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雷効果
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一方、アリッサを守れと、レナートに支持を出したエステルダだったが、その後の二人を観察する余裕もなく、音に怯えて床にうずくまると、頭を押さえて震えていた。
そんな一連の様子を冷静に観察していたヴィスタだったが、未だ一人でダンゴムシを継続しているエステルダを見つめると、クスリと笑い、静かに近づいて行った。
「エステルダ様。失礼をお許しくださいね。」
うずくまるエステルダの耳元で静かに囁いたヴィスタは、横に座るなり、ひょいとエステルダを抱き起こした。そして、そのまま自分の膝の上に座らせると、両腕で優しく包み込んだのだ。
あまりの出来事に何も言えなくなってしまったエステルダが、大きな青い瞳をぱちくりさせていると、ヴィスタは、また耳元で囁いた。
「姉の為にありがとうございます。エステルダ様は僕がお守り致しますから、どうかご安心を。先ほども言いましたが、大丈夫です。雷はここには落ちません。僕を信じてください。」
ヴィスタのうっとりするような柔らかい声と、体から伝わる心地よい温もりが、それまでの恐怖心を徐々に消してゆくような気がする。まるで、安心が心の中に染みわたっていくようにも感じる。ヴィスタの腕の中で、しばし我を忘れてポーっと呆けてしまったエステルダだったが、建物の真上で、またしても大きな雷の音が鳴ると、体をビクッと跳ね上げ、悲鳴を上げながらヴィスタの胸に縋り付いてしまった。
ヴィスタは、そんなエステルダを優しく見下ろすと、背中に手を回し、ゆっくりと擦ってあげるのだった。
どれ程の時間が経ったのだろう。雨はまだ降り続いていたが、雷の音は随分と遠くに行ったようだった。
「エステルダ様、もう大丈夫ですよ。雷は離れて行ったようです。」
そう言ったヴィスタが、エステルダの体から手を離したことによって、夢見心地で幸せだった時間が、一気に現実に戻されるのを感じた。
(なぜ、こんなことに・・・。なんて、恥ずかしい・・・。これは、この後、わたくしは一体どうしたら・・・。)
顔を真っ赤にしたエステルダは、俯いたまま、消え入りそうなほど小さな声で「申し訳ありませんでした・・・。」と、言うと、這うようにヴィスタの膝の上から降りた。
そんな彼女を見ながら、ヴィスタはにっこりと微笑んだ。
「こちらこそ、無礼をお許しください。雷が遠くに行って良かったですね。」
ちらりと見たヴィスタの微笑みが、あまりにも美しかったせいで、つい目を細め、その姿に見入ってしまいそうになったエステルダだったが、軽く頭を振ると、なんとか正気を保った。
そして、改めて「助かりました。」と、深々と頭を下げた。
未だ頬を赤らめて、しおらしい乙女のようなエステルダだったが、その視線をレナートとアリッサの方に向けた途端、それは直ぐに驚愕の表情に変わった。
なんと二人は、未だがっしりと抱き合っており、いや違う、レナートがアリッサを隙間なく抱え込んでおり、桃色の髪に鼻を埋めたレナートが、まるで心を奪われたかのように目を閉じて、幸せそうな表情を浮かべているのだった。
弟の、あまりに気持ちの悪い姿を見てしまったエステルダは、腕に鳥肌が立つのを感じながらも、レナートに向かって話しかけた。
「レ、レナート?もう、雷は遠ざかりましたよ。ですから、そろそろアリッサ様を離してあげた方がよいのではありませんか?」
「・・・・・・。」
薄く目を開けたレナートだったが、エステルダの方をちらりと見ただけで、再び何も聞こえなかったかのように、その瞳を閉じた。
「レナート?」
「・・・・・・。」
「レナート!! アリッサ様から離れるのです!!」
ついに怒ったエステルダが、大きな声を出して二人に近寄ると、レナートの太い腕をバシバシと強めに叩いた。すると、アリッサごと体を背けたレナートが、くぐもった声で呟く。
「・・・もう少し・・・。」
「なっ!? レナート、なりません、離れなさい!!ちょっ、レナート!! ヴィスタ様、そこで笑ってないで離すのを手伝ってくださいませ!」
口に手を当てて、肩を震わせて笑っていたヴィスタだったが、エステルダに助けを求められると、なんとか真面目な顔を取り繕い、レナートを引き離すのを手伝った。
二人から腕を掴まれたレナートが、渋々腕の力を抜くと、中からはゆでダコのように全身真っ赤になったアリッサが、今にも気絶してしまいそうなほど疲労した状態でヨロヨロと現れたのだった。
この後の四人は、なんとも気まずい沈黙に包まれた。
にこにこと微笑んでいるヴィスタの後ろには、真っ赤な顔のアリッサが、隠れるようにして両手を頬に当てている。そんなアリッサを熱く見つめるレナート。そんな弟を気にするエステルダは、自分の腕の鳥肌を擦っていたが、気が付けばヴィスタと視線が合ってしまう。視線を逸らす度に、恥ずかしいやら嬉しいやらと、様々な感情が押し寄せて来るので、どうしても顔に熱が集まってしまうのだった。
