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貧乏どころか貴族でもなくなる
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その日、エステルダは勇気を振り絞ってアリッサに話しかけた。
「お話がありますので、放課後にお時間をいただけませんか?」
たったこれだけの言葉を言うだけだというのに、この誘いを断られたなら、人生が終わってしまうのではないかと思う程緊張しており、エステルダは心臓が口から飛び出しそうだった。
結局、アリッサが泣いたあの日、邸に戻り、二人で延々と話し込んでみたものの、肝心のアリッサが何を考えているのか全く分からない上に、唯一分かっているレナートへの恋心を、本人に伝えていいものかどうかエステルダには判断できなかったのだ。
レナートの関心が少しずつ・・・いや、思いっきりアリッサに向いていることには気が付いている。アリッサが、過去にレナートから貰ったあのリボンを、今でも大切にしていることだって絶対に悪い気はしていないはずだし、なにより・・・、
先日、たまたま姉弟でアリッサを見かけた際などは、
「姉上!! アリッサ嬢が嫌がっています!!」
嫌がられていることも気付かない、空気の読めない愚か者(アランド殿下)が、アリッサの手を握っているのを見てしまったレナートは、顔を真っ赤にして、まるで赤鬼のように怒っていたのだ。
(レナート!! 貴方、ついにアリッサ様に落ちたのですね!? なんと・・・これが噂に聞く、両想いと言うものなのですか!?)
普段、温厚なレナートが、アランド殿下を相手にあれほどの怒りを表すのだから、隣で弟を凝視しているエステルダが、勝手に確信を持ってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
そうして今、なんとか約束を取り付けたエステルダは、隠れてコソコソ見ている普段とは違い、堂々とアリッサの前に座っているのだった。
「以前アリッサ様が、わたくしに教えてくださったことなのですが・・・。
そのー・・・、レナートのことですが。」
放課後の誰も居ない教室。静まり返った室内には、机を挟んで向かい合った二人が、お互いに軽く挨拶を交わしていた。そして、エステルダはいきなり本題に斬り込んでいった。
外はあいにくの雨だった。朝から降り続く大粒の雨が、薄暗い教室の窓ガラスに当たり、大きな雨音を響かせていた。
アリッサを見つける度に、取り巻きの令嬢達を従え、その美しい青い瞳を吊り上げていたエステルダであったが、近頃は随分と柔らかい印象に変わり、常に行動を共にしていた意地の悪い令嬢達とも距離を置くようになっていた。
一人で行動することが多くなったエステルダの最近の関心は、もっぱらナーザス姉弟にあり、忙しくなった彼女には、今までのようにアランド殿下に色目を使う令嬢を牽制している暇などなくなってしまった。
人とは、普段から性格の悪い友人と付き合い、相手を蹴落とす為の言葉ばかりを探して生きていると、本来持っていた人間らしさや個性までも失ってしまうものなのだ。それを今、体中の重りが取れたように、軽快に動き回るエステルダが、皆に照明していた。
何故か恥ずかしそうに頬を染めたエステルダに、レナートの話を持ち出され、アリッサの顔も負けじと赤く染まっていた。しかし、アリッサの返事はその可愛らしさとは裏腹につっけんどんで、まるで興味などないように聞こえた。
「それが・・・なにか。」
「以前、アリッサ様は、レナートが好きとおっしゃいました。それは、今も変わりませんか?」
「なぜ、そのようなことを知りたいのですか?・・・私の気のせいでしたら申し訳ありませんが、最近、エステルダ様に監視されているように思えて仕方ありません。もし、弟様に近づかないよう見張っておられるのでしたら、そのような心配は無用にございます。 私は、弟様に近づくつもりはありません。」
そう言ったアリッサの冷淡な言葉に、エステルダは目を大きく見開き言葉を失った。自分達姉弟が、これほどアリッサとアリッサの弟、ヴィスタに強い関心と興味を抱いているというのに、相手は全く自分達に気持ちを向けようとしていないのだ。エステルダは、震える声で言葉を絞り出した。
「な・・・ぜ、ですの?」
ショックを隠しきれないエステルダを冷めた瞳で見据えた後、アリッサは視線を横に逸らし、面倒くさそうに溜息を吐いた。
「なぜ、溜息など・・・。だって、アリッサ様、レナートのことが好きだと言ったではありませんか!!あのリボンだって、レナートが貴女にあげたものですよね!?あんなにボロボロになるまで大切にしていたのは、レナートのことが好きだからですわ!!なのに、なのに何故そんな、表情もなく酷い態度ばかり・・・。」
感情が高ぶってしまったエステルダの瞳には、たくさんの涙が溜まっていた。
「もう、やめてください。」
「いいえ、やめませんわ!! 私はレナートの姉です。姉として、弟の幸せを考えるのは当たり前のことです。」
「でしたら、もっとちゃんと考えてあげてください。」
「ですから、考えていますわ!! 考えているから、こうして貴女と話しているのです。だって、レナートは、毎日アリッサ様を見て、心を焦がしているんですもの!!」
「え? こが・・・?」
それまでエステルダと視線を合わせようとしなかったアリッサの、緑色の瞳が驚きで大きく開くとエステルダを捕えた。ぽかんとした顔でエステルダを見つめるアリッサに向かい、エステルダは話続けた。
「レナートは、アリッサ様を意識しています。ペンに付いているリボンのことにも気付いているというのに、なぜ人違いなどと・・・・、
えっ!? アリッサ様?」
と、そこまで話したエステルダだったが、アリッサの緑色の瞳から、次々と涙が零れ落ちていることに気付いた。
「アリッサ様、どうされましたか?わたくし、気付かぬうちに何か気に障ることでも言ったのでしょうか。でしたら―――」
「嬉しい・・・のです。」
「え?」
「覚えていてくださったことが・・・、気にかけてくださっていることが、嬉しいのです。」
アリッサが、涙を零している横で、雷の音が微かに聞こえた気がした。雨が強くなってきたのか先ほどよりも雨音を強く感じる。
エステルダは、ハンカチを取り出すとアリッサに差し出した。
「リボンの時からずっと、レナートのことを慕ってくださっていたのですか?」
ハンカチを受け取り、頭を下げたアリッサは、涙を拭いながら頷いた。
「本当は、殿下や他の令息に困っているのですね?」
アリッサは、黙ったまま、もう一度頷いた。
「アリッサ様、そのお気持ちをレナートに言ってはいけませんか?」
その言葉を聞いたアリッサが、顔を上げて目を見開いた。そして震える唇で言ったのだ。
「や・・・めてください。どうか言わないで・・・ください。」
そう言ったアリッサの表情が、あまりに痛々しかった為、エステルダは、気付かぬうちに自分の胸を押さえていた。
「なぜですの? レナートはきっと貴女を受け入れてくれますわ。」
「意味がないからです。」
「え?」
エステルダが、意味が分からないとばかりにきょとんとしていると、それを見たアリッサは、悲しい笑みを浮かべた。
「我が家は、きっと数年後には没落します。貧乏子爵家どころか、その時私は貴族でもなくなります。」
「お話がありますので、放課後にお時間をいただけませんか?」
たったこれだけの言葉を言うだけだというのに、この誘いを断られたなら、人生が終わってしまうのではないかと思う程緊張しており、エステルダは心臓が口から飛び出しそうだった。
結局、アリッサが泣いたあの日、邸に戻り、二人で延々と話し込んでみたものの、肝心のアリッサが何を考えているのか全く分からない上に、唯一分かっているレナートへの恋心を、本人に伝えていいものかどうかエステルダには判断できなかったのだ。
レナートの関心が少しずつ・・・いや、思いっきりアリッサに向いていることには気が付いている。アリッサが、過去にレナートから貰ったあのリボンを、今でも大切にしていることだって絶対に悪い気はしていないはずだし、なにより・・・、
先日、たまたま姉弟でアリッサを見かけた際などは、
「姉上!! アリッサ嬢が嫌がっています!!」
嫌がられていることも気付かない、空気の読めない愚か者(アランド殿下)が、アリッサの手を握っているのを見てしまったレナートは、顔を真っ赤にして、まるで赤鬼のように怒っていたのだ。
(レナート!! 貴方、ついにアリッサ様に落ちたのですね!? なんと・・・これが噂に聞く、両想いと言うものなのですか!?)
