青き瞳に映るのは桃色の閃光

岬 空弥

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本当の話でしたの!?

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「姉上。」

そう、エステルダは見てしまったのだ。
レナートの声が聞こえると同時に、ぱっと顔を上げたアリッサの瞳が、一瞬で光りを取り戻したのを・・・。

「姉上、こんな所で何をしているのですか?良かったら昼食をご一緒しませんか?」

(見てる!!すごい見てますわ!!なんてこと!?顔が・・・真っ赤だわ!!ああぁぁ・・・、首筋まで赤くして、あれはもうレナートしか見ていないのではありませんか!? レナートなのですか!?本当に!? 本当にレナートなのですか!? ええっ!?)

「?・・・姉上?」

口元を両手で押さえ、ぷるぷると震えているエステルダを訝しげに見ていたレナートが、エステルダの前に立ちはだかり顔を覗き込んできた。

「なっ!! ちょっ、レナート、前に立ってはいけません!! 避けて、邪魔です!!」

(はっ!? いないわ!!隠れた!? えっ、どこに・・・!? あっ!! あんな物陰に!! でも、見てる!! 顔を半分隠して・・・、なんと、頭から湯気が出そうな程、真っ赤ではありませんか!!)

「こっ、これは・・・なんてことでしょう・・・。」

避けて!と言いながら、レナートを押しのけたエステルダは、目を見開き、茫然としながら呟いた。レナートに邪魔され、一瞬目を離した隙に何が起こったのかは知らないが、先ほどまでアリッサを囲んでいた数人の令息達の姿は既に居なくなっている。

「姉上? 大丈夫ですか?一体何が―――」

「レナート・・・。いいですか?静かに振り返るのですよ?右側、階段のある方です。桃色の髪。そう、静かに、ゆっくり・・・。」

レナートは、不思議に思いながらも姉に言われた通り、ゆっくり振り返った。

「・・・?」

(はっ!!また隠れた!!ですが、見えています!!桃色の髪が見えていますって!!)

「姉上・・・、彼女がどうかしたのですか?今、隠れたように見えましたが・・・。ああ、あの髪色は、昨日言っていたナーザス嬢ですか?姉上、彼女と一体何があったのですか?昨日から変ですよ?」

呑気な弟の言葉を聞いたエステルダは、眉を吊り上げ、キッと睨みつけた。

「なんと愚かなっ!! 少なからずも貴方は騎士を志しているというのに、あのような熱い視線に今まで気付かなかったのですか!?」

「は!?ナーザス嬢が私に殺気を? え?何故です?」

「なっ!? 違いますっ!! 何を馬鹿なことを!!」

何を言っているのかさっぱり分からないというように、腕組みをしながら首を傾げているレナートを前にして、はっ、と我に返ったエステルダは、つい興奮しすぎてしまった自分を恥じた。そして、レナートから目を逸らすと、軽く頭を振って気持ちを静めるよう一呼吸置いた。
見れば、隠れきれていなかった桃色頭は、既に消えていたので、エステルダも早めに落ち着きを取り戻すことができた。

 レナートと学園の食堂に向かったエステルダだったが、お嬢様とは思えない程、眉間に皺を寄せ、終始無言を貫いていた。

「姉上・・・、いい加減、何があったのか教えていただけませんか?」

「・・・・・・。」

「気になるのは、アランド殿下とナーザス嬢の関係ですか?」

「・・・・・・。」

「姉上が心配しなくても、子爵令嬢と王族では無理があるでしょう。殿下の婚約者候補は姉上なんですから、そんなに難しくかんが―――」

「レナート! 少し静かにしてちょうだい!!そして、今は何も聞かないで!!」

きちんと確かめる必要が・・・と、エステルダがぶつぶつ呟いているのを見て、レナートは呆れた顔で、首をすくめた。

「では、今は何も聞きませんけど、食事だけはきちんと摂ってください。姉上は、昨日の夜もあまり食べていませんでしたよ。頭を使うにも食事は大切です。」

そう言って、テーブルの上に次々と食べ物を並べる心優しいレナートを前に、アリッサの気持ちが事実だった場合、それをレナートに告げるべきなのか、そして、それを知ったレナートは一体どう思うのか・・・。その後二人はどうなるのか。エステルダの眉間の皺は深くなる一方だった。

(どちらにしても、もう少し様子を見てみましょうか・・・。)



 それから数日、エステルダのアリッサ極秘調査は続いていた。
最初は、レナートへの気持ちが本物なのかどうかを調べる為に観察していたのだが、日が経つにつれ、アリッサの真面目な性格に、エステルダは少なからず関心してしまうのだった。
彼女はとにかく勉強していた。

何人もの令息に囲まれている間、自分の可愛らしさをフルに活用して、てっきり媚びを売っているとばかり思っていたが、実際の目当ては彼らの頭脳なのではないかと思う程、アリッサは貪欲に勉強の話をしたがっていた。それを分かっているのかいないのか、アリッサに群がって来る彼らも、そんなアリッサに快く勉強を教えているのだ。今まで、楽しそうにイチャイチャして見えていた内容は、実は殆どが勉強に関する真面目な会話だったことに、エステルダは大きな衝撃を受けたのだった。

しかし、中には鼻の下を伸ばした空気の読めない人間もいるもので、アリッサの可愛らしい外見や仕草を恋情と勘違いし、ぐいぐいと自分の気持ちを押し付けてくる者もいるのだった。そんな中に、何故かアランド殿下も含まれている事を知ったエステルダは、自分の愚かな考えを心底反省する他ないのであった。

「何か御用ですか?」

近づきすぎたと、咄嗟に後悔したエステルダだったが、時は既に遅かった。目の前に立つアリッサは、眉をしかめて訝しげにこちらを見ていた。
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