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好かれていたのは本当の自分

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「なんで・・・エリシア・・・どうして」

ユーレットは悲痛な面持ちで力なく呟いた。
悲しく震えるその声を耳にしたエリシアは、なにか懐かしいような切ない気持ちが蘇る気がして一瞬眉間に皺を寄せたが、軽く首を振ると直ぐに相手を睨みつけて強い口調で言い放った。

「ユーレットはこんなことしない。・・・私が待っていたのは、あなたじゃない!!」

「エリ・・シア?」

「私が待っていたのは、ユーレット・アルゴーツです。 彼は、私よりも背が低くてそれをコンプレックスに感じるような純粋な人です。人付き合いが苦手で人と視線を合わせることすら恥ずかしいと思う愛らしい人です。ぶっきらぼうで口数の少ない彼ですが、私の為に選んでくれた言葉はどれも優しく思いやりに溢れていました。

私は、彼の綺麗な琥珀色の瞳が好きでした。彼の長い前髪に触れて、その瞳を見ることができたのは私一人だけだったのです。それは私だけの宝物でした。彼の隣に座ると、ほのかに石鹸の香りがしました。それは私の癒しの時間でした。・・・私は、ユーレットが大好きでした。いいえ、今も、そしてこれからも大好きです。

・・・ですが、彼は約束の日に現れませんでした。・・・それはいいのです。二年の間に、私は彼の本当の幸せを考えました。彼にはコットワール侯爵家などに囚われてほしくありません。爵位などに振り回されることなく、本当に好きな人と幸せになってもらいたいと思っていました。・・・そしてそれは、あなたにもお伝えしたいことです」

「申し訳ありませんが・・・あなたは、私の大好きなユーレットではありません」




さようなら。

小さな声で呟いたエリシアに、ユーレットは何も言葉が出てこなかった。
自分に背を向けて歩き出す彼女の後ろ姿が、あの時と重なった。

「待って・・・エリシア」

しかし、ユーレットの声はあの時のように彼女に届くことはなかった。

ユーレットはその場にしゃがみ込むと、綺麗に整えた前髪を手で引っ張るように撫でつけた。何度も何度も両手で撫でつける。早く伸ばしてこの目を隠してしまいたい。

私だけの宝物・・・。
彼女の言葉に胸がズキズキと痛んでとても苦しい。いくら髪を引っ張っても隠し切れない瞳からは、涙が次々に溢れては地面にこぼれ落ちていった。

(彼女は、本当の俺を好きでいてくれたんだ・・・)

もう現実から逃げることはできなかった。それがどんなに恐ろしいことでも、もう認めるしかなかった。
エリシアが愛していたのは、皆に好かれる作り物などではなく、ありのままのユーレットだったということを。

(また俺は間違ってしまった・・・)

周りの女性に認められるようになると、それまで全てを否定されていた自分の努力が報われたような気がした。それが自分の自信に繋がっていたし、彼女達に好かれるなら絶対にエリシアとも上手くいくと思い込んでいた。

だがそこには、自分を好きだと言ってくれたエリシアの気持ちは入っていなかったし、そんなエリシアのことが好きだという自分の気持ちも入っていなかったのだ。
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