18 / 25
拒絶
しおりを挟む
なのにこれは一体どういうことだ。
会いたくて会いたくて、それこそ夢にまで見たエリシアに、ユーレットは卒業して直ぐに会いに行った。
彼女のことだからきっと満面の笑みで!・・・いや、涙を流して再会を喜んでくれるだろうと確信していた。
早く会いたい。身長もそうだけど、この二年間の成果を見てほしかった。成長した自分を見て彼女は一体どんな顔をするのだろう。あまりの変化に驚いてくれるだろうか。きっと、とても喜んでくれるに違いない。
彼女なら絶対に頑張った自分を褒めてくれると信じていた。そうしたら、今度こそ自分の気持ちを伝えて正式に婚約を申し込もう。もう絶対悲しませたりしないし、たくさん愛を囁いて誰よりも何よりも彼女を大切にしよう。これからはずっと一緒だ。
二年の時は、エリシアを益々艶やかに美しくしていた。だが、あまりに驚かせてしまったせいか、何も言葉を発しないエリシアはただ目を丸くしてこちらを見ているだけだった。
ようやく会えた喜びが体中から湧き上がるのを感じる。他の令嬢とは違い、エリシアの前では無理に笑みを貼り付ける必要などなかった。どうしたって嬉しさを隠し切れなかった。
早く成長した自分にも気づいてほしい。もうあの頃の子供っぽい自分ではないことを彼女に知ってほしいと思ったから・・・。
だから嬉しくてどうしようもない感情を押し殺して大人の男性を演じてみせたというのに。
なのに・・・彼女の反応はそれだけだった。
エリシアの両親と挨拶を交わしている間も、彼女は離れた場所から黙ってこちらを見ていた。ずっと触れたくてたまらなかった手を取って大切に口づけるも、頬を染めるどころか逆に青ざめてゆくように見える。
訳が分からなかった。
こうすればこうなる。こう言えば必ずうまくゆく。・・・教え込まれた方程式がガラガラと音を立てて崩れてゆくような気がした。
他の女性を相手に自分を良く見せる練習をしてきた。教えの通りに親切に振舞えば彼女達は皆、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑み、最後は熱っぽい潤んだ瞳でこちらを見上げてくるのだ。
これが好かれている証拠だと教わったし、エリシアの嬉しそうに微笑む顔をもう一度見たくて頑張って何度も練習してきた・・・。
なのに、どんなに愛想よく話しかけても、どんなに熱く見つめ続けても、エリシアは困ったように視線を逸らしてこちらを見ようともしなかった。
繋いだ彼女の手からは完全に力が抜けており、自分が力を抜いたなら直ぐにその手は離れて落ちてしまうのだろう。
喜ぶどころか・・・彼女はユーレットの名前すら呼ぶことはなかった。
怖くてたまらなくなったユーレットは、本当ならば今日、この場で申し込む予定ではなかった婚約の話をしてしまった。余裕のある男を演じていたが心の中は恐怖と焦りでいっぱいだった。
(どうして喜んで迎えてくれない。どうして会話が続かない。どうしてこちらを見てくれない。どうして・・・どうして・・・、なんでエリシアは笑ってくれないんだ。)
会えない間、彼女の心変わりが全く頭をよぎらなかった訳ではない。二年の間に自分はここまで変わったのだから、もしかしたら彼女にも他に好きな人ができてしまうかもしれないとは考えた。・・・けれど信じたかった。どんなに駄目な自分でも大好きと言って笑ってくれた彼女のことを。
二年前のあの日から、誰とも婚約しないで待ち続けてくれた彼女が、自分ではない他の男と結婚するだなんて絶対にありえない。きっと悪い冗談で・・・そんなこと嘘に決まってる。
「あなたを愛しているのです。お願いですから私の申し出を断らないで」
しかし、ユーレットによって強く握られた両手を押したり引いたり、ねじったりと、なんとか逃れようとしているエリシアに返事をする余裕はない。
そうしているうちに、ついにエリシアを見下ろすユーレットの目の色が変わった。
いきなりエリシアを抱きしめたユーレットは、彼女が逃げないように腕に強い力を入れた。
「やめてください!! 突然何をするのです、触らないでください!!」
「嫌です!!私を好きだと言うまで離しません」
ユーレットの胸を力いっぱい押しながら、なんとか抜け出そうとするエリシアに彼は更に腕の力を強めた。
「ずっとあなたに会いたかった。あなたに見合う男になりたくて、皆に迷惑をかけながらもたくさんのことを学びました。だから、どうかこれ以上私を困らせないで。エリシア様、少し落ち着いてください。私ときちんと話をしましょう」
その時、エリシアは怒ったようにユーレットの胸をドンと力任せに叩いた。
このように目をつり上げて敵意を剥き出しにしてくるエリシアを見たのは初めてのことだった。
「落ち着くのはあなたの方です。婚約もしていない男女が、このような暗い場所に二人でいることもおかしな話ですが、嫌がる女性を無理やり捕まえて脅しをかけるなど、もはや犯罪です!! 今すぐ離しなさい。でなければ大声で助けを呼びます」
声も出さず目を見開いたユーレットは、力が抜けたようにだらりと腕を下ろすと、怯えた様子でよろよろと後退りした。
会いたくて会いたくて、それこそ夢にまで見たエリシアに、ユーレットは卒業して直ぐに会いに行った。
彼女のことだからきっと満面の笑みで!・・・いや、涙を流して再会を喜んでくれるだろうと確信していた。
早く会いたい。身長もそうだけど、この二年間の成果を見てほしかった。成長した自分を見て彼女は一体どんな顔をするのだろう。あまりの変化に驚いてくれるだろうか。きっと、とても喜んでくれるに違いない。
