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哀れな彼女と愚かな彼
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数人の友人に囲まれるようにしてエリシアはその場を去って行った。
彼女の友人達は、震えるエリシアの肩を抱きしめるようにして慰めの言葉をかけていたが、その瞳は何度もユーレットとリーシャを睨みつけていた。
「ねえ、私・・・ちゃんと笑えていた? ・・・最後に、ちゃんとお礼、言えた?」
泣きながら友人に尋ねるエリシアに、友人達は背中を擦りながら 「大丈夫、よくやったわ」 と、次々と慰めの言葉をかけた。
「失恋って・・・、こんなに辛いの?・・・なんでこんなに苦しいの・・・ねえ、涙が止まらないわ」
「そう、失恋なんてそんなものよ」
「絶対に時が解決してくれるから大丈夫よ。だから、今はいっぱい泣いて」
「そうよ。私達が全部受け止めてあげるわ。だから思いっきり泣けばいいわ」
「なんで、こんなに悲しいの・・・? とても、苦しい・・・の。・・・・もうやだよぉ。こんなことなら恋なんてしない方が良かったってこと?」
「そんなことないわ。だって人を好きになるって、とっても素敵なことですもの。何度も何度も恋をするけど全部がうまくいくわけではないわ。相手にも気持ちや事情があるんですもの。こればっかりは仕方のないことなのよ。でも、人を好きになるって本当に幸せなことよ。あなただって分かったでしょう?」
「・・・うん。でも、後悔もいっぱい・・・。大好きって、もっともっとたくさん言いたかった・・・。悲しすぎて胸が痛いよぉ」
「大丈夫よ。失恋して悲しいのは今だけ。どんなに悲しくても寝て起きれば新しい日が来るわ。新しい日にはそれまでと違うことが起こるの。そうやって毎日新しい日を迎えてゆけば、いつか違う出会いも訪れる。そして、その頃には失恋の傷も癒えてるはずよ」
「・・・ほんとに癒える?」
「ええ、大丈夫よ、信じて」
「ところでみんな・・・なんで、そんなに詳しいの?・・・失恋経験豊富なの?」
「えっ?・・・うーんと、そ、れはー・・・」
「えーと・・・ねぇ?」
「まあ・・・そう・・・でも、ないかしら?・・・うふっ!」
「うふって、なによぉ、それー。なんの説得力もないじゃない。もうやだぁ・・・ふぇーん」
誰の受け売りなのか、どこで得た知識なのかも分からないというのに、それでもエリシアは慰めてくれる友人たちに感謝すると、その言葉を素直に聞き入れた。
健気な彼女を前にして友人達の心に芽生えたものは、こんな素直なエリシアの良さが分からなかったユーレットへの憎悪と、次こそは絶対に彼女に相応しい男性を探し出す!といういらぬ責任感であった。
リーシャに名前を呼ばれ、それまで呆然と立ち尽くしていたユーレットは、ゆっくりと正気に戻った。
気が付いた時には見つめていたはずのエリシアの姿はもうそこにはなかった。騒ぎを聞きつけて集まっていた生徒達もいつの間にか居なくなっており、がらんとした通路の真ん中に立っているのは自分とリーシャの二人だけであった。
リーシャが何か言いながら頭を下げているが、ユーレットは何も知りたくないと瞬時に目を伏せ、心を閉ざした。
確かに彼女のしたことは余計なお世話であり、いい迷惑だった。だが、そうさせたのはエリシアに対する自分の酷い態度のせいだ。
なんの疑いもなくリーシャの言葉を受け入れてしまったエリシアもまた、何も悪くないだろう。リーシャの言葉を信じさせてしまったのは、やはり他でもない自分なのだから。
そう、全て自分が悪いことをユーレットは分かっていたのだ。だが、ここでリーシャの謝罪など聞いてしまったならば、卑怯な自分はきっと何もかもを彼女のせいにしてしまうだろう。
頭を下げるリーシャの言葉を遮り 「もういい」 とだけ伝えると、ユーレットはその場から逃げるように歩き出した。
(この身長が彼女に追いついたなら・・・)
これまで心の中で何度も繰り返していた言葉を思い出す。これが何一つ誇れるもののない自分の密かな目標になっていた。
その時が来たなら、常に劣等感に苛まれている情けない自分でも彼女の隣に立てるような気がしていた。
せめて外見だけでも彼女に相応しくなれたなら、それまで一切応えることのできなかった彼女の気持ちをありがたく受け入れよう。恥ずかしくて言えなかった自分の素直な気持ちをはっきりと言葉にして伝えよう。
きっとこれが未熟なユーレットの思いつく、最も早いエリシアへの近道だったのだろう。
