13 / 33
一番困る誤解
しおりを挟む
今の話を聞かれた!?
アレイドは、慌てて捨てられていた包みを拾い上げると、直ぐにユニーナの後を追った。しかし、その日どこを探しても、ユニーナの姿を見つけることはできなかった。
もし、本当に今の話を聞かれていたのなら、もし、クラギス達の話をユニーナが信じてしまったなら、自分は大好きなユニーナに嫌われてしまうかもしれない・・・。それどころか、ユニーナがこのことを家族に話して婚約自体が白紙に戻ってしまったら・・・。アレイドの頭には、ユニーナを失うかもしれない恐怖が次々と浮かび、考えれば考える程、目の前が真っ暗になるのだった。
それからのアレイドは、誤解を解く為に必死だった。
次の日、急いでバーナード家に向かうと、ユニーナに四葉のクローバーのブローチを渡した。そして、あれは誤解だと伝えようとしたが、クローバーのブローチを見つめているユニーナの顔から表情が抜け落ちていることに気が付いた。
「ユニ?」
「草・・・」
「えっ?」
「お姉様は薔薇の花で、私は草・・・。そうよね・・・。」
そう呟いたユニーナの瞳が、一瞬、暗く曇ったように見えた。重い沈黙が流れた後、すっと立ち上がったユニーナは、アレイドと目も合わせず、無言のまま部屋を出て行ってしまった。
今まで見たこともないユニーナの冷たい態度に、アレイドは驚きと一緒に大きなショックを受けた。アレイドに優しく微笑みかけてくれたユニーナの姿は、もうどこにもなかったのだ。その日アレイドは、お茶会の誤解を解くことも、ユニーナにクローバーのブローチを贈った理由も、ミズリーの薔薇のブローチに意味なんてないことも、何一つ伝えることはできなかった。アレイドは、ユニーナを失う恐ろしさに体どころか、頭も働かなくなってしまっていた。
それからは一方的にユニーナに避けられる日々だった。毎日のように手紙を書いたが、一度も返事はもらえなかった。会いたいと手紙をかいても、ユニーナがその時間に現れることはなかったし、直接会いに行っても、さまざまな理由をつけて断られ、申し訳なさそうにする夫人やミズリーに相談すれば、自分が出した手紙は、封も切らずにそのまま箱にしまっているということがわかった。
仲たがいをした二人を不憫に思ったユニーナの家族が、さりげなくアレイドの話を持ち掛けると、ユニーナは目に涙を浮かべて婚約解消の話をしてくるので、今は、誰もその話に触れられないと謝ってきた。
なぜここまでユニーナの気持ちが離れてしまったのか、本当はアレイドもユニーナの家族もわかっていたのだ。それは、幼い頃より容姿と頭脳に恵まれた姉のミズリーとあまりにも比べられた結果だった。自分の身内の中から一歩外に出れば、余計な一言や言わなくていい言葉を、わざわざ本人に知らしめる他人がどこにでも存在するものなのだ。純粋なユニーナは心無いそれらの言葉を全て受け止めて、陰で一人、よく泣いていた。アレイドもそんなユニーナの頭を撫でながら、何度も慰めたことがあった。
「でもね、僕はユニが一番好きだよ。」
アレイドは、今でもその時のユニーナの顔が忘れられない。たくさん涙を零しながら目を大きく見開き、
「本当? アレイドはお姉様より私の方がいいの?」
と、何度も聞いてくるのだ。「本当だよ。」と、優しく言うと、それまで涙でぐしゃぐしゃだったユニーナの顔が、照れたような笑みに変わり、嬉しいと、頬を赤くするのだ。
大きくなるにつれ、そのコンプレックスは怒りになったりもした。
「お姉様が、なんでも完璧すぎるから私の評価がこんなに低いのだわ!たまには失敗して恥の三つくらいかいてきてよ!!」
直接ミズリーに理不尽な怒りをぶつけて本人を困らせたこともあったし、
「お父様は、お姉様が美人で頭がいいから、可愛くない私ばかりそうやって怒るんですね!! 酷いです!!私だって好きでこんな顔に生まれたわけではないのに!!お父様なんてもう、嫌いです!!」
などと、自分が石を投げて窓ガラスを割ったことは反省せず、逆に父を怒りつけ、嫌いと暴言を吐き、男爵を悲しませたりもしていた。
子供の作り方が悪いだの、産み方が悪いだの文句は様々言っていたが、たまに、本当に傷つけられて帰ってきた日などは、食事も喉を通らなくなり、部屋に引き籠って出てこなくなってしまうのだ。そんな時は、家族の支えだけではどうにもならなくなり、急遽アレイドも呼ばれて、一緒に慰めたりしていた。
ユニーナの家族と共に支えてきたアレイドが、ずっと自分を一番だと言ってくれていた相手が・・・、本当は姉のミズリーの方が好きだったなんて知ったら、ユニーナはどう思うだろう。
あのお茶会での出来事は、アレイドにとって、なによりも困る誤解だったのだ。
アレイドは、慌てて捨てられていた包みを拾い上げると、直ぐにユニーナの後を追った。しかし、その日どこを探しても、ユニーナの姿を見つけることはできなかった。
