青き瞳に映るのは桃色の閃光

岬 空弥

文字の大きさ
上 下
7 / 95

リボンをむしり取った結果

しおりを挟む
(あった!!これだわ!!やっぱり同じ物だわ。ですが・・・何故同じ物がここに・・・。)

 ピアノの前で腕組をしたエステルダが、首を傾げて唸っていると、後ろでクスリと笑う声が聞こえた。

「そのリボンで間違いないですか?ですが、そのリボンがどうかしましたか?」

ドアに寄りかかるように立っていたレナートに向かいエステルダは、これで間違いないことを伝えた。

「ですが、貴方はどうしてこのリボンだと、直ぐに気付いたのですか?」

「ははっ、姉上は、お忘れですか? あんなに私を叱りつけたのに。」

「えーと・・・それは? なんのことかしら・・・。」

「うわー・・・、本当に覚えていないんですね。やはり、そんなに大事な物ではなかったってことですね。なのにあんなに私を怒って・・・。」

レナートは、呆れた顔で自分を見ていたが、その言葉の意味を全く理解できないエステルダは、眉間に皺を寄せて懸命に思い出そうとした。しかし、いくら考えても記憶が蘇ることはないのだった。
すると、やれやれとでも言うようにレナートは話始めた。
 
「それは、姉上のドレスのリボンです。子供の時のお茶会で、姉上のドレスから一つだけもらって、私が小さな女の子にあげたんですよ。」

「え?・・・・あっ・・・そう言えば・・・。」

遠い記憶の中で、まだ少年のレナートを、なにやら𠮟りつけている自分の姿が蘇ってきた。それは、赤や青の原色のドレスを好んで着ていたエステルダが、ロゼット公爵家主催のお茶会で、初めてモスグリーンのドレスに挑戦しようとした時の記憶だった。

(そうだわ・・・。大人を意識してあの色にしたんだったわ・・・。濃い緑のリボンがたくさん付いたドレス。そうそう、私の瞳の色を意識してリボンにはサファイアが・・・。)


「これだわ!!」


熊のぬいぐるみの前に仁王立ちしたエステルダが、ビシっと指をさし、大きな声で叫ぶと、その姿を見たレナートは、ブッと吹き出した。そして、もう堪えきれないとばかりに、お腹に手を当てて笑い出した。
何がそんなに可笑しいのか・・・。腰を曲げて笑っているレナートを横目でジロリと睨んだエステルダは、指をさしたまま、くるりとレナートに向き直った。

「レナート!このリボンについて、覚えていることを今すぐ説明するのです!」

「いやぁ、ははっ、最近の姉上はなんだか生き生きとしていますね。何を一人でポーズ決めてるんですか。まるで、推理小説の主人公のようですよ!」

名探偵姉上!などと言いながら、未だ涙目で肩を震わせているレナートを前に、意味が分からないとばかりにきょとんとしたエステルダだったが、気を取り直して、もう一度瞳に力を込めた。

「レナート!笑っていないで、さっさと質問に答えるのです! 先ほどの話から言って、少なくともわたくしよりは覚えているのでしょう?・・・残念ですが、わたくしの記憶はドレスを台無しにされて怒っているところだけなのです。」

「うーん・・・。何を知りたいのか分かりませんが、私の記憶と言っても先ほど言ったことが全てと言いますか―――」

「よく思い出すのです!!」

「はあ。よく・・・ですか。確か、あのお茶会で、小さな女の子が泣いていて・・・。なぜ泣いていたのかな・・・。それで、可哀想だと思ったので、姉上のドレスに付いていたリボンを渡そうと思ったんです。そうそう、姉上のドレスにたくさん付いていたから、一つくらいなら貰っても大丈夫だと思ったのに、それに気付いた姉上が烈火のごとく怒って―――」

「当たり前です!!着ようと思ったドレスのリボンが引きちぎられているのですから怒るに決まっているではありませんか!!」

その日、エステルダはブルーのドレスで母親と挨拶回りをして、その後に部屋に用意していたモスグリーンのドレスに着替える予定でいたのだ。なのに、着替えようと部屋に戻ったら、明らかにリボンを無理やり引きちぎったと見られるあとが残っていたのだった。

「あっ・・・。だから、この熊にリボンが・・・。」

「思い出しましたか? 姉上は、ドレスが駄目になったと散々怒りつけた後、とても気に入っていたのに!と言って、ドレスからリボンをむしり取って、嫌がらせでこの熊にそのリボンを付けて私の部屋に置いたんですよ。」

「ああ・・・。これを見る度に反省しなさい・・・だったかし・・・ら?」

うふっと、可愛らしく小首を傾げて微笑んでいるエステルダを無言で見ているレナートだったが、その鋭い三白眼は氷のように冷たかった。


その、冷たい視線からのがれるかのように、エステルダは一つ咳払いをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

再会した彼は予想外のポジションへ登りつめていた【完結済】

高瀬 八鳳
恋愛
お読み下さりありがとうございます。本編10話、外伝7話で完結しました。頂いた感想、本当に嬉しく拝見しました。本当に有難うございます。どうぞ宜しくお願いいたします。 死ぬ間際、サラディナーサの目の前にあらわれた可愛らしい少年。ひとりぼっちで死にたくない彼女は、少年にしばらく一緒にいてほしいと頼んだ。彼との穏やかな時間に癒されながらも、最後まで自身の理不尽な人生に怒りを捨てきれなかったサラディナーサ。 気がつくと赤児として生まれ変わっていた。彼女は、前世での悔恨を払拭しようと、勉学に励み、女性の地位向上に励む。 そして、とある会場で出会った一人の男性。彼は、前世で私の最後の時に付き添ってくれたあの天使かもしれない。そうだとすれば、私は彼にどうやって恩を返せばいいのかしら……。 彼は、予想外に変容していた。 ※ 重く悲しい描写や残酷な表現が出てくるかもしれません。辛い気持ちの描写等が苦手な方にはおすすめできませんのでご注意ください。女性にとって不快な場面もあります。 小説家になろう さん、カクヨム さん等他サイトにも重複投稿しております。 この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。 表紙画のみAIで生成したものを使っています。

全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ

霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」 ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。 でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━ これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。 ※なろう様で投稿済みの作品です。 ※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...