上 下
3 / 25

動かなければ何も得られない

しおりを挟む
 実は、ユーレットが普段どんなふうに友人達にからかわれているかエリシアは知っていたのだ。

「私の身長がこんなに大きいばかりにユーレットに恥を掻かせてしまっているの・・・。この黒い髪と目の色も・・・男性からの評判はよくないみたいで・・・。それでも彼は何も言わずに私と話をしてくれるの・・・」

そう言ったエリシアの瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
辛そうな姿を見ていられなくなった友人達は、唇を噛みしめてエリシアから視線を逸らす。そして、幼稚な男ユーレットに心の中で打ち鳴らすのだ。  
・・・舌打ちを。

(チッ、なんでエリシアほどの女性が、あんなつまらない男なんかと!)

(エリシアは、コットワール侯爵家の次期当主よ。彼女を狙ってる人なんて山ほどいるっていうのに、なんであんな男の為に彼女がここまで胸を傷める必要があるの!?)

(可哀想なエリシア。ようやく見つけた愛する人が、あんな未熟な男だったなんて。しかも・・・チッ、なによ、あの前髪! 薄気味悪い!)

これがエリシアの友人達の・・・、いや、周囲の人間達の本音である。
恋を知り、以前よりずっと笑顔の増えたエリシアに目を細めている反面、ユーレット本人や彼を取り囲む環境を知るにつれて、よりにもよってなんでこいつ!?と、彼女達は不快でならないのだ。
自分達の周りには、まばゆいほどに日々美しくなってゆくエリシアをぜひ紹介してほしいという兄弟、従兄弟がたくさんいる。あんな感じの悪い男なんかより、よっぽど彼女を幸せにしてくれることだろう。

しかし、

「ユーレットがね、私の作ったお菓子を食べてくれたの。美味しい?って聞いたら、うん。って・・・。自分の作ったものを食べてもらえるってこんなに嬉しいものなのね!」

嬉しくて嬉しくて仕方がないという笑顔でユーレットの話をしたがるエリシアを前に、あんな子供のような男はやめて自分の親戚と付き合えなどとは、友人であってもさすがに言えなかった。それほど彼女は初めての恋を楽しんでいたし、ユーレットのおかげで世界が色付いて見えるとまで言い、その場でくるくる踊って喜びを表現していたりもするのだった。


 その後も、エリシアとユーレットの関係は変わることなく続いていた。
自分の気持ちを素直に伝えてにっこり微笑むエリシアは今日も幸せそうであったし、ユーレットのそっけない態度も相変わらずであった。

ただ一つ変化があったとするならば、月日が経つごとに少しずつ成長して行くユーレットの体と共に、心も少しずつだが成長し始めたことだろうか・・・。

最近、ユーレットの視線はひっきりなしにエリシアを追うようになっていた。顔が赤くなるような気がして、二人の時はあまり顔を上げないように気を付けていた。嬉しくて尻尾を振る犬のように思われたくないので常に冷静を装うのも忘れない。

だが、いつまでもこのままの関係でいいとは、さすがのユーレットも思っていなかった。

彼女に慕われるだけで満たされていた心が、いつからか物足りなさを感じている。
それはもう随分前からだ。
自分からは何一つ動こうとはしないくせに、大好きだと言いながらも一向にそれ以上踏み込んで来ないエリシアに苛立ちすら感じていた。

本当は、誘ってくれれば一緒に外出だってするし、こちらの顔色を窺ってせっかく繋いだ手を離さなくたっていいのに。
もっと二人の時間を増やしても良かったし、お願いしてくれれば、なんだって自分のできる範囲で叶える努力はする。

それに・・・言ってくれれば・・・男と女として、付き合うことだってできるのに。


しかし、思っているだけで何も動こうとしないユーレットになど、得られるものは何もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...