普段、温厚なレナートが、アランド殿下を相手にあれほどの怒りを表すのだから、隣で弟を凝視しているエステルダが、勝手に確信を持ってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
そうして今、なんとか約束を取り付けたエステルダは、隠れてコソコソ見ている普段とは違い、堂々とアリッサの前に座っているのだった。
「以前アリッサ様が、わたくしに教えてくださったことなのですが・・・。
そのー・・・、レナートのことですが。」
放課後の誰も居ない教室。静まり返った室内には、机を挟んで向かい合った二人が、お互いに軽く挨拶を交わしていた。そして、エステルダはいきなり本題に斬り込んでいった。
外はあいにくの雨だった。朝から降り続く大粒の雨が、薄暗い教室の窓ガラスに当たり、大きな雨音を響かせていた。
アリッサを見つける度に、取り巻きの令嬢達を従え、その美しい青い瞳を吊り上げていたエステルダであったが、近頃は随分と柔らかい印象に変わり、常に行動を共にしていた意地の悪い令嬢達とも距離を置くようになっていた。
一人で行動することが多くなったエステルダの最近の関心は、もっぱらナーザス姉弟にあり、忙しくなった彼女には、今までのようにアランド殿下に色目を使う令嬢を牽制している暇などなくなってしまった。
人とは、普段から性格の悪い友人と付き合い、相手を蹴落とす為の言葉ばかりを探して生きていると、本来持っていた人間らしさや個性までも失ってしまうものなのだ。それを今、体中の重りが取れたように、軽快に動き回るエステルダが、皆に照明していた。
何故か恥ずかしそうに頬を染めたエステルダに、レナートの話を持ち出され、アリッサの顔も負けじと赤く染まっていた。しかし、アリッサの返事はその可愛らしさとは裏腹につっけんどんで、まるで興味などないように聞こえた。
「それが・・・なにか。」
「以前、アリッサ様は、レナートが好きとおっしゃいました。それは、今も変わりませんか?」
「なぜ、そのようなことを知りたいのですか?・・・私の気のせいでしたら申し訳ありませんが、最近、エステルダ様に監視されているように思えて仕方ありません。もし、弟様に近づかないよう見張っておられるのでしたら、そのような心配は無用にございます。 私は、弟様に近づくつもりはありません。」
そう言ったアリッサの冷淡な言葉に、エステルダは目を大きく見開き言葉を失った。自分達姉弟が、これほどアリッサとアリッサの弟、ヴィスタに強い関心と興味を抱いているというのに、相手は全く自分達に気持ちを向けようとしていないのだ。エステルダは、震える声で言葉を絞り出した。
「な・・・ぜ、ですの?」
ショックを隠しきれないエステルダを冷めた瞳で見据えた後、アリッサは視線を横に逸らし、面倒くさそうに溜息を吐いた。
「なぜ、溜息など・・・。だって、アリッサ様、レナートのことが好きだと言ったではありませんか!!あのリボンだって、レナートが貴女にあげたものですよね!?あんなにボロボロになるまで大切にしていたのは、レナートのことが好きだからですわ!!なのに、なのに何故そんな、表情もなく酷い態度ばかり・・・。」
感情が高ぶってしまったエステルダの瞳には、たくさんの涙が溜まっていた。
「もう、やめてください。」
「いいえ、やめませんわ!! 私はレナートの姉です。姉として、弟の幸せを考えるのは当たり前のことです。」
「でしたら、もっとちゃんと考えてあげてください。」
「ですから、考えていますわ!! 考えているから、こうして貴女と話しているのです。だって、レナートは、毎日アリッサ様を見て、心を焦がしているんですもの!!」
「え? こが・・・?」
それまでエステルダと視線を合わせようとしなかったアリッサの、緑色の瞳が驚きで大きく開くとエステルダを捕えた。ぽかんとした顔でエステルダを見つめるアリッサに向かい、エステルダは話続けた。
「レナートは、アリッサ様を意識しています。ペンに付いているリボンのことにも気付いているというのに、なぜ人違いなどと・・・・、
えっ!? アリッサ様?」
と、そこまで話したエステルダだったが、アリッサの緑色の瞳から、次々と涙が零れ落ちていることに気付いた。
「アリッサ様、どうされましたか?わたくし、気付かぬうちに何か気に障ることでも言ったのでしょうか。でしたら―――」
「嬉しい・・・のです。」
「え?」
「覚えていてくださったことが・・・、気にかけてくださっていることが、嬉しいのです。」
アリッサが、涙を零している横で、雷の音が微かに聞こえた気がした。雨が強くなってきたのか先ほどよりも雨音を強く感じる。
エステルダは、ハンカチを取り出すとアリッサに差し出した。
「リボンの時からずっと、レナートのことを慕ってくださっていたのですか?」
ハンカチを受け取り、頭を下げたアリッサは、涙を拭いながら頷いた。
「本当は、殿下や他の令息に困っているのですね?」
アリッサは、黙ったまま、もう一度頷いた。
「アリッサ様、そのお気持ちをレナートに言ってはいけませんか?」
その言葉を聞いたアリッサが、顔を上げて目を見開いた。そして震える唇で言ったのだ。
「や・・・めてください。どうか言わないで・・・ください。」
そう言ったアリッサの表情が、あまりに痛々しかった為、エステルダは、気付かぬうちに自分の胸を押さえていた。
「なぜですの? レナートはきっと貴女を受け入れてくれますわ。」
「意味がないからです。」
「え?」
エステルダが、意味が分からないとばかりにきょとんとしていると、それを見たアリッサは、悲しい笑みを浮かべた。
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