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辺境地の騎士様
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そうこうしているうちに、お姉様とスワルス様の結婚式の日が来ました。
さすがロステル侯爵家の結婚式だけあって、式場には高位貴族の参列者がきらびやかに並び、披露宴会場の豪華さは目を見張るほどで、どれをとっても超一流でした。
中でも、お姉様の美しさは、見た者全てが恍惚とした表情を浮かべ、誰もが心奪われるようでした。女神のように美しいお姉様がいつもの三倍素敵なスワルス様に向かってにっこりと微笑む姿に、両親はもちろん、妹の私ですら目に涙が滲むのを堪えなくてはいけませんでした。 なのに、
「うっ、うぅっ・・義兄上・・・ああ、義兄上・・・ミズリー、おめでとう。
ひうっ・・・うぅ・・・幸せになって・・・。」
私の隣のアレイド様が、なぜか私達家族よりも泣き崩れ、式が終わり披露宴が始まっても無駄に泣き続け、周りからの失笑をかっただけではなく、輝かしい主役のお姉様にハンカチを渡されたり、飲み物を勧められたりと気を使わせ、スワルス様には嫌な顔で 「気持ち悪い」 と小言を言われる始末でした。
アレイド様の 「花嫁の父」 並みの号泣が収まる頃、会場内には音楽が流れ、新郎新婦を中心に煌びやかにダンスの輪が広がってゆきました。泣きすぎて目と鼻を真っ赤にしたアレイド様をソファーに座らせた後、私は一人、ダンスを終えたお姉様の所へ向かいました。
お姉様は、ちょうどお父様とお母様、リョシューと楽しそうに話していましたので、私もその中へ入り一緒に会話を楽しみました。しばらくすると優しい笑みを浮かべて迎えに来たスワルス様とお姉様が、本日何度目かの挨拶回りに向かいました。私が、その幸せそうな後ろ姿を見つめながら、「ほぅ」と、頬に手を当て感嘆の溜息を漏らすと、
「本当に、お二人はお似合いですね。」
いつの間にか私の隣に立っていた、長身で整った顔立ちの男性に話しかけられました。いきなりのことで驚きはしましたが、私はすぐに心を落ち着かせ応えます。
「ええ、本当に。二人共とても美しくて、そして幸せそうです。」
「ああ、いきなり失礼しました。驚かせてしまいましたね。私は新郎の従弟、ジャスティン・ローバスと申します。」
少し驚いた様子の私に謝罪し、自己紹介してくれたのは、以前会ってみないかとお話があったスワルス様の従弟でした。
「まあ、そうでしたか。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。わたくし新婦のミズリーの妹、ユニーナ・バーナーズでございます。」
「ははっ、そんなに畏まらないでください。私は、次期侯爵の従兄とは違い、ただの騎士の一人ですから。」
(そうだ!この方は辺境地の騎士様だったわ。もしかして、アーレン閣下の下で働いてらっしゃるのかしら。)
「どうでしょう、ダンスをしながら少しお話でも。私と踊っていただけますか?」
ジャスティン様は、スマートな仕草で右手を差し出してきました。どうしようか迷い、チラッとアレイド様が休んでいるソファーの方に目を向けると、そのソファーを囲む数人のご令嬢と楽しそうに談笑しているアレイド様がいました。
(まぁ・・・相変わらずモテモテですこと。)
私はすぐに視線を逸らすと、ジャスティン様に向き直り、「喜んで」とにっこり微笑むと、ジャスティン様の手に自分の手を乗せました。
「あの、ジャスティン様は、リヴェル辺境地で騎士様をされていると伺いましたが・・・。」
「はは、よくご存じで。従兄から聞いたのですか?辺境地ですからこことは比べ物にならないくらい田舎です。きっと貴女のようなお嬢様が辺境地を訪れたなら、退屈で仕方がないでしょうね。」
(いえいえ、アーレン閣下がいてくだされば退屈などいたしませんとも!!)