ただそれが愚かな独りよがりであったことを知るのが、エリシアを失ってからというだけの話だ。
彼女の友人達は、震えるエリシアの肩を抱きしめるようにして慰めの言葉をかけていたが、その瞳は何度もユーレットとリーシャを睨みつけていた。
「ねえ、私・・・ちゃんと笑えていた? ・・・最後に、ちゃんとお礼、言えた?」
泣きながら友人に尋ねるエリシアに、友人達は背中を擦りながら 「大丈夫、よくやったわ」 と、次々と慰めの言葉をかけた。
「失恋って・・・、こんなに辛いの?・・・なんでこんなに苦しいの・・・ねえ、涙が止まらないわ」
「そう、失恋なんてそんなものよ」
「絶対に時が解決してくれるから大丈夫よ。だから、今はいっぱい泣いて」
「そうよ。私達が全部受け止めてあげるわ。だから思いっきり泣けばいいわ」
「なんで、こんなに悲しいの・・・? とても、苦しい・・・の。・・・・もうやだよぉ。こんなことなら恋なんてしない方が良かったってこと?」
「そんなことないわ。だって人を好きになるって、とっても素敵なことですもの。何度も何度も恋をするけど全部がうまくいくわけではないわ。相手にも気持ちや事情があるんですもの。こればっかりは仕方のないことなのよ。でも、人を好きになるって本当に幸せなことよ。あなただって分かったでしょう?」
「・・・うん。でも、後悔もいっぱい・・・。大好きって、もっともっとたくさん言いたかった・・・。悲しすぎて胸が痛いよぉ」
「大丈夫よ。失恋して悲しいのは今だけ。どんなに悲しくても寝て起きれば新しい日が来るわ。新しい日にはそれまでと違うことが起こるの。そうやって毎日新しい日を迎えてゆけば、いつか違う出会いも訪れる。そして、その頃には失恋の傷も癒えてるはずよ」
「・・・ほんとに癒える?」
「ええ、大丈夫よ、信じて」
「ところでみんな・・・なんで、そんなに詳しいの?・・・失恋経験豊富なの?」
「えっ?・・・うーんと、そ、れはー・・・」
「えーと・・・ねぇ?」
「まあ・・・そう・・・でも、ないかしら?・・・うふっ!」
「うふって、なによぉ、それー。なんの説得力もないじゃない。もうやだぁ・・・ふぇーん」
誰の受け売りなのか、どこで得た知識なのかも分からないというのに、それでもエリシアは慰めてくれる友人たちに感謝すると、その言葉を素直に聞き入れた。
健気な彼女を前にして友人達の心に芽生えたものは、こんな素直なエリシアの良さが分からなかったユーレットへの憎悪と、次こそは絶対に彼女に相応しい男性を探し出す!といういらぬ責任感であった。
リーシャに名前を呼ばれ、それまで呆然と立ち尽くしていたユーレットは、ゆっくりと正気に戻った。
気が付いた時には見つめていたはずのエリシアの姿はもうそこにはなかった。騒ぎを聞きつけて集まっていた生徒達もいつの間にか居なくなっており、がらんとした通路の真ん中に立っているのは自分とリーシャの二人だけであった。
リーシャが何か言いながら頭を下げているが、ユーレットは何も知りたくないと瞬時に目を伏せ、心を閉ざした。
確かに彼女のしたことは余計なお世話であり、いい迷惑だった。だが、そうさせたのはエリシアに対する自分の酷い態度のせいだ。
なんの疑いもなくリーシャの言葉を受け入れてしまったエリシアもまた、何も悪くないだろう。リーシャの言葉を信じさせてしまったのは、やはり他でもない自分なのだから。
そう、全て自分が悪いことをユーレットは分かっていたのだ。だが、ここでリーシャの謝罪など聞いてしまったならば、卑怯な自分はきっと何もかもを彼女のせいにしてしまうだろう。
頭を下げるリーシャの言葉を遮り 「もういい」 とだけ伝えると、ユーレットはその場から逃げるように歩き出した。
(この身長が彼女に追いついたなら・・・)
これまで心の中で何度も繰り返していた言葉を思い出す。これが何一つ誇れるもののない自分の密かな目標になっていた。
その時が来たなら、常に劣等感に苛まれている情けない自分でも彼女の隣に立てるような気がしていた。
せめて外見だけでも彼女に相応しくなれたなら、それまで一切応えることのできなかった彼女の気持ちをありがたく受け入れよう。恥ずかしくて言えなかった自分の素直な気持ちをはっきりと言葉にして伝えよう。
きっとこれが未熟なユーレットの思いつく、最も早いエリシアへの近道だったのだろう。
ただそれが愚かな独りよがりであったことを知るのが、エリシアを失ってからというだけの話だ。
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