花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

文字の大きさ
上 下
28 / 33

辺境地の騎士様

しおりを挟む
 そうこうしているうちに、お姉様とスワルス様の結婚式の日が来ました。
さすがロステル侯爵家の結婚式だけあって、式場には高位貴族の参列者がきらびやかに並び、披露宴会場の豪華さは目を見張るほどで、どれをとっても超一流でした。

中でも、お姉様の美しさは、見た者全てが恍惚とした表情を浮かべ、誰もが心奪われるようでした。女神のように美しいお姉様がいつもの三倍素敵なスワルス様に向かってにっこりと微笑む姿に、両親はもちろん、妹の私ですら目に涙が滲むのを堪えなくてはいけませんでした。 なのに、

「うっ、うぅっ・・義兄上・・・ああ、義兄上・・・ミズリー、おめでとう。
ひうっ・・・うぅ・・・幸せになって・・・。」

私の隣のアレイド様が、なぜか私達家族よりも泣き崩れ、式が終わり披露宴が始まっても無駄に泣き続け、周りからの失笑をかっただけではなく、輝かしい主役のお姉様にハンカチを渡されたり、飲み物を勧められたりと気を使わせ、スワルス様には嫌な顔で 「気持ち悪い」 と小言を言われる始末でした。

アレイド様の 「花嫁の父」 並みの号泣が収まる頃、会場内には音楽が流れ、新郎新婦を中心に煌びやかにダンスの輪が広がってゆきました。泣きすぎて目と鼻を真っ赤にしたアレイド様をソファーに座らせた後、私は一人、ダンスを終えたお姉様の所へ向かいました。

お姉様は、ちょうどお父様とお母様、リョシューと楽しそうに話していましたので、私もその中へ入り一緒に会話を楽しみました。しばらくすると優しい笑みを浮かべて迎えに来たスワルス様とお姉様が、本日何度目かの挨拶回りに向かいました。私が、その幸せそうな後ろ姿を見つめながら、「ほぅ」と、頬に手を当て感嘆の溜息を漏らすと、

「本当に、お二人はお似合いですね。」

いつの間にか私の隣に立っていた、長身で整った顔立ちの男性に話しかけられました。いきなりのことで驚きはしましたが、私はすぐに心を落ち着かせ応えます。

「ええ、本当に。二人共とても美しくて、そして幸せそうです。」

「ああ、いきなり失礼しました。驚かせてしまいましたね。私は新郎の従弟、ジャスティン・ローバスと申します。」

少し驚いた様子の私に謝罪し、自己紹介してくれたのは、以前会ってみないかとお話があったスワルス様の従弟でした。

「まあ、そうでしたか。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。わたくし新婦のミズリーの妹、ユニーナ・バーナーズでございます。」

「ははっ、そんなに畏まらないでください。私は、次期侯爵の従兄とは違い、ただの騎士の一人ですから。」

(そうだ!この方は辺境地の騎士様だったわ。もしかして、アーレン閣下の下で働いてらっしゃるのかしら。)

「どうでしょう、ダンスをしながら少しお話でも。私と踊っていただけますか?」

ジャスティン様は、スマートな仕草で右手を差し出してきました。どうしようか迷い、チラッとアレイド様が休んでいるソファーの方に目を向けると、そのソファーを囲む数人のご令嬢と楽しそうに談笑しているアレイド様がいました。

(まぁ・・・相変わらずモテモテですこと。)

私はすぐに視線を逸らすと、ジャスティン様に向き直り、「喜んで」とにっこり微笑むと、ジャスティン様の手に自分の手を乗せました。

「あの、ジャスティン様は、リヴェル辺境地で騎士様をされていると伺いましたが・・・。」

「はは、よくご存じで。従兄から聞いたのですか?辺境地ですからこことは比べ物にならないくらい田舎です。きっと貴女のようなお嬢様が辺境地を訪れたなら、退屈で仕方がないでしょうね。」

(いえいえ、アーレン閣下がいてくだされば退屈などいたしませんとも!!)

「ふふっ、それはどうでしょう。ジャスティン様は慣れるまでどうでしたか?」

「ははっ、私は退屈している暇などありませんでしたよ。辺境地に攻め込んでくるのは他国の人間だけではありませんからね。いつ魔獣が襲い掛かってくるかもわからない場所です。ですから日々の鍛練すら命がけなんです。慣れるまで大変でしたよ。」

そう言ったジャスティン様は、まるで過去の笑い話をするかのように微笑むのでした。

「まあ、そんな、なんでもないことのように・・・、そんなのいけませんわ!私達がこうして平和に、毎日安心の中で暮らしていられるのは、命がけでこの国を守ってくださっている騎士様たちのおかげなのです。私達は守ってくださっているジャスティン様たちの上で、・・・たくさんの命の上で笑っているのですから・・・。その手首の傷だって・・・きっと・・・。」

そう言って、私がジャスティン様の袖から少しだけ見えている傷に視線を向けると、ジャスティン様のそれまでの優しい表情がすっと抜けて、洋服では隠し切れなかったその傷に目を落としたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】地味令嬢を捨てた婚約者、なぜか皇太子が私に執着して困ります

21時完結
恋愛
「お前のような地味な令嬢と結婚するつもりはない!」 侯爵令嬢セシリアは、社交界でも目立たない地味な存在。 幼い頃から婚約していた公爵家の息子・エドワードに、ある日突然婚約破棄を言い渡される。 その隣には、美しい公爵令嬢が――まさに絵に描いたような乗り換え劇だった。 (まあ、別にいいわ。婚約破棄なんてよくあることですし) と、あっさり諦めたのに……。 「セシリア、お前は私のものだ。誰にも渡さない」 婚約破棄の翌日、冷酷無慈悲と恐れられる皇太子アレクシスが、なぜか私に異常な執着を見せはじめた!? 社交界で“地味”と見下されていたはずの私に、皇太子殿下がまさかの猛アプローチ。 その上、婚約破棄した元婚約者まで後悔して追いかけてきて―― 「お前を手放したのは間違いだった。もう一度、俺の婚約者に――」 「貴様の役目は終わった。セシリアは私の妃になる」 ――って、えっ!? 私はただ静かに暮らしたいだけなのに、なぜかとんでもない三角関係に巻き込まれてしまって……?

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

メカ喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

忘れられた薔薇が咲くとき

ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。 だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。 これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

処理中です...