二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥

文字の大きさ
上 下
4 / 25

幼馴染のリーシャ

しおりを挟む
 最近、エリシアの口数が減ったことにユーレットは気が付いていた。

ユーレットを見つめる瞳は以前と変わらず慈愛に満ちていたが、ふと二人の間の静けさに気が付くと、決まって彼女はどこか物悲しそうに空を見上げていることが多くなっていた。

今までの彼女なら目に焼き付ける勢いでユーレットだけを見つめていた。毎日たいした会話があったわけではない。それでも彼女はいつも嬉しそうにユーレットに話しかけていた。
いつだってエリシアは全力でユーレットに愛を伝えていたのだから。

「なにかあったのか?」

本から顔を上げることなく、いかにもつまらなそうに尋ねてくるユーレットに、一瞬目を丸くしたエリシアだったが、直ぐににっこりと口角を上げると離れていたユーレットとの距離を詰めて座り直した。

「私を心配してくれるの?まあユーレット、あなたってばなんて優しい人なのかしら!・・・もう、ユーレットったら、これ以上好きにさせてどうするつもりなの!?私、本当に困ってしまうわ!そんな優しい言葉をかけられたら、嬉しくて今日一日勉強が手に付かなくなってしまうじゃないの!!」

「・・・・・」

「ん?なあに?」

「ん」

何か言いたそうにチラリと顔をこちらに向けたユーレットが自分の手を差し出すと 「え?」 と、エリシアはきょとんとした顔で首を傾げている。

「手、繋がないのか?」

「えっ!?ユーレット!! いいの!?本当!?やだ、ユーレット嬉しい、大好き!!一番大好き!!」

エリシアがあまりに大喜びするものだから結局元気のない理由は分からないままになってしまったが、そんな態度を見る限り、彼女の変わらない愛情に確信は持てた。
しかし、安心すると同時に心に沸き上がってきたのは、先の見えない二人の関係性であった。

(もし、彼女に飽きられたら・・・)

もし、嫌われたら。もし、怒らせたなら。もし、彼女が自分への興味を失ったなら・・・。
自分達は恋人ではない。婚約者でもない。それどころか、彼女の好意に甘えて自分の気持ちすら伝えていなかった。


進展しない関係を不安に感じながらも、それでも手をこまねいているユーレットに、その日は突然訪れたのだった。





 リーシャは幼馴染だ。子供の頃に兄も交えて三人でよく遊んだ。子供っぽい外見とは違ってしっかり者の彼女だから、未だに姉の気分が抜けてないのだろうと思った。
だから自分は、彼女の言葉を止めるのが遅れてしまったんだと思う。




「いい加減ユーレットを解放してあげてください」

それは突然のことであった。
いつもの時間、いつもの場所。自分の隣には、まるで花がほころぶような美しい笑顔のエリシアがいた。
いつもとなんら変わらない光景の中に突如現れたリーシャは、面識などないはずのエリシアに向かって声を荒げたのだ。

「爵位の高いあなたが、相手の迷惑も考えずに自分の気持ちを強引に押し付けているのです。何も言い返せずに困っている彼の気持ちも少しは考えてあげてください」

「なっ、リーシャ、なに言って・・・ やめろ、失礼だろう!!」

「なによっ!!困ってるんでしょう!?あなたの代わりにはっきり断ってあげてるんじゃない!!」

「リーシャ、いい加減にしろ!そんなこと頼んでないだろ!!」

慌てて止めに入ったけれど、自分達の言い争いに気づいた周囲の人間が、なんだ、どうした?と、集まって来てしまった。いつもエリシアと一緒にいる令嬢達も異変に気づいて駆け寄って来た。そして、焦って周囲を見渡している際、ふいに視界に入ったエリシアの顔にユーレットは呼吸が止まった。

こんな状況の中、彼女は今にも泣きそうな顔で、それでも必死に笑顔を作っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...