もし、本当に今の話を聞かれていたのなら、もし、クラギス達の話をユニーナが信じてしまったなら、自分は大好きなユニーナに嫌われてしまうかもしれない・・・。それどころか、ユニーナがこのことを家族に話して婚約自体が白紙に戻ってしまったら・・・。アレイドの頭には、ユニーナを失うかもしれない恐怖が次々と浮かび、考えれば考える程、目の前が真っ暗になるのだった。
それからのアレイドは、誤解を解く為に必死だった。
次の日、急いでバーナード家に向かうと、ユニーナに四葉のクローバーのブローチを渡した。そして、あれは誤解だと伝えようとしたが、クローバーのブローチを見つめているユニーナの顔から表情が抜け落ちていることに気が付いた。
「ユニ?」
「草・・・」
「えっ?」
「お姉様は薔薇の花で、私は草・・・。そうよね・・・。」
そう呟いたユニーナの瞳が、一瞬、暗く曇ったように見えた。重い沈黙が流れた後、すっと立ち上がったユニーナは、アレイドと目も合わせず、無言のまま部屋を出て行ってしまった。
今まで見たこともないユニーナの冷たい態度に、アレイドは驚きと一緒に大きなショックを受けた。アレイドに優しく微笑みかけてくれたユニーナの姿は、もうどこにもなかったのだ。その日アレイドは、お茶会の誤解を解くことも、ユニーナにクローバーのブローチを贈った理由も、ミズリーの薔薇のブローチに意味なんてないことも、何一つ伝えることはできなかった。アレイドは、ユニーナを失う恐ろしさに体どころか、頭も働かなくなってしまっていた。
それからは一方的にユニーナに避けられる日々だった。毎日のように手紙を書いたが、一度も返事はもらえなかった。会いたいと手紙をかいても、ユニーナがその時間に現れることはなかったし、直接会いに行っても、さまざまな理由をつけて断られ、申し訳なさそうにする夫人やミズリーに相談すれば、自分が出した手紙は、封も切らずにそのまま箱にしまっているということがわかった。
仲たがいをした二人を不憫に思ったユニーナの家族が、さりげなくアレイドの話を持ち掛けると、ユニーナは目に涙を浮かべて婚約解消の話をしてくるので、今は、誰もその話に触れられないと謝ってきた。
なぜここまでユニーナの気持ちが離れてしまったのか、本当はアレイドもユニーナの家族もわかっていたのだ。それは、幼い頃より容姿と頭脳に恵まれた姉のミズリーとあまりにも比べられた結果だった。自分の身内の中から一歩外に出れば、余計な一言や言わなくていい言葉を、わざわざ本人に知らしめる他人がどこにでも存在するものなのだ。純粋なユニーナは心無いそれらの言葉を全て受け止めて、陰で一人、よく泣いていた。アレイドもそんなユニーナの頭を撫でながら、何度も慰めたことがあった。
「でもね、僕はユニが一番好きだよ。」
アレイドは、今でもその時のユニーナの顔が忘れられない。たくさん涙を零しながら目を大きく見開き、
「本当? アレイドはお姉様より私の方がいいの?」
と、何度も聞いてくるのだ。「本当だよ。」と、優しく言うと、それまで涙でぐしゃぐしゃだったユニーナの顔が、照れたような笑みに変わり、嬉しいと、頬を赤くするのだ。
大きくなるにつれ、そのコンプレックスは怒りになったりもした。
「お姉様が、なんでも完璧すぎるから私の評価がこんなに低いのだわ!たまには失敗して恥の三つくらいかいてきてよ!!」
直接ミズリーに理不尽な怒りをぶつけて本人を困らせたこともあったし、
「お父様は、お姉様が美人で頭がいいから、可愛くない私ばかりそうやって怒るんですね!! 酷いです!!私だって好きでこんな顔に生まれたわけではないのに!!お父様なんてもう、嫌いです!!」
などと、自分が石を投げて窓ガラスを割ったことは反省せず、逆に父を怒りつけ、嫌いと暴言を吐き、男爵を悲しませたりもしていた。
子供の作り方が悪いだの、産み方が悪いだの文句は様々言っていたが、たまに、本当に傷つけられて帰ってきた日などは、食事も喉を通らなくなり、部屋に引き籠って出てこなくなってしまうのだ。そんな時は、家族の支えだけではどうにもならなくなり、急遽アレイドも呼ばれて、一緒に慰めたりしていた。
ユニーナの家族と共に支えてきたアレイドが、ずっと自分を一番だと言ってくれていた相手が・・・、本当は姉のミズリーの方が好きだったなんて知ったら、ユニーナはどう思うだろう。
あのお茶会での出来事は、アレイドにとって、なによりも困る誤解だったのだ。
11
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
メカ喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

見えるものしか見ないから
mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。
第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……
【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる