6 / 25
哀れな彼女と愚かな彼
しおりを挟む
数人の友人に囲まれるようにしてエリシアはその場を去って行った。
彼女の友人達は、震えるエリシアの肩を抱きしめるようにして慰めの言葉をかけていたが、その瞳は何度もユーレットとリーシャを睨みつけていた。
「ねえ、私・・・ちゃんと笑えていた? ・・・最後に、ちゃんとお礼、言えた?」
泣きながら友人に尋ねるエリシアに、友人達は背中を擦りながら 「大丈夫、よくやったわ」 と、次々と慰めの言葉をかけた。
「失恋って・・・、こんなに辛いの?・・・なんでこんなに苦しいの・・・ねえ、涙が止まらないわ」
「そう、失恋なんてそんなものよ」
「絶対に時が解決してくれるから大丈夫よ。だから、今はいっぱい泣いて」
「そうよ。私達が全部受け止めてあげるわ。だから思いっきり泣けばいいわ」
「なんで、こんなに悲しいの・・・? とても、苦しい・・・の。・・・・もうやだよぉ。こんなことなら恋なんてしない方が良かったってこと?」
「そんなことないわ。だって人を好きになるって、とっても素敵なことですもの。何度も何度も恋をするけど全部がうまくいくわけではないわ。相手にも気持ちや事情があるんですもの。こればっかりは仕方のないことなのよ。でも、人を好きになるって本当に幸せなことよ。あなただって分かったでしょう?」
「・・・うん。でも、後悔もいっぱい・・・。大好きって、もっともっとたくさん言いたかった・・・。悲しすぎて胸が痛いよぉ」
「大丈夫よ。失恋して悲しいのは今だけ。どんなに悲しくても寝て起きれば新しい日が来るわ。新しい日にはそれまでと違うことが起こるの。そうやって毎日新しい日を迎えてゆけば、いつか違う出会いも訪れる。そして、その頃には失恋の傷も癒えてるはずよ」
「・・・ほんとに癒える?」
「ええ、大丈夫よ、信じて」
「ところでみんな・・・なんで、そんなに詳しいの?・・・失恋経験豊富なの?」
「えっ?・・・うーんと、そ、れはー・・・」
「えーと・・・ねぇ?」
「まあ・・・そう・・・でも、ないかしら?・・・うふっ!」
「うふって、なによぉ、それー。なんの説得力もないじゃない。もうやだぁ・・・ふぇーん」
誰の受け売りなのか、どこで得た知識なのかも分からないというのに、それでもエリシアは慰めてくれる友人たちに感謝すると、その言葉を素直に聞き入れた。
健気な彼女を前にして友人達の心に芽生えたものは、こんな素直なエリシアの良さが分からなかったユーレットへの憎悪と、次こそは絶対に彼女に相応しい男性を探し出す!といういらぬ責任感であった。
リーシャに名前を呼ばれ、それまで呆然と立ち尽くしていたユーレットは、ゆっくりと正気に戻った。
気が付いた時には見つめていたはずのエリシアの姿はもうそこにはなかった。騒ぎを聞きつけて集まっていた生徒達もいつの間にか居なくなっており、がらんとした通路の真ん中に立っているのは自分とリーシャの二人だけであった。
リーシャが何か言いながら頭を下げているが、ユーレットは何も知りたくないと瞬時に目を伏せ、心を閉ざした。
確かに彼女のしたことは余計なお世話であり、いい迷惑だった。だが、そうさせたのはエリシアに対する自分の酷い態度のせいだ。
なんの疑いもなくリーシャの言葉を受け入れてしまったエリシアもまた、何も悪くないだろう。リーシャの言葉を信じさせてしまったのは、やはり他でもない自分なのだから。
そう、全て自分が悪いことをユーレットは分かっていたのだ。だが、ここでリーシャの謝罪など聞いてしまったならば、卑怯な自分はきっと何もかもを彼女のせいにしてしまうだろう。
頭を下げるリーシャの言葉を遮り 「もういい」 とだけ伝えると、ユーレットはその場から逃げるように歩き出した。
(この身長が彼女に追いついたなら・・・)
これまで心の中で何度も繰り返していた言葉を思い出す。これが何一つ誇れるもののない自分の密かな目標になっていた。
その時が来たなら、常に劣等感に苛まれている情けない自分でも彼女の隣に立てるような気がしていた。
せめて外見だけでも彼女に相応しくなれたなら、それまで一切応えることのできなかった彼女の気持ちをありがたく受け入れよう。恥ずかしくて言えなかった自分の素直な気持ちをはっきりと言葉にして伝えよう。
きっとこれが未熟なユーレットの思いつく、最も早いエリシアへの近道だったのだろう。
ただそれが愚かな独りよがりであったことを知るのが、エリシアを失ってからというだけの話だ。
彼女の友人達は、震えるエリシアの肩を抱きしめるようにして慰めの言葉をかけていたが、その瞳は何度もユーレットとリーシャを睨みつけていた。
「ねえ、私・・・ちゃんと笑えていた? ・・・最後に、ちゃんとお礼、言えた?」
泣きながら友人に尋ねるエリシアに、友人達は背中を擦りながら 「大丈夫、よくやったわ」 と、次々と慰めの言葉をかけた。
「失恋って・・・、こんなに辛いの?・・・なんでこんなに苦しいの・・・ねえ、涙が止まらないわ」
「そう、失恋なんてそんなものよ」
「絶対に時が解決してくれるから大丈夫よ。だから、今はいっぱい泣いて」
「そうよ。私達が全部受け止めてあげるわ。だから思いっきり泣けばいいわ」
「なんで、こんなに悲しいの・・・? とても、苦しい・・・の。・・・・もうやだよぉ。こんなことなら恋なんてしない方が良かったってこと?」
「そんなことないわ。だって人を好きになるって、とっても素敵なことですもの。何度も何度も恋をするけど全部がうまくいくわけではないわ。相手にも気持ちや事情があるんですもの。こればっかりは仕方のないことなのよ。でも、人を好きになるって本当に幸せなことよ。あなただって分かったでしょう?」
「・・・うん。でも、後悔もいっぱい・・・。大好きって、もっともっとたくさん言いたかった・・・。悲しすぎて胸が痛いよぉ」
「大丈夫よ。失恋して悲しいのは今だけ。どんなに悲しくても寝て起きれば新しい日が来るわ。新しい日にはそれまでと違うことが起こるの。そうやって毎日新しい日を迎えてゆけば、いつか違う出会いも訪れる。そして、その頃には失恋の傷も癒えてるはずよ」
「・・・ほんとに癒える?」
「ええ、大丈夫よ、信じて」
「ところでみんな・・・なんで、そんなに詳しいの?・・・失恋経験豊富なの?」
「えっ?・・・うーんと、そ、れはー・・・」
「えーと・・・ねぇ?」
「まあ・・・そう・・・でも、ないかしら?・・・うふっ!」
「うふって、なによぉ、それー。なんの説得力もないじゃない。もうやだぁ・・・ふぇーん」
誰の受け売りなのか、どこで得た知識なのかも分からないというのに、それでもエリシアは慰めてくれる友人たちに感謝すると、その言葉を素直に聞き入れた。
健気な彼女を前にして友人達の心に芽生えたものは、こんな素直なエリシアの良さが分からなかったユーレットへの憎悪と、次こそは絶対に彼女に相応しい男性を探し出す!といういらぬ責任感であった。
リーシャに名前を呼ばれ、それまで呆然と立ち尽くしていたユーレットは、ゆっくりと正気に戻った。
気が付いた時には見つめていたはずのエリシアの姿はもうそこにはなかった。騒ぎを聞きつけて集まっていた生徒達もいつの間にか居なくなっており、がらんとした通路の真ん中に立っているのは自分とリーシャの二人だけであった。
リーシャが何か言いながら頭を下げているが、ユーレットは何も知りたくないと瞬時に目を伏せ、心を閉ざした。
確かに彼女のしたことは余計なお世話であり、いい迷惑だった。だが、そうさせたのはエリシアに対する自分の酷い態度のせいだ。
なんの疑いもなくリーシャの言葉を受け入れてしまったエリシアもまた、何も悪くないだろう。リーシャの言葉を信じさせてしまったのは、やはり他でもない自分なのだから。
そう、全て自分が悪いことをユーレットは分かっていたのだ。だが、ここでリーシャの謝罪など聞いてしまったならば、卑怯な自分はきっと何もかもを彼女のせいにしてしまうだろう。
頭を下げるリーシャの言葉を遮り 「もういい」 とだけ伝えると、ユーレットはその場から逃げるように歩き出した。
(この身長が彼女に追いついたなら・・・)
これまで心の中で何度も繰り返していた言葉を思い出す。これが何一つ誇れるもののない自分の密かな目標になっていた。
その時が来たなら、常に劣等感に苛まれている情けない自分でも彼女の隣に立てるような気がしていた。
せめて外見だけでも彼女に相応しくなれたなら、それまで一切応えることのできなかった彼女の気持ちをありがたく受け入れよう。恥ずかしくて言えなかった自分の素直な気持ちをはっきりと言葉にして伝えよう。
きっとこれが未熟なユーレットの思いつく、最も早いエリシアへの近道だったのだろう。
ただそれが愚かな独りよがりであったことを知るのが、エリシアを失ってからというだけの話だ。
120
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる