花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

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二人きりには時間が必要

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 アレイド様は、私を出迎えた時の楽しげな雰囲気とは打って変わって、とても真面目な顔でこちらを見つめていました。私はこれから、どれ程大切な話が始まるのだろうと瞳を逸らさず身構えていましたが、アレイド様は、なぜか私との距離を急に詰めてきたかと思うと、突然ぎゅっと抱きしめてきたのです。

「へっ?」

いきなりの展開に驚いた私が、変な声を出すと、

「ごめんね。どうしても我慢できなくて・・・。昨日、こうしてユニに触れてしまってから、どうにも自分の抑えがきかないんだ。ああ、もう離したくない・・・。
ユニ、愛してる。お願いだから僕から離れないで・・・。」

「あっ、あの、これではちゃんと話ができません・・・。」

「大丈夫。ちゃんと顔も見えるよ? ほら。」

(近いっ!!! 顔!! 15センチくらいしか離れてません!! ちょっ、離れて!!!)

離れてほしい私が、両手でアレイド様の肩をグイグイ押しますが、アレイド様はアレイド様で、両腕に力を込めて私の体を引き寄せています。

(ちょっと!! なに!! なんの戦いなの!? あっち行って!!)

お互い、腕に力を入れ、押し相撲のような無言の攻防をしばらく続けましたが、少しも離れてくれないアレイド様を前に、馬鹿馬鹿しくなってしまった私は、ついに負けを認めると腕から無駄な力を抜きました。

しかし、至近距離で顔を見合わせるのは、どうしても嫌だったので逆にピタリとくっ付いて、アレイド様の肩に顎を乗せて壁を見ながら会話することにしました。それを勘違いしたのか、アレイド様は「嬉しい・・・」 と呟き、更に腕に力を込めて、まるで私を潰そうとしているかのように力いっぱい抱きしめてくるのでした。

息も絶え絶えながら、これでやっとアレイド様の大切な話が始まるのかしら? と思って黙っていると、なぜがアレイド様は、聞いてほしいと言っていた自分の話はせずに、私に対しての不満をぶつけて来たのでした。

「ねぇ、ユニ、君はライナーが好きなの?ライナーがユニの友人なのは知っているけれど、二人の距離は少し近すぎると思うんだ。 そもそも、なんでライナーはユニって呼ぶのかな?どうしてそんな馴れ馴れしくするライナーを許しているの!?
ユニ、ちゃんと答えて!」

「ユニ? 先月、うちの学園の生徒と一緒に街を歩いていたって聞いたけど、それって誰のこと?それもやっぱりライナーなの? ユニは、婚約者でもない男性と二人きりで出かけたりするの!?どうして二人で出歩く必要があるのかなぁ・・・。その後、カフェでケーキを食べて笑っていたって聞いたけど、どうして笑ったりするの?そいつとは、そんなに親しい間柄?そもそも、なんで僕の知らない所で他の男とケーキ食べて笑顔を振りまいたりするのかな?」

「あとね、前から思っていたんだけど、いつも我が家の庭師と何を話しているのかなぁ?あんなに笑い合ってさ・・・。絶対トーマスは、君が帰る時間を見計らってベッキーの散歩をさせているんだよ。君と話したいから、わざとベッキーを走らせて会話できるように計算しているんだよ?ユニは、それに気付いている?」

「・・・・・・・。」

「ユニ!ちゃんと聞いてる?スワルス様の従弟との縁談の話に乗り気だって聞いたけど、それって本当? ねえ、どうしてなの?だって一度も会ったこともない男性でしょう?ユニはさぁ、ただリヴェル辺境地に行きたいだけなんだよね?随分前の話だったから、僕もすぐに思い出せなかったんだけど、それって、アーレン閣下が目的なの? まさかとは思うけど、ユニは、まだアーレン閣下に心奪われているの? こんなこと考えたくもないけど、まだ妾になりたいとか馬鹿なこと考えてるわけじゃないよね!?」

「・・・・・・・。」

「ユニ? ん? あれ? え? ・・・・もしかして、また聞いてない?」




 その後、外出から戻って来たお姉様とスワルス様に大声で名前を呼ばれ、私は正気に戻りました。二人きりでの会話はまだ早いと判断されたようで、その後の話し合いには、お父様に頼まれたスワルス様が渋々仲介に入ってくださいました。

「なんで私が・・・。私だってそんなに暇じゃないんだが・・・、結婚式だって間近に迫っているというのに。本当に君という奴は! いいか!?まず、ユニに嫌われたくなければ、そのストーカー的思考をやめろ!!そして、勝手な妄想でユニを疑うんじゃない!!そもそも、たくさんの令嬢の相手をしてユニを追い詰めた君が、ユニを責める資格など、どこにもない!! 反省しろ!!」

「すみません、義兄上!」

「なっ!! 私は、君の義兄ではない!!腹が立つから馴れ馴れしく呼ぶんじゃない!!」

ただでさえイライラしているスワルス様をアレイド様が更に怒らせ、その場の雰囲気を最悪に陥れていました。
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