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拒絶
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なのにこれは一体どういうことだ。
会いたくて会いたくて、それこそ夢にまで見たエリシアに、ユーレットは卒業して直ぐに会いに行った。
彼女のことだからきっと満面の笑みで!・・・いや、涙を流して再会を喜んでくれるだろうと確信していた。
早く会いたい。身長もそうだけど、この二年間の成果を見てほしかった。成長した自分を見て彼女は一体どんな顔をするのだろう。あまりの変化に驚いてくれるだろうか。きっと、とても喜んでくれるに違いない。
彼女なら絶対に頑張った自分を褒めてくれると信じていた。そうしたら、今度こそ自分の気持ちを伝えて正式に婚約を申し込もう。もう絶対悲しませたりしないし、たくさん愛を囁いて誰よりも何よりも彼女を大切にしよう。これからはずっと一緒だ。
二年の時は、エリシアを益々艶やかに美しくしていた。だが、あまりに驚かせてしまったせいか、何も言葉を発しないエリシアはただ目を丸くしてこちらを見ているだけだった。
ようやく会えた喜びが体中から湧き上がるのを感じる。他の令嬢とは違い、エリシアの前では無理に笑みを貼り付ける必要などなかった。どうしたって嬉しさを隠し切れなかった。
早く成長した自分にも気づいてほしい。もうあの頃の子供っぽい自分ではないことを彼女に知ってほしいと思ったから・・・。
だから嬉しくてどうしようもない感情を押し殺して大人の男性を演じてみせたというのに。
なのに・・・彼女の反応はそれだけだった。
エリシアの両親と挨拶を交わしている間も、彼女は離れた場所から黙ってこちらを見ていた。ずっと触れたくてたまらなかった手を取って大切に口づけるも、頬を染めるどころか逆に青ざめてゆくように見える。
訳が分からなかった。
こうすればこうなる。こう言えば必ずうまくゆく。・・・教え込まれた方程式がガラガラと音を立てて崩れてゆくような気がした。
他の女性を相手に自分を良く見せる練習をしてきた。教えの通りに親切に振舞えば彼女達は皆、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑み、最後は熱っぽい潤んだ瞳でこちらを見上げてくるのだ。
これが好かれている証拠だと教わったし、エリシアの嬉しそうに微笑む顔をもう一度見たくて頑張って何度も練習してきた・・・。
なのに、どんなに愛想よく話しかけても、どんなに熱く見つめ続けても、エリシアは困ったように視線を逸らしてこちらを見ようともしなかった。
繋いだ彼女の手からは完全に力が抜けており、自分が力を抜いたなら直ぐにその手は離れて落ちてしまうのだろう。
喜ぶどころか・・・彼女はユーレットの名前すら呼ぶことはなかった。
怖くてたまらなくなったユーレットは、本当ならば今日、この場で申し込む予定ではなかった婚約の話をしてしまった。余裕のある男を演じていたが心の中は恐怖と焦りでいっぱいだった。
(どうして喜んで迎えてくれない。どうして会話が続かない。どうしてこちらを見てくれない。どうして・・・どうして・・・、なんでエリシアは笑ってくれないんだ。)
会えない間、彼女の心変わりが全く頭をよぎらなかった訳ではない。二年の間に自分はここまで変わったのだから、もしかしたら彼女にも他に好きな人ができてしまうかもしれないとは考えた。・・・けれど信じたかった。どんなに駄目な自分でも大好きと言って笑ってくれた彼女のことを。
二年前のあの日から、誰とも婚約しないで待ち続けてくれた彼女が、自分ではない他の男と結婚するだなんて絶対にありえない。きっと悪い冗談で・・・そんなこと嘘に決まってる。
「あなたを愛しているのです。お願いですから私の申し出を断らないで」
しかし、ユーレットによって強く握られた両手を押したり引いたり、ねじったりと、なんとか逃れようとしているエリシアに返事をする余裕はない。
そうしているうちに、ついにエリシアを見下ろすユーレットの目の色が変わった。
いきなりエリシアを抱きしめたユーレットは、彼女が逃げないように腕に強い力を入れた。
「やめてください!! 突然何をするのです、触らないでください!!」
「嫌です!!私を好きだと言うまで離しません」
ユーレットの胸を力いっぱい押しながら、なんとか抜け出そうとするエリシアに彼は更に腕の力を強めた。
「ずっとあなたに会いたかった。あなたに見合う男になりたくて、皆に迷惑をかけながらもたくさんのことを学びました。だから、どうかこれ以上私を困らせないで。エリシア様、少し落ち着いてください。私ときちんと話をしましょう」
その時、エリシアは怒ったようにユーレットの胸をドンと力任せに叩いた。
このように目をつり上げて敵意を剥き出しにしてくるエリシアを見たのは初めてのことだった。
「落ち着くのはあなたの方です。婚約もしていない男女が、このような暗い場所に二人でいることもおかしな話ですが、嫌がる女性を無理やり捕まえて脅しをかけるなど、もはや犯罪です!! 今すぐ離しなさい。でなければ大声で助けを呼びます」
