2 / 25
彼の嫌なことは絶対にしない
しおりを挟む
日に日に態度が悪くなるユーレットに、エリシアも当然気が付いていた。
入学式で会場入りしたユーレットに一目惚れして以来、どうやっても彼との接点を見つけることの出来なかったエリシアが取った行動は、単刀直入に本人に告白するという、あまりにも唐突なものであった。
将来、侯爵家を継がなくてはいけないという責任感が彼女から女性の喜びを奪っていたのかもしれない。
広大な領地と領民の生活が自分にかかっているという重圧を受けながらも、その期待に応えるべくエリシアは必死に学んで来た。そのせいもあってか、気付いた時には友人達が好む眩しく煌びやかな世界に自分が全くついて行けていないことを知るのだった。
どんなに人気のある男性も彼女の瞳には特別な人として映らなかった。どんなに綺麗なドレスであっても、どんなに可愛い雑貨であっても真面目なエリシアが優先するのは将来に向けての勉強だった。
もちろん自分だって、それらを見て綺麗だし可愛いとは思う。しかし、どうしてもそれが欲しいかと聞かれれば、答えはやはり 「いいえ」 だった。
なので初めてユーレットを見た時の衝撃は、忘れたくても忘れられない。そして、その日から始まった心躍るような素晴らしい日々をエリシアは全力で楽しんでいた。
唖然とする友人達に向かって大好きなユーレットの話をするのがこんなに幸せなことだなんて知らなかった。
今日の彼はどんな表情だったか、自分は今朝こんなことを言われた。大好きなユーレットの一挙一動を細かく友人に話して、その感想を求めたりもする。今までは女の子の会話に入っていけなかった自分が、今はなんと、皆の会話の中心となりキャッキャしているのだ。お互いの好きな人の話がこんなに楽しいことだなんて思いもしなかった。
それまで唇を噛みしめ、机に噛り付くようにして学んできたものが、将来もしかしたら自分の隣に立つかもしれない大好きなユーレットの為と想像してみたら、まだまだ・・・、いや、もっともっと頑張れると力がみなぎって来るのも驚きであった。
様々な妄想をしながら目をハートにして浮かれているように見えるエリシアであったが、戸惑う彼に爵位をチラつかせて強引に自分の気持ちを押し付けたりは絶対にしない。なによりもユーレットの気持ちを一番大切に思っていた彼女は、本当に友人以上の関係を求めるようなことはしなかったのだ。
エリシアにとってユーレットは、随分と遅れて来た初恋の人であり、それまで恋など経験したことのない彼女には、本当にありがたく尊いものに映っていた。
彼の身長が低かろうと、容姿にそれほど特徴が見当たらなくとも、エリシアには彼の全てが愛おしい。
なので、どんなに自分が彼の全てを欲しようとも、彼の嫌がるようなことは絶対にしないと固く誓っていた。
そして、そんなエリシアの純粋で優しい気持ちをユーレットは全て見ていた。
あえて迷惑そうな態度をとる幼い考えの自分を見ても、エリシアは怒るどころか、いつも申し訳なさそうに気を遣っていた。
「私ったら・・・またこんなに一人で話し続けてしまって。こんな話つまらないわよね。ごめんねユーレット。もう・・・やだな、本当に恥ずかしい・・・。今の話はなかったことにしてね?ちょっとお友達から聞いたものだから、ついね・・・、ふふっ、きっとユーレットと一緒ならとっても楽しいだろうなって想像してしまっただけなの」
そんなエリシアを見た時のユーレットは、決まって心の中で酷く慌ててしまう。
本来、こんな綺麗な女性にこれほどまでの好意を寄せられて気分を害する男なんていない。
なんの取柄もないチビの自分をどうしてここまで大切に想ってくれるのかは分からないが、外見や家柄も良い上に、思いやりに溢れたエリシアをどうしたって嫌いになんてなれる訳がない。
「カフェに行きたいなら、そう言えばいい」
なのにユーレットの態度は、いつだって優しく接したい心の中とは反対の酷いものばかりだった。
伸び悩んでいるのは彼の身長だけではない。ユーレットの心も、まだまだ成長途中なのである。
だが、目も合わさず怒ったような口しか利けない、そんな感じの悪いユーレットに、エリシアは溢れんばかりの笑顔を向ける。
「え?やだ・・・嬉しい。そんなこと言ってくれるの?・・・ユーレットってば本当に優しいのね・・・」
薄っすら涙まで浮かべて幸せそうに微笑むエリシアだが、だからといってこの先二人が一緒に出掛けることにはならない。
なぜなら、ユーレットの嫌がることをエリシアは絶対にしないからだ。
入学式で会場入りしたユーレットに一目惚れして以来、どうやっても彼との接点を見つけることの出来なかったエリシアが取った行動は、単刀直入に本人に告白するという、あまりにも唐突なものであった。
将来、侯爵家を継がなくてはいけないという責任感が彼女から女性の喜びを奪っていたのかもしれない。
広大な領地と領民の生活が自分にかかっているという重圧を受けながらも、その期待に応えるべくエリシアは必死に学んで来た。そのせいもあってか、気付いた時には友人達が好む眩しく煌びやかな世界に自分が全くついて行けていないことを知るのだった。
どんなに人気のある男性も彼女の瞳には特別な人として映らなかった。どんなに綺麗なドレスであっても、どんなに可愛い雑貨であっても真面目なエリシアが優先するのは将来に向けての勉強だった。
もちろん自分だって、それらを見て綺麗だし可愛いとは思う。しかし、どうしてもそれが欲しいかと聞かれれば、答えはやはり 「いいえ」 だった。
なので初めてユーレットを見た時の衝撃は、忘れたくても忘れられない。そして、その日から始まった心躍るような素晴らしい日々をエリシアは全力で楽しんでいた。
唖然とする友人達に向かって大好きなユーレットの話をするのがこんなに幸せなことだなんて知らなかった。
今日の彼はどんな表情だったか、自分は今朝こんなことを言われた。大好きなユーレットの一挙一動を細かく友人に話して、その感想を求めたりもする。今までは女の子の会話に入っていけなかった自分が、今はなんと、皆の会話の中心となりキャッキャしているのだ。お互いの好きな人の話がこんなに楽しいことだなんて思いもしなかった。
それまで唇を噛みしめ、机に噛り付くようにして学んできたものが、将来もしかしたら自分の隣に立つかもしれない大好きなユーレットの為と想像してみたら、まだまだ・・・、いや、もっともっと頑張れると力がみなぎって来るのも驚きであった。
様々な妄想をしながら目をハートにして浮かれているように見えるエリシアであったが、戸惑う彼に爵位をチラつかせて強引に自分の気持ちを押し付けたりは絶対にしない。なによりもユーレットの気持ちを一番大切に思っていた彼女は、本当に友人以上の関係を求めるようなことはしなかったのだ。
エリシアにとってユーレットは、随分と遅れて来た初恋の人であり、それまで恋など経験したことのない彼女には、本当にありがたく尊いものに映っていた。
彼の身長が低かろうと、容姿にそれほど特徴が見当たらなくとも、エリシアには彼の全てが愛おしい。
なので、どんなに自分が彼の全てを欲しようとも、彼の嫌がるようなことは絶対にしないと固く誓っていた。
そして、そんなエリシアの純粋で優しい気持ちをユーレットは全て見ていた。
あえて迷惑そうな態度をとる幼い考えの自分を見ても、エリシアは怒るどころか、いつも申し訳なさそうに気を遣っていた。
「私ったら・・・またこんなに一人で話し続けてしまって。こんな話つまらないわよね。ごめんねユーレット。もう・・・やだな、本当に恥ずかしい・・・。今の話はなかったことにしてね?ちょっとお友達から聞いたものだから、ついね・・・、ふふっ、きっとユーレットと一緒ならとっても楽しいだろうなって想像してしまっただけなの」
そんなエリシアを見た時のユーレットは、決まって心の中で酷く慌ててしまう。
本来、こんな綺麗な女性にこれほどまでの好意を寄せられて気分を害する男なんていない。
なんの取柄もないチビの自分をどうしてここまで大切に想ってくれるのかは分からないが、外見や家柄も良い上に、思いやりに溢れたエリシアをどうしたって嫌いになんてなれる訳がない。
「カフェに行きたいなら、そう言えばいい」
なのにユーレットの態度は、いつだって優しく接したい心の中とは反対の酷いものばかりだった。
伸び悩んでいるのは彼の身長だけではない。ユーレットの心も、まだまだ成長途中なのである。
だが、目も合わさず怒ったような口しか利けない、そんな感じの悪いユーレットに、エリシアは溢れんばかりの笑顔を向ける。
「え?やだ・・・嬉しい。そんなこと言ってくれるの?・・・ユーレットってば本当に優しいのね・・・」
薄っすら涙まで浮かべて幸せそうに微笑むエリシアだが、だからといってこの先二人が一緒に出掛けることにはならない。
なぜなら、ユーレットの嫌がることをエリシアは絶対にしないからだ。
107
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる