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気持ちを抑え込む
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あの日以来、エリシアはユーレットに対する気持ちを懸命に抑え込んでいた。
あの時、騒ぎに群がるたくさんの人の前で公開失恋という大恥をかいてしまったけれど、今となってみればあれで良かったのかもしれないとすら思っていた。
ああして大勢の前で宣言してしまったからこそ、今の自分はどうにかユーレットと距離を取れているのだと思う。
そうでなければ、自分は彼から離れることができなかったかもしれない。それこそ絶対にしてはいけないと心に決めていた方法で無理やり彼を繋ぎ止める可能性だってあっただろう。
エリシアはユーレットに友人以上の関係を求めなかった。
だから彼も自分がそばにいることを許してくれていたのだと思う。・・・おそらく彼も分かっていたのだろう。二人の関係はエリシアの卒業で終わるということを。
学園を卒業したら両親の決めた相手と婚約するのだろう。既に話はいくつも来ているようだが、学生のうちは考えなくていいと言って、両親はエリシアの初恋を見守ってくれていた。
だからエリシアはずっと思っていた。終わらせる準備をしなくてはいけないと・・・。
本当は少しずつ距離を置かなくてはいけなかったのだ・・・ユーレットが居なくても平気でいられるように。将来ユーレット以外の男性とうまくやって行けるように。そして、ユーレットが自分以外の女性と一緒になるのを心静かに見ていられるように。
結局、こんなことになるまで行動に移せなかった・・・。自分から離れて行くなんて、エリシアにはできなかったのだ。
彼女はそれほどまでにユーレットを失うことを恐れ、彼との優しい時間に依存していたのだ。
初めての恋は、エリシアの生活を隅から隅まで明るく照らしてくれた。だが、こうして明かりを失ってしまった今、どこもかしこもあまりに暗すぎる。この先どうやって前に進めばよいかも分からなくなってしまった。当たり前のことだと暗がりを進み続けて来た過去の自分にはもう戻れないような気がする。まるで不安ばかりが心を支配してくるようだった。
その日、エリシアは気づかれないように遠くからこっそりと彼を見つめていた。
ユーレットを失い途方に暮れている自分とは違い、彼から困っている様子は窺えなかった。
(やっぱり私って、それほど必要とされてなかったのね・・・)
分かっていたつもりだったが、何事もなかったかのようなユーレットの横顔に胸が締め付けられるような寂しさを覚えた。
エリシアは、それからも度々ユーレットを見かけた。
いつものベンチでゆったりと読書をしている彼は、誰に邪魔されるでもなく有意義な時間を過ごしているように見えた。少し前までは、当然のように彼の隣に寄り添う自分がいた。座るなり相手の迷惑も考えずに彼の手を取り、馴れ馴れしく話しかけていた。近寄ることも出来なくなってしまった今、遠くから冷静になって見つめていると、自分がいかに彼の貴重な時間を奪っていたかが分かる。
だが、彼にとって良い思い出のないあの場所で何事もなかったように読書をしてくれるのは、やはりユーレットの優しさなのだと思う。エリシアは申し訳ない気持ちの反面、そんな彼の優しさに救われるような気もしていた。
見ているだけで幸せだったものから視線を逸らすことはとても難しい。少しでも彼を見ていたいという欲望にエリシアは何度も負けそうになった。
しかし、その度に大好きな彼の幸せを願うように心がけてみたところ、思った以上に自分の気持ちを抑制できるようになった。
そう考えることで、彼に似合わない自分は必然的に排除されることに気づいたからだった。
ユーレットを助けに来た人は、見た目の可愛らしい女性だった。小柄で女の子らしい彼女とユーレットは、傍から見てとても理想的な関係に思えた。
不器用でぶっきらぼう、少し子供っぽいユーレットと、可愛らしい外見に反して物事をはっきり伝えることのできるしっかり者の彼女。二人が恋愛関係にあるのかなんて分からない。そんなことはどうでもよかった。
ただ・・・二人を見て思ってしまったのだ。
なんてお似合いなのだろう・・・と。
ユーレットは彼女に怒っていた。自分の隣では声も出さず、表情ひとつ変えなかったあのユーレットがだ・・・。
正直言って、彼女と自分では勝負にもならないと思ってしまった・・・。
(私といても彼は笑わないし、怒りもしなかった・・・。そもそも声を出さないし、表情も変わらない。私にとって何よりも大切な時間が彼にとっては違ったってこと・・・。好かれるどころか、きっと友人にもなれていなかった・・・)
エリシアはそうやって、ようやくユーレットへの気持ちに終止符を打ったのだった。
あの時、騒ぎに群がるたくさんの人の前で公開失恋という大恥をかいてしまったけれど、今となってみればあれで良かったのかもしれないとすら思っていた。
ああして大勢の前で宣言してしまったからこそ、今の自分はどうにかユーレットと距離を取れているのだと思う。
そうでなければ、自分は彼から離れることができなかったかもしれない。それこそ絶対にしてはいけないと心に決めていた方法で無理やり彼を繋ぎ止める可能性だってあっただろう。
エリシアはユーレットに友人以上の関係を求めなかった。
だから彼も自分がそばにいることを許してくれていたのだと思う。・・・おそらく彼も分かっていたのだろう。二人の関係はエリシアの卒業で終わるということを。
学園を卒業したら両親の決めた相手と婚約するのだろう。既に話はいくつも来ているようだが、学生のうちは考えなくていいと言って、両親はエリシアの初恋を見守ってくれていた。
だからエリシアはずっと思っていた。終わらせる準備をしなくてはいけないと・・・。
本当は少しずつ距離を置かなくてはいけなかったのだ・・・ユーレットが居なくても平気でいられるように。将来ユーレット以外の男性とうまくやって行けるように。そして、ユーレットが自分以外の女性と一緒になるのを心静かに見ていられるように。
結局、こんなことになるまで行動に移せなかった・・・。自分から離れて行くなんて、エリシアにはできなかったのだ。
彼女はそれほどまでにユーレットを失うことを恐れ、彼との優しい時間に依存していたのだ。
初めての恋は、エリシアの生活を隅から隅まで明るく照らしてくれた。だが、こうして明かりを失ってしまった今、どこもかしこもあまりに暗すぎる。この先どうやって前に進めばよいかも分からなくなってしまった。当たり前のことだと暗がりを進み続けて来た過去の自分にはもう戻れないような気がする。まるで不安ばかりが心を支配してくるようだった。
その日、エリシアは気づかれないように遠くからこっそりと彼を見つめていた。
ユーレットを失い途方に暮れている自分とは違い、彼から困っている様子は窺えなかった。
(やっぱり私って、それほど必要とされてなかったのね・・・)
分かっていたつもりだったが、何事もなかったかのようなユーレットの横顔に胸が締め付けられるような寂しさを覚えた。
エリシアは、それからも度々ユーレットを見かけた。
いつものベンチでゆったりと読書をしている彼は、誰に邪魔されるでもなく有意義な時間を過ごしているように見えた。少し前までは、当然のように彼の隣に寄り添う自分がいた。座るなり相手の迷惑も考えずに彼の手を取り、馴れ馴れしく話しかけていた。近寄ることも出来なくなってしまった今、遠くから冷静になって見つめていると、自分がいかに彼の貴重な時間を奪っていたかが分かる。
だが、彼にとって良い思い出のないあの場所で何事もなかったように読書をしてくれるのは、やはりユーレットの優しさなのだと思う。エリシアは申し訳ない気持ちの反面、そんな彼の優しさに救われるような気もしていた。
見ているだけで幸せだったものから視線を逸らすことはとても難しい。少しでも彼を見ていたいという欲望にエリシアは何度も負けそうになった。
しかし、その度に大好きな彼の幸せを願うように心がけてみたところ、思った以上に自分の気持ちを抑制できるようになった。
そう考えることで、彼に似合わない自分は必然的に排除されることに気づいたからだった。
ユーレットを助けに来た人は、見た目の可愛らしい女性だった。小柄で女の子らしい彼女とユーレットは、傍から見てとても理想的な関係に思えた。
不器用でぶっきらぼう、少し子供っぽいユーレットと、可愛らしい外見に反して物事をはっきり伝えることのできるしっかり者の彼女。二人が恋愛関係にあるのかなんて分からない。そんなことはどうでもよかった。
ただ・・・二人を見て思ってしまったのだ。
なんてお似合いなのだろう・・・と。
ユーレットは彼女に怒っていた。自分の隣では声も出さず、表情ひとつ変えなかったあのユーレットがだ・・・。
正直言って、彼女と自分では勝負にもならないと思ってしまった・・・。
(私といても彼は笑わないし、怒りもしなかった・・・。そもそも声を出さないし、表情も変わらない。私にとって何よりも大切な時間が彼にとっては違ったってこと・・・。好かれるどころか、きっと友人にもなれていなかった・・・)
エリシアはそうやって、ようやくユーレットへの気持ちに終止符を打ったのだった。
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