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彼と婚約はしない
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後に残されたエリシアは夜会までの三日間、頭を抱えて困り果てることになってしまった。
本当はユーレットの卒業と同時に、彼のことは諦めて誰か他の人との縁談を受けようと思っていた。
自分の気持ちを押し付けてはいけない。きっと彼も今ごろは、道行く恋人たちのように素晴らしい恋をしながら学園生活を楽しんでいることであろう。
考えてみたら、ユーレットを良く思っていないエリシアの友人達が事あるごとに彼の話をしたがるのがいい証拠だったのだ。エリシアの目に映る恋人たちは皆、仲睦まじく幸せいっぱいの笑顔だった。それは過去の自分とユーレットの間には一切なかったものだ。
自分のように仕事しかできない地味な見た目の大女では、学生であるユーレットの恋人には勝てないだろう。もし勝てるものがあるならば、それは爵位あってのものに違いない。
ユーレットは、きっと自分を迎えに来ない。しかし、万が一奇跡が起こったならば、その時はきちんと話をしてお断りしよう。愛のない政略結婚をするならば他の人がいい。
ユーレットとだけは絶対に嫌だと思うから。
そう決めていたから、ユーレットが会いに来る日もわりと落ち着いていられたのだ。 答えは一つなのだから。なのに・・・。
そこに現れたのは、なぜかユーレットを名乗る偽者だった。いや、もしかしたら本物なのかもしれない。だが、そうだとしたら変わり過ぎにも程があると思う。
声や身長はいい。少年のようであった彼が青年になったのだ。さすがにそれは仕方のないことだ。
しかし、あの性格はなんだ!! 変に余裕を感じさせる嘘くさい笑顔に、口を開けば歯の浮くようなセリフばかり。
なんだアレは!?あれを一体自分にどうしろというのだ・・・。
(あのユーレットに似た人と婚約って。どうして・・・なぜこんなことに)
そして現在、夜会会場に入った途端、エリシアを何度も何度も綺麗だ!美しい!と褒め称えていたユーレットっぽい人は、彼女の目の前で数名の若い女性の波に押し流されて行ってしまった。
(えっ?なに今の? あの人すごいモテモテなの? すごっ、女の子に囲まれてる・・・こわっ!
・・・うん、やっぱり彼はユーレットの偽者・・・。もう面倒だから彼はユーレットじゃないってことにしてしまおう)
突然の女性の波に驚いて呆然としていたエリシアだったが、大きく息を吐いて気を取り直すと、女性に囲まれて爽やかに白い歯を光らせるユーレットに背を向けてスタスタと友人のもとに向かって歩き出した。後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がしたが、振り返る必要性を感じなかったので聞こえない振りをした。
会場内では直ぐに友人達を見つけることができた。なぜなら、彼女達は一か所に固まって唖然とした顔でこちらを凝視していたのだ。
「エリシア、あなたどうして彼を置いてきたの!?」
「やっと彼と婚約できたのでしょう!?なのに、なんでそんなやる気のない顔してるのよ!?」
「え? 私、婚約なんてしてないわよ?」
驚いて目を瞠る友人達とは対照的に、エリシアの心はなんら浮ついておらず気分も随分と低めであった。
「あなたに会いに行ったでしょう? だって彼、卒業式の日に手紙を出すって・・・」
「ええ、来たわね。それより、みんな随分と詳しいのね」
「来たわねって・・・、あなた」
「私、彼と婚約はできないわ。だって私の好きな人は、本物のユーレットだけですもの」
「いや、何言って・・・彼は本物で―――」
「だから彼とは婚約できない。私ね、他の人と政略結婚することに決めたわ」
その時、エリシアは背後から突然強く腕を掴まれた。痛みを感じるほどの強さに驚いたエリシアが振り返ると、そこにいたのは気味の悪い笑顔を貼り付けたユーレットであった。
本当はユーレットの卒業と同時に、彼のことは諦めて誰か他の人との縁談を受けようと思っていた。
自分の気持ちを押し付けてはいけない。きっと彼も今ごろは、道行く恋人たちのように素晴らしい恋をしながら学園生活を楽しんでいることであろう。
考えてみたら、ユーレットを良く思っていないエリシアの友人達が事あるごとに彼の話をしたがるのがいい証拠だったのだ。エリシアの目に映る恋人たちは皆、仲睦まじく幸せいっぱいの笑顔だった。それは過去の自分とユーレットの間には一切なかったものだ。
自分のように仕事しかできない地味な見た目の大女では、学生であるユーレットの恋人には勝てないだろう。もし勝てるものがあるならば、それは爵位あってのものに違いない。
ユーレットは、きっと自分を迎えに来ない。しかし、万が一奇跡が起こったならば、その時はきちんと話をしてお断りしよう。愛のない政略結婚をするならば他の人がいい。
ユーレットとだけは絶対に嫌だと思うから。
そう決めていたから、ユーレットが会いに来る日もわりと落ち着いていられたのだ。 答えは一つなのだから。なのに・・・。
そこに現れたのは、なぜかユーレットを名乗る偽者だった。いや、もしかしたら本物なのかもしれない。だが、そうだとしたら変わり過ぎにも程があると思う。
声や身長はいい。少年のようであった彼が青年になったのだ。さすがにそれは仕方のないことだ。
しかし、あの性格はなんだ!! 変に余裕を感じさせる嘘くさい笑顔に、口を開けば歯の浮くようなセリフばかり。
なんだアレは!?あれを一体自分にどうしろというのだ・・・。
(あのユーレットに似た人と婚約って。どうして・・・なぜこんなことに)
そして現在、夜会会場に入った途端、エリシアを何度も何度も綺麗だ!美しい!と褒め称えていたユーレットっぽい人は、彼女の目の前で数名の若い女性の波に押し流されて行ってしまった。
(えっ?なに今の? あの人すごいモテモテなの? すごっ、女の子に囲まれてる・・・こわっ!
・・・うん、やっぱり彼はユーレットの偽者・・・。もう面倒だから彼はユーレットじゃないってことにしてしまおう)
突然の女性の波に驚いて呆然としていたエリシアだったが、大きく息を吐いて気を取り直すと、女性に囲まれて爽やかに白い歯を光らせるユーレットに背を向けてスタスタと友人のもとに向かって歩き出した。後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がしたが、振り返る必要性を感じなかったので聞こえない振りをした。
会場内では直ぐに友人達を見つけることができた。なぜなら、彼女達は一か所に固まって唖然とした顔でこちらを凝視していたのだ。
「エリシア、あなたどうして彼を置いてきたの!?」
「やっと彼と婚約できたのでしょう!?なのに、なんでそんなやる気のない顔してるのよ!?」
「え? 私、婚約なんてしてないわよ?」
驚いて目を瞠る友人達とは対照的に、エリシアの心はなんら浮ついておらず気分も随分と低めであった。
「あなたに会いに行ったでしょう? だって彼、卒業式の日に手紙を出すって・・・」
「ええ、来たわね。それより、みんな随分と詳しいのね」
「来たわねって・・・、あなた」
「私、彼と婚約はできないわ。だって私の好きな人は、本物のユーレットだけですもの」
「いや、何言って・・・彼は本物で―――」
「だから彼とは婚約できない。私ね、他の人と政略結婚することに決めたわ」
その時、エリシアは背後から突然強く腕を掴まれた。痛みを感じるほどの強さに驚いたエリシアが振り返ると、そこにいたのは気味の悪い笑顔を貼り付けたユーレットであった。
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