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好きなのは貴女の弟
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アリッサ・ナーザス子爵令嬢――彼女が柔らかそうな薄桃色の髪をなびかせ、白く透き通った肌をほんのりと染める。そして、大きな緑色の瞳を細め可愛らしく微笑んだならば、美しい花に群がる蝶のように、見目麗しい王子達が、次々と手を差し伸べるだろう。
エステルダ・ロゼット公爵令嬢――丁寧に巻いた美しい金髪を揺らす時、作り上げられた完璧な微笑みを更に引き立てるのは、まるで宝石のような青い瞳。未来の王妃候補に挙がるほどの地位と教養を持ち合わせ、常に数人の取り巻き令嬢を従える強く美しき令嬢。
こんな二人が鉢合わせしたのなら、物語の方向性は既に決まっているのでしょう
・・・・・か。
アリッサの隣に座り、さり気なく彼女の手を取っているのは、銀髪に紫の瞳が美しいアランド第一王子殿下。そんな彼の後ろに控えているのは、見目麗しい無口な長身、騎士団長の子息。そして、アリッサの目の前に立っているのが、茶色のふわふわ頭が可愛らしい宰相の子息。高貴な身分を振りかざす三人の熱い視線を、はたしてアリッサはどのように感じているのか・・・。
アリッサは、相手を益々狂わすような作り物の笑顔を振りまきながらも、視界の隅で殺気を放つ黒い影に注意を向けていた。それは、王子達の前には決して現れない。
それが姿を現すのは、決まってアリッサが一人きりの時なのだから。
「アランド殿下に馴れ馴れしく近づくのは、おやめくださいませ。」
腕を組み、高貴な公爵令嬢とは思えないほどの恐ろしい顔で睨みつけているエステルダを冷めた目でちらりと見たアリッサは、うんざりしたように瞳を閉じた。
「ごきげんよう、エステルダ様。本日は、いつも後ろにくっ付いておられるお嬢様方はいらっしゃらないのですわね。皆さま、体調でも崩されましたか?」
「おだまりなさいっ!!」
アリッサの減らず口に、エステルダの口元がピクピクと引き攣っている。
「あら? エステルダ様・・・どうかされましたか?なんだかいつもの勢いがないように見えますが。」
「なっ!?どういう意味ですの!?」
「おっしゃらないのですか?いつもの、ほら、貧乏子爵家とか、泥棒猫。 後は・・・なんでしょう・・・言われ過ぎて忘れてしまいましたわ。」
「・・・・・。」
「エステルダ様?」
「・・・一番はどなたですの?」
「は?」
「本当は、誰が目的なのか聞いているんです!!」
「ああ・・・そういうことですか。」
「やはり、アランド殿下ですか!? ですが、貴女の身分では―――」
「違いますよ。」
「え・・・?」
「では、逆にお伺いしますが・・・。エステルダ様は、何故アランド殿下なのですか?」
「な、ぜって・・・。」
「国の王子だからですか?将来、王妃になりたいからですか?それとも王族の美貌ですか?愛情よりも地位と名誉がほしいのですか?」
「貴女・・・、どうしてそんなこと・・・。」
「私は、愛されたいです。 私は・・・好きな人に愛されたいと思っております。」
「ですから!! その方はどなたかと聞いているのです!!」
「・・・言わないと駄目ですか?」
「え・・・?」
「ふぅー・・・。」
「ちょっと、アリッサ様!? 失礼な態度は―――」
「貴女様の弟・・・。」
「えっ!?」
「では、失礼いたします。」
「えっ!? なにっ? ちょっと、待って!!」
その声に立ち止まったアリッサは、振り返るとエステルダの瞳をじっと見据えた。
「貴女が・・・、もし貴女様が、本当に愛してくれる人を求めるのでしたら、私、協力しますわ。・・・覚えておいてください。」
そう言ったアリッサは、桃色の髪をかき上げてエステルダに背を向けて歩き出した。
後に残されたエステルダは、アリッサに言われたことが理解できずに、ただ混乱するばかりだった。
エステルダ・ロゼット公爵令嬢――丁寧に巻いた美しい金髪を揺らす時、作り上げられた完璧な微笑みを更に引き立てるのは、まるで宝石のような青い瞳。未来の王妃候補に挙がるほどの地位と教養を持ち合わせ、常に数人の取り巻き令嬢を従える強く美しき令嬢。
こんな二人が鉢合わせしたのなら、物語の方向性は既に決まっているのでしょう
・・・・・か。
アリッサの隣に座り、さり気なく彼女の手を取っているのは、銀髪に紫の瞳が美しいアランド第一王子殿下。そんな彼の後ろに控えているのは、見目麗しい無口な長身、騎士団長の子息。そして、アリッサの目の前に立っているのが、茶色のふわふわ頭が可愛らしい宰相の子息。高貴な身分を振りかざす三人の熱い視線を、はたしてアリッサはどのように感じているのか・・・。
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それが姿を現すのは、決まってアリッサが一人きりの時なのだから。
「アランド殿下に馴れ馴れしく近づくのは、おやめくださいませ。」
腕を組み、高貴な公爵令嬢とは思えないほどの恐ろしい顔で睨みつけているエステルダを冷めた目でちらりと見たアリッサは、うんざりしたように瞳を閉じた。
「ごきげんよう、エステルダ様。本日は、いつも後ろにくっ付いておられるお嬢様方はいらっしゃらないのですわね。皆さま、体調でも崩されましたか?」
「おだまりなさいっ!!」
アリッサの減らず口に、エステルダの口元がピクピクと引き攣っている。
「あら? エステルダ様・・・どうかされましたか?なんだかいつもの勢いがないように見えますが。」
「なっ!?どういう意味ですの!?」
「おっしゃらないのですか?いつもの、ほら、貧乏子爵家とか、泥棒猫。 後は・・・なんでしょう・・・言われ過ぎて忘れてしまいましたわ。」
「・・・・・。」
「エステルダ様?」
「・・・一番はどなたですの?」
「は?」
「本当は、誰が目的なのか聞いているんです!!」
「ああ・・・そういうことですか。」
「やはり、アランド殿下ですか!? ですが、貴女の身分では―――」
「違いますよ。」
「え・・・?」
「では、逆にお伺いしますが・・・。エステルダ様は、何故アランド殿下なのですか?」
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「ですから!! その方はどなたかと聞いているのです!!」
「・・・言わないと駄目ですか?」
「え・・・?」
「ふぅー・・・。」
「ちょっと、アリッサ様!? 失礼な態度は―――」
「貴女様の弟・・・。」
「えっ!?」
「では、失礼いたします。」
「えっ!? なにっ? ちょっと、待って!!」
その声に立ち止まったアリッサは、振り返るとエステルダの瞳をじっと見据えた。
「貴女が・・・、もし貴女様が、本当に愛してくれる人を求めるのでしたら、私、協力しますわ。・・・覚えておいてください。」
そう言ったアリッサは、桃色の髪をかき上げてエステルダに背を向けて歩き出した。
後に残されたエステルダは、アリッサに言われたことが理解できずに、ただ混乱するばかりだった。
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