「ふふっ、それはどうでしょう。ジャスティン様は慣れるまでどうでしたか?」
「ははっ、私は退屈している暇などありませんでしたよ。辺境地に攻め込んでくるのは他国の人間だけではありませんからね。いつ魔獣が襲い掛かってくるかもわからない場所です。ですから日々の鍛練すら命がけなんです。慣れるまで大変でしたよ。」
そう言ったジャスティン様は、まるで過去の笑い話をするかのように微笑むのでした。
「まあ、そんな、なんでもないことのように・・・、そんなのいけませんわ!私達がこうして平和に、毎日安心の中で暮らしていられるのは、命がけでこの国を守ってくださっている騎士様たちのおかげなのです。私達は守ってくださっているジャスティン様たちの上で、・・・たくさんの命の上で笑っているのですから・・・。その手首の傷だって・・・きっと・・・。」
そう言って、私がジャスティン様の袖から少しだけ見えている傷に視線を向けると、ジャスティン様のそれまでの優しい表情がすっと抜けて、洋服では隠し切れなかったその傷に目を落としたのでした。
さすがロステル侯爵家の結婚式だけあって、式場には高位貴族の参列者がきらびやかに並び、披露宴会場の豪華さは目を見張るほどで、どれをとっても超一流でした。
中でも、お姉様の美しさは、見た者全てが恍惚とした表情を浮かべ、誰もが心奪われるようでした。女神のように美しいお姉様がいつもの三倍素敵なスワルス様に向かってにっこりと微笑む姿に、両親はもちろん、妹の私ですら目に涙が滲むのを堪えなくてはいけませんでした。 なのに、
「うっ、うぅっ・・義兄上・・・ああ、義兄上・・・ミズリー、おめでとう。
ひうっ・・・うぅ・・・幸せになって・・・。」
私の隣のアレイド様が、なぜか私達家族よりも泣き崩れ、式が終わり披露宴が始まっても無駄に泣き続け、周りからの失笑をかっただけではなく、輝かしい主役のお姉様にハンカチを渡されたり、飲み物を勧められたりと気を使わせ、スワルス様には嫌な顔で 「気持ち悪い」 と小言を言われる始末でした。
アレイド様の 「花嫁の父」 並みの号泣が収まる頃、会場内には音楽が流れ、新郎新婦を中心に煌びやかにダンスの輪が広がってゆきました。泣きすぎて目と鼻を真っ赤にしたアレイド様をソファーに座らせた後、私は一人、ダンスを終えたお姉様の所へ向かいました。
お姉様は、ちょうどお父様とお母様、リョシューと楽しそうに話していましたので、私もその中へ入り一緒に会話を楽しみました。しばらくすると優しい笑みを浮かべて迎えに来たスワルス様とお姉様が、本日何度目かの挨拶回りに向かいました。私が、その幸せそうな後ろ姿を見つめながら、「ほぅ」と、頬に手を当て感嘆の溜息を漏らすと、
「本当に、お二人はお似合いですね。」
いつの間にか私の隣に立っていた、長身で整った顔立ちの男性に話しかけられました。いきなりのことで驚きはしましたが、私はすぐに心を落ち着かせ応えます。
「ええ、本当に。二人共とても美しくて、そして幸せそうです。」
「ああ、いきなり失礼しました。驚かせてしまいましたね。私は新郎の従弟、ジャスティン・ローバスと申します。」
少し驚いた様子の私に謝罪し、自己紹介してくれたのは、以前会ってみないかとお話があったスワルス様の従弟でした。
「まあ、そうでしたか。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。わたくし新婦のミズリーの妹、ユニーナ・バーナーズでございます。」
「ははっ、そんなに畏まらないでください。私は、次期侯爵の従兄とは違い、ただの騎士の一人ですから。」
(そうだ!この方は辺境地の騎士様だったわ。もしかして、アーレン閣下の下で働いてらっしゃるのかしら。)
「どうでしょう、ダンスをしながら少しお話でも。私と踊っていただけますか?」
ジャスティン様は、スマートな仕草で右手を差し出してきました。どうしようか迷い、チラッとアレイド様が休んでいるソファーの方に目を向けると、そのソファーを囲む数人のご令嬢と楽しそうに談笑しているアレイド様がいました。
(まぁ・・・相変わらずモテモテですこと。)
私はすぐに視線を逸らすと、ジャスティン様に向き直り、「喜んで」とにっこり微笑むと、ジャスティン様の手に自分の手を乗せました。
「あの、ジャスティン様は、リヴェル辺境地で騎士様をされていると伺いましたが・・・。」
「はは、よくご存じで。従兄から聞いたのですか?辺境地ですからこことは比べ物にならないくらい田舎です。きっと貴女のようなお嬢様が辺境地を訪れたなら、退屈で仕方がないでしょうね。」
(いえいえ、アーレン閣下がいてくだされば退屈などいたしませんとも!!)
「ふふっ、それはどうでしょう。ジャスティン様は慣れるまでどうでしたか?」
「ははっ、私は退屈している暇などありませんでしたよ。辺境地に攻め込んでくるのは他国の人間だけではありませんからね。いつ魔獣が襲い掛かってくるかもわからない場所です。ですから日々の鍛練すら命がけなんです。慣れるまで大変でしたよ。」
そう言ったジャスティン様は、まるで過去の笑い話をするかのように微笑むのでした。
「まあ、そんな、なんでもないことのように・・・、そんなのいけませんわ!私達がこうして平和に、毎日安心の中で暮らしていられるのは、命がけでこの国を守ってくださっている騎士様たちのおかげなのです。私達は守ってくださっているジャスティン様たちの上で、・・・たくさんの命の上で笑っているのですから・・・。その手首の傷だって・・・きっと・・・。」
そう言って、私がジャスティン様の袖から少しだけ見えている傷に視線を向けると、ジャスティン様のそれまでの優しい表情がすっと抜けて、洋服では隠し切れなかったその傷に目を落としたのでした。
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