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本物と再会
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そして今、急いで向かった応接室でエリシアは目を丸くして言葉を失っていた。
そこには、ゆったりとしたどこか野暮ったい服装に身を包んだ男性が、挨拶一つするわけでもなく黙ってこちらを見ていた。薄茶色の短い前髪が、その美しい琥珀色の瞳を隠すことはなかったけれど、まるで寝起きのまま現れたような自然な髪型は・・・いや、これはどう見てもボサボサで間違いなく寝起きのままであろう。
エリシアと目が合うなり、さっと視線を床に落とした彼は、首の後ろに片手を持って行くと気まずそうに擦っている。
しかも彼は、こんな早い時間に自分から押しかけて来たくせに、困ったように眉を寄せているだけで一向に口を開こうともしない。
だが、この部屋に入った瞬間にエリシアには分かった。
それは、涙が出そうなほどの懐かしい空気。
「ユーレットだぁ・・・」
泣いているのかと思うようなエリシアの情けない声に驚いたユーレットが、ぱっと顔を上げた。
そこには、扉の前に立ち尽くしているエリシアが、振るえる両手で口元を押さえながら目を見開いてこちらを見ていた。そんなエリシアを見て、ユーレットはまるで安堵したように瞳を細めた。
「うん」
「ユーレット!!」
そうして少し目元を赤くしたユーレットが、熱のこもった真剣な眼差しでエリシアを見据えた。
「やっと名前を呼んでくれた」
「だって、ユーレット・・・ユーレットだもの!」
震える声で自分の名前を連呼するエリシアに、ユーレットは困ったようにくすりと笑った。
「うん。遅くなって、ごめん」
エリシアの瞳から堪えきれなくなった涙がこぼれたかと思うと、ユーレットは彼女に向かっておずおずと両手を広げた。
「待たせてごめん・・・。ただいま、エリシア」
「おかえり、ユーレット!!」
気持ちを抑えられないエリシアがユーレットの胸に飛び込んで行った。
昨夜、無理やり抱きしめて来た男はやはりユーレットではなかった。
だって、昨日までと違って今はこんなに心が満たされている。本物のユーレットからは微かな石鹸の香りがする。少し小さめで華奢だった体つきが、二年の間で随分と大きくなったことが分かる。
ユーレットの名前を何度も呼びながら泣いたり笑ったりと、エリシアは大忙しだった。
昨夜と同じようにエリシアを抱きしめているはずなのに、辛いばかりの昨日までとは違いユーレットの心も喜びで満たされていた。昨夜の自分は彼女に怒られ、離さないと大声で叫ぶとまで言われた。あれほど嫌われていたというのに今では彼女の力に押されて足を踏ん張らなければ後ろに倒れてしまいそうだ。
潤んだ瞳で嬉しそうに自分を見上げる彼女が、短めの前髪を指ですっと撫でた。
(ああ・・・懐かしいな)
彼女の仕草はあの頃のままだ。エリシアはキラキラした瞳で、よくこうして人の顔を覗き込んできた。
それはまるで二年の時などなかったかのように、学生の頃のままの姿・・・。
そして当時と同じように笑うエリシアを見て、ユーレットは涙が出そうなほど嬉しいと思った。
「ユーレット、泣いてる」
「・・・泣いてない」
「泣いてるよー」
「泣いてるのは、お前だろ」
「うん。だってユーレットが来てくれたんだもん。そんなの泣くに決まってるよ」
「・・・・」
「ほら・・・やっぱり泣いてる。ユーレットも泣くほど嬉しい?」
「・・・・」
返事をしないユーレットは、エリシアの顔を睨むように見ていたけれど、彼女の質問に渋々頷いた。
それを見たエリシアが泣きながら笑うと、ユーレットもつられて泣きながら笑った。
そこには、ゆったりとしたどこか野暮ったい服装に身を包んだ男性が、挨拶一つするわけでもなく黙ってこちらを見ていた。薄茶色の短い前髪が、その美しい琥珀色の瞳を隠すことはなかったけれど、まるで寝起きのまま現れたような自然な髪型は・・・いや、これはどう見てもボサボサで間違いなく寝起きのままであろう。
エリシアと目が合うなり、さっと視線を床に落とした彼は、首の後ろに片手を持って行くと気まずそうに擦っている。
しかも彼は、こんな早い時間に自分から押しかけて来たくせに、困ったように眉を寄せているだけで一向に口を開こうともしない。
だが、この部屋に入った瞬間にエリシアには分かった。
それは、涙が出そうなほどの懐かしい空気。
「ユーレットだぁ・・・」
泣いているのかと思うようなエリシアの情けない声に驚いたユーレットが、ぱっと顔を上げた。
そこには、扉の前に立ち尽くしているエリシアが、振るえる両手で口元を押さえながら目を見開いてこちらを見ていた。そんなエリシアを見て、ユーレットはまるで安堵したように瞳を細めた。
「うん」
「ユーレット!!」
そうして少し目元を赤くしたユーレットが、熱のこもった真剣な眼差しでエリシアを見据えた。
「やっと名前を呼んでくれた」
「だって、ユーレット・・・ユーレットだもの!」
震える声で自分の名前を連呼するエリシアに、ユーレットは困ったようにくすりと笑った。
「うん。遅くなって、ごめん」
エリシアの瞳から堪えきれなくなった涙がこぼれたかと思うと、ユーレットは彼女に向かっておずおずと両手を広げた。
「待たせてごめん・・・。ただいま、エリシア」
「おかえり、ユーレット!!」
気持ちを抑えられないエリシアがユーレットの胸に飛び込んで行った。
昨夜、無理やり抱きしめて来た男はやはりユーレットではなかった。
だって、昨日までと違って今はこんなに心が満たされている。本物のユーレットからは微かな石鹸の香りがする。少し小さめで華奢だった体つきが、二年の間で随分と大きくなったことが分かる。
ユーレットの名前を何度も呼びながら泣いたり笑ったりと、エリシアは大忙しだった。
昨夜と同じようにエリシアを抱きしめているはずなのに、辛いばかりの昨日までとは違いユーレットの心も喜びで満たされていた。昨夜の自分は彼女に怒られ、離さないと大声で叫ぶとまで言われた。あれほど嫌われていたというのに今では彼女の力に押されて足を踏ん張らなければ後ろに倒れてしまいそうだ。
潤んだ瞳で嬉しそうに自分を見上げる彼女が、短めの前髪を指ですっと撫でた。
(ああ・・・懐かしいな)
彼女の仕草はあの頃のままだ。エリシアはキラキラした瞳で、よくこうして人の顔を覗き込んできた。
それはまるで二年の時などなかったかのように、学生の頃のままの姿・・・。
そして当時と同じように笑うエリシアを見て、ユーレットは涙が出そうなほど嬉しいと思った。
「ユーレット、泣いてる」
「・・・泣いてない」
「泣いてるよー」
「泣いてるのは、お前だろ」
「うん。だってユーレットが来てくれたんだもん。そんなの泣くに決まってるよ」
「・・・・」
「ほら・・・やっぱり泣いてる。ユーレットも泣くほど嬉しい?」
「・・・・」
返事をしないユーレットは、エリシアの顔を睨むように見ていたけれど、彼女の質問に渋々頷いた。
それを見たエリシアが泣きながら笑うと、ユーレットもつられて泣きながら笑った。
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