果てしなく長い沈黙に、心身共に疲労した時間だったが、この日を境に四人の関係は劇的に変わっていった。
そんな一連の様子を冷静に観察していたヴィスタだったが、未だ一人でダンゴムシを継続しているエステルダを見つめると、クスリと笑い、静かに近づいて行った。
「エステルダ様。失礼をお許しくださいね。」
うずくまるエステルダの耳元で静かに囁いたヴィスタは、横に座るなり、ひょいとエステルダを抱き起こした。そして、そのまま自分の膝の上に座らせると、両腕で優しく包み込んだのだ。
あまりの出来事に何も言えなくなってしまったエステルダが、大きな青い瞳をぱちくりさせていると、ヴィスタは、また耳元で囁いた。
「姉の為にありがとうございます。エステルダ様は僕がお守り致しますから、どうかご安心を。先ほども言いましたが、大丈夫です。雷はここには落ちません。僕を信じてください。」
ヴィスタのうっとりするような柔らかい声と、体から伝わる心地よい温もりが、それまでの恐怖心を徐々に消してゆくような気がする。まるで、安心が心の中に染みわたっていくようにも感じる。ヴィスタの腕の中で、しばし我を忘れてポーっと呆けてしまったエステルダだったが、建物の真上で、またしても大きな雷の音が鳴ると、体をビクッと跳ね上げ、悲鳴を上げながらヴィスタの胸に縋り付いてしまった。
ヴィスタは、そんなエステルダを優しく見下ろすと、背中に手を回し、ゆっくりと擦ってあげるのだった。
どれ程の時間が経ったのだろう。雨はまだ降り続いていたが、雷の音は随分と遠くに行ったようだった。
「エステルダ様、もう大丈夫ですよ。雷は離れて行ったようです。」
そう言ったヴィスタが、エステルダの体から手を離したことによって、夢見心地で幸せだった時間が、一気に現実に戻されるのを感じた。
(なぜ、こんなことに・・・。なんて、恥ずかしい・・・。これは、この後、わたくしは一体どうしたら・・・。)
顔を真っ赤にしたエステルダは、俯いたまま、消え入りそうなほど小さな声で「申し訳ありませんでした・・・。」と、言うと、這うようにヴィスタの膝の上から降りた。
そんな彼女を見ながら、ヴィスタはにっこりと微笑んだ。
「こちらこそ、無礼をお許しください。雷が遠くに行って良かったですね。」
ちらりと見たヴィスタの微笑みが、あまりにも美しかったせいで、つい目を細め、その姿に見入ってしまいそうになったエステルダだったが、軽く頭を振ると、なんとか正気を保った。
そして、改めて「助かりました。」と、深々と頭を下げた。
未だ頬を赤らめて、しおらしい乙女のようなエステルダだったが、その視線をレナートとアリッサの方に向けた途端、それは直ぐに驚愕の表情に変わった。
なんと二人は、未だがっしりと抱き合っており、いや違う、レナートがアリッサを隙間なく抱え込んでおり、桃色の髪に鼻を埋めたレナートが、まるで心を奪われたかのように目を閉じて、幸せそうな表情を浮かべているのだった。
弟の、あまりに気持ちの悪い姿を見てしまったエステルダは、腕に鳥肌が立つのを感じながらも、レナートに向かって話しかけた。
「レ、レナート?もう、雷は遠ざかりましたよ。ですから、そろそろアリッサ様を離してあげた方がよいのではありませんか?」
「・・・・・・。」
薄く目を開けたレナートだったが、エステルダの方をちらりと見ただけで、再び何も聞こえなかったかのように、その瞳を閉じた。
「レナート?」
「・・・・・・。」
「レナート!! アリッサ様から離れるのです!!」
ついに怒ったエステルダが、大きな声を出して二人に近寄ると、レナートの太い腕をバシバシと強めに叩いた。すると、アリッサごと体を背けたレナートが、くぐもった声で呟く。
「・・・もう少し・・・。」
「なっ!? レナート、なりません、離れなさい!!ちょっ、レナート!! ヴィスタ様、そこで笑ってないで離すのを手伝ってくださいませ!」
口に手を当てて、肩を震わせて笑っていたヴィスタだったが、エステルダに助けを求められると、なんとか真面目な顔を取り繕い、レナートを引き離すのを手伝った。
二人から腕を掴まれたレナートが、渋々腕の力を抜くと、中からはゆでダコのように全身真っ赤になったアリッサが、今にも気絶してしまいそうなほど疲労した状態でヨロヨロと現れたのだった。
この後の四人は、なんとも気まずい沈黙に包まれた。
にこにこと微笑んでいるヴィスタの後ろには、真っ赤な顔のアリッサが、隠れるようにして両手を頬に当てている。そんなアリッサを熱く見つめるレナート。そんな弟を気にするエステルダは、自分の腕の鳥肌を擦っていたが、気が付けばヴィスタと視線が合ってしまう。視線を逸らす度に、恥ずかしいやら嬉しいやらと、様々な感情が押し寄せて来るので、どうしても顔に熱が集まってしまうのだった。
果てしなく長い沈黙に、心身共に疲労した時間だったが、この日を境に四人の関係は劇的に変わっていった。
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