声も出さず目を見開いたユーレットは、力が抜けたようにだらりと腕を下ろすと、怯えた様子でよろよろと後退りした。
会いたくて会いたくて、それこそ夢にまで見たエリシアに、ユーレットは卒業して直ぐに会いに行った。
彼女のことだからきっと満面の笑みで!・・・いや、涙を流して再会を喜んでくれるだろうと確信していた。
早く会いたい。身長もそうだけど、この二年間の成果を見てほしかった。成長した自分を見て彼女は一体どんな顔をするのだろう。あまりの変化に驚いてくれるだろうか。きっと、とても喜んでくれるに違いない。
彼女なら絶対に頑張った自分を褒めてくれると信じていた。そうしたら、今度こそ自分の気持ちを伝えて正式に婚約を申し込もう。もう絶対悲しませたりしないし、たくさん愛を囁いて誰よりも何よりも彼女を大切にしよう。これからはずっと一緒だ。
二年の時は、エリシアを益々艶やかに美しくしていた。だが、あまりに驚かせてしまったせいか、何も言葉を発しないエリシアはただ目を丸くしてこちらを見ているだけだった。
ようやく会えた喜びが体中から湧き上がるのを感じる。他の令嬢とは違い、エリシアの前では無理に笑みを貼り付ける必要などなかった。どうしたって嬉しさを隠し切れなかった。
早く成長した自分にも気づいてほしい。もうあの頃の子供っぽい自分ではないことを彼女に知ってほしいと思ったから・・・。
だから嬉しくてどうしようもない感情を押し殺して大人の男性を演じてみせたというのに。
なのに・・・彼女の反応はそれだけだった。
エリシアの両親と挨拶を交わしている間も、彼女は離れた場所から黙ってこちらを見ていた。ずっと触れたくてたまらなかった手を取って大切に口づけるも、頬を染めるどころか逆に青ざめてゆくように見える。
訳が分からなかった。
こうすればこうなる。こう言えば必ずうまくゆく。・・・教え込まれた方程式がガラガラと音を立てて崩れてゆくような気がした。
他の女性を相手に自分を良く見せる練習をしてきた。教えの通りに親切に振舞えば彼女達は皆、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑み、最後は熱っぽい潤んだ瞳でこちらを見上げてくるのだ。
これが好かれている証拠だと教わったし、エリシアの嬉しそうに微笑む顔をもう一度見たくて頑張って何度も練習してきた・・・。
なのに、どんなに愛想よく話しかけても、どんなに熱く見つめ続けても、エリシアは困ったように視線を逸らしてこちらを見ようともしなかった。
繋いだ彼女の手からは完全に力が抜けており、自分が力を抜いたなら直ぐにその手は離れて落ちてしまうのだろう。
喜ぶどころか・・・彼女はユーレットの名前すら呼ぶことはなかった。
怖くてたまらなくなったユーレットは、本当ならば今日、この場で申し込む予定ではなかった婚約の話をしてしまった。余裕のある男を演じていたが心の中は恐怖と焦りでいっぱいだった。
(どうして喜んで迎えてくれない。どうして会話が続かない。どうしてこちらを見てくれない。どうして・・・どうして・・・、なんでエリシアは笑ってくれないんだ。)
会えない間、彼女の心変わりが全く頭をよぎらなかった訳ではない。二年の間に自分はここまで変わったのだから、もしかしたら彼女にも他に好きな人ができてしまうかもしれないとは考えた。・・・けれど信じたかった。どんなに駄目な自分でも大好きと言って笑ってくれた彼女のことを。
二年前のあの日から、誰とも婚約しないで待ち続けてくれた彼女が、自分ではない他の男と結婚するだなんて絶対にありえない。きっと悪い冗談で・・・そんなこと嘘に決まってる。
「あなたを愛しているのです。お願いですから私の申し出を断らないで」
しかし、ユーレットによって強く握られた両手を押したり引いたり、ねじったりと、なんとか逃れようとしているエリシアに返事をする余裕はない。
そうしているうちに、ついにエリシアを見下ろすユーレットの目の色が変わった。
いきなりエリシアを抱きしめたユーレットは、彼女が逃げないように腕に強い力を入れた。
「やめてください!! 突然何をするのです、触らないでください!!」
「嫌です!!私を好きだと言うまで離しません」
ユーレットの胸を力いっぱい押しながら、なんとか抜け出そうとするエリシアに彼は更に腕の力を強めた。
「ずっとあなたに会いたかった。あなたに見合う男になりたくて、皆に迷惑をかけながらもたくさんのことを学びました。だから、どうかこれ以上私を困らせないで。エリシア様、少し落ち着いてください。私ときちんと話をしましょう」
その時、エリシアは怒ったようにユーレットの胸をドンと力任せに叩いた。
このように目をつり上げて敵意を剥き出しにしてくるエリシアを見たのは初めてのことだった。
「落ち着くのはあなたの方です。婚約もしていない男女が、このような暗い場所に二人でいることもおかしな話ですが、嫌がる女性を無理やり捕まえて脅しをかけるなど、もはや犯罪です!! 今すぐ離しなさい。でなければ大声で助けを呼びます」
声も出さず目を見開いたユーレットは、力が抜けたようにだらりと腕を下ろすと、怯えた様子でよろよろと後退りした。
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