彼女なら絶対に頑張った自分を褒めてくれると信じていた。そうしたら、今度こそ自分の気持ちを伝えて正式に婚約を申し込もう。もう絶対悲しませたりしないし、たくさん愛を囁いて誰よりも何よりも彼女を大切にしよう。これからはずっと一緒だ。
二年の時は、エリシアを益々艶やかに美しくしていた。だが、あまりに驚かせてしまったせいか、何も言葉を発しないエリシアはただ目を丸くしてこちらを見ているだけだった。
ようやく会えた喜びが体中から湧き上がるのを感じる。他の令嬢とは違い、エリシアの前では無理に笑みを貼り付ける必要などなかった。どうしたって嬉しさを隠し切れなかった。
早く成長した自分にも気づいてほしい。もうあの頃の子供っぽい自分ではないことを彼女に知ってほしいと思ったから・・・。
だから嬉しくてどうしようもない感情を押し殺して大人の男性を演じてみせたというのに。
なのに・・・彼女の反応はそれだけだった。
エリシアの両親と挨拶を交わしている間も、彼女は離れた場所から黙ってこちらを見ていた。ずっと触れたくてたまらなかった手を取って大切に口づけるも、頬を染めるどころか逆に青ざめてゆくように見える。
訳が分からなかった。
こうすればこうなる。こう言えば必ずうまくゆく。・・・教え込まれた方程式がガラガラと音を立てて崩れてゆくような気がした。
他の女性を相手に自分を良く見せる練習をしてきた。教えの通りに親切に振舞えば彼女達は皆、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑み、最後は熱っぽい潤んだ瞳でこちらを見上げてくるのだ。
これが好かれている証拠だと教わったし、エリシアの嬉しそうに微笑む顔をもう一度見たくて頑張って何度も練習してきた・・・。
なのに、どんなに愛想よく話しかけても、どんなに熱く見つめ続けても、エリシアは困ったように視線を逸らしてこちらを見ようともしなかった。
繋いだ彼女の手からは完全に力が抜けており、自分が力を抜いたなら直ぐにその手は離れて落ちてしまうのだろう。
喜ぶどころか・・・彼女はユーレットの名前すら呼ぶことはなかった。
怖くてたまらなくなったユーレットは、本当ならば今日、この場で申し込む予定ではなかった婚約の話をしてしまった。余裕のある男を演じていたが心の中は恐怖と焦りでいっぱいだった。
(どうして喜んで迎えてくれない。どうして会話が続かない。どうしてこちらを見てくれない。どうして・・・どうして・・・、なんでエリシアは笑ってくれないんだ。)
会えない間、彼女の心変わりが全く頭をよぎらなかった訳ではない。二年の間に自分はここまで変わったのだから、もしかしたら彼女にも他に好きな人ができてしまうかもしれないとは考えた。・・・けれど信じたかった。どんなに駄目な自分でも大好きと言って笑ってくれた彼女のことを。
二年前のあの日から、誰とも婚約しないで待ち続けてくれた彼女が、自分ではない他の男と結婚するだなんて絶対にありえない。きっと悪い冗談で・・・そんなこと嘘に決まってる。
「あなたを愛しているのです。お願いですから私の申し出を断らないで」
しかし、ユーレットによって強く握られた両手を押したり引いたり、ねじったりと、なんとか逃れようとしているエリシアに返事をする余裕はない。
そうしているうちに、ついにエリシアを見下ろすユーレットの目の色が変わった。
いきなりエリシアを抱きしめたユーレットは、彼女が逃げないように腕に強い力を入れた。
「やめてください!! 突然何をするのです、触らないでください!!」
「嫌です!!私を好きだと言うまで離しません」
ユーレットの胸を力いっぱい押しながら、なんとか抜け出そうとするエリシアに彼は更に腕の力を強めた。
「ずっとあなたに会いたかった。あなたに見合う男になりたくて、皆に迷惑をかけながらもたくさんのことを学びました。だから、どうかこれ以上私を困らせないで。エリシア様、少し落ち着いてください。私ときちんと話をしましょう」
その時、エリシアは怒ったようにユーレットの胸をドンと力任せに叩いた。
このように目をつり上げて敵意を剥き出しにしてくるエリシアを見たのは初めてのことだった。
「落ち着くのはあなたの方です。婚約もしていない男女が、このような暗い場所に二人でいることもおかしな話ですが、嫌がる女性を無理やり捕まえて脅しをかけるなど、もはや犯罪です!! 今すぐ離しなさい。でなければ大声で助けを呼びます」
声も出さず目を見開いたユーレットは、力が抜けたようにだらりと腕を下ろすと、怯えた様子でよろよろと後退りした。
120
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
[完結]想ってもいいでしょうか?
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
貴方に逢いたくて逢いたくて逢いたくて胸が張り裂けそう。
失ってしまった貴方は、どこへ行ってしまったのだろう。
暗闇の中、涙を流して、ただただ貴方の事を考え続ける。
後悔しているの。
何度も考えるの。
でもどうすればよかったのか、どうしても分からない。
桜が舞い散り、灼熱の太陽に耐え、紅葉が終わっても貴方は帰ってこない。
本当は分かっている。
もう二度と私の元へ貴方は帰ってこない事を。
雪の結晶がキラキラ輝きながら落ちてくる。
頬についた結晶はすぐに溶けて流れ落ちる。
私の涙と一緒に。
まだ、あと少し。
ううん、一生でも、私が朽ち果てるまで。
貴方の事を想ってもいいでしょうか?

それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる