されるのでしょうが、私は、叶わぬ気持ちを吐露したところで、何も得るものはありません。口に出してしまえば、後に残るのは虚しさだけなのです・・・。」
アリッサの口調はとても冷淡であって、何も動じていないような表情を取り繕っていたが、その緑色の瞳には、今にも零れ落ちてしまいそうなほど、たくさんの涙が溢れていた。
「あっ、アリッサ様。」
しまった、泣く!と思ったエステルダが、慌てて立ち上がると、アリッサの背後からレナートが近づいて来るのが視界に入った。
(遅いっ!!レナートのせいで、もう少しでアリッサ様を泣かせるところだったではありませんか!!)
アリッサのいくつか後ろのテーブルに、レナートがこっそり・・・いや、たまたま座っていたことは、エステルダも早い段階で気が付いていた。だからこそ、いまいち確信を持てずに、動くことが出来ないでいた弟の為に、アリッサの口から、本人に聞こえるように本当の気持ちを言わせたかったのだ。
レナートは落ち着いた様子で二人のテーブルの横に立つと、驚きに目を見開いて、こちらを見上げているアリッサの頬に、そっと手を当てて、零れてしまった涙を拭い取った。
「姉上。感謝します。」
そして、エステルダに向かってお礼を言ったレナートは、アリッサの手を取り、椅子から立たせた。そして、その手をしっかりとつなぎ直すと、何も言わずにスタスタと歩き出したのだった。
戸惑ったアリッサは、レナートに手を引かれながらもエステルダの方へ顔を向けると、彼女は、先ほどまでとは違った優しい顔で、にっこりと微笑み、上品に手を振って見送っていたのだった。
思いもよらないエステルダの言葉に、アリッサは不安を隠し切れないようだった。
「そんな・・・、私、何か・・・しましたか?」
縋るような眼差しを向けられたエステルダは、今にも泣きそうなアリッサの顔を見ながら、先ほどまでのイライラした気分がすっと消えるのを感じた。
(ふふっ、ほら、ごらんなさいな。)
アランド殿下から遠ざける為に、今までアリッサには、随分と酷い言葉をぶつけて来た。しかし、何を言ってもアリッサには届かぬようで、その愛らしい顔を怒りに歪めることは敵わなかった。なのに、今のアリッサはどうだ。レナートの名前一つで、このざまである。それは、ずっと相手にされなかったエステルダが、アリッサの唯一の弱点を掲げ、優越感に浸る瞬間でもあった。
「最近、アリッサ様と視線が合わない。」
「は!?」
「しかも、ハーロン様とは随分と親しくしている姿を見かける。と・・・。
ああ・・・なんて可哀想なレナート。アリッサ様は、あれほどレナートへの恋心をチラつかせておいて、もう、お気持ちが他所へ移ったのですか?これほどまでにレナートの心をかき乱しておいて?」
「ち、ちがっ、います!!私は、心変わりなどしていません。そ、それに、レナート様の心を乱すなど・・・私などには、とても・・・」
「ええぇっ!?私などにはなんですって?アリッサ様、そんな、モゴモゴ話していては、わたくし聞き取れませんことよ!?もっと大きな声で言っていただけますかしら!?」
エステルダは、自分の耳に手を当てて、身振りを交えてまで聞こえないと言ってくる。しかも、その顔には薄っすらと馬鹿にしたような笑みを浮かべており、アリッサの心を強く苛立たせた。
「ですから!!私は心変わりなど致しておりません!!ハーロンはただの従兄です!」
「では、アリッサ様は、今でもレナートが好きということですか?」
エステルダは、未だ、いやらしい笑みを浮かべている。怒ったアリッサは、はっきりと言い切った。
「はい!」
カチャン!
アリッサの大声に驚いた他の生徒が、床にフォークでも落としたような音を立てた。
「コホン! では、レナートの視線を避けていた理由は―――」
「エステルダ様。もう勘弁してください。私をそんなに虐めて楽しいですか!?」
アリッサが放つ空気が、一気に冷たくなるのを敏感に感じ取ったエステルダは、怒りを孕んだアリッサの鋭い瞳を前に、いきなり何事かと息を飲んだ。
「なっ!? 虐めですって?なぜ、そのような人聞きの悪いことを言うのですか?」
「だって、こんなに責め立てて、虐めとしか思えません!」
「こんなっ、こんな、今にも吹き飛んでしまいそうな貧乏子爵家の私に!」
「いくら努力した所でどうにもならない程の高位貴族相手に!」
「貴族としての未来など、どこにもないこの私に!」
「エステルダ様は、一体どうしろと言うのです!? そんなに意地悪ばかり言うのなら、私、今、ここで泣きますよ!?」
いいんですか!?と、脅しをかけて黙らせようとしたアリッサだったが、実際彼女の大きな緑色の瞳は、既に涙で潤んでいた。
「あ・・・いや、駄目ですわ、駄目。それは困ります!!アリッサ様、どうか泣かないでくださいませ。そんな意地悪をするつもりなどないのです。」
「・・・では、エステルダ様は、私に何を望んでいるのですか。」
涙目のアリッサを前に、エステルダは、少し責め過ぎてしまったと後悔した。確かに、多少やり込めてやりたいと思ったかもしれないけれど、決してアリッサを虐めようと考えていたわけではない。ただ、多くを語らないアリッサの本音を、どうしても、今、ここで引き出したいと思ってしまったのだ。
「わたくし、無神経でしたわ。ごめんなさい。 ですが、アリッサ様は、いつもご自分の気持ちを隠してしまわれるので・・・。」
「エステルダ様は、こうやって人の気持ちを暴いて満足されるのでしょうが、私は、叶わぬ気持ちを吐露したところで、何も得るものはありません。口に出してしまえば、後に残るのは虚しさだけなのです・・・。」
アリッサの口調はとても冷淡であって、何も動じていないような表情を取り繕っていたが、その緑色の瞳には、今にも零れ落ちてしまいそうなほど、たくさんの涙が溢れていた。
「あっ、アリッサ様。」
しまった、泣く!と思ったエステルダが、慌てて立ち上がると、アリッサの背後からレナートが近づいて来るのが視界に入った。
(遅いっ!!レナートのせいで、もう少しでアリッサ様を泣かせるところだったではありませんか!!)
アリッサのいくつか後ろのテーブルに、レナートがこっそり・・・いや、たまたま座っていたことは、エステルダも早い段階で気が付いていた。だからこそ、いまいち確信を持てずに、動くことが出来ないでいた弟の為に、アリッサの口から、本人に聞こえるように本当の気持ちを言わせたかったのだ。
レナートは落ち着いた様子で二人のテーブルの横に立つと、驚きに目を見開いて、こちらを見上げているアリッサの頬に、そっと手を当てて、零れてしまった涙を拭い取った。
「姉上。感謝します。」
そして、エステルダに向かってお礼を言ったレナートは、アリッサの手を取り、椅子から立たせた。そして、その手をしっかりとつなぎ直すと、何も言わずにスタスタと歩き出したのだった。
戸惑ったアリッサは、レナートに手を引かれながらもエステルダの方へ顔を向けると、彼女は、先ほどまでとは違った優しい顔で、にっこりと微笑み、上品に手を振って見送っていたのだった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚しましたが、愛されていません
うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。
彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。
為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大嫌いなんて言ってごめんと今さら言われても
はなまる
恋愛
シルベスタ・オリヴィエは学園に入った日に恋に落ちる。相手はフェリオ・マーカス侯爵令息。見目麗しい彼は女生徒から大人気でいつも彼の周りにはたくさんの令嬢がいた。彼を独占しないファンクラブまで存在すると言う人気ぶりで、そんな中でシルベスタはファンクアブに入り彼を応援するがシルベスタの行いがあまりに過激だったためついにフェリオから大っ嫌いだ。俺に近づくな!と言い渡された。
だが、思わぬことでフェリオはシルベスタに助けを求めることになるが、オリヴィエ伯爵家はシルベスタを目に入れても可愛がっており彼女を泣かせた男の家になどとけんもほろろで。
フェリオの甘い誘いや言葉も時すでに遅く…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる